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交喙の嘴  1
バイト編です。通常営業に戻りました。
「もしもシリーズ」で一応2部書かせて頂きましたので、臨時花嫁に戻ります。こんな時間ですが、一応明日も(日付変わって今日だった!) 早起きして仕事なので、今回はちょっと短めのスタートです。
宜しければお付き合い下さいませ♪



では、どうぞ








「貴女の秘密を知っています」




書庫に訪れた夕鈴が目にした一枚の紙切れ。
その紙に書かれたその言葉に夕鈴は蒼白になる。

「貴女って、貴女って・・・・。 私のこと?」

紙に書かれた短い文を何度も読み返した夕鈴は、全身をガタガタと震わせた。
私の秘密って・・・・・ 『臨時花嫁』 が知られてしまった?  『バイト妃』 とばれた?
手の内で、持っていた紙がくしゃくしゃになる。 呆ける間もなく、夕鈴は執務室に駆け出した。


「りっ、りりりり、李順さん!!」
「何ですか、妃がそんなバタバタと! 廊下を走るなんて妃としての・・・・」
「そ、それどころじゃ、それどころじゃないんです!!」

夕鈴が震える手で一枚の紙を差し出すと、李順は受け取ったはいいが、余りにもくしゃくしゃな紙を先ずは卓上で伸ばして一瞥する。 そして、内容を確かめると、「ああ・・・・」 と呟き、そのまま塵箱に捨ててしまった。

「きゃあっ! 李順さん!」
「・・・大きな声を出さないで下さい。 大丈夫です、よくある中傷文ですから。 気にしなくてもいいです」
「で、でも・・・・。 偽妃とばれたんじゃ・・・・」

涙目で李順に訴えるも、眼鏡を持ち上げたまま溜息を吐かれた。 そこへ宰相との話し合いを終えたのだろう陛下が現れ、夕鈴を見るなり目を瞠って驚いた顔を見せる。

「どうかしたか? 夕鈴の声が廊下まで響いていたが」
「陛下っ! こ、こ、これが・・・・」

李順が捨てた紙を塵箱から取り出し皺を伸ばした夕鈴は、涙目で陛下に差し出した。 しかし、紙に視線を落とした陛下は、李順と同じように 「ああ・・・・」 と呟き、同じように丸めてしまう。 涙目の夕鈴に気付き、微笑んで 「大丈夫だよ」 と言ってくれるも、夕鈴は不安で仕方がない。

「大丈夫だよ、夕鈴。 気にすることなんてないよ。 こんな誹謗中傷は日常茶飯事で、いつの間にか現われ、いつの間にか消えていく。 だから少しも珍しくもない」
「でも、でも・・・・」

そう、王宮内で己の利を通そうとする者により、誹謗文や中傷文はよく見かけるものだ。
嘘ばかりが書かれた文もあり、時に事実が書かれている場合もある。 その一割の事実に翻弄されて馬鹿を見る奴らの多いこと。 いかに相手を上手く出し抜けるかを日々考えている奴らが跋扈する王宮において、こんな紙切れに怯える必要も無い。
・・・・もし、万が一夕鈴が 『偽妃』 とばれたとしたら・・・・
その時は 『本当』 にしてしまえばいい。

仄昏い微笑みを浮かべる陛下に気付き、李順は嫌な予感に襲われた。 慌てて、「そんな些細なことより、書簡が溜まっていますよ!」 と卓に座るように威嚇する。

二人がさらっと流しているのを見て、夕鈴は肩の力が抜けてしまう。 「ソンナモノナノ?」 と呟いていると、李順が 「そんなものです」 と応えた。 そう言われてしまうと、バイトには反論の術がない。 「・・・仕事して来ます」 と表情の消えた顔で執務室から出るしかないのだ。


夕鈴が退室すると、陛下は冷たい目線を李順に向ける。 
頷きを返す側近に背を向け、陛下は椅子へ深く腰掛けて瞼を閉じた。
妃が書庫に出入りするのは多くの官吏が知っている。 妃が書庫に向かう時刻を把握するのも易しいことだろう。 手摺に切り込みを入れる輩もいた。 同じことは二度と繰り返してはならないと、今まで以上に警護を強化した。 
妃に向けられる悪意に、陛下が沈黙するなどあると思っているのだろうか。
 『狼陛下唯一の妃』 に馬鹿なことを考えるものだと、李順は思った。 中傷文や誹謗文はよくあることだが、妃が出入りする書庫にそんなものを置くなど、愚かとしか思えない。 気にかかるのは、その文に書かれた 『秘密』 ・・・・。 何を差しているのか、早急に調べねば。 
機嫌の悪い狼が、どう動き出すか解らない。




