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smile 3

初めての長編は、自分で思うより長くなってしまった。 でも、どうにかまとめることが出来た。 ・・・ほっ。


では、どうぞ








しばらくの間は怪我を治療する。 手の甲や首の傷が一番酷かったが、治療の甲斐あって少しずつ回復していった。 回復の見通しが立たないのが 「記憶」 だ。
漢方で血流を良くする他は、過去の思い出を話したり好んだ物を見せたりする。 
天気の良い日は四阿にて風景を楽しみながら過ごす。
一見穏やかにも見える日々がそうして続いていた。

最近は微笑が出てきたと侍女からの報告を聞き、黎翔は政務の合間に四阿へ足を向けた。
今日は池に迫り出した四阿で、温かい茶と日差しを楽しんでいたようだ。

「妃よ・・・・」

政務に追われていた黎翔は、夕鈴の静養もありしばらくは後宮に顔を見せていなかったが、久し振りに声を掛けると、ゆっくり振り向いた彼女は穏やかな所作で微笑を見せてくれた。
その微笑みは・・・・・胸が痛くなる微笑だった。
首から包帯が外されていたが赤い筋が未だ残っており、手の甲は包帯が捲かれている。

「今日は天気が良いね。 一緒に茶を飲んでもいいかな?」

夕鈴から頷きも返答も無いが、穏やかな微笑みに拒否は見られず、黎翔は静かに隣に腰を降ろす。 髪を一房掴み感触を確かめていると、夕鈴の目が大きく見開き、戸惑っているように見えた。 
いつもの癖がでたと、急ぎ髪から手を離して謝罪する。 すると彼女に微笑が戻った。
少し驚いただけと知り、そして彼女に感情が少し戻ったことに安堵する。

目に映る夕鈴の首筋の傷にそっと触れると、小さく彼女の体が震えた。
赤味が残るその首に視線を残すと、不意に夕鈴の手が黎翔の頬に触れてくる。 強張ったまま視線を夕鈴に向けていると唇が少し開き、何か語るかのように動くのが見えた。 
その唇から視線が離せない黎翔は首に触れていた指先を、夕鈴の唇に乗せる。

「夕鈴・・・・・」

唇をなぞる指先に少しだけ戸惑う夕鈴だが、嫌がりもせずされるがままでいる。
触れたことの無い唇の感触に心がざわめくが、夕鈴の態度に気持ちが沈む。
頬を赤らめることもなく、怒ることもない。
仕方が無いんだと自身に繰り返し刻まなければ、苛立ちで何をするか判らない。 頭を振り立ち上がり、その場を離れ気持ちを切り替えようとした。 このまま彼女の傍に居たら強く抱き締めて怖がらせてしまいそうだと思い・・・・・。

離れようと歩き出した黎翔は、ふいに袖を引っ張られ振り向いた。 
大きな瞳で黎翔を見つめながら袖口を握り締める夕鈴に驚く。 急に立ち上がった黎翔に不安な表情を見せ、つい手が出たようだ。 その縋るような表情に、心臓が握り締められたように苦しく感じる。
黎翔は思わず覆い被さるように夕鈴を抱き締めると、耳元に夕鈴のか細い吐息が聞こえた。

「・・・・!」

この切なさをどう表現すればいいのだろう。 
『君』 が居ないと自分が自分で無くなりそうになる。 
君らしい君に、 『夕鈴』 自身に逢いたい。
刺客も政治の煩わしさも遠のけて、後宮の奥に匿って真綿で包むように愛でていたい。 いつもの夕鈴なら 「私は雇われているんですよ」 と怒りそうだが、今はその言葉さえ聞けない。


侍女らに付き添われ、夕鈴は何度も振り向きながら後宮へ戻って行った。 その姿を見送った後、近くに居る筈の浩大に護衛を継続するよう伝える。
どこからか浩大の声だけが聞こえて来た。

「お妃ちゃん、少し感情が出てきたみたいっすね。 回復して来たのかな~」
「・・・だといいのだが。 過度な望みは今の私には辛い」

大丈夫だと言われるのも辛い。 確証はないのに。 しかし垣間見える夕鈴の感情に期待する自分が居るのも承知している。 大きな望みを持っては危ないとも判りながら。


その後も時間を見繕っては足を運び、侍女らの用意するお茶を一緒に楽しむようにした。
黎翔が静かに隣に座り、手を取り合い微笑み合う。
焦る気持ちを見せずに一緒に過ごす時間を大切にしようと、夕鈴の微笑が少しずつ、心からの微笑みに変わっていくようにと・・・・・。



