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泡沫人の羽衣  21
雨の中お墓参り敢行! いや~、犬が濡れて臭いっす!(笑)


では、どうぞ。











黎翔の言葉に浩大は大袈裟なくらい哂い拍手を送った。 「カッコイイっすよ。王様!」 
かたや李順は蒼褪めた顔で膝上の書類を落としそうになる。

「黎翔様、そ、それは夕鈴さんのお気持ちを伺っての事でしょうか? 彼女は何処の誰とも判らない素性の知れない、ましてやあの衣装からすると・・・・・」
「李順・・・・ 」

慌てる李順に対して、黎翔の声は車内に静かに響いた。

「彼女が何処の誰でもいい。 お前も判っているだろう。 いつも何事にも一生懸命に取り組んでいることを。 ダンスにしてもパーティにしても。 彼女の言うことが本当だとしたら、私たちが考えている以上に彼女はこの世界で苦労しているんだ。 その支えになりたいと・・・・心から思う」

真摯な表情で李順を見つめる黎翔に、李順は落としかけた書類を正して息を呑んだ。

「しかし黎翔様には一族の議員より数件の縁談話が上がっており、来年にも正式に・・・」
「知っているが、それは私の個人的希望ではない。 話があるというだけだろう? 人生のパートナーぐらい自分で自由に選ぶ権利がある。 彼女のことは実はお前も気に入っているのだろう? 彼女が元気が無いと、私に邸に戻るよう伝えて来るくらいだ」

李順は深い溜息を吐き、黎翔に向き直った。 黎翔の言葉に少し驚いた顔を見せたのは浩大。
総会準備に追われている今、邸に戻るように李順が黎翔へと願い出るなんて有り得ない。 
ましてやそれが お妃ちゃんの為に願い出たと知り、更に驚いてしまう。

「そうですね、気に入っているのだと思います。 庇護すべき対象であるのとは別に、真面目な態度は好ましいと思います。 ただ、それと黎翔様の結婚相手は別だと思っております。 
・・・・今からでも お考え直しは頂けませんか?」
「まあ、まあ、李順っちの心配は解かるけどさ、まだお妃ちゃんは未成年だろ? おまけに彼女の気持ちはまだ聞いていない。 そうだろ、王様?」

シートに深く腰掛けた黎翔が浩大を睨ねつけるような視線を向けるが、浩大は平然と続けた。

「未成年で身元不明。 一族がそれを認める訳が無いっしょ? だから李順っちの心配は解かるけど、無用の口出しだろ。 まあ、まずははっきりと気持ちを伝えなきゃ彼女には伝わらない・・・って言うか、解かって貰えないだろうな。 お妃ちゃんって、そういうことに鈍そうだから!」

浩大の言葉に李順も思わずそうかと頷き、黎翔を見た。 
黎翔は暫らく黙っていたが息を吐くと大きく頷き、車を出すように指示を出した。 
走り出した車に浩大は明るく手をぶんぶんと大仰に振る。
「取り合えず頑張ってね~、王様~・・・・・」 叫んでいる声が背後から小さく聞こえた。


「まずは夕鈴に会うことからか・・・・」

隣に座る李順が 「先ずそこからですね。」 と溜め息混じりに呟く。 
半分諦めたような気持ちになったが、夕鈴なら断わるだろうと李順は確信めいたものを感じていた。 彼女が黎翔に幾ら望まれても、其れを良しとはしないだろうと。 
後は黎翔自身が彼女に対して、どんな行動をとるかが心配だった。 

彼女が何度も返して欲しいと懇願してきた衣装の行方を尋ねると、紛失したとさらりと答えた時には驚きの余り言葉を失った。 
李順が不思議に思うほど会ったばかりの彼女を振り回し、ヘリを使ってまでホテルで食事をしに行くし、その上勝手に一泊するし、身元不明だというのに偽婚約者として雇うと言い出すし、ドレスや宝飾を貢ぎ出した時は壊れたのかと心配した。 嬉しそうな顔で彼女を連れ出し楽しそうに過ごす黎翔を見ている内にもしかして 『本気』 なのかもと考えもした。

会長としての仕事は真摯に行なっているため、そちらでの心配は無かったが、邸敷地に建物を建てると言い出した時は、流石に何度かその必要性を問い質した。 それも彼女絡みと解かると、もう諦めざるを得ない。 何を言っても彼は自分の好きにするだろう。
一族が望む相手ではなく、自分の気持ちに向かって彼女を求めるのだろう。
仕事に支障が無ければいい。 自分はサポートに回るだけだ。

