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水鏡花  2

続きです!ストレスが溜まっていたのだろうな。 先週は大量の本を購入していました。 好きなシリーズが終了したり、新しいシリーズを発掘したり、買ったはいいけど未だ未読という本もあります。 当て屋の椿、パンドラハーツ、幻獣坐、赤髪の白雪姫、狼の口、スピリチュアル・ポリス、獣医ドリトル、3月のライオン、ZETMANなどなど・・・。



では、どうぞ









後宮立入り禁止区域で掃除をしている時、老師のおやつが目当てなのか、よく浩大が顔を見せる。 菓子屑を零す人間が二人に増えたことに意気消沈していると、懐から饅頭を取り出し頬張りながら浩大が夕鈴に問い掛けて来た。

「そういえばお妃ちゃんさ、新しく入った官吏が気になっているんだって?」
「はぁっ? ・・・・趙真孔殿のこと? 別に気になっている訳では・・・・」

気になっている訳ではない・・・。 でも、つい目で追っちゃう。 それって気になっているってことになるのかな? 青慎に似た雰囲気は、もうしない。 そうは見えなくなって来ているけど。

「駄目だよ~、へーかが焼きもち妬いてるじゃんか。 浮気か?」
「なっ! そんな訳無いじゃない! 陛下は演技で言っているだけですからっ!」
「何じゃ? 妃が浮気とは、まさかお主・・・・、それは駄目じゃぞ!」
「だから、そんな訳無いと言っているでしょう?! 浮気も何もしていませんし、そもそもバイト妃に、陛下は焼きもちなんか妬きませんし!」

面白がって注視してくる二人を、夕鈴はダテ眼鏡を持ち上げて睨み付けた。 全く、何を言い出すのやら! 雑巾をバケツに入れると、水替えしてきますと、部屋を出る。 憤り激しく、足取り荒々しいまま。 
その姿を見ながら二人は肩を落とした。
あれだけあからさまな陛下の言葉と行動に未だ 『演技』 と信じる臨時花嫁。 陛下の態度も時に曖昧になるから後押しも難しいが、バイト娘を弄ったり唆すのはちょっと楽しいと二人は笑った。


水替えに移動していると、趙真孔が書庫より出て来た。 なにやら難しい顔で書簡を広げ、ぶつぶつと呟いている。 官吏が通り過ぎるまで、掃除婦姿の夕鈴は壁際で拱手して佇んでいるのが常だが、なかなかその場を通り過ぎることなく佇んだままの趙真孔に困った。

「・・・・趙殿、書簡は見つかったのか?」

方淵の声がした。 夕鈴は拱手する袖に顔を隠し慌てて身を縮める。 方淵の声に、彼は顔を上げて 「はい、こちらに・・・」 と歩き出した。
夕鈴はようやく、その場から離れる事が出来た。 
耳にした方淵の声がいつもより冷たいような気がしたが、気のせいだと思い水替えに急ぐ。 方淵の声だけではなく、表情までもがいつもより険しいことなど、顔を隠していた夕鈴は知る由も無い。



政務室がいつもより忙しそうに思え、夕鈴は邪魔にならないようにそっと抜け出ることにした。 書庫で書簡整理するつもりで、よく会釈をする官吏らに 「書庫に居ますから」 と言付け政務室から抜け出した。 
途中、李順に会い、「今日はお忙しそうなので邪魔にならないよう書庫で片付けをします。 終わったら、そのまま部屋へ戻ります」 と小声で伝える。

「その方が良いですね、灌漑工事の件で陛下も苛立っていますし・・・・。 今逃げられたら困りますから、逃げ道となる貴女が居ない方が良いかも知れません」

李順からのその台詞に、夕鈴は苦笑を零した。 妃の表情が、態度が、視線がと言い訳して政務室から逃げ出す陛下に李順も苦労しているのだろう。

「笑い事ではありませんよ。 ・・・・お妃様」

人の気配を察した李順が口調を変えた。 それを知り夕鈴も合わせて、妃らしく会釈して李順と離れることにする。 そのまま書庫に入り、いつもの様に箱に溜まった書簡を片付け始めた。 気付くと数本の書簡が、書庫違いで置き去りにされているわと一人語ちる。

「えっと、これは・・・第四書庫かな? 第五・・・・かも知れないけど」
「・・・・これは第五ですね。 私が置いて来ましょうか?」

背後から書簡を持ち上げられ、振り向くと水月さんが書簡を確認して微笑んでいた。 いつもながら優雅な所作でキラキラと輝きながら書簡を数本持つと、置き去りにされていた書簡も重ねて持つ。

「あ、水月さん、それは私が運びますわ。 灌漑工事に関する書簡をお持ちのようですし、政務室に急ぐのでしょう? 大丈夫ですよ、これくらい」
「・・・そうですか? まあ方淵殿が煩いから寄り道は止めておきますか」

くすくすと笑ってしまう。
「そうですよ! 眉間に皺を寄せてね」 と応えると水月も眉間に皺を寄せた。 その顔に噴き出しそうになるのを必死に我慢した。 共に書庫を出て、それぞれの方向へ歩き出す。



