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泡沫人の羽衣  20
お盆です。そして暑いです。娘は友達とプールへ。もう水着になれない体型の私・・・・。ははははー! 犬と一緒にダイエットです。


では、どうぞ。













「御免なさい。 お手数を掛けさせてしまって・・・」
 
夕鈴の言葉に頬を染めて微笑む紅珠の姿が見えた。 待ち合わせたカフェへと車から降りた夕鈴は急いで紅珠の元へと駆け寄ると、先ずは謝罪をする。 

「いいえ、夕鈴お姉・・・、夕鈴様の為ならこれくらい。 それに今回は手間は掛かりませんでしたのよ。 氾家の力で直ぐに手に入りましたから」

夕鈴に椅子を勧めながら、頼まれた事が思った以上にすんなりと進み紅珠は満面の笑みで微笑んだ。 夕鈴は勧められた椅子に腰掛け、その微笑みにほっとした。 

「本当に・・・電話をありがとう。 自分ではもう如何したらいいか判らなくて困っていたの。 紅珠様から電話をもらえて本当に嬉しかった・・・有り難う御座います」

夕鈴の言葉に少し首を傾げて嬉しそうに微笑む紅珠の顔は白陽国の紅珠そのものに見える。 
もう少しであちらの紅珠にも逢えるのだと見つめる内に夕鈴の瞳が潤みそうになる。
大きく息を吸い込み、急く気持ちを抑えながら掠れた声で紅珠に尋ねた。

「そ、それで・・・ あの・・・ 何処にあるの?」
「私のマンションにあります。 御免なさい、仕事が休めなくて取りに行けなかったの。 夕鈴様が嫌でなければ、私のマンションに・・・・ 来て頂けるかしら?」

夕鈴を誘拐し足輪で拘束した あのマンションにあるが、もし夕鈴がマンションへ行くのが嫌だというなら此方に持参しますと紅珠は告げた。 夕鈴は驚いて紅珠の手を握る。

「紅珠様、気にしないで! 本当に・・・・その気持ちが嬉しいわ。 さ、行きましょ?」

にこやかに紅珠の手を取りながら立ち上がると、静かに黒い背広の男が夕鈴に近付いて来た。
夕鈴が 「紅珠様のお住まいで少しお話をします。」 と伝えると、小さく頷き男は小声で胸元の機械に夕鈴の言葉を繰り返し伝えている。 夕鈴は胸元の機械から李順へと報告をしているのだろうと思った。 別に告げられても構わない。 今は時間が惜しい。 
急がなければ機会を失ってしまうのだから。

李順に紅珠と街でお茶をしてくると邸を出たが、警護の者が付き従い落ち着かなかった。
しかし、一緒で無ければ出掛けられないと言われ、如何しようかと思っていた。 
だから、思いも掛けず紅珠の部屋に行けることになり、ほっとした。



そして紅珠の部屋に行くと、夕鈴が捜し求めていたそれはあった。

「・・・・・これよ! 紅珠、嬉しい・・・・」

夕鈴がこの世界に来た時に着ていた後宮妃の衣装がそこにあった。 髪飾りも一緒に揃っており、夕鈴は涙が出そうなほど震えてしまう。 李順が大学教授に渡し、紛失されたと言っていた衣装が 今 目の前にある。
 
実は黎翔が他へ流していた衣装だが、コスプレ好きな紅珠が氾家の力を使い、時代的に貴重な夕鈴の後宮妃衣装を探してくれたのだ。 

氾家令嬢が、当時使われていた本物の後宮衣装を探しているとネットや新聞に載せると他方から情報が寄せられた。 その情報の中から本物だけを選り分け、夕鈴希望の品を探し出したのだ。 
それも2日半で! 
夕鈴はどれだけ大変だっただろうと眉を寄せて紅珠を見ると 嬉しそうに自慢を始めた。
 
以前夕鈴に着せようとした衣装の数々も全て 『本物』 を用意して居たと話しだした。
着物は細かな絞りが繊細な辻が花の振袖、セーラー服は日本昭和時代の品、女医の白衣はエルクスレーベンが着ていたと謂われている貴重な品、ナース服はナイチンゲール時代の品、バニーガール衣装はラスベガスで実際に使用されていたものなど、拘りの品々だった。 
夕鈴に着せようとした後宮衣装は楊貴妃時代の品で、夕鈴が希望していた衣装とは異なったため、詳細を伝え探して貰えるようにお願いをしていた。 
しかし、こんなに早く手に出来るとは思わなかった。

