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飾り付けた鎖を君へ  10(後)
急ですが、携帯用に前後分けさせて頂きました。
新たな話じゃなくって、ご免なさい(笑)


では、どうぞ











「陛下、わたし、傷なんて無いですよ?」

矢に縫い付けられた上、抗ったために衣装には酷く引き攣れた跡が出来ていた。 
皇女に会うために 初めて袖を通した豪奢な衣装が見るも無残なモノになっている。 目にすると眩暈に襲われそうになるが、怪我がなかったことには安堵した。 それなのに怪我の手当てのためと後宮に連れて来られてしまい、夕鈴はあの場に残された皇女と皇子が気になってしまう。

長椅子に下ろされた夕鈴は、今だ怒気を孕んだ様子の陛下の顔を見られずに俯いたまま袖を擦り続けた。 もしかしなくても陛下は自分にも腹を立てているのではないかと顔を上げられずに居ると、とんっと卓上に音がしたのに気付く。 
夕鈴が顔を上げると、そこには湯気のたつ茶杯が置かれていた。
 
「怪我がなくても夕鈴は傷付いている・・・・・」

視線を茶杯に落としたまま、夕鈴は首を振った。 ・・・・今、傷付いているのは皇女だろう。
縁談のためと白陽国へ赴き、唯一の妃と称される私を見て如何思ったのだろうか。
貴族らしからぬ妃に呆れ、悋気を覚え、狂う程に陛下を求め、妃を殺そうと思い至るまで追い詰めたのは自分だ。 『臨時花嫁』 のバイトをしているが、本当は唯の庶民である自分が皇女を追い詰めたという事実。 その事実が悲しいだけだ。

茶杯に手を伸ばすと、その手が陛下に捕らわれた。 
冷たい肌の感触に驚いて手を引こうとするが、陛下は強く握り締めてくる。

「いや、君を傷つけたのは僕の方なのかも知れない。 それでも君を離せない、離したくない。 君は僕の唯一の妃だから・・・・」

いつもの台詞が陛下から紡がれ、こんな時だというのに夕鈴は苦笑してしまう。 

「私はバイトですよ。 ・・・それに傷はいつか癒えます。 だから」

僕は苦笑した夕鈴に覆い被さり、それ以上言わせないとするかのようにきつく抱き締める。
胸を押す夕鈴の手を掴み、更に強く抱き締めると耳元に抗う夕鈴の吐息が聞こえた。 これ以上無いくらいに強く抱き締めると胸の中の君は掠れた声を落とした。

「だ・・・ だいじょうぶって、いっているの、に・・・」
「でも泣いてる。 傷付いて君は泣いている。 僕の言葉も届かないくらいに泣かせたのは僕の方なのか? 夕鈴・・・・ ごめんね」
「きずついて、ないから・・・。 だいじょうぶだから・・・・」

捕らえた君の手を離し両腕で抱き締め直すと、夕鈴の手が僕の背に廻り強くしがみ付いて来た。 夕鈴の頭に唇を落とし、僕はもう一度 「ごめん」と繰り返す。










李順が使節団長と内密の話を一刻以上続け、皇女の行いは内密に処理されることとなった。
勿論、見返りは充分に算段された上で、峯山国国王も認めざるを得ない条件を提示する。
永に続かせたい国交と貿易を、眼鏡を光らせた側近は宰相と共に、白陽国の為にと緻密な書簡作成を行い 使節団長に手渡した。 詳細を知っている団長は書簡を黙って受け取ると頷き、皇女を先に峯山国へ帰国させた後、陛下へと謁見を願い出た。

「此度の件を内密に処理して頂き、まずは深く御礼申し上げます。 一国の皇女といえど陛下の寵妃への蛮行、如何様に処断されても文句を言うことなど出来ない筈ですのに、陛下の厚い恩情にて助けられました。 峯山国国王に代わり、繰り返し御礼と謝罪を申し上げます」

高座から見下ろす陛下は何も語らず、団長の言葉を黙って聞いていた。 
李順が咳払いをしても陛下は口を閉ざしたまま、団長を冷たく見つめ続ける。
団長は口の渇きを唾を呑み込む事で如何にか堪え、深く拱手したまま続けた。

