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青嵐  4
やっぱりというのも変ですが、ひと月開いちゃいました。このペースでの更新になりそうです。のんびり御付き合い頂けたら嬉しいです。それと、そろそろ関東では梅雨明け間近と言われていますので、体調などに重々御自愛下さいませ。

では、どうぞ








「さて、今回の作戦では満足な結果が得られたのだろうか、我が妃よ」

鷹揚な態度で後宮に姿を見せた陛下は、長椅子に座る夕鈴の前で傲慢に問い掛けてきた。 
口調は傲慢だが、しかし陛下は急いで来てくれたのだろう。 息を吐くたびに肩が大きく上下に揺れ、額には乱れた前髪が貼りついてる。 
夕鈴は無言で手巾を差し出して、汗を拭うように目で促した。 
今はそれどころじゃないと言いたげな怜悧な眼差しは怖いが、陛下が風邪をひく方がもっと怖い。 早く汗を拭って欲しいとお願いすると、陛下は顔を顰めたまま黙って受け取ってくれた。

「ごほんっ。 ・・・女ひとりに情けなくも昏倒させられた警護兵はあとで追加の鍛錬を課すとして、警戒心の乏しい我が妃は、さて一体どうしてやろうか・・・」
「私はともかく、警護兵に余りひどい罰を与えないで下さいっ。 彼女は侍女の姿で現れたんですよ? おかしいと思う暇も、抵抗する暇もなく、あっという間に即効性の眠り薬を嗅がされてしまっただけです。 浩大だって、大量の煙幕に驚いて見失うほどで」
「それでは警護兵としての責を為していない。 浩大もあとで」
「そっ、それより陛下に聞いて頂きたいことがあります!」

浩大まで怒られては可哀想だと話を遮ると、眇めた視線が落とされた。 
話しの途中で遮ったのは悪いと思うが、そんな視線で見下ろされるのは納得いかないと夕鈴は睨むように見返す。 先ずは自分の話を聞いて欲しいと目で訴え続けると、大きな溜め息を落とした陛下が肩を竦めた。

「今日の彼女は侍女の衣装を着ていました。 それと前と同じ翡翠の耳飾りをしていて、近くで見たので、今回はその意匠がはっきり見ることが出来ました。 何か役立つこともあるでしょうから、後で紙に描いておこうと思っています」
「そう。 それで?」
「それと話があると・・・・私に、妃に話したいことがあると、言っていました」
「そう。 それで?」
「そ、それで・・・・いえ、すぐに浩大たちが来たので、彼女から話を聞く間もなかったのですが、ひとつだけ分かりました。 彼女は私に何か害を為そうとして、後宮に来ているのではないと」
「そう。 それで?」
「そ、それで・・・・ですね。 出来たましたら」

彼女の話を、じっくりと聞いてみたい・・・・・。
そう思っているのだが、それ以上口にするのは憚られた。
夕鈴が何か言えば言うほど、目の前の人物から冷気混じりの重苦しい雰囲気が押し迫って来て、咽喉が締め付けられるような渇きを覚え、台詞が口中で彷徨ってしまう。 尻つぼみになった言葉を、それでもどうにか伝えたいと無理やり唾を飲み込むが、緊張のあまり噎せ込みそうになった。 
こういう時の陛下は揺るぎ無い。 
駄目なことは駄目だと、一刀両断する。
相手が誰であろうと、どのような内容であろうと、王としての態度を崩さない。 
それでも・・・・・、と夕鈴は願ってしまう。 
後宮にまで忍び込むような豪胆な彼女が浮かべた、あの時のあの表情は、深く思い詰めたものだ。 いや、どんなことであれ国王管轄の敷地に許可なく侵入すること自体、無茶な話だ。
だけど、それを推してまで夕鈴の許へやって来た彼女の、その理由を自分が知らないままでいいのだろうかと考えてしまう。 彼女が言っていた、妃に害を為すつもりはないという言葉も、おかしな話だが信じられる気がしてならない。 単純だと言われたら、それまでだけど、そのまま放置していいのかと悩んでしまう。
話を聞くくらいならいいような気もするが、後宮という閉鎖的な場所において、それは難しい。
だからこそ彼女は忍び込み、警護兵を昏倒させた。 
それらがいいことだとは決して言えない。 
だけど、そうせざるを得ない、何かが彼女を動かしているのだ。 
それが何なのか、_____知りたい。