夕鈴が書庫に戻り溜まった書簡を書架へ入れていると、方淵が顔を出した。 いつものように妃の姿を認めると同時に眉間に皺を寄せて睨み付けるが、あからさまに意気消沈した妃の様子に言葉を失ってしまう。 普段と異なる妃の様子に眉が寄り、放置すべきと思いながらも声を掛けていた。

「・・・・具合でも悪いのか? もしそうなら後宮へ帰り、侍医を呼び、治療してもらい、休むといい。 何より、後宮より二度と出て来ないことを勧めるが」
「いいえ・・・・。 ちょっと精神的に落ち込んでいるだけですから」

こんな妃でも落ち込むことがあるのかと無礼な事を考えていると、水月が顔を出した。

「お妃様、なにやら文を貰われたとのこと、どのような内容ですか?」
「・・・な、なんで御存知なのでしょうか (氾家っていろんな意味で凄いわ・・・)」

にっこり微笑んだまま妃からの答えを待つ水月の優しさに、吐き出してしまいそうになるが、もちろん言う訳にはいかない。 夕鈴は首を横に振り、強張った頬を笑みに変えた。 その笑みに水月は困ったような笑みを返し、手に持っていた書簡を棚に仕舞い始める。 それ以上は問わない水月の隣りに立ち、同じように夕鈴が書簡を片付け始めると方淵が怒鳴り出した。

「陛下唯一の妃へ 『文』 だと!  お妃様っ、陛下は内容を御存知なのか?」
「え、ええ、御存知です。 『放って置け』 と仰っていましたが」
「・・・そうか」

陛下の言葉を伝えると方淵は眉間に皺を寄せたまま、黙ってしまった。 夕鈴もそれ以上は答えようがない。 ただ 「そんなのでいいのかしら?」 の、困惑を引き摺っているだけだ。
相談も出来やしない。 ・・・・いや、相談できる相手ならいるじゃないか!
夕鈴は書簡を次々と片付けると、 「失礼致します!」 と妃らしく小走りで書庫を飛び出した。 方淵と水月は急に元気になった妃に驚き、呆然と互いの顔を見合わせた。

「一体どんな文を貰われたのでしょうね。 お妃様は」
「知らんっ! 陛下が 『放って置け』 と仰せなのだから危険なものではないのだろう。 放置しても大丈夫なものなら、こちらが心配するべきではない」

方淵の言葉に、水月が眉を上げて驚いた顔を見せる。 その視線に気付いた方淵が書簡を片付けながら咳払いし、渋々といった態で問い質した。

「・・・なんだ、その視線は?」
「いや、君がお妃様のことを心配をしていたと分かって驚いただけだよ」
「っ! そんなことは言っていない! 貴様はさっさと仕事を終わらせて退出しろ!」

方淵は書簡を目にもとまらぬ速度で書簡を片付けると、さっさと書庫から出て行った。 目を瞠ったまま見送った水月は、じわじわと込み上げる笑いを堪えることなく、肩を揺らして笑い続ける。






「老師っ! 聞きたいことがあります!」
「何じゃ、御子の作り方か?  それはよぉく身体を洗ってな、寝台に横になっていたらいいだけじゃ。 あとは何も考えず、ただ陛下に身を委ねて・・・・」

夕鈴が持っていた冊子を振り回して老師を殴ろうとした。

「お妃ちゃん、いくら老師でも遣り過ぎだって!」

直ぐに持っていた冊子を浩大に取り上げられ、真赤な顔でワナワナと震える夕鈴は取り上げられた冊子を取り戻し、深呼吸した。 そうだ、老師を殴りに来た訳じゃない!

「老師に聞きたいことがあって来ました。 先ほど書庫で 『貴女の秘密を知っています』 と書かれた文を見つけちゃったんです!  私の秘密って・・・、臨時花嫁ってことですよね。 李順さんや陛下は大丈夫って、放って置けっていうんですが、どうにも心配で・・・・」

夕鈴は大きく息を吐き、がっくりと肩を落とした。

「ほうほう。 まあ、それはただの中傷文じゃろう。 下っ端妃の小娘が未だ陛下に寵愛を賜っていることを怪しんでいる人間が居るという訳じゃな。 まあ、その気持ちは解かるが、まぁ、放っとくのが一番じゃ」

最後の方は納得したくないが、そう言うものかと眉を寄せた。 すると浩大が哂いながら、老師の後を引き継ぐように話し出した。

「そうそう。 何か怪しい事はないかと、暇な輩がこんなことをする。 それに疚しいことがある奴だけが煽られて怪しい動きを見せるのさ。 じいちゃんが言いたいことはそういうこと! だからお妃ちゃんは心配せず、逆に何もしない方がいいんだよ」
「・・・・わかった・・・」

もやもやするけど、言われた内容は充分解かった。
それならいつも通りに演技をしていれば良いのか。
眉間に皺を寄せながら夕鈴は後宮立入り禁止区域を離れ、足取り重く部屋に戻った。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:45:29 | トラックバック(0) | コメント(0)
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