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溺れるものはナニを掴む  6
下町編が思ったより長くなりました。 手が動かないんですよね。
困ったものです。 思うように動いてくれない人物達に掃除を開始したり、映画を見ちゃったり・・・・。 笑うしかありません。 そのうち、眼を酷使したためか左目が痛くなってきて冷やしている内に睡魔が・・・・。 貴重なお休みがぁ~~~~~~!!



では、どうぞ













部屋に薬箱を置いたと聞き、夕鈴は自室に陛下を入れるしかない。 質素な自分の部屋を恥ずかしく思うと同時に後宮に宛がわれた部屋の豪華さを思い出していた。

「余り・・・見ないで下さいね。 殆ど寝るだけの部屋なものですから」
「ううん、女性の部屋って初めてだからドキドキするよ。 でも・・・・・」
「 でも? 」

口元に軽く握った手をやり黙り込んだ陛下に視線を向けると 「ああ、消毒しようか」 と陛下が薬箱を開けた。 夕鈴が髪を纏めて首を傾けると、冷たい布が当てられる。 傷口にチリッと染みたが動かずに我慢した。 薬品の匂いがして夕鈴はやっと傷を付けられたんだなと実感し始める。

正直怖くはなかった。 ただ興奮した相手の行動が読めずに危ないなと思っただけ。
『臨時花嫁』 としてだけではなく 『囮』 としても後宮に居る自分はいつの間にこんなに肝が座ったのだろうと小さく肩を震わせて笑ってしまう。 くるくると包帯が巻かれ、大袈裟だと思ったが黙ってされるがままで居ることにした。


「終わったよ、夕鈴」
「すいません、陛下にお手を煩わせてしまい。 で、先刻の 『でも』 は?」
「ああ・・・・。 ちょっと気になってね。 几鍔君は夕鈴の部屋を知っているんだ」

彼が夕鈴を寝台に寝かせたということは、夕鈴の部屋を知っているということ。 僕の知らない下町での夕鈴とその日常。 知らない事実に寂しさを感じる自分を持て余しそうになる。

「私の部屋は昔から変わりませんし、この家の広さですよ。 台所に近いところに女部屋があるのは普通ですしね。 何処の家も作りは大体同じです。 陛下、それより・・・・。 あの・・・ 本当に私ってば几鍔の首に・・・?」

纏めた髪を解きながら夕鈴が陛下を見上げた。 その顔は真赤に染まり、羞恥に悶えているようだ。 溜息を吐き、陛下は夕鈴に頷くしかない。 抱きついた上に彼の首に手を回していたのは本当だから。 その頷きに夕鈴は立ち上がり 「う、嘘よ・・・・」 と上擦った声を出した。

恥ずかしさの余り部屋を出ると台所へと向かった夕鈴は、帰宅した父親に会う。 父親は娘の首に巻かれた包帯に驚くが、それよりも卓に注いだばかりの茶碗を持ち一気に飲み干した娘にもっと驚いた。 アルコール度数の高いと謂っていた・・・・。

「おい、ゆ、夕鈴、それは几鍔君が持って来た・・・・」
「・・・何これ、甘い・・・・。 え?」

目の前がぐにゃりと回ったようだと夕鈴が思うより早く陛下がその身体を支えた。 父と弟が吃驚した顔を見せるが、陛下は気にすること無く夕鈴を抱き上げて二人に振り向いた。 
初めて会う夕鈴の父に会釈をして名乗った後に、続けて話しだす。

「お酒・・・・ 飲んだみたいだね。 青慎君、申し訳ないけれど誕生祝は明日に延期だね。 一口で昨日は酩酊したのに、茶碗いっぱい飲んじゃったから多分明日の朝まで起きないと思うよ。 疲れもあるし、今日はこのまま寝かせたいんだけど、いい?」
「あ・・・。 はいっ! だ、大丈夫です。 誕生祝なんて僕いいって言ったんです。 でも姉さんが如何してもお祝いしようって・・・・。 このまま寝かせて疲れを取って欲しいです。 いつも僕のために働いていますから・・・・」

父親は何があったのか解からない様子だが、上司だという李翔に対して怯えるように頷いている。 上背の高い彼は自分より遥かに年若いのに貴族独特の威厳を醸し出しており、意見を挟むことは勿論、娘を抱き上げていることにも何も居えずに頷くしかない。




