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泡沫人の羽衣  22
やっと終盤に向かって来た。もう思うように動いてくれない人ばかりで困り果てました。何度「あれっ?」と思ったことか。話を作るのって難しいなと本当に思いました


では、どうぞ












聞こえていた足音が止まり、夕鈴は顔を上げられずに身を縮込ませていた。 今黎翔の顔を見たら、手を伸ばされたら、抗えなくなりそうで恐いと身を竦ませる。 
自分はいつの間にこんなに囚われていたのだろう。 この場所に建物を建てるという黎翔に悲しさを感じるが、どうしても怒りは沸いてこないのだ。 
ここが彼の土地だという事もある。 彼にお世話になっている身だということもある。 

だけど最近は常に行動をチェックされ、出掛ける時には誰かを伴わせ、夕鈴が何度も訪れているこの場所へ建物を建てるという。 それなのに怒りは覚えないのだ。ただ苦しいだけ。 
悲しくて苦しくて・・・・・。 バイトの身で、身元不明の身分で、ただ厄介になっているだけの自分なのに、そんな事思うことさえ痴がましい。

その黎翔が 今この雨の中 近くで佇んでいる。 顔を見上げる事は到底出来なかった。
今の夕鈴に出来ることは、何度も繰り返し陛下を呼ぶ事だけ。

「お願い・・・・陛下・・・・。 返事をして・・・・」

叩き付ける雨が地面に跳ね返り、夕鈴の衣装も顔も泥まみれにしていく。 それでも繰り返し陛下を呼び続けた。 ふと気付くと黎翔の膝が近くに見えた。 ギョッとして顔を上げてしまうと、濡れた髪から滴り落ちる雨を拭いもせずに、地面に手を置く黎翔が居た。


「夕鈴・・・。 そんなに帰りたいか?」


激しく降る雨の中、何故か黎翔の低く弱々しい声が夕鈴に届いた。 
その声に戸惑った視線を上げると、悲しげな表情の黎翔がそこに居る。 激しく叩き付ける雨に構わず、肘で体を支えながらその瞳を見つめ夕鈴は小さく頷いて答えた。 
その頷きに眉根を寄せた黎翔が呟く。

「私は君が好きだよ・・・。 このままこの世界で共に生きていきたいと望んでいる。 少しずつ君の愁いを消して、寄り添って生きていきたいと願っているんだ。 その願い通りに共に生きることは出来ないのかな・・・・・・夕鈴」

その柔らかく響く言葉に夕鈴は眉根を寄せて困惑した。 身体を起こして上体を起こすと雷雨の中 濡れた芝へと腰を降ろした。 前も後ろも泥で汚れて、髪は雨に濡れ頬に張り付いている。 隣で膝を着く黎翔も全身濡れており、その姿を見て今更ながら夕鈴は呟いた。

「・・・黎翔様、あの・・・ 濡れますよ?」
「うん? ああ・・・今更だろう・・・。 君も濡れている」

互いの姿を見て、こんな時だというのに哂いそうになる自分が可笑しかった。 
そして可笑しいと考え出したら、緊張が解けたのか急に泣きたくなった。 目の奥が熱くなり、夕鈴は雨の中だからきっと解からないだろうと遠慮しないで涙をボロボロと零した。 
そして黎翔が自分に告げた台詞がようやく理解出来た。 この世界でしか生きられないのなら、その言葉は素直に嬉しいものだろう。 
今はまだ目の前の黎翔に全てを預けるほど心を開く事は出来ないが、全てにおいて感謝すべき人だと、尊敬出来る人だと心から思う。 
もし、違った形で出逢ったのなら、違った形の未来があったのかも知れない。 
こんなに親切な人は居ないだろう。 だけど・・・。

「ありがとうございます・・・・。 好きだなんて言われたの・・・初めてです。 それもこんなに素敵な人に・・・。 嬉しくって、私・・・どうしよう・・・」

肩が震えるほど笑ってしまう。 黎翔からの思ってもみなかった有り得ない言葉と状況に。 
ああ・・・・、駄目なのかも知れない。 もう私は帰れないのかも知れない。 
黎翔様はこの場から離れないし、陛下の声は聞こえないし、雨に濡れて泥だらけだし・・・。
もう如何していいのか解からなくて、ただ苦笑し続けるしかない。

