スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
泡沫人の羽衣  23
今日も暑いわ~。 アイスが美味しくって、夏痩せなんか出来やしない!暑さのせいで ビールも美味しくて困るわ~~! 長い話もやっと白陽国へ戻って参りました。一番、ほっとしているのは自分です。




では、どうぞ。 

















「きゃああっ! ・・・・誰かっ! 誰かー!」


昼を少し過ぎた時分、後宮に侍女の大きな声が響いた。 衛兵が急ぎ後宮入り口に向かうと侍女が蒼褪めた顔で兵へと震える手を差し出し、戦慄く唇で叫んだ。

「お、御妃様が御戻りになられたと・・・、陛下に急ぎっ!!」
「何っ! 本当か? 判った、急ぎ陛下へお伝えするっ!」

踵を返し走り出した兵を見送りその場に座り込んだ侍女。 他の侍女は後宮管理人である張老師の元へと走り出し、また他の侍女は侍医を呼ぶために走り出していた。 
普段は走ることなど無い回廊を。 

夕鈴がずぶ濡れの状態で自分の部屋の床に横たわって居るのを見つけた侍女は 驚きの余り大声で叫んでしまった。 そしてその叫び声にも反応しない、意識の無い夕鈴を揺らして起こすことも憚られた侍女は急ぎ掛け布で妃を覆い、皆 方々にと走り出したのだった。
直ぐに老師が侍女に引っ張られる形で部屋に飛び込むと同時に、陛下が息を切って現れた。

「・・・夕鈴っ!!」

陛下は膝を着き直ぐに意識の無い夕鈴を抱き上げると、そのまま奥の寝所へと運び寝台へと寝かせる。 目を閉じたままの夕鈴の頬に触れると、驚くほどの冷たさに指が震えてしまう。
蒼褪めた顔色でぐったりとした彼女の口元に手を宛がい、呼吸を確かめる。 
その呼吸を確認すると陛下はやっと安心してもう一度夕鈴の顔を見た。 久し振りに見る夕鈴の顔だが今はその瞳が閉じられており、何も語らない唇が色を失っている。
 
・・・・・だが戻って来た。 
行方が知れなかった夕鈴が此処へ、自分の元へと戻って来た。 
思わず両手を強く握り額に宛がい、何かに感謝を捧げた。 

その間、老師が急ぎ湯を沸かすように指示を出し、他の侍女は妃の濡れた衣装を脱がせ 乾いた衣装へと着替えを行い、部屋を暖めるように整え出した。 李順が老師の元へ姿を見せた時には侍医が夕鈴の診察を始め、陛下と共に夕鈴の部屋の居間で待つしかなかった。

「・・・・陛下、本当に夕鈴殿が戻って来たのですか?」

侍女を一旦下がらせた居間で李順が陛下に問い掛けると、唇を噛んでいた陛下が顔を上げて李順に頷いた。 ただ、意識の無い状態で全身濡れた夕鈴がどうやってこの部屋に倒れていたのかは謎のまま。 夕鈴の意識が戻るまでは、解からない事だらけで如何理解していいのか李順は眉間に皺を寄せた。
大々的に妃の捜索を行ない、池という池から水抜きをしてまで捜索をして居たのに数ヵ月後、突然部屋の床に倒れているなんて、想像の範疇外だ。 

「・・・・突如とし床に倒れていたそうだ。 部屋の掃除に訪れた侍女が驚いていた。 それに此処数日の晴天にも拘らず彼女は全身ずぶ濡れで、濡れているのは彼女の周りだけだ。 何処からか歩いてきた訳でも、引き摺られて置かれた訳でもないだろう」

陛下の言葉に老師が頭を捻る。 

「それでは神隠しのように消え、また同じように現れたとでも言うようじゃの。 過去、後宮にそんな話があった覚えはないぞ。 一体、本当に如何したというのじゃ!」

幾ら老師が吼えても、解かる道理はない。 夕鈴の意識が戻るまでは。
李順が 「・・・・兎に角、池とその周囲の捜索は中止し、元に戻す作業に変更します」 と告げ、診察が終わったら陛下も政務に戻るようにと執務室に戻って行った。
それから侍医らが寝所から出て来て、深々と頭を下げ陛下へ診察の報告を行なった。

「御妃様におかれましては体力が随分と失われ 今は発熱により寒気が生じております。 全身が濡れたことと疲労により体調に不具合が生じたと思われます。 このままでは肺炎になる恐れがありますので、薬湯をご用意致します。 まずは安静に・・・・」