「副団長である琉鴇皇子も、御妃様への度重なる執拗な振る舞い、大変申し訳なく思っております。 こちらは・・・・、ただ謝罪申し上げるしかなく・・・・」

深く拱手していた団長は、更に深く頭を下げ膝に頭が付きそうだった。 
陛下の傍に立っていた夕鈴が慌てて団長に声を掛ける。

「団長様、そこまで深く謝罪なさらなくても大丈夫ですからっ! 琉鴇様も悪気があっての振る舞いとは思っておりませんので、もう気になさらないで下さいませ。  ・・・・・ただ、御元気でと、それだけをお伝え下さい」
   
夕鈴がそう告げると顔を上げた団長が夕鈴へと、もう一度深く頭を下げた。
李順が 「国交が更に良好となるよう、国王様へ宜しくお伝え下さい」 と告げると団長から短くも力強い了承の意が返って来る。

これで無事に話し合いが終了し、使節団は夕刻には帰国の途につくことになる。
李順は思いも掛けず、白陽国の国庫が潤いそうだと表情を変えずに心の中でほくそ笑んでいた。 夕鈴には多少面倒を掛けたと思っているが、そのためのバイトなのだから致し方がないことだと思い、危険手当を上乗せするのだから文句もないだろうとも考える。
実際、夕鈴は危険手当を貰えると知ると、瞬時逡巡したが、ありがたく貰うことにした。
もちろん夕鈴には皇女へ何らかの罰を与えるなど考えてもいなかったので上司である李順に黙っているように言われ、夕鈴は躊躇なく頷いた。

陛下は謁見の間にいる間、一言も発することなく不遜な態度で団長を見下ろし続けていた。


夕刻、使節団員らが貿易に関する書簡や私物等の荷物を馬車へ運ぶ最中、団長が陛下へ改めて深く謝罪と御礼を繰り返した。 先程と違い、今度は陛下も短いながら団長へ挨拶を返す。

「・・・・また来年、新たな条約を結べるよう話し合いの場を持とう」
「・・・っ!! 有り難き御言葉・・・・! 陛下、重ねて御礼申し上げます。 我ら一同、陛下と御妃様の御健康と御多幸をお祈りさせて頂きます」

陛下からの言葉に顔を上げた団長は、その表情を確認すると全身を震わせて心から安堵の表情を浮かべて陛下と目を合わせようとする。 紅い瞳は不承知ながらも団長からの熱い瞳を受け、峯山国使節団が帰国の途につくのを宰相、大臣らと共に見送った。






謁見が終わり、執務室へ戻った陛下へ夕鈴が怒鳴り込んできたのは、つい先程のこと。
夕鈴は真赤な顔で、憮然とした表情の陛下に向かって怒りも顕わに唇を戦慄かせた。

「陛下! 団長様が余りにも可哀想です! あの方は悪いことしてないのに何度も何度も頭を下げられて! 皇女様の件は李順さんが団長様とお話され、それで終わったと聞きました。 それなのに陛下はあのような態度をなさって! あんなに立派な団長様に酷すぎるとは思いませんか?」

涙目で団長を庇護する夕鈴に、面白くないとばかりに陛下が近寄り、夕鈴の腰を攫い抱き寄せた。 夕鈴が抗うのを承知で掻き擁くと、やはり兎は暴れ出す。
 
「夕鈴、我が妃の口から他の男の名を何度も聞くのは耐えられない。 それが例え敬称であったとしてもだ。 君の口から紡ぎ出されるのは私の名だけでいい」

耳元で低く声で語りかけると、腕の中で夕鈴の身体から力が抜けたのを感じた。 覗き込むと真赤な顔の夕鈴が唇を戦慄かせながら僕を見上げていた。 その顔に破顔しそうになるのを堪えて夕鈴の髪を梳いた。  

「ねえ、前にも聞いたけど琉鴇と僕の声、どっちが好き?」
「・・・・どっちって・・・。 どちらも近くでは聞きたくない声です・・・・」

有り得ないだろう、一国の王と皇子の声を耳元に囁かれるなんて、有り得ない!
どちらも腰が砕けるほどの威力があり翻弄されそうになる声。 こんな声を直接聞いたら誰だって気が惑わされてしまう。 陛下のこの声が演技だと知っていても、ただ自分をからかっているのだと知っていても酩酊しそうで、眩暈がする。 
それなのに更に嬲るように声を私の耳に響かせてきた。

