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泡沫人の羽衣  26
アメリカ編 その後です。 やはりこっちも書きたくって。


では、どうぞ。






















彼女は来た時と同じように突如として消えた と、李順から邸の全ての者へと伝えられた。
驚く者が大半で中には涙を流すほど悲しむ者もいた。 それは夕鈴と親密にしていたメイドたちで 「もう少し着飾りたかったです・・・」 と本心から悲しんでいた。 

桂香は黙って李順の話を聞き終えると、視線を外へと向けた。

短い滞在だったが、彼女の人となりを知った邸の物たちは彼女を好ましいと感じていただろう。 持って生まれた性格なのだろうが、彼女の言動には厭味が全くないからだ。 
初めてだろうこの世界で物怖じせずに行動し、そして たじろぎながらも前へ進もうとしていた。 このまま本当に黎翔様の奥方になるのだと疑いもせずに彼女へ喜んで付き従っていたのに、当の本人から

『私と何かある訳がない。 黎翔様にはこの世界に生きる、素敵な方がきっと現れる』 

と断言された時から戸惑いながらも、いつかこんな日が来るのかも知れないと感じていた。


・・・・・・元居た世界へと帰れたのですね。 夕鈴さんが切望されていた御自身の世界へと。

桂香は小さく胸が痛んだが、それでも彼女の事を思い微笑みながら瞳を閉じた。







総会は問題もなく終了し、李順が精神的に一番疲労し、そして安堵しただろうと思われた。 
表面的には変わりないように見える黎翔だが、時折見せる遠く見つめる眼差しと、デスクで呆けたように物言わず書類を見つめ続ける姿にやはり彼女の存在が何時の間にか黎翔の心を占めていたのだろうと李順には思われた。
 
数日間は変わらずに仕事に取り組んでいたと思われた黎翔だが、或る日邸の自室よりいつもより遅い時間になっても起きて来ないと心配したメイドから報告を受け、李順が部屋を訪れるとベッドに腰掛けて項垂れている黎翔が居た。

「会長・・・・、黎翔様、体調が悪いのでしょうか。 それならば本日の会合はお休みされて、他の者へ出席するように伝えましょうか?」

髪の毛を掻き分け、顔を上げた黎翔は苦笑した表情で李順を見上げた。

「お前がそんなことを言うほど、私は具合が悪そうに見えるのか。 ・・・・ああ、流石に堪えた。 もっと彼女の為に上手く出来ることは無かったのだろうかと繰り返し考えてしまう自分が居て。 
・・・・・正直、苦しいな」

苦笑しながら蒼褪めた顔色でそのままベッドへ倒れ込み、そして両手で顔を覆い黙り込んだ黎翔を見つめて、李順も黙してその場に佇んだ。 
しばらくすると大きな溜息が聞こえ 「それでも仕事は待っているか・・・」 と呟きながら起き上がり、その姿を見て李順が表情を変えずに眼鏡を持ち上げる。

「ええ、そうですね。 仕事は山積みです。 しかしお休みなさるのでしたら、そう指示を出しておきますが? 総会から本日までお休み無く働かれておりましたので宜しいですよ、暫らくお休みなさっても」

李順がそっけなく告げると、それが逆に黎翔をやる気にさせたようだ。 
苦しげな笑顔を向けるも立ち上がり早速着替え出した。 李順はブザーを押しメイドへ軽食を用意するように告げると静かに御辞儀をして部屋を退室した。
その後仕事場でもある自分の部屋に入ると本社への端末を叩き、これから会長が行なうべき仕事をまとめ出す。 まとめ終わり必要な事項を確認し、車を邸前に回すように指示を出して一足先に玄関へと足を向けた。

そしてふっと階段上を見上げ、そこに居る筈の無い人物の姿を探す自分に驚いた。
いつも黎翔が会社へ行く時間になると、2階の部屋から走って姿を見せ笑顔で送り出しをしていた彼女の姿を探す自分に。 李順は急ぎ視線を床へと落とし目を強く瞑った。

