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君のために出来ること  1

前・後くらいの短い話となります。 たまには「二人だけのお話を」との希望が多かったので。 いちゃいちゃ書くのって思うより難しいです。 時間掛かっちゃった。

では、どうぞ








「陛下、今日は・・・・。 いえ、なんでもありません」
「夕鈴? さっきから何を言いたそうにしているのかな」
「あ、今日ですね、後宮の庭に新しい花が咲いていて、それがとても見事でして・・・・」

夜、夕鈴の部屋を訪れてから何度目の台詞だろう。
涙目になっている夕鈴は、僕が首を傾げると直ぐに他の話に切り替えて勢いよく喋り出す。 でも長続きせずに間が開き、また同じ台詞を紡ぎ出す。 何を言いたいのか、隠しているのか判らないから問い掛けるが、明らかに君は はぐらかそうとする。 何度目かの煮え切らない君の言葉に正直飽きてきた。

「ねえ夕鈴、どうしたの? 言いたいことがあるなら、はっきり言って欲しい」
「・・・っ! い、え。 大丈夫ですから・・・・。 碁でもしましょうか」
「もしかして方淵にまた何か言われた? それとも他の大臣かな?」
「いいえ、違います。 それは自分で対処できますから」

僕がそうかなと思ったことは違ったようで、きっぱりとした顔は気持ち良いくらいだ。 しかし、立ち上り碁を用意し始める夕鈴の指先は、小刻みに震えている。 
我慢出来なくなった僕は、夕鈴を膝上に座らせると、耳元に狼陛下の声を落とした。

「夕鈴・・・・。 私に話せないことなのか? 気になるではないか」
「・・・ぁやっ! 陛下、耳元でその声は反則ですっ!」

真赤な顔で夕鈴は耳を隠す。 耳を隠した手に唇を付けて 「じゃあ話してくれる?」 と訊ねると、夕鈴は短い悲鳴と共に涙目で降参した。


「実は・・・・梅雨近くのこの時期になると・・・・で、出ると老師から・・・・」
「?  出るって、虫のこと? もしかして、ゴキブリ? ああ、夕鈴はゴキブリ、平気だったよね。 前に湯殿で追い詰めていたことが・・・・」
「そ、それはイイです!!! わ、忘れて下さいっ!」

真赤な顔で急ぎ俯く夕鈴を前に、僕も湯殿で布を巻き付けただけの姿態を思い出して頬が熱くなる。 軽く咳払いをして夕鈴に先を促した。

「あ、あのですね。 で、出るって・・・・後宮ならではの・・・アレ」
「? 後宮ならではのアレって? ごめん、後宮に興味がないから判らないよ。 夕鈴、老師に何を言われたの? 僕、怒っておこうか?」

夕鈴は涙目で蒼褪めた顔を上げ、胸元をぎゅっと握りながら頭を横に振った。

「駄目です~。 だってもう聞いちゃったんだものぉ・・・・」
「? ? 何を?」
「ゆ・・・・・ゆーれいが出るってぇ~」



***



いつものように後宮立入り禁止区域で掃除をしていると、いつものように浩大と老師が菓子屑をボロボロと落とし出した。 いつものように二人を怒鳴りながら掃除を続けていると、遠雷が聞こえてくる。 梅雨間近かでもないのに雨模様が続くなと空を見上げると、老師が急に語り出した。

「・・・この時期になると思い出すのぅ~・・・」
「お、じいちゃん。 年取ると昔のことだけは鮮明に思い出すんだよな。 つい最近のことは忘れちゃうけど~。 大丈夫かな~? にししし!」
「わしは まだまだ壮年じゃ!」

なにが壮年だと夕鈴はしらけた顔で掃除を続けた。 雑巾をしっかりと絞り窓に向かう。 窓拭きするには曇天が一番と力を入れて掃除をしている夕鈴の背後で、過去の後宮話を語り出した。 
聞くとはなしに耳に入ってくる、その話は夕鈴が最も苦手とする類のもので・・・・。