「・・・・夕鈴、聞きたくないではなく、どちらが好きかと聞いている」
「っ、やめっ・・・・!」

も、腰に力が入らない。 陛下の胸に縋るも手にも力が入らず足から力が抜けて来た。
耳に響いた狼陛下の声は甘く切なく夕鈴に響き、足が震えて立っていられない。 腰を抱えられて椅子に移動したと気付いた時には 陛下の膝の上だった。 またか・・・・・。
夕鈴は疲れ果て抵抗することもなく上体を陛下の胸へ預けると、陛下の手が当たり前の様に夕鈴の髪を梳き出した。 その手の動きに全てを諦めた夕鈴が小さく、本当に小さく呟く。

「・・・・私は、陛下の声の方が・・・・・」 

耳聡い陛下が聞き逃す筈もなく、膝上の夕鈴の身体をぎゅっと抱き締めた。 やっぱり聞こえちゃったんだと真赤な顔を俯かせると頬に陛下の手が添えられ、上を向かせようとする。
絶対に今の顔を見られる訳にはいかないと必死で抵抗していると、頭上で舌打ちが聞こえ、驚いた夕鈴が顔を上げると、そこには紅い目を細めた狼陛下が眉根を寄せて苛立った顔を呈していた。

何故? 陛下の声の方が・・・・って言ったのに。
バイト如きに褒められるのは面白くないのか? そう思うとじわっと涙が溢れてきた。
夕鈴の涙に気付いた陛下が 「あ、今のは違うっ、ごめん、夕鈴!」 と慌て出す。

「ごめんね・・・。 夕鈴のこの表情を奴にも知られたかと思うと思わず・・・」
「・・・・はぁ? あ、あの、奴って・・・ 琉鴇様にって、こと?」

夕鈴は陛下が怒るほど変な顔をしていて、他国の皇子にもそれを見られた事に怒っているのだと思った。 自分の顔がそんなに変なのかと困惑し、溢れた涙が今にも零れそうになり陛下の胸を押しやって離れようと暴れると、胸に強く顔を押し付けられる。

「・・・そんな可愛い顔を他の男に見られるのは嫌だな。 夫である僕だけが知ればいい。 夕鈴が翻弄されるのは僕だけがいいよ。 他の誰にも見せないで」

変な顔が奇怪しいと言われたのではないと知り、夕鈴が陛下の言葉に安堵したが台詞の内容が理解出来た瞬間、素っ頓狂な声で驚きを伝えた。

「かわっ!! 可愛いって? へ? なぁ、な、何が!?」
  
叫んだ途端に、またきゅうっと抱き締めが強くなり夕鈴が吃驚しているとくすくす哂う声が聞こえた。 今度は何なの? と夕鈴が訝しむと低く甘い声が耳に響いてくる。

「夕鈴が可愛くて翻弄されてしまう。 君の鎖に縛り付けられて、僕は君だけに捕らわれてしまっているよ・・・・」

耳朶に陛下の唇が触れた感触がした。 夕鈴は自分の方が陛下の言動に縛られているのだと思いながら意識が逆上せたように薄れていくのを感じた。
恥ずかしくて、捕らわれた事が嬉しくて、耳に響く声が切なくて・・・・
もう、何も考えられなくなった。

陛下は膝の上の夕鈴が力を抜いて自分に寄りかかって来たので顔を覗き込み、そして苦笑した。 長椅子に夕鈴を寝かせて髪を梳き、頬を染めたまま眠る夕鈴を困った顔で見下ろし、そして王宮大門へと峯山国使節団を見送るために立ち上がった。








使節団が帰国の途につき、大臣らが踵を返して政務室へと戻り始めた時、李順が陛下の肩を突付いた。 陛下が李順に振り向き、彼が指差す方向に視線を向ける。

土埃を立てながら向かって来る馬上には琉鴇の姿が見て取れる。 それを確認すると眉間に皺を寄せて李順に相手をするように告げて場を去ろうとしたが、それよりも早く琉鴇が陛下へと叫び声を上げた。