「夕鈴」

考えに耽っていた夕鈴が顔を上げると、腕を組む陛下の姿があった。 そうだ、話しの途中だったと口を開こうとして、夕鈴の身体中が総毛立ち、息が止まった。 
静かに息を吐いた陛下から、身が竦むような怒気が伝わってくる。 

「・・・・忍び込んだ輩が何を訴えに来たとしても、それを私や君が聞く必要があるか? 禁域である場所に忍び込み、多くの警護兵の護りを突破し、唯一の妃が住まう後宮まで侵入した。 君は不法侵入者の訴えを聞くべきだと、まさかそう言うつもりか? 危害は加えないという、信憑性のない話を鵜呑みにして?」
「・・・・、でも」
「でも、は聞かない。 万が一にでも、妃である君に何かあった場合、どれだけ多くの兵や侍女が沙汰を受けるかを、夕鈴はよく考えた方がいい。 いまの立場は以前とはまるで違うのだと、夕鈴自身が理解していないようだから」
「っ!」
「そのために兵と侍女がいるのだ。 彼らは関係ないなど、言わぬよなぁ、我が妃よ」 

陛下の言葉に、夕鈴の視線はゆっくりと床へと堕ちていく。
確かに関係ないとは言えない。 
妃がいるから後宮を護る兵がいて、世話をする侍女がいる。 陛下を癒すために後宮があり、その後宮を任されている立場の妃が、従事している兵や侍女は関係ないなど、口が裂けても言ってはいけない。 陛下の言うように、万が一があれば皆に迷惑を掛けることになる。 ただでさえ出戻り妃に、今までどれだけ迷惑と心配を掛けたことだろう。 声を荒げて侵入者に対峙した侍女を思い出し、夕鈴は唇を噛み締めた。

「今回は様子見のため、敢えて捕らえることはしなかったと聞く。 甘いことだと呆れるが、もし夕鈴の髪一筋でも失っていれば、私は容赦なく動くだろう。 分かるか、夕鈴」
「・・・はい」

正直、陛下の言っていることに納得したから返事をした訳ではない。 
だけど陛下の言っていることも理解出来た。 
万が一・・・、あの煙幕に毒の成分でも混じっていたら、今こうして陛下の怒っている顔を目にすることも出来なかった。 もちろん、警護に来てくれた兵や浩大、桐だって危なかった。 陛下が自分に怒っているのは、それだけ心配している証拠だ。 侵入者である彼女のことは浩大や桐に任せて、自分は妃としてやるべきことに精進しよう。
大きく息を吐いた夕鈴は、もう一度大きく頷いてから陛下を見上げた。

「・・・・目元がまだ赤いね。 痛い?」
「いえ、痛みはないです。 煙を吸って泣いたのと、擦ったから赤いだけで・・・。 陛下、本当に申し訳御座いません。 たくさん心配させてしまったこと、心からお詫び申し上げます」

だけど謝るだけじゃ駄目だと、夕鈴は目許をそっと撫でる陛下の手に、自分の手を重ねた。 甘えるように頬を摺り寄せ、この熱がそばにあることに感謝する。 
ずっとずっと長いこと抑えて、隠して、ばれたら終わりだと思い続けた片恋が、色々なことがあって実ったばかりだ。 これから先もいろいろなことがあるだろう。 陛下の役に立ちたい、陛下の敵を減らしたい。 陛下のそばに・・・・ずっと寄り添っていたい。