手を伸ばすと、その懐かしい肌触りに思わず涙が零れる。 
零れた涙に気付いた紅珠が驚き「夕鈴様は、・・・この衣装を探していたのですか?」 と目を瞠った。 その言葉に黙って頷き、夕鈴は紅珠の手を取ると涙に濡れた瞳を向けて懇願した。

「紅珠様、お願いです! これを私に譲って下さい!」
「ええ、その為に古美術商へ連絡をして探し出したのですもの。 これが過日の御詫びになるのでしたら、こんな嬉しい事はありませんわ。 夕鈴様、どうぞお受け取り下さいませ」

紅珠が嬉しそうな顔で衣装を渡してくれた。 受け取った夕鈴は震える手で衣装を胸に抱き、何度も御礼を伝えた。 それと知られないように紙袋に入れマンションを出ると、直ぐに背広の男が近寄り、車へと先導され邸に戻るように伝えて来た。 
今まで桂香たちと街に来たことがあったが、今のように行動を束縛される事は無かった。
やはり監視されているのだと夕鈴は思った。 せめて浩大のようにさり気無く監視をしてくれたのならいいのに、このあからさまな行動に夕鈴は眉を顰めるしかなかった。

それでも 『自分の衣装』 は手に入った。
 
邸に戻った夕鈴は桂香にこの先の天気情報を調べて貰い、じっと その時を待った。



数日後、夕鈴は部屋の窓から流れる雲を眺め続けた。
工事車両が来る前に、ここから見える芝生がそのままの姿である内に雨が降らないかと願いながら見つめ続けた。 昼近くになると雲の形態が変わり、濃い灰色の雲が厚くなってきた。
メイドが昼食を部屋へ運び入れると、夕鈴は彼女へお願いをした。

「あの・・・痛み止めを持って来て下さいませんか? 月のモノでお腹が痛いんです。 薬を飲んだら暫らく寝かせて下さい」

同じ女同士、直ぐに判ってくれて痛み止めを持参し、ゆっくり休めるようにと他の者達にも部屋に立ち入らないように話しておくと言ってくれた。 たぶん報告は李順にも伝わるだろう。 気を利かせてくれることを願うばかり。 夕鈴は薬を受け取るとカーテンを閉めて、後はひたすら雨が降るのを待った。



窓ガラスに雨が当たる音がした。 

カーテンから外を覗くと夏の嵐のような雨が降り出し、低木が風に煽られている。 
待ち望んだ条件が揃ったとカーテンを強く握った。 
懐かしい妃衣装に着替えた夕鈴はそっと扉を開け、廊下を見回した。 厚い絨毯が敷かれた廊下からは誰の足音も聞こえず夕鈴はコートを着て衣装を隠しながらそっと足を踏み出した。 

・・・・・・もし、誰かに声を掛けられたらどうしよう。

今、黎翔様が邸に戻って来たら、何をしているのかと止められるだろう。

黎翔の視線に逆らえない自分が居ることは気付いている。 狼陛下のような彼の視線を感じると胸が苦しくなり抗うことが難しいのだ。 そして自分が涙を流して陛下を恋い慕う様を何度も見られている。 黎翔はその度に自分を優しく抱きしめてくれる。 

身元不明の自分にここで生きられるように指導をしてくれ、住む場所や仕事を与えてくれた。 
悲しみに暮れる自分に此処に居てもいいのだと言ってくれた。 
黎翔が居なければ自分はどうなっていたのか判らない。 
もしこの邸から追い出されていたら・・・・・。 そう思うと両手で自分を抱き締めても恐ろしさに震えてしまう。 自分が倒れていた場所で陛下の声を聴くことも出来ず、身元を証明することも出来ず、行く当てもなく見知らぬ世界で彷徨い、既に息絶えて居たかも知れない。 黎翔には感謝しても仕切れない。 

しかし、その黎翔が芝生を消し去ろうとしているのだ。 
勿論、彼の敷地だから夕鈴が文句を言えるはずも無く、夕鈴が困る理由を上手く説明する自信も無い。

だからこそ黎翔のいない、条件が揃っている今、急いで行かなければならない。
あの場所へと。



玄関へと続く大きな階段を降りると、そこには警備の者が居る筈。 
夕鈴は普段使わない建物の端にある非常階段を降りて直ぐに近くの部屋へと入り、その窓から外へと身体を滑らせた。 顔に叩き付けるような雨粒に顔を顰めながらコートを脱ぎ、雨の中、背を向けてきちんと畳み部屋の中にそっと戻す。 強い風と雨が夕鈴の衣装をあっという間に濡らしていく。 
・・・・・遠くで雷が聞こえる。 その雷よりも大きく聞こえる自分の心臓の音。
夕鈴は邸を見上げると 口を強く結んで黙って御辞儀をした。