薬師が急ぎ医局に戻り薬湯を作ってくると退室した。 陛下が寝所へ足を運び夕鈴を見ると熱のため頬に赤味が差し、全身が震えているのが解かった。

「何があったか解からんが、今は安静第一じゃの・・・・」

老師が夕鈴の顔を覗き込んで小さく呟き部屋を退室して行った。 陛下が夕鈴の髪を持ち上げるとしっとりと濡れていて、近くにあった手布で濡れた髪を包み込み、そっと拭き始める。 唇を寄せると雨の匂いと草の匂いがして、不思議としか云いようが無かった。

・・・・・一体、何があったというのか。

彼女が消えてから全ての池を攫い、周囲の捜索を何度も行なったが彼女は見つからなかった。
激しい苛立ちを押えて政務に取り組んで来れたのは、李順が言った 『あとで夕鈴殿に叱責を受けますよ』 の言葉。 きっと君は戻ってくると信じていたからこそ僕は壊れることなく今日まで来られた。 そして君はやっと戻って来た。 

此処へ、この部屋へ、そして僕の元へ。


隣の部屋から陛下を呼ぶ侍女の声が聞こえ足を向けると薬師が薬湯を持参していた。 少し皿に移し薬師が毒見を済ませると、それを受け取り侍女に果実水や果物を用意させる。 
侍女が一旦退室したところに、ひょいっと浩大が窓から姿を見せた。

「へーか、お妃ちゃんが戻ったって? ああ・・・・ 真赤な顔で苦しそうだな。 熱あるのか。 部屋で倒れていたって聞いたけど、大丈夫か?」
「このままでは肺炎の恐れもあると侍医が言っていた。 李順に戻るよう言われたが今夜はこのまま彼女に付き添うと伝えてくれ。 至急の書簡を此処へ運ぶように」

心配そうに夕鈴の顔を覗いていた浩大だが、側近が陛下に告げた言葉に驚いてしまう。

「お妃ちゃんが戻って来たのに仕事しろって? そりゃないよな、李順さんもさ~。 この状態のお妃ちゃんを見て仕事なんか出来ないだろう? ひっでえな~・・・。 まあ、伝えてくるけどさ。」

侍女が戻らない内にと浩大はブツブツ言いながら李順に陛下の言葉を伝えに去り、入れ替わりのように侍女が果実水と果物を持参した。 寝台近くの卓に置くと心配げに夕鈴を見つめてから部屋を辞した。 夕鈴の頬は更に赤味を増し、熱が高いのだと解かる。 
首の下に手を入れそっと頭を上げて、しばし顔を眺めてから薬湯を含み口移しで夕鈴に飲ませると彼女の咽喉がこくっと鳴り嚥下出来たのが判った。 数回繰り返した後で、果実水を含み、同じように繰り返した。 
重ねた唇が異様に熱く、その熱さに眉根を寄せて夕鈴の身体をそっと抱き締める。 

今は無理でも、彼女の体調が改善されればこの瞳が開き自分を見つめてくれる。 
そう思うだけで陛下の胸は切なく痛いほどの嬉しさに包まれた。

抱き締めていた力を抜き、そっと寝台に寝かせると夕鈴の髪を梳いた。 何度も拭かれた髪からはもう雨の匂いも草の匂いもしない。 
その匂いを思い返すと ふと何度か見た夢が思い出された。
行方知れずとなった夕鈴と せめて夢の中でもいいから逢いたいと、手掛かりを知りたいと願いながら横になる日々が続いた。 そんな中、夢の中で夕鈴と話したような記憶が朧気に思い返される。 しかし夢の内容は不明瞭でぼんやりとしか思い出せなかった。 
朝 目覚めると夕鈴の顔は愚か、話していた内容も風の中の砂城のように脆く崩れ去り日々の政務の中で薄れていった。 その夢の中でこの匂いを記憶しているような・・・・・、そんな気がする。 髪を持ち上げ唇を触れると今度は夕鈴の香りに包まれ、陛下は静かに目を閉じた。





浩大が李順が詰めている執務室に陛下の伝言を届けにいくと、早速書簡が用意されていた。

「李順さ~ん、やっとお妃ちゃんが帰ってきて、おまけに病気だ。 陛下だって今日明日位は傍に居たいだろうよ~。 それなのに仕事ってさ~」
「仕方ありませんでしょう。 差し迫ったものだけ寝所へ持って行きます。 それさえして頂けるのでしたら妃の寝所で仕事をして頂いても構いませんよ。 仲の良い御夫婦として周囲に観て貰えるでしょうし」