暖かな風が広大な庭を緑に着替えさせる頃、後宮に侍女の悲鳴が響いた。

浩大が慌てて夕鈴の部屋に飛び込むと、蒼白な表情で壁にしがみ付く夕鈴が見て判るほどガタガタと震えている。 急ぎ近付くと、足元に一匹の黒蛇がいるのが判った。
浩大が急いで掴み窓の外に放り出すが、夕鈴の震えは一層酷くなり痙攣を起こし始める。 
侍女に老師を呼ぶよう伝え、他の侍女に陛下を呼ぶよう指示する。 目の焦点が合わなくなった夕鈴の口中に急ぎ指を差し込むと、舌を噛む寸前だった。 思い切り噛まれたため、浩大の指から血が流れる。 これ以上の痙攣は危ないと判断し、後頸部に手刀を当て意識を失わせて寝台へ移動させた時、陛下が部屋に姿を見せた。

「蛇に驚いたみたいっす。 あの時の鞭を重ねたのかもね。 蛇自体は無害の普通の蛇で暖かくなって迷い込んだろ。 お妃ちゃんは強い痙攣があったから “寝かせた” よ」
「・・・・そうか。 かなり驚いたようだな。 ・・・・可哀想に」

寝台に腰掛け、意識を投げ出した蒼白の夕鈴の髪を優しく撫でる。 息を切らし走って来たであろう黎翔の顔色も蒼褪めて見えた。
浩大は血が流れた指を舐めながら夕鈴をじっと見つめる。 その後 訪れた老師に同じことを説明し、引き続き妃の警護のために部屋から姿を消した。

即位する前から陛下に付き従っていた浩大は、黎翔の動揺に驚いていた。 
目的の為に自身さえも武器に戦っていた彼が一人の女の為に精神を揺さ振られているところを見る日が来るなんて想像も出来なかった。 現実を目の前にしてもやはり驚いてしまう。
 
「お妃ちゃん、早く元のあんたに戻ってよ。 俺も寂しいよ・・・・」

小さく呟きながら、浩大は血が止まった指に舌を這わせた。



数刻後、目を覚ました夕鈴の前に黎翔がいた。 目を覚ましたばかりの夕鈴はすぐに微笑を見せてくれる。 その笑みに黎翔は安心して彼女の背に腕を差し入れ、ゆっくりと上体を起こすと夕鈴から一瞬で微笑が消えた。 
驚いた黎翔が顔を覗き込むと瞳を大きくした真っ赤な顔の夕鈴と目が合う。

「・・・夕鈴。 熱でも出た?」

互いの額を合わせると、黎翔の胸にどんっと痛みが走った。
自分の胸を見ると夕鈴の両手に強く押しやられているのが判る。

「え?」

黎翔は、何が起きたのかと顔を上げて彼女を見ると耳まで真っ赤になった夕鈴が震えていて、どうしたのかと声を掛けようとした時。

「な、な、なんで?? ・・・・・顔、ちかっ・・!」

掛け布を持ち上げ顔を隠すように震える夕鈴から、掠れているけど声が聞こえた。
顔が近いと怒ったような顔をする、涙目になっている彼女が目の前に居る。

「ゆうり・・・・、僕がわかる? ここが、・・・どこだかわかる?」

唾を呑み込み一呼吸置いて、目の前の彼女に聞いてみる。 
知らず鼓動が跳ねるように早くなる。
眉間に皺を寄せた彼女は赤い顔のまま当然のように答えた。

「陛下、どうしたのですか? ・・・・ここは私の部屋ですよね。 え? どうし・・・」

彼女の台詞を最後まで聞かずに、両手で彼女の頬を挟みこむ。 奇声を発して騒ぐ夕鈴に思わず抱きついたら、更に大きな叫び声で耳が痛くなる。 
耳が痛くて、本当に本当の 『夕鈴』 だと自覚出来た。 嬉しさの余り寝台の上に押し倒したら、茹った夕鈴に失神されてしまい、急ぎ老師と侍医を呼ぶよう控えていた侍女に叫び伝えた。




蛇を前にして、ショックで記憶が戻ったのかも知れないと老師が話すが、それはもう今の黎翔にはどうでも良いことだった。 『夕鈴』 が 『夕鈴』 に戻ったのだから。
しばらく記憶を失っていたと聞き、彼女は侍女らに心配掛けたと頭を下げた。
泣き崩れる侍女らに貰い泣きをしながら、嬉しそうに感謝の言葉を何度も告げる。