一気に酒が廻った夕鈴は一言も発せずに、陛下の腕の中でぐったりとしている。 騒動に巻き込まれた上に、二日続けて酒を飲んだ事もあり深い眠りに入ったようだ。
夕鈴の部屋へと足を向けるが、首に腕を回される訳でも 襟を掴んでくれる訳もないことを残念に思ってしまう。 部屋の寝台へ寝かせると、陛下はその傍らに腰を降ろして解かれたままの髪を掬い取りそっと唇を寄せた。

「ねえ、夕鈴? もう二度とお酒は飲まないでって言ったのに、あっという間に飲み干すなんて。 ・・・・困ったな、君はいつも僕を驚かせる」

陛下が頬に触れると眉間に皺を寄せた夕鈴。 その顔は真赤に染まり少し苦しそうに見えた。 額に手を当てると熱いくらいだ。 陛下の手が冷たいためか、夕鈴の手がゆるりと持ち上がり陛下の手に重なった。 小さく開いた唇から 「・・・・気持ちいい」 と呟きが漏れる。



僕の手を掴んで離さないで。  どんな時も、どれ程時が過ぎても。




酒に溺れた夕鈴が掴んだものは・・・・・・。








****   *****   *****    *****








次の日、王宮へ戻る事になった夕鈴は酷い頭痛と戦いながらも青慎の為に精一杯の祝い膳を拵えて楽しい昼食を摂った。 沢山作り過ぎた為 「残りは夕食に有り難く食べるよ」 と青慎が嬉しそうに笑顔を見せた。 可愛い健気な弟の言葉に夕鈴の涙腺が緩んでしまう。
青慎は姉の首の傷が気になったが 「大丈夫よ、気にしないで」 と繰り返されてしまい、それ以上は聞くことが出来なくなった。 実際に深い傷ではないのだが、流れた血に青慎は酷く怯えていた。 離れて仕事をしている姉の身体が心配で堪らないのだ。 そんな青慎の気持ちを知り、夕鈴は感激してしまう。

「青慎の気持ち、すごっく嬉しい!! 姉さん、頑張って仕事して沢山勉強出来るように仕送りするかね! あんたも一生懸命勉強するのよ!」

と、反対に青慎を励ますほどだった。 そこへ扉を叩く音がした。
夕鈴は反射的に 『・・・まさか、陛下?』 と思ったが、其処に居たのは几鍔だった。
「僕・・・学問所に戻って勉強してくるね」 と変な気を利かせて青慎は家を出て行った。

「・・・なによ、何か用なの?」

夕鈴が睨ね付けると腰に手を当てたままで几鍔が言い淀む。 頭をガシガシと掻き毟ると、手に持っていた布袋を夕鈴に差し出した。 無言で差し出した袋を受け取れとばかりに更に突き出され、訝みながらも夕鈴が渋々手を差し出した。

少し重いその布袋の口を開くと、一昨日に几鍔に見せられた宝珠が入っているのが解かる。
夕鈴が 「如何したのよ、前に見たわよ。 見た記憶だってちゃんとあるからね!」 と戸惑うと、几鍔は小声で呟くように何かを言っている。

「聞こえないっ! 男ならはっきりと言いなさいよっ! これが如何したのよ!」
「・・・侘びだ! お前にやるよ!」

夕鈴の怒鳴り声に、几鍔も怒鳴り返す。 その台詞に夕鈴が驚いた顔でもう一度宝珠を見て慌てて袋の口を締め几鍔に押し返そうとするが、几鍔は夕鈴の手を押さえ込み睨み付けた。

「これは詫びだから、黙って受け取れよ。 ・・・・巻き込んで悪かった」
「だからと言って、これは受け取れないわよ! だってすごく高い品物でしょう。 幾らなんでも詫びの品としては高価過ぎるわよ。 この間貰ったお酒で充分! 父さんも喜ぶだろうし・・・・・。 あんたからコレは絶対に受け取れない!」

しかし夕鈴の手を押さえ込んだ几鍔の手は強く、更にそのままで几鍔が夕鈴に問い掛けてきた。 心底、心配そうな表情を見せて。

「首・・・大丈夫か? 包帯を巻いているが酷かったのか? 傷、残りそうか?」
「え? あ、いや此れは大袈裟にしているだけで大した事ないわよ、本当に。 だからコレは持ち帰って。 受け取れないから・・・。 気持ちだけでいいわよ」

夕鈴が繰り返すも几鍔の手が離れる事は無く、夕鈴はだんだん腹が立ってきた。

「こんな物貰っても掃除婦の私には置き場所も無いのよ! いいから持って帰れ! 傷は大丈夫だって言っているでしょ!」
「な、なんだと、この馬鹿女! 男の侘びに対して 『持って帰れ』 とは何だ! 黙って受け取れよ! ・・・結構血が流れた筈じゃねぇか。 見せてみろよ、夕鈴」

