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smile 2

痛い痛い、続きです。 

では、どうぞ







長い間 呼吸器官を圧迫されて窒息状態が続き、夕鈴の意識は深く沈んでいた。
首と頭、手の甲に捲かれた白い包帯が痛々しい。
見つめる陛下の表情は苦悶に満ち強く握り締めるあまり拳から血が滴り、恐ろしいほど静かに怒り震えていた。 陛下の私室寝台に横たわる夕鈴の青白い顔に黙って見入る陛下に李順が告げる。

「陛下・・・。 このような時にとは思いますが、政務が滞っております。 お戻りを・・・」
「・・・・わかった」

政務室は重苦しい雰囲気になるだろう。 しかし政務が滞っているのは事実。 これ以上バイト妃の容態に変化が無い以上、陛下が部屋に籠もるのは困るのだ。 陛下の心情も解かるが、李順も側近としてこれ以上の時間は避けることが出来ない。

「医師と老師に、私が戻るまで妃の傍に居るように告げよ」
「わかりました」
「それと・・・・」

震える手をそっと夕鈴の頬に添える。 冷たい指先に触れる冷たい頬。

「刺客からの情報は逐一私に届けよ。 逐一、全てだ!」
「はっ!」

胸を刺されたものの辛うじて息を残す刺客は、応急処置を施され裏幕を吐くまで死ぬより辛い拷問を受けるだろう。 刑吏官らによって死にたくても死ねない遊戯を永遠とも思える時の中、踊り続けることになるのは必至だ。 泣き、叫び、どれだけ許しを請おうとも、しかし誰一人その手を緩めることは無い。

政務の合間を縫って、陛下が刺客の元を訪れる。 静かな笑みで近付くと無言のまま刺客の指をひとつ、ひとつ使えないように弄び、甲高い悲鳴を耳にした後、場を離れて行くことを繰り返した。 
日に数度訪れ、弄ぶような仕儀を続けていると、刺客はその恐ろしさに耐え切れず精神的にも肉体的にも狂う寸前となり、たった二日で落ちる。
黒幕の大臣が明かされ、すぐに捕縛されると後は李順らに任せ、陛下は背を向けた。
これ以上相手にしていたら・・・・闇に呑み込まれて戻れなくなりそうだと。


納得はいかないが騒動が一旦決着した時、老師より夕鈴が目覚めたと報告が届けられた。
李順ですら音を立てて椅子から立ち上がり、陛下は急ぎ自室に足を向ける。


しかし

部屋の寝台の上で静かに上体を起こした夕鈴の瞳に光は無かった。

部屋に突然現われた陛下に驚きもせずに、ゆっくりと視線を合わせてくれるが、その瞳は陛下を見ているようで何も映してはいない。 侍医と老師が眉間に深い皺を作り、妃の容態を報告する。

「まず気道を圧迫されたため、咽喉が傷つき出血されていました。 現在御声が出ない状態です。 手の甲の刺し傷は幸運にも神経や骨を避けており、傷が癒えましたら元のように動かせます。 首に捲かれた鞭に鋲が含まれていたようで、広範囲に傷が出来ましたが、時間を掛けましたら・・・・目立たなくなります」

他の擦過傷は時間は掛かるが、追々癒えていくとのこと。
ただ、後頭部に受けた打撃と気管圧迫による酸素不足により、脳への損傷が大きいと侍医が話した。 記憶が抜け落ちた状態で、自分の名前も現状もわからない様子とのこと。 
口が利けないので質問に答えることが出来ない上、手の怪我により筆を持つことも叶わない。

「もちろん、出来る範囲で回復への治療は致します。 薬師も薬草も手配済みです。 ただ、あとは記憶の部分は、時間による自然治癒に頼る他ありません・・・・」

頭を垂れた二人からの説明を受けても、気持ちが追い着かない。 
理解出来ない。 理解したくない。

「妃の・・・・、夕鈴の、記憶が・・・・」

記憶喪失。 しかも本人にわずかの焦りも、戸惑いもなく、ただ 「自分が無い」 状態。

夕鈴に視線を移すと、気配を感じたのか顔を上げて黎翔と視線を合わせてくれる。
ただ視線を合わせるだけの、その感情の無い視線に黎翔の胸が苦しくなった。
寝台に腰を降ろし、包帯に包まれた手を優しく包みながら彼女の体を引き寄せるとそのまま素直に体を預けてくる。 今までの夕鈴ならば考えられない。

「夕鈴・・・・」

光の無い瞳が黎翔を捕らえる。 音に反応しただけのようですぐに視線が外される。
声が聞けない。 見つめ合えない。 微笑が無い。
黎翔の目の前が閉ざされた闇のように暗く感じた。

耐え切れずに夕鈴の背に手を廻し、それでも嫌がった時のために優しく抱き締める。
眉間に皺が寄り、切なさが胸を責め、それでも今の自分には為す術がないことに苛立つ。

《あの刺客共々片付けるには早かったか。 もっと時間を掛けて、もっと残虐に・・・・》

歯軋りをしながら心の澱に沈みかけていた時、背中に暖かなものが触れるのを感じた。
それは夕鈴が自分を抱き締める陛下の背に、包み込むように手を回してきたからだと判る。
その手の暖かさに触れた瞬間、黎翔の心に灯が燈り、ゆっくりと濁った澱が溶けるように感じ、夕鈴を抱く腕に少し力を入れた。 黎翔を 「黎翔」 とは判っていないだろう夕鈴の無意識の反応がそれでも嬉しく感じ、触れることの出来る温かさに頬を寄せる。

「老師、医師ともに引き続き妃の回復に努めよ。 回復の方法を求め早急に実行せよ」

振り向きもせずに強く伝える陛下に短く返答し拝礼をした後、皆は静かに部屋を後にした。 
静かになった部屋で、黎翔は夕鈴を抱き締めたまま、呟くように話し掛ける。

「恐い目に遭わせてごめんね。 絶対に元の夕鈴に戻すから・・・・。 絶対に・・・・」

その先を語るのは辛いのか、憂いた表情で唇を硬く閉ざした。
夕鈴を寝かせ、冷たい指先で瞳をやさしく閉じさせると、素直に瞼を閉じて夕鈴はそのまま眠りに就いたようだ。 無表情の夕鈴の頬をそっと撫で、髪を一房手に取り冷たい唇を寄せる。

しばらくは自分の手の届かない、神頼みになるのか。
即位後の内乱安定も、跋扈する狸や狐の始末も、政務も全て自身の手で制圧してきた。
自身の力で、自身の為に、自身の願いを叶えるために動いていた。
そして時に力で捩じ伏せ、時に暗躍して裏をかき、時に正論で突破して此処まで来た。
脳裏で描いている道を突き進む為に、余計なことは切り捨てて。

しかし・・・・ 夕鈴の言動はいつも思いがけないことばかりで、驚かされ続けている。
予測不可能な彼女に振り回されることも、思いもかけず癒される事も全てにおいて嬉しく、楽しく、可愛らしく思っていた。 目の前から居なくなると苦しくなり、かといって閉じ込めることさえ出来ない。
 「偽妃」 であり 「囮」 でもある彼女だが黎翔にとってその立場が変わっていた。

今はまず夕鈴の記憶が戻ることを祈るだけしか出来ない自分に歯噛みしながらも、時間の経過に委ねるしかない。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 22:23:34 | トラックバック(0) | コメント(0)
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