「嬉しいと言いながら君は帰りたいんだ。 雨の中で何度も呼んでいたね・・・・」
「だって、この場所に建物が建つって言うから・・・。 陛下の声が聞こえるこの場所が無くなるって・・・・、だから、も・・・私・・・・今しかないって」 
  
言いながら笑いが止まらない。 駄目だと思うと悲しくって哀し過ぎて胸が痛くて、自分で出来ることにも限界があって・・・・。 夕鈴が項垂れて頭を振ると何時の間にか黎翔に包まれた。 
互いに全身濡れて、更に叩き付けるような雨が未だ止まないから、抱き締められたって温かさも感じない筈なのに、どうして温かく感じるのだろう。

「君を追い詰めたのは私か・・・・。 この衣装は・・・氾かな。 君の周りには君を慕うものが集まる。 それは君自身が引き寄せる力なのだろう」
「いいえ・・・・。 私は唯の庶民なんです。 みんなに、皆さんに助けられなければ何も出来ない一人の人間なんです。 この世界でこんなに良くして貰って、それなのに何も返せずに、黙って出てくるような・・・・そんな卑怯な人間です・・・」

黎翔から離れようとその胸を押すが、夕鈴を抱き締める腕の力は強く離れることが出来ない。 

「卑怯なのは私だ・・・。 君に何も伝えずに勝手に自分の気持ちだけを押し付けて、君を閉じ込めようとした。 許して欲しい。 そしてお願いだ、夕鈴。 ・・・・君が必要だ。 何処の誰でもいい、何処から来たのでも構わない。 ここに居て欲しい、この世界から消えて行かないでくれ。 お願いだ・・・・」

もしも夕鈴が元の世界に帰れなかったら、ここにずっと居て欲しい。 帰りたいと思う気持ちを消す事が出来ないのなら、ここに君を望む私という居場所があるのだと知って欲しい。
しかし、夕鈴は胸の中でフルフルと頭を横に振る。 
強く抱き締めているのに、その腕の中で更に強く頭を振る君。

「黎翔様は卑怯ではありません。 ・・・・だけど、だけどやっぱり気持ちは白陽国へと向けられ、戻りたいと強く望むのです。 私が居るべき世界に戻りたい。 どんなに良くして貰っても私の居るべき場所は白陽国なんです。 ・・・・御免なさい。 本当に、御免なさい・・・・」
「夕鈴、どうしても・・・? 君が居なければ自分が壊れてしまいそうだ。 君がここに何度も来るから、その場所を消そうとするほど酷い考えを持つほどなのに。 君のような人と今後出会えるとは思えない。 君が、君だけが欲しいのだと・・・」
「黎翔様、大丈夫です!」

急に大きな声が胸から響いた。 驚いて彼女の顔を覗き込み思わず腕の力を抜くと、夕鈴が本当に心から微笑んでいるのが解かる。 驚いた表情のままでいると私の胸を押しやり、笑顔のまま一歩下がった。

「黎翔様には 黎翔様だけの方がいらっしゃいます。 きっと今は出逢いを待っているのだと私は思います。 絶対に、絶対に居ますから、だから大丈夫なんです!」

雨の中だというのに、言い切った夕鈴は晴れやかな表情で私の前に立っていた。 
その頬に流れるのは雨なのか、涙なのか・・・・。 
流れるそれを見ていられなくなり、黎翔は瞑目した。

「君の相手は、その陛下なのか? ・・・陛下ということは君はその後宮の妃?」
「・・・・私は・・・下町の庶民です。 陛下とは・・・なんというか、実は・・・・」

夕鈴が言い難そうに語り出した時、急に雨が止んだ。
_______いや、二人の周りだけ音が消えた。


『夕鈴・・・・・』


何処からか聞いたことのある声が響く。 どこかで聞いたことのある・・・そう思っていると夕鈴が両手を口に宛がい、震えているのが視界に入った。 
彼女の瞳からは大粒の涙が零れ、口元を押さえる手にぽろぽろと落ちていく様が見える。 
その綺麗な涙の粒に言葉も無く見惚れてしまう。 
彼女は何を見て泣いているのか、それを考える事すら出来なかった。