黎翔がどのように彼女に気持ちを伝えるのか、そして彼女がどのように返すのか。

しかし、それは自分の仕事の範疇ではないと、李順は気持ちを切り替えることにした。




地下駐車場から車が出ると外は雨が降り出していた。 邸へ向かう中、徐々に雨足が強まり出し、ふと李順は先日のことを思い出す。 

「そう謂えば雨の中、夕鈴さんがお出掛けになっていたことがありました」

呟くように李順が言うと黎翔が鋭く反応した。 体ごと李順に向き直り其れは何時の事だと強く問い質す。 李順が驚きつつも 「2、3週間程前の雨の日です。 会長が周執行責任者と話し合いをなさるとお出掛けになった日ですが」 と答えると、黎翔は直ぐに胸から携帯を取り出し邸へと電話を掛けた。

「私だ。 夕鈴は部屋に居るのか? ・・・・薬を飲んで? 生理痛? そうか。 一応部屋を確かめて欲しい。 今から戻るから・・・・・ ああ、頼む」
 
通話を終えると李順にその時の夕鈴の様子を詳細に聞いた。
そして雨が降る中、全身ずぶ濡れの上、服に土が付いた状態で邸に戻って来たのでメイドが慌てて風呂に入れたと報告があったのだと黎翔へ告げた。 
黎翔は其れを聞くとギリッと音が聞こえるほどの歯軋りをした。 自分が知らぬ間に夕鈴が雨の中、芝生でまた横たわっていたと解かったからだ。 そして泣きながら 『陛下』 を呼んでいる光景が目に浮かんだ。 自分に似た他人。 それもこの世界には居ない人物を。
そして、濡れた状態で発見された夕鈴が頭に浮かんだ。 

車外を見ると雲が早く流れているのが解かり、ビルの谷間から稲光が奔るのを目にする。
首の後ろにちりっと痛みが走り、嫌な予感が黎翔を急かせる。

「・・・悪いが、速度を上げてくれ。 急ぎ邸に戻りたい。」
「黎翔様、何か?」

運転手がアクセルを踏み速度を上げた。 
黎翔は李順からの問いには答えずアタッシュケースからタブレットを出し、サポートセンターへ接続した。 直ぐにコードを打ち込み、検索を待つ。 
眉を寄せていると検索結果が表示された。 確認すると顔を上げ、運転手に声を張り上げる。 
 
「っ! あとどの位で邸に着く?」
「え、あ・・・あと15分ほどです! 急ぎますか?」
「急げっ!」

鋭く黎翔が告げると、運転手は更にアクセルを踏んだ。 李順が驚いて何があったのかを問い質すが、黎翔は其れを無視して電話を掛ける。

「夕鈴の所在は確認したのか! ・・・・それでも中を確かめろっ! 電話はこのままで至急だ! それと外を確認しろ。 ああ、敷地内全てを確認して夕鈴を探せ。 ・・・・やはり、いないか。 強制は・・・・・しなくていい。 直ぐに戻る」
 
フロントガラスに打ち付ける雨は更に強まり、視界が悪い中運転手は背後の怒気に緊張しながらアクセルを踏み込んだ。 残夏の嵐が襲って来る。 
黎翔の心の中も吹き荒れる風で落ち着く事が出来ずに居た。








邸から離れると、自分の衣装の特異さに気付く。 誰もこんな格好はしていない。 
だから余計に目立つのだろう。 薄紅色の、どちらかというと白に近い淡い色合いの衣装は曇天の嵐の中でも周囲からすると目立ってしまう。 そう思い、片手を上げ雨を避けながら夕鈴はいつもの場所へと急いだ。

きっとこの衣装と雨ならば帰れるのだと信じて足を進めていた。 濡れた衣装、聞こえた陛下の声、倒れていた場所。 夕鈴の頭の中はそれだけがぐるぐると回り、遠雷が徐々に近付き、大きく鳴り出したことさえ気付かなかった。 
そして、その場所に来て膝を着いてから、心臓が跳ねるほどに動揺する。


・・・・もし、ここで横たわっても帰れなかったら如何しよう?


背後から強い風が吹きつけ、濡れた髪が頬に張り付く。 地面を見下ろす夕鈴の睫から雨が滴り落ち視界をぼやけさせる。 あとは地面に横たわり、その時を待てばいいのだろうが、もし横たわっても帰れなかったら・・・・。 この嵐の中、何時まで待っても白陽国に戻れなかったら、一体自分は如何すればいいのだろう。
そう思うと夕鈴は地面に触れることさえ出来なくなり、背後から押し寄せる風に身体を揺らしていた。 

帰りたい・・・・。 戻りたい。 そして沢山の人たち、陛下に逢いたい。
その希望が、ぎりぎりの希望が無駄だと知ったら・・・・。 
その後、この場所には建物が建つ。 白陽国との繋がりが断ち切られてしまうのは嫌だ。 
自分が自分で無くなってしまう。

だから急いだのに、だから嵐の中誰にも気づかれる事なく急いだのに、最後の望みへ賭ける
想いが強過ぎて、『もし駄目だったら・・・』 と過ぎった考えに恐怖が湧いてきた。