「どうした、李順。 眩暈でもしたか? ・・・・ああ、彼女の姿を探して居ないことに驚いたんだろう。 私も未だ慣れないんだ。 困ったな・・・・」

ネクタイを締めながら黎翔が苦笑して、ドアを開けるように告げる。 大きく開かれた扉の先には蒼々と広がる芝生が広がっていた。 黎翔が目を細めてゆっくりと息を吸い込む。 
足を止めた黎翔を、車のドアを開いた李順が無言で促した。 


何もしなくても、何をしていても 日々は人の思いを馳せながら過ぎていく。
過ぎていく日々は人に愁いを齎すのか、癒しを齎すのか、それは本人の気持ち次第なのか。


彼女の姿を探す事もあったが、日々襲い掛かる膨大な仕事に追われる内に彼女のいた存在を探す暇さえない時が多くなっていることに気付いた。 霞み始める彼女の気配。 
それを悲しむ暇さえ自分に与えず黎翔は仕事にのめり込んでいった。 季節の移ろいも気付かず、仕事に打ち込んでいた或る日、いつの間にか芝が青々している様子に足が止まる。
黎翔が立ち止まり芝生を眺めているのに気付き、李順がつい言葉を漏らした。

「もう、そろそろ一年が経つのですね。 ・・・っ! 失礼しました」
「・・・いや、大丈夫だ。 女々しいと思うなよ。 彼女は特別だ」

未だ過去形を使うことを拒む黎翔にただ瞑目し、ゆっくり目を開き李順も芝生を眺めた。
爽やかな風が芝を揺らしながら流れていく。






梅雨時期となり雨が続く日が多くなる。 
そんな折、本社のホールで浩大がひょいと姿を出し黎翔に向かって笑顔で声を掛けてきた。

「近々ロスへ内偵に入ろうかと思って、その報告と挨拶に参りましたっ!」 
「浩大、そんな大きな声で言うことか? それじゃ、ばればれだ。 ・・・・・どうせ行く前に食事に連れて行けというんだろう?」
「そーいうことっ! 王様判ってるね、美味しい酒付でね。 モチベーションを上げるには美味しい酒が無きゃな~。 つまみは最高級でお願いしますよん!」

黎翔が頷くと浩大は大袈裟なほど喜びを表し その場でくるくると回る。 その軽快な動きに浩大の気遣う気持ちが判り黎翔は目を細めた。 李順にも浩大にも未だ気を遣わせているのかと自分が情けなくもあり、しかし、そこまで彼女を想える自分を好ましくも思える。
 
その時、本社ホールへ勢いよく走り込んで来た女性とくるくる回る浩大がぶつかり、おまけに雨に濡れたホールの床に女性の靴が滑り、バランスを崩して持っていた書類ケースが浩大の後頭部に思い切り叩き付けられた。 
更に滑って尻餅をついた女性の片方の靴がきれいに宙を舞い、黎翔の前にコツンッと落ちる様を見て、不意をつかれた黎翔は思わず吹き出してしまう。 
それは久し振りの笑いだった。 

「ったーい! 何? 今の何! 誰!?」

笑い声が漏れないように口を押さえながら放り出された靴を拾い上げ、黎翔が女性へと差し出そうとすると、その女性から甲高い悲鳴が聞こえた。

「きゃあああっ! パンストがっ伝線してるっ! 嘘っ、イヤ! スーツも濡れてる! あれ、靴は? ・・・・ああああ~、もう最悪だわ・・・」

濡れた床の上で騒ぎ出した女性に 頭を押さえながらも浩大が申し訳なさそうに近寄り謝罪しようとした時、その浩大の瞳が大きく見開き、そしてゆっくりと黎翔を見上げる。 その視線に訝しみながらも女性へ近付き靴を差し出すと、彼女がそれに気付き顔を上げた。

「え? ・・・あっそれ、私の靴っ! もしかしてそちらに飛んでいましたか!? すいません! そして拾ってくれてありがとう御座います」


驚いた顔で靴を見て笑顔で礼を言う彼女の、背の中程まで伸びた薄茶色の髪がふわりと靡く。 
浩大と黎翔が唖然として立ち竦んでいると、彼女は不思議そうに眉根を寄せて二人を見ながら靴を受け取り立ち上がった。 そのまま書類ケースを抱き締めて戸惑いの顔のまま 二人に御辞儀をしてお尻を擦りながら本社ビルの受付へと足を運んで行く。 