_____いや、考えたくは無かったのかも知れない。

夕鈴が寂しそうに笑うのも、泣くのも、この声の人物の為だと。 黎翔はそれを認めたくないだけだと解かっている。 だから余計に夕鈴を捉えようと画策していたのだから。
 
夕鈴が口元から手を離し、その口元が柔らかく微笑むのを見た時、足元から立ち昇るかのような仄かな明るさが包み込み出して黎翔の現実感を削ぐ。 厳寒の氷湖で朝日を浴びた湖面から立ち昇る水蒸気のような靄が周りを包み込み出した。
鼓動が跳ね、とても冷静になどなれなかった。 夕鈴を見つめながら、この変化する様をどうすることも出来ずに傍観するしか出来ない自分に口惜しさを感じる。
 
そして、また声が響いてきた。


『夕鈴・・・・・』
「へ、いか・・・陛下っ! 此処です! 良かっ・・・ずっと待って・・・・」


黎翔が見つめ続ける中、夕鈴が涙を零しながらその声に応えている。 何か嫌な予感がして彼女へと近付こうとした時、仄かな明るさが瞬時目を開けていられないほどの明るさになり、急いで手を伸ばすが何故か直ぐ傍に居たはずの夕鈴には届かずに手は宙を掴む。

「夕鈴っ! 行かないでくれっ!」
「・・・・・ごめんなさ・・・・・」

眩しさに顰めた視界の中で黎翔はもう一度手を伸ばし、夕鈴を捕まえようと一歩踏み出すが、彼女の濡れた髪が揺れるのが見えただけだった。 霞んだ視界の中、夕鈴の声が真っ白な世界の中から掠れて聞こえ、肌が粟立つような感覚に包まれる。 

行かないで欲しいと強く望む気持ちは彼女には届かないのか。 
それほどに元いた世界が良いというのか。 

黎翔は更に眩しい世界の中へ足を踏み入れ、彼女を求めた。

「夕鈴っ! もう一度顔を見せてくれ! 君の顔を!」

もう一歩進もうと思うのだが、柔らかい何かに阻まれ足を進める事もその手を伸ばすことも出来ない。 見えない何かは黎翔と夕鈴を隔て、更に声すら上手く届かない。
 
その苛立ちに叫ぶように彼女の名を呼ぶと、微かな声が耳に囁くように聞こえて来た。


「黎翔様・・・ いつか・・・・ 貴方にも ・・・・りがと・・・・・」






瞬時目を瞑り、夕鈴の掠れていく声に戸惑っていると急に雨の音が煩いほどに耳に聞こえて来た。 雨の音とその叩き付けるような雨粒に気付くと、周囲には暗闇が戻っているだけ。
仄かな明かりも、眩いほどの光もなく、いつもの芝生が広がっているだけだった。

「黎翔様っ! 一瞬、雷が落ちたのかと思いました・・・・。 あ、夕鈴さんは? ご一緒でしたよね? あの衣装は遠目からでもはっきりと・・・・。 黎翔様?」

傘を差し向ける李順の問いに答えることもなく黎翔はただ何処までも広がる芝生を眺めていた。  


もう、何処にもいない彼女の姿を、 広がる芝生を、 いつまでも。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 00:45:45 | トラックバック(0) | コメント(2)
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2012-08-16 木 07:28:34 | | [編集]
お姉様
毎度の事ながらドレスは悩みます。 絵が上手く描けたらいいのだけど。 まあ、そこは皆様の想像に御任せして。 こっちの紅珠は水月さんと合体しているので、すらりとした体型でどんなドレスも似合う設定にしているので、エンパイアドレスが超似合うと思います。 モデルさんしか似合わないものね、あれは。
コメント、ありがとう御座います!
2012-08-16 木 10:01:18 | URL | あお [編集]
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