ふうっと溜息を吐く李順を見て、用意されている書簡に浩大も理解する。 
文句を言ってはいるが陛下が妃の傍に付き添うことは彼の中では想定内だったようだ。 
陛下のお妃ちゃんへの心配も解かるが、でもだからといって政務が滞るのも困る。 側近は大変だなと浩大は頷くしかない。 書簡をまとめた李順が後宮へ運ぼうとするから浩大が手を差し出し、 「運ぶよ」 と申し出た。 急に態度が軟化した浩大に対し訝しげに李順は片眉を上げ、それでも書簡を渡しながら 「出来るだけ早急に」 と言付る。





翌日、熱が高いまま眠り続ける妃の傍には陛下の姿があった。
洗顔の用意や薬湯を運んだ侍女は一晩中傍に付き添った陛下の柔らかな、そして少し辛そうな表情を見て心から妃の帰りを喜んだ。 あとは妃の目が覚め体力が戻るのを待つばかり。 


「・・・・ん、寒い・・・」

寝台に腰掛けて夕鈴の髪を梳いていた陛下と、卓に薬湯を置いたばかりの侍女が息を飲み妃を見た。 眉間に皺を寄せて身体を震わせると背を丸めて掛け布に手を伸ばしている。 
陛下が掛け布を差し 「もう一枚用意しろ」 と小声で侍女に告げる前に侍女が掛け布を持ち寄った。 陛下がそっと掛け布を重ねて夕鈴の背を撫でると、安心したかのように体の震えは止まり弛緩していくのが伝わった。

その様子を見ていた侍女が涙ぐみながら陛下に拱手して寝所を離れて行く。 
他の侍女へ妃の意識が戻りつつあることを報告しにいくのだろう。 

既に妃が後宮に戻って来たのは大臣他、王宮に出仕する者へは伝達が済んでいた。 夕鈴が行方知れずになってから、本当は池に落ちたのではなく陛下の寵愛が消え殺されたのではないかとか、陛下の激昂を見て後宮に仕える者が口裏を合わせて妃が逃走したのを隠しているのではないかとか、政務室にたびたび姿を見せる妃を知る者は誰かに攫われたのではないかとか、いろいろな噂が飛び交っていた。 

浩大からの報告が無ければ、とても侍女だけの話を信じる事は出来ず、陛下もその噂の何れかではないかと思っていただろう。

しかし、消えた時と同じように突然、驚くような姿で部屋に倒れて現れた妃。

陛下に側室や妃を勧めようとしていた大臣や高官は今、憤懣遣る方ない思いで居るだろう。
それでも早朝から大量の妃への見舞いや無事を祝っての献上品が届けられていると李順から報告が来た時には哂ってしまった。 

寒さが消え深く寝入った夕鈴の首に手を伸ばし、薬湯と果実水を口移しで飲ませた。 
少しずつ回復しているのか熱のために未だ頬は紅潮しているが、一晩経過した夕鈴は安らかな呼吸をしている。 浮かぶことが無かった汗が額に滲んでいるのに気付き、冷たい水で手布を絞り額を拭うと、その刺激に夕鈴の眉間に皺が寄り、冷た過ぎたのかと戸惑っていると、瞼がぴくぴくと動くのが見えた。

「・・・・ゆ、夕鈴?」

陛下の声に夕鈴の身体が小さく震え、ゆっくりと瞼が開いていく。 ぼんやりとした表情のまま彷徨う視線が陛下と触れ合った。 熱で頭が痛むのか、よく見えないのか、顰めた顔の夕鈴が口を薄く開き何かを囁いている。 陛下が頬が触れんばかりに近付き その声を拾おうとした。 
囁かれ声は掠れてはいたが、柔らかく陛下に届いた。

「・・・ご・・・めんなさ・・・ 黎翔さ・・・・」
「・・・・っ!」

夕鈴の言葉にそのまま体重を掛けないよう夕鈴に覆い被さり掛け布ごと優しく抱き締めた。 
自分の体が震えているのを感じ、耳元に聞こえた夕鈴の吐息にゆっくりと身体を起こす。

「れ・・翔さま・・・・」

そう呟くと夕鈴は静かに口を閉ざし、また深い眠りに付いたのが解かる。 自分の心が強く震えるのを感じ、夕鈴を見つめながら立ち上がり寝所を後にした。 力強く進む足は政務室へと向けられた。 側近である李順へ 求めるものを手に入れると宣言するために。









→ 次へ



スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 00:23:23 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。