「えっと、第五書庫のどの棚に置けばいいのかな? ・・・・見当違いのところに置いたら迷惑よね。 う~ん、誰か解かる人に確認した方がいいかな。 二度手間は面倒だし・・・・」

いつも通いなれている書庫とは違い、奥行きのある書庫には古めかしい多数の書簡や竹簡が書架に収まり、何が何処にあるのか夕鈴には一見して解かる訳が無い。 李順さんなら解かるかしら? 今は忙しいかな? と呟きながら諦めて書庫を出ると、趙真孔が目の前に立っていた。

「あら、趙殿もこちらの書庫へ?」
「・・・・・・」

微笑んで声を掛けるも、彼からの返事は無い。 何か考え事をしているのかしらと顔を覗くと、その瞳は夕鈴をじっと見つめていた。 いつものふんわりした雰囲気は無く、昏い瞳で目の前の妃を胡乱な表情で見つめている。 いつもと違う趙真孔の様子に訝しみながらも夕鈴は声をかけた。

「ど、どうしました? 趙殿・・・・、具合でも悪いのでしょうか?」
「・・・・・・」
「趙殿・・・・ あの・・・・」

一歩、趙真孔が夕鈴に近付いた。 表情が無いその顔に 夕鈴は息を詰めて一歩下がる。
何があったのか解からない。 もしかして、彼は刺客なのか? 私を、妃を狙っていたの?
夕鈴が政務室や執務室などに居る間は、浩大も他の仕事をしていることが多く、常に夕鈴の警護をしている訳ではないと聞いた。 後宮に居る間は掃除婦の時も警護しているから安心してねと、聞いた覚えがあったと思い出す。 今は・・・・・自分の身は自分で護らなきゃ駄目か!

「趙殿、如何したんですか!? 何か・・・・ 何か言って下さい!」
「・・・・お妃様。 ・・・貴女はどうして・・・・」

大きな声を出すと、少し瞳に光が戻ったように見える。 ごくんっと唾を飲み込み、夕鈴は趙真孔からの次の言葉を待った。 趙殿はただ具合が悪いの? それとも・・・・本当に刺客なの?
じっと見つめていると、彼の手が動いた。 
その手は真っ直ぐに伸び、夕鈴の口を塞いだ。




「お妃様・・・・ あれ、これは」

水月が間違った書簡を手渡した事に気付き第五書庫へ足を運ぶと 廊下に書簡が転がっているのに気付く。 取り上げると、確かに妃に間違って渡したその書簡だった。
そのまま静かに書簡を床に置くと、水月は腰に携えた刀を確認して 扉を静かに滑らせる。
人の気配に振り向くと、方淵が何事かと眉を潜めていた。 水月は口に指を立て当てて静かにするように方淵に指示し、その指を第五書庫に向けた。 黙って頷いた方淵も腰に手を当て、刀を確認する。
静かに足を踏み入れると、書庫の奥から男の声がした。

「・・・・・は、崇高であるべきだ。 あの陛下の唯一の、唯一人の妃なのだから!」

水月と方淵は目を合わせ、『趙真孔だな』 と頷き合う。 ふんわりとした雰囲気と妃が話していたが、その皮を破り信じていた妃に襲い掛かっているのか。 一刻も早く現状を把握したいが、万が一を考えて静かに足を進ませて行く。 

「貴女に惑わされる心が苦しい・・・・貴女の微笑みが私を苦しめ、このような・・・」
「んんっ!! ・・・・んんーっ!」

書架に何かが当たり、書簡が落ちたのだろう。 バサバサと何かが床に落ちる音が聞こえた。 妃の呻く声に刀を持つ手に力が入る。 目で左右に分かれるよう互いに指示を出し、音のする奥へ回り込んだ。 

「ああ、お妃様・・・・」 

切ない声が聞こえ、何が行なわれているのかを想像し水月は身震いする。 お妃に万が一でもあれば・・・・。 銅鑼の音をバックグランドに、陛下の恐ろしい程冷酷な視線が水月の脳裏に浮かんだ。
気配のする近い場所まで足を運ばせた方淵は、書架の影からそっと顔を出す。 視界に捕らえたのは押し倒された妃と圧し掛かる官吏。 妃の足の間に自身の足を入れ、大きく裾を捲り上げていて、妃の白い足が目に入る。 下から嬲るように撫で上げる男の手に妃の足が暴れているが、吸い付いたように離れない。

「んんん~~~っ!! ぐぅっ!」
「どうか・・・ この想いを解かって下さい・・・・・」

男の頭が下がり、妃の首筋に触れているように見えた。 もう我慢の限界とばかりに方淵が鞘から刀を抜き、圧し掛かる官吏の首筋に当てた。 その切っ先に、趙真孔の動きが止まる。 蒼白な表情で口元を覆われた妃が、方淵を認識する。 ガタガタと震えているのが、離れていても見て取れるほどだ。
肩口が大きく開かれ、裾は広がり、自分を押さえ込む男に慄いているのが解かる。 
押さえ込まれる前に妃は必死に抵抗したのだろう。 趙真孔の袖口が破れ、その腕には無数の爪痕が残り、そのいくつかから赤いものが滴り落ちた。
ゆっくりと振り向いた趙真孔は、方淵を見ると歯軋りをしながら恐ろしい形相で睨みあげる。
その瞬間に水月が、夕鈴の口を覆っていた手に刀を薙ぎ払う。