一旦夕鈴の手を離して宝珠を持たせると、几鍔は首に巻かれた包帯を解き始めた。 慌て驚く夕鈴だが持った宝珠を落とす訳にもいかずに、首から包帯が解かれるのを眉を顰めながら我慢するしかない。

「もっ、何するのよ!! 大丈夫だって言ってるじゃないのっ!」
「アイツ、結構傷付けやがったな! 夕鈴、痛みはもうないのか? ・・・・もう少し殴ってやれば良かったか、あの野郎」

几鍔が髪を攫い持ち上げて傷を眺めている間、動けずにいた夕鈴は宝珠を几鍔の懐にそっと戻そうと手を動かした。 それに気付いた几鍔が腰を引き、怒鳴るように叫んだ。

「お前っ、男の胸元に手を入れるなんて・・・っ! 馬鹿かっ! いいから受け取れよ!」
「いやらしい言い方しないでよ! だから受け取らないって言ってるでしょ!」

髪から手を離した几鍔は夕鈴の腕を掴み、顔を近づけ低い声で強く懇願した。

「・・・・頼むから、夕鈴」
「・・・・っ!!」

几鍔の表情に困惑した夕鈴は、宝珠を持った手を渋々胸に引き戻すしかない。 こんな高い物を受け取るのは質素倹約に勤しむ身には過ぎたる物だが、几鍔の真摯な態度を見ると断ることが出来なくなっていた。

「わ、解かったわよ。 ・・・・貰うわ。 几鍔・・・・・・、ありがとう」

受け取られた宝珠を見た几鍔は、緩やかな表情を夕鈴を見せながら首筋にそっと触れる。 
僅かに肩を竦めた夕鈴は、その手の動きにざわつくが未だざわつく 「ソレ」 が何なのか解からないでいた。

「本当に悪かったよ。 巻き込んじまって・・・」
「あんたが悪いんじゃないって解かっているからいいわよ。 ・・・・・・私、これから王宮に戻るからね。 これ・・・・ 大事にするね、ありがとう」

夕鈴が宝珠を握り締めながら几鍔を見上げた時、台所近くの扉を叩く音が大きく響いた。

「・・・・夕鈴、何しているの」
「へっ・・・っと、李翔さん? ど、ど、どうして此処へ?」
 
几鍔が徐に嫌そうな顔を呈するも気にする事無く近寄り、首に掛かった几鍔の腕を外す。 
いつまでも触れていたことに几鍔自身驚くが、振り払われたような感じを受けたのか李翔を睨み付けた。 その睨みにも動じる事無く、夕鈴の首筋の傷を確認すると安堵の息を吐く。

「傷は大事無いようだ。 今日、王宮に戻るんだよね、夕鈴」
「あ、はいっ。 台所を片付けたら戻ろうかと思って・・・・ ました」

笑顔だけど紅い眼が笑っていないと感じた夕鈴は身体が固まってしまう。 首筋を這う手の動きにも背がざわつき頬を赤らめて肩を竦めると、その肩を掴まれ身体を引っ張られた。
夕鈴を腕に囲うと、顔を上げて几鍔を見る。

「やあ、几鍔君。 昨日の騒動はその後どうなったの?」
「・・・・ちっ! お前の言うとおり直ぐに警備兵が来て景升らを連れて行ったよ。 縄張り争いをしようとする他の輩も暫らくは大人しくしているだろうな。 それで、お前はただの庶民を迎えに来たのか? はっ!王宮勤めの貴族がただの掃除婦を迎えに? ・・・・ありえねぇだろう。 お前・・・・ 何がしたいんだ?」

驚いた顔で几鍔を見ると夕鈴を抱き上げる。 
「なっ! 何?」 と急な浮遊感に驚く夕鈴を見上げると小犬の笑顔でにっこり笑う陛下。

「だって夕鈴は可愛いでしょ? 前にも言ったけど悪い虫がつかないか心配でね。 首の怪我も気になるし。 それが何か? 几鍔君」

几鍔は大仰に呆れた顔をした。
よく恥ずかしげも無くすらすらとそんな事を言えたものだと溜息しか出てこない。 
几鍔は首を軽く傾けて片手を上げると 「ほんと、悪かった」 と帰って行った。 扉から姿を消す几鍔に 「これ、ありがとう!」 と声を掛けると上げた片手が振られた。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 20:15:42 | トラックバック(0) | コメント(0)
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