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交喙の嘴  2

続きです。 えと、タイトルですが、交喙(いすか)という鳥のクチバシは 曲がっていて上下が食い違い合わないのですよ。 で、『ものごとが食い違って思うようにならないこと』の意に使われます。 小さくて可愛い鳥です。


では、どうぞ











次の日静かに書庫に入ると、また卓の上に文が一枚載っているのが目に入った。 心臓が大きく跳ねて逃げ出したくなったが、書かれた内容によっては誰かに見つかる訳にはいかない。
恐る恐る文を手に取り、そっと確認する。
 
『貴女の秘密は罪深い。 王の花として有るまじきことだ』

何度も何度も確認した夕鈴は蒼白になった。 
やっぱり 『臨時花嫁』 であることを知られているのだと、どうしてバレちゃったのだろうと震え出した。 どうすればいいのか、どうしたらいいのか解らず、椅子に腰掛けると一気に脱力して涙が溢れてくる。

『罪深い』 『有るまじきこと』

それは嘘をついて皆を欺いていることだろう。 書かれている文字に、胸が苦しくなる。
確かにバイト妃とはいえ、庶民である私が貴族である陛下の臣下に傅かれているのは有り得ないことだ。 これが従事する廷臣に知られたら、どんな報復が為されるのだろう。
場合によっては役人である父さんの仕事にも影響するのだろうか。 
いや、・・・・父さんはどうでもいい。
問題は青慎だ。 官吏を目指す弟が、 『姉が王宮に従事する貴族を謀っていた』 と知ったら、どう思うだろう。 ましてや、そのことが原因で賢い弟の将来が閉ざされることになったら・・・・・・。
思わず背に汗が流れる。 姉である私が青慎の将来を閉ざす原因になる? 

文を握り締め、夕鈴は立ち上がると李順がいるであろう執務室に駆け出した。



「李順さん。 突然ですが、今日限りで私、後宮を退かせて頂きます!!」

突然現れた夕鈴の台詞に、陛下と李順はぽかんと口を開けた。 プルプルと震える妃は今にも泣きそうで、ぎゅっと結ばれた唇が色を失っている。 その様子に慌てた陛下が 「夕鈴、どうして? 何があった?」 と問い質すが、夕鈴は二通目の文を差し出し 、「もうここには居られません!」 と震えながら叫び、睨むように見上げて来た。

「借金はどうにかして、絶対にお返しします! 几鍔に借りてでも返しますので、まずは私を後宮から退かせて下さい! ・・・・お世話になりました!」

そのまま踵を返すと後宮へ走ろうとするが、直ぐに陛下が夕鈴の袖を掴み、押し留める。

「待て、夕鈴! こんな文は気にしないでって言ったよね!?」
「だって、だって・・・・! 二枚目ですよ! 有るまじきことだって書いてあるし! もし私のバイトがばれて、皆を欺いているってばれて、青慎に借金が・・・・。 青慎のバイトがばれたら~~~~~っ! もうっ、ここには居られません! 」

パニックに陥ったらしい夕鈴は掴まれた袖を振り回して涙目で叫ぶが、その内容が支離滅裂なことには全く気が付いてない。 夕鈴の急な言動の原因が 『文』 の内容にあると気が付いた陛下は、その文を確認する。 
渡された紙には短い文章が一文。
しかし先達ての文に引き続いた内容に、陛下の眉が軽く上がる。

「・・・・李順、受け取っておけ。 引き続き・・・・」
「ふぅ、判りました。 急がせます」

必死に執務室から出て行こうとする夕鈴をどうにか腕の中に捕らえると、脚を持ち上げて横抱きにし、全身をぎゅうっと抱き締める事に成功する。 パニックを起こした夕鈴は思いの外、力が強いなと胸に閉じ込めながら苦笑する。 腕も脚も動けなくなると夕鈴は震えながら泣き出した。

「青慎が・・・・。 私のせいで、バイトになる・・・・っ! どうしよっ!」

しゃっくり上げながら戦慄く口元に手を添えてポロポロと泣き出した夕鈴。 身体を拘束され動けなくなると、感情が開放されたように泣き出した彼女を抱き締めたまま 椅子に腰掛ける。 密偵に調べるように指示する為に李順が執務室から離れ、今は二人きり。

陛下は震えて泣き続ける夕鈴の頭に口付けると、そのまま額に・・・・そして頬に唇を触れた。
また頭に唇を移動させ 「ちゅっ」 と音をたて、額の髪を別けて同じように音を立てて口付けると夕鈴が漸くパニックから浮上したのか、違うパニックに陥ったのか慌てて顔を手で覆い、大きく震え出した。

「・・・・? 夕鈴、如何したの?」
「って、陛下! い、今、な、何したの? お、お、おでこに!!」

あれ? 頬は気付いていない? ・・・・どうしようかな。
陛下は笑いを堪えながら夕鈴の顔を覗き込んだ。

「いや、落ち着かせようとして。 もしかして駄目だった?」
「だっ、駄目に決まってます! そ、そんなのっ! バ、バイトにぃ」

指の間から真赤に染まる夕鈴の顔が見て取れる。 その様を見て嬉しくなった陛下はもう一度夕鈴の身体をぎゅっと抱き締めた。 大きく震えた夕鈴は俯き、今度は小刻みに震えだした。
陛下がそのまま夕鈴を抱きしめていると、急にドンッと強く胸を押された。

「・・・・え?」

その離れた瞬間、膝の上から夕鈴が飛び降りて扉方向へ走り出した。
慌てて陛下が腕を掴もうと手を伸ばすと、振り向いた夕鈴にその手が払われる。
振り向いた夕鈴は真赤な顔で叫ぶように言った。