「へ、陛下・・・。 恐い・・・・。 でも、帰りたい・・・!」

ゆっくりと震える手を地面へと向けて差し出す。 
大きな稲光が周囲を照らした。 その後続く雷鳴にも動ぜず 腰を徐々に落とし手を伸ばし続けた。 やっと地面に手が付いた時、大きな震えが走った。 あとは上体を地面に横たえるだけ。・・・・その時、ふと黎翔の顔が浮かんだ。

柔らかい表情で手を取りダンスに誘ってくれた。 足が震える夕鈴を抱き上げてくれた。 
真面目な表情で見つめられた事もあった。 辛辣な言葉で夕鈴を怒らせたこともあった。
夕鈴の表情が面白いと腹を抱えて笑っている顔を見せられた時もあった。

「あ・・・・」

目の奥が熱いと、そう思った瞬間ぼろぼろと熱い涙が零れ出した。 雨とは違う熱い滴りに目の前がぼやけて見えなくなる。 地面に置かれた自分の手の甲に熱い雫がぼたぼたと落ち、胸が苦しくなるのを感じた。

このまま離れることを、離れようとすることを許して下さい。 沢山の初めてをくれたのに何も返せずに、お礼を言う事もせずに、何も残さずに消えようとする私を許して下さい。 
この世界で沢山優しくしてくれて、有り難う御座います。

こんなに胸が苦しいのは、陛下に似ているだけなのか。 
同じ顔、同じ声、同じ人・・・・ でも違う人。 そして同じように優しい人。 
同じように私が傍にいて良い人じゃない。
それが苦しい原因のひとつかも知れない。 どの世界でも、その時代でも、やはりあの人は私だけの人にはならない。 解かりきったことが、違う場所でもそうだっただけ。
なのに打ち拉がれるほどの苦しいのは・・・・。 心の奥でやはり望んでいるからなのか?
そんな甘い夢を未だ持ち続けているのか。 傍に居るだけでいいと望みながら・・・・・・。

芝を掴んだ手に力が入る。 その時近くで落ちたかのような雷鳴が轟き、夕鈴はぼんやりと顔を上げた。 叩き付ける雨に意識が戻って来る。 ぼんやりしていたら時間がなくなる。
駄目でもいい。 望みに賭けるしかないのだから!


そう思い、雷雨の中ぼんやりと見える邸を見た。 視線を動かし広い敷地を見回した。 
嵐に揺れる森の木々。 その森から続く道。 道上を走る黒い車・・・・。 

 「・・・・え? 車・・・。 李順さんかしら?」

そう呟いたが心臓が跳ねるのを押えられなかった。 もしかして・・・、もしかして、まさか。
四つん這いの姿で固まった夕鈴は、近寄ってくる車から目が離せなくなる。
夕鈴が目を離せないままで居ると、車は止まり後部座席のドアが大きく開かれ、稲光がその車から降りてくる人影を鮮明に浮き上がらせた時、息が止まるかと思った。

やはり、黎翔様だ。

雷雨の中、真っ直ぐに走ってくる人影は何かを叫んでいる。 如何しようと思うのだが頭の中は真っ白になり、叩き付けられる雨粒も雷鳴も消し飛ぶほど夕鈴は固まってしまった。
また大きな稲光が走り、更に近付く黎翔の顔を浮かび上がらせる。


駄目っ! 私はあの人の傍には居られない。 お願い、陛下! 私を呼んでっ!

そう心の中で強く思うのに、強張った身体は動かず大きく見開いた瞳は黎翔だけを捉えて離さない。 駄目なのに・・・・戻りたいのに・・・・。 
どうして・・・・?



大きな雷鳴が轟いた時、夕鈴はやっと体が動くのを感じた。 
雨に濡れた芝に手を滑らせて身体を横たえ目を強く瞑る。 耳に響く雷鳴と共に水音を立てながら近付く黎翔の足音を聞き、戦慄く唇を開けて叫んだ。

「陛下っ! 陛下、聞こえますか!?」

夕鈴の悲痛な叫びは響き渡る雷鳴の中でも黎翔の耳に届いた。 
その声に黎翔の足が思わず止まるが、それよりも闇の中に浮かび上がる、白い衣装に目を奪われる。 その衣装は大学教授から古美術商に払い下げたはずの物。 それをどうして彼女が着ているのか。 衣装だけではなく、髪型も当時のままだと気付く。 その夕鈴の横たわった姿に足が竦んでしまう。
 
稲光と遅れて響く雷鳴と激しい雨に、黎翔は動けなくなった。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 00:21:21 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
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2012-08-15 水 18:51:06 | | [編集]
Re: タイトルなし
もう、如何していいのか判らなくなるほど(笑) 長くなりましたが、あと少しで終わります。
次の話は明るいものがいいなと妄想を始めています。 本誌の夕鈴が可愛くって、妄想が爆走しそうです。コメント、ありがとう御座います。 誤字があったら教えて下さい(恥ずっ!!)
2012-08-16 木 01:56:07 | URL | あお [編集]
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