医師や老師に御礼を伝え、見舞いをしてくれた官吏に感謝を伝えて回る。
李順に平伏するように 「医療代は・・・・」 と問うと、むっとされた。
李順は 「全く私はどんな人間ですか!」 とぶつぶつ言っていた。
(鬼のような上司です)  夕鈴は心の中で李順に返答して、もう一度深く頭を下げる。
浩大にお礼のつもりでたくさんの手作りおやつを作り、元気になった姿を見せると浩大からは 「う~ん、揚げたての饅頭はやっぱり旨いな~!」 といつも通りの笑みが返って来て、その笑顔に夕鈴は少し救われた気がした。


そして体力も回復し、やっと普段の生活を送ることになった夕鈴は書庫で整理を始めた。
陛下が近付くと、夕鈴は笑顔で 「結構ばらばらに片付いていますよ」 と文句を伝える。

窓から少し湿気を含んだ風が舞い込む。 柔らかく髪が靡くその姿を見て・・・・・

「夕鈴・・・・」
「はい?」

振り向いた夕鈴を見つめながら、黎翔は狼でも小犬でもない表情のまま、ゆっくり近付く。 夕鈴が首を傾げると薄っすらと赤い筋が見て取れる。

「傷が・・・・残ったな。 傷はいずれ消えるだろうが、恐怖は残っているだろう?」
「あ、いえ。 もう痛みもないですし、恐いのは・・・・。 皆が助けてくれたので、本当に、もう大丈夫です。 忘れちゃいました。 大丈夫ですよ、本当に」

夕鈴が手で押さえるように隠した首に、黎翔が手を差し伸べて傷を確かめる。 その真剣な視線に、渋々ながら夕鈴は手を降ろして されるが侭にした。

鞭が捲いていた箇所、後首は髪があったので鋲が肌を傷つけることは無かったが、他は薄い赤い筋があり、所々強く赤味が見られた。 その赤みを指でそっとなぞる。
「本当、痛くは無いです。 自分では普段見えませんし」 と夕鈴は頬を赤らめて繰り返す。
そのまま後頭部を触る。 鞭の取っ手部分で強打され出血した箇所を探す。
そろそろと探っていると、その箇所に触れたのだろう。 夕鈴がびくっと体を震わせた。
少し腫れていて、まだ瘡蓋が手に触れる。 「触らなければ大丈夫です」 と笑う夕鈴の頭を自分の胸に当て、そっと抱き締める。

「陛下!? あ、あの!」
「今、少しだけ・・・・。 逃げないで・・・・」

夕鈴は頭の上から聞こえる陛下の声が少しだけ掠れているように聴こえた。
たくさん・・・・心配を掛けたのだろう。 「囮」 になるのは慣れないけど仕方が無い。
磐石な国づくりの 為に不穏因子は出来るだけ取除いておきたい。
そんな陛下に自分のことで余計な負担を負わせたくない。 その為なら 「囮」 だろうが 「偽妃」 だろうが自分が出来る事はなんでもしたい、させて欲しい。 ここにいる 「バイト期間」 だけでも。 
そのために此処に居る人間なのだから。
なのに、陛下は余りにも優しい抱擁をくれている。

《 勘違いしちゃいけない。 書庫だから演技しているだけ! 演技、演技・・・・ 》

目を閉じて深呼吸をする。 陛下の耳に届きそうな鼓動を抑えるために。
そして、夕鈴はゆっくりと陛下の背に自分の手を廻し、そっと添わせた。

「・・・逃げませんよ・・・・」

そう告げると陛下の腕に力が入り、強く抱き締められた。 何と思った瞬間、陛下が不意に離れて夕鈴の首に唇を付ける。 ちりっとした痛みと、濡れた感触。
夕鈴が驚いて、離れた陛下の顔を見ると少しだけ悲しげに微笑んでいる。

「嬉しいこと言ってくれたから御礼」

目を瞠ったまま夕鈴が新しい痛みに指を近づけると、なぜか濡れた感触がした。
《・・・これって・・・まさか・・・》
陛下の顔を恐る恐る伺うと、にっこり笑顔で頷いた。

「えへっ!舐めちゃった!」

小犬陛下の笑顔で、狼陛下の眼!! 
全身を真っ赤に染めた夕鈴は、脱兎の如く書庫から消え去った。

「ええー、逃げないって言ったのに・・・・」

笑い声を上げて陛下は卓に腰を掛ける。 夕鈴が首の傷近くに咲く紅い印に気付くのはいつなのかな? 気付いたら怒るかな? それとも全く気が付かないかも。

君が元気で、笑顔で居てくれたら、それでいい。
君が君で居てくれると、僕も元気になれるから。






FIN


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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:34:05 | トラックバック(0) | コメント(0)
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