「陛下っ! 珀陛下、お話がっ!!」

肩を竦ませた李順が拱手して、ゆっくりと琉鴇に御辞儀をした後、場を離れて行った。
舌を打ちながら琉鴇が馬から降りるのを見つめていると、その場に片膝をついた琉鴇が息を切らせながら見上げてくる。 しかし琉鴇は口を開閉させるだけで、言葉を選んでいるように見えた。 彷徨う視線と落ち着かない態度で黙り続けられ、陛下は面倒だと嘆息を吐く。

「話すことを許す・・・・、何を言いたいのか判る気がして嫌だがな」
「はっ。 陛下と御妃様に於かれましては、此度のこと真に申し開きもなく・・・・。 使節団長より謝罪があったとは存じますが、兄である私からも重ねて御詫び申し上げなければと引き返して参りました。 あのような不敬があったにも拘らず、外交を継続して頂けると聞き、その寛大な御心に深く感謝致します」

一気に語ると琉鴇は深々と頭を下げた。 陛下は琉鴇を見下ろしながら肩を竦める。

「外交に関しては甘く見ない方がいい。 此度の一件で貴国には最初の取り決めとは異なる枷が付けられている。 属国でもないというのに、それを 『是』 と言わざるを得ない状況でもあったがな・・・」

冷やかな笑みを浮かべると、琉鴇は視線を逸らしながらも頷いた。 それは妹皇女の命と交換にした 「枷」 であり、それに関しては鳥伝にて国王の了承も得ている。 自由気儘に過ごしていた妹も自分も、これからは今まで通りに過ごす事は出来ないと考えた琉鴇は息を吸い込むと陛下を見上げた。 
 
「陛下、私は自分を見直し、政務に真摯に携わる身に変え、改めて白陽国へ訪れたいと思います。 今度は成長した私自身が陛下との折衝の場に立ちとう存じます」
「・・・・・次に会う時は貴殿の成長を楽しみにしよう」 
「有り難き幸せっ! ・・・・それと今後 陛下の御心が変わり、お妃様を下賜しようと御思いになられた時は、一番に私に御声を掛けて頂きたいと・・・。  っ・・・!!」

頬を染めて陛下を見上げていた琉鴇は、一気に蒼褪めた。
陛下の顔から一切の表情が消え、腰に携えた刀に手を宛がったからだ。 琉鴇が口が過ぎたと気付き、慌てて立ち上がり騎乗し、そして、そのまま一言も発することなく馬を駆け出した。


「へーか、ちょっと脅かし過ぎじゃないっすか?」
「・・・あれしきで逃げ出すような男に本気など出していない」

浩大が ほ~っとニヤ付く顔で陛下を見るが、冷やかな表情は明らかに苛立ちを呈している。
刀から手を離した陛下は踵を返すと王宮へと苛立ちも露わに足を速めて去って行く。 見送る浩大はニヤ付きながら去って行く陛下へ  「お妃ちゃんは脅かすなよな~」 と声を掛けた。






長椅子の上で静かな呼吸を繰り返しながら眠る夕鈴の髪を一房掴み、ゆっくりと下ろした。

「君を離したくないと思う男の願いを 君は叶えてくれるだろうか・・・」

君に借金という鎖ではなく、僕の真の気持ちを鎖に変えて繋ぎたい。 
それを君が赦してくれるなら、その鎖には様々な宝飾を飾り立て鎖と気付かれないようにしよう。 一度繋いだら もう離れる事は赦さない。 それを良しと君が受け入れてくれたら。


夕鈴の閉じた瞳を見ながら、本当に鎖に繋がれたのは誰なのかと目を細めた。 






FIN


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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:26:03 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
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2012-08-28 火 20:05:14 | | [編集]
きゃああ!
はじめまして。 そして嬉しくってベリーダンスを踊っちゃいました! 犬が怯えて座布団を掘り出したので、仕方なく止めましたけど。 私も最初はあちこちのサイトを彷徨いながら楽しく読んでいた側です。 サイトを開いて早半年になりますけど、まだまだ初心者。 自己満足の世界で楽しく書いてます。
仕事の都合上、時々滞りますが、のんびり書いていきますのでお付き合い下されば嬉しいです!!
コメント、ありがとう御座います。
2012-08-28 火 23:03:27 | URL | あお [編集]
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