「・・・・あの妃は可哀想な事をしたものじゃ。 よく或ることとはいえ・・・本当に惨い死に方でのぅ・・・・。 なのに誰も省みない雰囲気に、ワシも寒気がしたものじゃよ」
「いや~、女の園はマジ恐いね~~~~」
「毒を実際に盛ったと思われる侍女が、その後同じような死に方をおってな。 これはもしやと調べると、侍女にも全く同じ毒が使われていて・・・・」
「全く同じって・・・・? ひぇ~~~」
「寵愛を奪い合う妃の諍いはどちらも口から血泡を吐き、苦しさに目を剥いて、同じように胸を掻き毟り、それはそれは無残な姿で寝台の上にて決着が着いたと・・・・」
「それを見つけた人、超可哀想っすね~」
「それからその部屋では、今日のような天候に烏が余りにも煩く鳴くのを聞くと・・・・。 必ず、誰かが死んだ妃の姿を見るそうじゃ・・・・」

いやでも耳に入ってくる話に、夕鈴は雑巾を握り締めたまま立ち尽くす。 これ以上聞きたくないと思っても、今更ひとりで誰一人いない部屋に移動も出来ない。 息を止めて話の続きに耳を欹てていると、その時、山へと帰っていく烏の鋭い鳴き声が・・・・・・・。

「やあああああああああっ!!」

両耳を塞ぎ、その場に腰を抜かして座り込んだ夕鈴は、持っていた雑巾を浩大に投げつける。 難なく雑巾を受け取った浩大は、蹲り泣き叫ぶバイト娘に驚いた顔を見せた。 慌てて近寄り背を叩くと、涙目の夕鈴が 「ど、どうするのよ! 今晩寝られないじゃない!」 と口を戦慄かせた。
老師が止めを刺すように 「でも、すべて後宮で実際にあった、本当の話ばかりじゃ!」 と胸を張る。 
嘘だと言って欲しいと、夕鈴が眼に涙を溜めて老師を見上げるが 「大丈夫じゃ、ただの昔話じゃ」 と夕鈴をどん底に叩き付けた。

「~~~・・・・ 昔って、老師がここに来てからの話なの?」
「そうじゃ、何年前かのぅ・・・。 今話したのは梅雨前に現れる妃の幽霊で、他には梅雨の最中に池で溺死した妃の幽霊もいるし、腹の子と共に亡くなった妃はいつ頃に亡くなったのか定かではないが、腹の子を探して彷徨っていると・・・・。  おい・・・・・、大丈夫か?」

蒼白の表情で夕鈴は 「・・・・ダメ」 と呟き、腰を抜かして動けなくなった。 
浩大が意外そうな顔で夕鈴を見て 「驚いた!」 と笑い出したが、睨むことすら出来ない。

ゴキブリや蟲や蛇は大嫌いだけど、大嫌いだからこそ退治出来る。
父さんは役に立たないし、青慎は優しすぎて退治は出来ない。
第一、大事な食材に手を出そうなどという不貞な輩に私が躊躇する訳がない。

だけど・・・・お化けとか幽霊って如何対応して良いのか全く解からないのよ・・・。 
不確かな存在な癖に 立場を確立していて、おまけに恐怖画として恨みがましい眼で此方を見る絵が魔除けになると一時期流行したことがあり、父さんも家にそんな絵を持ち帰ったことがあった。 子供心にあれは本当に恐かった。

「これは心中で死んだ女が、助かった男に恨みを持つ表情だな、すごいな~」

役人仲間で流行っているんだと嬉しそうに見せてくれたが、その後一人でいることが恐怖で、厠に行く時も青慎を無理やり引き連れて行った。 風呂は即効で入り、路地に入ることさえ躊躇うほどだった。 兎に角、その類は一切イヤなのだ。
勿論、恐怖に怒り狂う夕鈴の恐ろしさに父親は二度とその類を自宅に持ち込むことは止めた。






「で、夕鈴・・・・ どうしたいの?」
「あの、あの陛下に・・・・ 無理なら結構ですがっ・・・」
「無理なことを言うような君じゃないだろう? 言ってみて、夕鈴」
「でも、あの、あ・・・・」

夕鈴はごくんっと唾を飲み込んで拳を握り、陛下から眼を逸らして呟いた。






「・・・・今晩 こちらに泊まっては頂けないかと・・・・」







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 21:21:21 | トラックバック(0) | コメント(0)
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