沢山の事を教えてくれて、親切にしてくれて、温かい食事と寝床を与えてくれて・・・・。
たくさんの初めてを私にくれた。 
それなのに何一つお返しもしないまま、出て行こうとしている自分。 
お礼を直接伝えることもせず、黙って消えようとしている。

・・・・・・でも、御免なさい。
戻りたいの。 帰りたいの。 逢いたいの・・・・。
自分の国へ、居るべき場所へと。 待っていると言ってくれた愛しいあの人の元へと。

戻っても 『臨時花嫁』 としてのバイトは続く。 いつか陛下の元へ正妃が嫁ぐ日がくると判っている。 その時が来たら、自分は何処に居ても苦しむ事は間違いない。 
でもそれまでの間でいいから 傍に居たいと強く願う自分がいる。 例え短い期間でもいい。 
陛下の傍に居たい。 あの人と同じ世界に居たい。


雨とは違うものが頬を伝う。 その熱さに後押しされて、夕鈴は踵を返すと走り出した。







***







総会準備が落ち着き、李順が邸へ一旦戻ると黎翔へと報告をする。 
その時、夕鈴が建物造設や衣装の件を知り言葉も無く呆然としていたと伝えると、流石に黎翔も眉根を寄せた。

「衣装や建物の件でかなりショックを受けられているようで部屋に閉じ篭ることが多く、邸の者も皆、心配されて居ります。 あれでは遣り過ぎのように思いますが? はっきり申し上げて、会長が何を為さりたいのか判りかねますね」 

はっきりと話す李順に対して黎翔が直ぐに返答出来ずにいると、李順が頭を下げた。

「・・・お忙しいとは存じますが、一度顔を見られた方が宜しいかと思います」
 
いつも邸を任せていた李順からの言葉に、夕鈴の状態がそこまで酷いのかと眉を顰める。 
その言葉に黎翔は一度邸に戻り 夕鈴の様子を確認してみることにした。 暫らく仕事に没頭している内に頭が少しは冷えたのかも知れない。

夕鈴がこの世界から消えることは望まないが、苦しんでいる彼女をそのままにしたいと願っている訳ではない。 未だ未練が残る異世界から如何すれば夕鈴の心を自分に向けることが出来るのか、未だ思い付かないままだが。
しかし、其れよりも先に、正直に今の自分の気持ちを彼女へ伝えた方が良いのだろう。
いや、告げるべきなのだ。 
彼女の気持ちを無視して暴挙に出た自分が間違いなく悪い。

「李順、急ぎ車を回して欲しい。 ・・・・彼女に先ずは詫びよう」

理由も判らず黎翔が行なおうとしている建設に、異を唱える事も出来ずに戸惑っているはずだ。 先ずは彼女に自分の気持ちを伝えなければ、先には進めないだろう。 
彼女の気持ちが今は陛下に向けられていたとしても、自分の気持ちを伝え判って貰わなければ余りにも情け無い。 元居た世界と異なる場所で懸命に日々過ごしている彼女に なんて酷いことをしていたのか・・・・。  
李順に向けた黎翔の表情は、今やさっぱりしていた。

そう、自分の気持ちを、夕鈴を愛しいと思う気持ちを伝えることが先決だとやっと気付いた。
気付くと一刻も早く夕鈴に逢いたいと思う気持ちが溢れそうになる。 早足で車に乗り込むと、そこへ浩大が飛んで来た。

「王様、方淵たちが叫んでるよ? 幾つか見て欲しい書類があるってさ~」
「悪いが浩大、それらは周に回してくれ。 今日はもう邸に戻ることにする。 今は仕事よりも・・・・ 彼女に会って言わなければならないことがある。 周に宜しく伝えてくれ」

苦笑した黎翔の顔を見て、浩大は目を見開く。 台詞の後半はまるで少年のような表情を見せ、困ったような顔を向ける黎翔に心から驚いた。 
横に控える李順は溜息を吐き、「ただの謝罪ですよね?」 と問い質している。 
その言葉に苦笑した後、黎翔は真面目な表情を二人に見せる。


「彼女に正式なプロポーズをしてくるよ」









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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 00:20:20 | トラックバック(0) | コメント(0)
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