「・・・・ぎぃっ!」

趙真孔は直ぐに振り向き、切りつけられた腕を庇った。 方淵が趙真孔の咽喉元に刀を宛がい動きを制し、その間に水月が夕鈴を彼の身体の下から引き摺り出す。 
離れていく妃の姿を目で追う趙真孔は、掠れた声で訴えた。

「貴女が・・・・私を誘惑した。 貴女がその微笑みで・・・・他の男にも、こいつ等にも!」

水月が夕鈴の耳を庇うように包み込み抱き締める。 その腕の中で夕鈴はガタガタと震え続けた。 覆うように包み込む水月が 「戯言は聞かぬ方がいいですよ」 と柔らかく夕鈴に話し掛けてくる。 その声に頷き、夕鈴は強く瞼を瞑った。

「お妃様っ!! そんなっ、氾水月に抱かれるなんてっ!」

咽喉元に当てた刀も気にせずに身を乗り出そうとする趙真孔を抑え込む方淵は、あまりにも強い抗いに奥歯を噛む。 背に膝を強く当てて押さえ込むが、激しい抗いに知らず汗が滲んでいた。 水月に耳と目を覆われた夕鈴の、乱れた裾から覗く足に向かって、趙の手が伸びていく。 僅かでも近寄りたい、少しでも触れたいと、その指先はじりじりと間合いを詰めようとする。
その甲に、小刀が深く突き刺さった。

「がっ!」

方淵が力を入れて趙真孔を押さえ込みながら振り向くと、背後に闇色の焔を揺らめかせた陛下が立っていた。 顎をしゃくると方淵が頷き、押さえていた趙真孔を解き放つ。 腕に刺さった小刀に震えながら、背後からの気配に怯えるように目を・・・・ そして顔を・・・・ 身体を・・・・ ゆっくりと陛下に向ける。 陛下の冷酷な表情に、半開きの口からは浅い息が零れるばかり。 
趙は大きく震え始めた。

「趙真孔、何をしている・・・・」

ワナワナと震える唇は声を発することなく、蒼白の顔色からはぐずりと汗が流れ始めた。
水月は抱きかかえていた妃から直ぐに手を離し、耳と目を開放する。 身体を震わせている妃を陛下が抱き上げると、すぐに陛下の首に腕を回した。 
余程恐ろしかったのか、陛下の首筋に当たる妃の頬は冷たく、その感触に陛下の視線は更に冷たくなる。 水月が 「兵を呼んで参ります」 と書庫を離れ、方淵は趙の腕を後ろ手に回し捕縛した。

抱き上げた夕鈴は肩が見えるほどに襟を広げられ、裾を乱されていた。 腕の中で強張る夕鈴に 「もう、大丈夫だから・・・・」 と囁くと、小さく息を吐きながら頷いてくれた。

「方淵、妃を此処より連れ出して執務室の李順の許へ・・・・」
「解かりました、陛下」

ぎゅっと力を籠めて抱き締めた後、方淵に夕鈴を預けた。 床に足を降ろした夕鈴はふら付きながらも方淵に支えられて書庫を離れようとした。 夕鈴は蒼い顔で陛下を振り返るが、紅い目が何も言うなと言いたげに夕鈴を貫く。 眉を寄せて唇を噛み、もう一度強く陛下に視線を向けるが静かに視線が外される。 そのまま夕鈴は方淵に肩を掴まれ廊下に出されてしまった。
廊下に出た夕鈴は外の明るい日差しに目を細め、足が竦んだ。

一体、何が有ったというの?
あの人は何を言いたかったの?
私は如何すれば良かったの?

細かな震えで壁に縋る手に、温かさが触れた。 
その温かさの先を辿ると、方淵が戸惑いの顔で夕鈴の手に触れていた。 触れたはいいが、どうすればいいのか、自分が何をしたいのか理解も出来ない様子で、舌打ちをすると自分の官衣を脱ぎ夕鈴の頭上から被せ、いつもより声を抑えて話し出す。

「歩けないなら抱き上げるが・・・・・」
「・・・・歩けます。 ・・・・ありがとう御座います・・・」

被せられた官衣が大きく、裾を持ち上げながらゆっくりと方淵と共に歩き出す。 
夕鈴の歩調に合わせて歩く方淵は何処を支えていいのか解からず、取り敢えず肘を持ったまま傍に付き添った。 すぐに水月が兵と共に書庫へ戻って来た。
方淵は明らかにほっとした顔で 「執務室の李順殿へお妃様を御連れするように」 と支えていた肘を水月に向けて差し出す。 補佐官としてこんな場面に遭遇するなんて想定外だ。
対して水月は夕鈴の肩に手を廻し、優雅に優しく 「では、お妃様参りましょう」 と誘導した。 それを見送ることなく、すぐに方淵は書庫へ戻る為に踵を返す。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:45:07 | トラックバック(0) | コメント(0)
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