「私が妻である夕鈴を心配するのは当然だ。 そして、本当に怪我がなかったか、それを隅々まで調べるのは夫である私の役目だ」
「・・・・へ? あ、いえ。 怪我は本当にしていません。 咽喉が少し痛いだけで、まあ、明日には治っていると思う程度ですから、御心配は必要ありません」
「確かに少し掠れているな。 休み明けの声を思い出すが、それを私以外が齎したことに、少々憤慨している」
「・・・・へ?」

急に室内の雰囲気が変わり、冷たくも妖しい声色が頭上から降り注いできた。
注がれた言葉の意味を目を瞠って聞いていたが、正直、嫌な予感しかしない。 
いま耳にした言葉の意味を考えては駄目だと思うのに、隣に腰掛けた人物の腕が肩をがっちりと抑え込むから悲鳴が上がりそうになる。 嫌なのに、考えたくないのに、頭の中に恐ろしい光景が広がりそうで震えてしまう。
隅々まで調べるって、・・・・・まさか。 まさかだよね!

「あの、へ・・・殿下? 政務の途中の時刻ですよね、まだ」
「大変な目に遭った妃を慰めに来たのだ。 李順もすぐには足を運ばないだろう」
「そうおっしゃるということは、やはり政務の途中だったのですね?」
「愛しい妃の大事だ。 夫である私が後宮に来るのは至極当然のことだろう。 賢い大臣や聡い臣下が政務に携わっているのだ。 少しぐらい、猶予はあろう」

陛下の言う少しが、少しじゃ済まないことを、側近である李順は知っているだろう。 もちろん陛下が今現在どこにいるのかも承知のはずだ。 きっと時間を見計らって迎えに来る。 絶対に来る。 
その時、騒動の原因となった妃を睨み付けるくらいは当たり前にするだろうが、それくらいで政務の滞りが解消するなら甘んじて受けよう。 騒動の原因になろうとしてなった訳ではないが、元バイト上司は夕鈴が歯向かって敵う相手ではない。

「まずは煙幕と土で汚れた衣装を脱ぎ、髪を拭おう。 いや、襟などからも汚れが入り込んでいるな。 今日は気温が高かったし、いっそのこと湯に入った方が早いだろう」
「へ? ・・・・湯?」
「湯殿の用意を! 妃と私の衣装を整え、こちらに運んで置くように」
「ゆ、ゆ、湯殿!? いや、そ、そんな暇など」
「ああ、冷やした果実水を湯殿に持って来るように」

陛下の大きな呼びかけに、隣室から侍女の明るい返答が響く。 
隣室に人がいたことに狼狽し、続いて陛下の暴挙に慌てふためくが、満面の笑みを浮かべる陛下と現れた侍女を前にして、夕鈴は強張った笑みを浮かべて固まった。




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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:42:30 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
陛下・・・うまく湯殿に持って行きましたね。でもまだ浸かってないからなぁ。目論見は達成されるのでしょうか?
今年の夏は何か変。暑いんだけど、例年の暑さではないんですよねぇ。蝉は相変わらずですが、カマキリが例年より高いところに卵を産んでいたことを旦那が気にしてました。水害がなければ良いんですが・・・。
2016-07-26 火 10:36:07 | URL | ますたぬ [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。
湯殿に愛しい妃を連れ込んだ陛下。彼は頑張りました。勝手に狙われる妃が悪いのか、狙う輩が悪いのか。その何もかもに苛立った感情を、夕鈴にぶつけようとする陛下が悪いのか。(笑) 妙な蒸し暑さがあって、でもようやっと梅雨も明けて万歳して洗濯干していたら、実家が大雨と聞き電話。地震もあり、ここ最近は急にドキッとすることが多々ありますね。良いことだけを見つけて、頑張りましょうねぇ!
2016-07-30 土 22:08:06 | URL | あお [編集]
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