「バイト途中で本当にすいません。 借金は早急に返しますので!!」
「夕鈴っ!」

夕鈴はそのまま脱兎の如く執務室から走り出した。




これ以上、陛下に迷惑を掛けるわけにはいかない。
『王の花として有るまじきことだ』
そんな妃が側に仕えていていい訳がない。 やっぱり偽者は偽者。 臨時花嫁はもう終わりだ。 借金は几鍔に頭を下げて借りよう。 多少の無理は聞くし、利子も大幅に低くしてもらおう。
陛下のことは大好きだけど、大好きだから迷惑を掛けるわけには行かない。 
もちろん、青慎にだって迷惑は掛けたくない。 
弟の将来のために今の私が出来ることは、すぐに後宮を退くことだ!
泣きながら部屋に飛び込むと侍女が慌てて 「お妃様? どうなされたのですか?」 と訊ねてくる。 夕鈴は真赤な顔でポロポロ泣きながら侍女に背を正し、真っ直ぐに向き合った。

「わ、わたし・・・・ この後宮・・・・」
「夕鈴っ! ごめん!」

間髪入れずに部屋に飛び込んで来た陛下が夕鈴の口を押さえ、そのまま抱き上げると部屋を去って行く。 残された侍女は拱手していいのか戸惑ったまま無言で、嵐のような一幕を見送った。




「んぐぐぅ~! ぐっ、ぐぐぅ!」

攫われた夕鈴は暴れながらもくぐもった声で抵抗をしていたが男の力には敵わずに連れ去られた。 夕鈴の部屋から陛下の自室へ移動し、大きな長椅子に共に腰掛ける。

「・・・夕鈴、いい? 手を離すけど大きな声は駄目だよ。 わかったら頷いて」
「・・・・・」

夕鈴が陛下を見ながら こくんと頷くと口を覆っていた手が離れた。 夕鈴は腰を掴む陛下の手を掴み離そうと押すがビクとも動かない。 唇を噛み締めながら、それでも腕から逃げようと押し続ける。 陛下がその手を柔らかく押し留めると夕鈴が顔を上げて話し出した。

「だって・・・・だって・・・っ! 秘密がばれたら陛下にも迷惑が掛かっちゃうし・・・・。 それに 『有るまじきこと』 って・・・。 ご、ご免なさい、わたし実家に帰り・・・・」
「大丈夫だから! それに何度も言っている、気にするなと。 君は夫である私の言うことより見知らぬ奴からの文を信じるのか? そんなものは信じる必要がない。 夕鈴、迷惑など掛からないから安心して」

言葉の最後は少し声が掠れ、切ない懇願にも聞こえてくる。
その声に、抱き締めて来る腕の力強さに、身体中から力が抜けそうだと夕鈴は瞬いた。 陛下を見ると、狼とも小犬とも違う視線が自分を見下ろしていて、その視線に夕鈴は戸惑うしかない。

「で、でも陛下・・・、気にするなといっても私には無理です。 怪しいと思われている事実も怖いし、気付いて、正せって書かれている内容も怖い。 気にしないでいたら、次はどんなことになるのか解からないじゃないですか。 妃がバイトだって知られたら、陛下だって絶対に困ることになる。 だから今の内に後宮から退くのが・・・・・私が陛下に出来る精いっぱいなんです」

夕鈴は涙が零れそうだと思った。 鼻の奥が痛いほど熱く感じ、大きく息を吐く。
一枚だけなら李順さんや陛下が言ったように 『ただの中傷文』 だったかもしれない。 だけど、それが二枚も続くなら、何らかの意図があってのことだろうと考えた。 陛下のためにも青慎の将来のためにも、自分が後宮より退くのが一番だと思う。 それしか考えられない。 

大きな手が夕鈴の頭を静かに撫でる。 その優しさから避けようとして捕えられた頭が、陛下の胸に押し付けられた。 長い腕が夕鈴の身体をすっぽりと包み込み、その温かさに胸が高鳴った。

「いま李順に文の出所を探させている。 一枚目を受け取った時点から捜索させているから、間もなく結果が出るだろう。 その結果を耳にしてからでも遅くはないよ。 ね、夕鈴?」
「えっ? だ、だって、放っておけって、気にするなって、言っていたのに・・・」
「そうは言ったけど面白くなかったんだ。 夕鈴の秘密を知っているなんて。 僕だって知らないことが沢山あるのに、次の文書には罪深い秘密なんて書いてあるし・・・・。 あ・・・、もしかして夕鈴?」

ごくんと唾を飲み込み、夕鈴は陛下の言葉を待った。 何か思い当たることがあるのか、急に真剣な表情を見せる陛下を見上げ、夕鈴は背を正す。 しかし。

「夕鈴、誰か好きな人が居るの?」
「・・・・はえっ? す、好きな人?」

想定外の言葉を耳にして、夕鈴はこけそうになった。  『罪深い秘密』 と、私の好きな人と、どんな関係があるのか頭の中が真っ白になり、目が点になる。 その目の前で陛下の顔が緩んでいくのが見えた。  
「居ないの?」 と聞かれた夕鈴は狼狽する。 まさか 『目の前の陛下です』 とも言えず、膝の上の両手を握り、掠れた声で 「い、いませんけど・・・・」 と答えるしかない。

陛下の目が細まったのを、俯いた夕鈴は気が付かない。









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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:35:12 | トラックバック(0) | コメント(0)
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