「・・・・王様。 オレ 久し振りにすげぇ驚いているっす・・・」
「ああ、私も同じだ。 あれは・・・・誰だ?」

浩大がその言葉に彼女の後を追い出すと、黎翔も引き寄せられるように足を向けていた。 




「こんにちはっ 書類を届けに来ました峯エンタープライズです」

彼女は濡れたスーツのまま元気な声で受付へ経理部への行き方を尋ねている。 
彼女から聞こえた峯エンタープライズは外部会計監査を依頼している会社だと二人は直ぐに気付き、彼女がそこの社員であると判った。 
受付で場所を聞いた後、彼女は丁寧に御辞儀をして近くのエレベーターに向かい、浩大が社員専用の高速エレベーターから一足先に経理部へと急ぎ移動し、彼女の先回りをする。

珀コーポレーションの第3経理部へ姿を見せた彼女は持っていた書類を何処へ持って行けば良いのか判らない様子で、忙しそうに目の前を早足で行き来する社員へ声を掛けそびれ戸惑っているようだった。 それでも書類ケースを強く抱き締め直し、近寄ってきた女性社員へ手短に説明をして必要部署への行き方を尋ねている。 
やっと場所が判ったのかほっとした顔をして小走りに駆け出した。 
その後無事に担当者へ書類を渡し、彼女は安堵の表情を浮かべて踵を返しエレベーターへと乗り込んだ。


エレベーターから降りて、今度は慎重にホールを歩き始めると目の前に先ほどの二人の男性が立って自分を見つめていることに気付いた。 首を傾げ 先刻靴を拾って貰った時にちゃんと御礼は言ったわよね・・・と口の中で呟きながらも、通り過ぎる時にもう一度ぴょこんと御辞儀をした。
すると、背の高いスーツの男性から声を掛けられ目を瞠る。

「先ほどは大変失礼しました。 コイツがホールで君にぶつかり君のスーツとストッキングを台無しにしてしまいましたね。 謝罪をさせて欲しいのですが。 今、お時間はありますでしょうか?」

丁寧な言葉遣いに、耳に甘く響く低い声。 
思わず足を止め二人の顔をよく見ると一人は童顔の10代後半くらいに見える男性が申し訳なさそうに頭を掻いていた。 声を掛けて来たもう一人は背の高い男性で物凄く高そうなスーツに身を包み、またそれが途轍もなく似合っている。
整った顔なのに優しげで、それなのに紡ぎ出された台詞は否を言わせない迫力があった。
声を掛けられ、その内容に一瞬戸惑った表情を浮かべて俯いたが、顔を上げた彼女は明るい笑顔を浮かべて真っ直ぐに二人を見つめて来た。 

「いえ、大丈夫です。 スーツも少し濡れただけですし、パンストは後で脱ぎますので御気に為さらないで下さい。 私も前を見ずに歩いていましたし、初めて来た場所で緊張してしていたようで・・・・」
「しかし、その姿のまま峯エンタープライズまでお帰り頂くのは此方も気になります。 それに転んだ際にどこか痛まないか気になるので、どうか御時間を頂きたい」

自分の勤める会社を何故知っているのかと目を瞠ると、よっぽど顔に出ていたのか童顔の彼が苦笑したような顔で応えてくれた。

「さっき受付で大きな声を出していたから聞こえちゃったんだ。 外部関連の会社だろ? 判っていないみたいだから教えるね。 オレの隣に居る人は珀黎翔だよ」
「はあ・・・・・。 って、その名前はここの、珀コーポレーションの会長!?? 嘘っ! 何でそんな方が私に話し掛けて・・・・いっ、いらっしゃるのでしょうか?」

瞬時に真赤な顔になり、蒼白に変わっていく彼女の顔に懐かしさを感じてしまう。 
書類ケースを胸に抱き締め一歩下がった彼女に手を差し出し、懇願するようにお願いをした。

「私の立場は気にせずに、今は君への謝罪をさせて欲しい。 せめてスーツが乾く間でいいから、お茶だけでも御一緒に。 ・・・・駄目だろうか?」

懐かしいと思うだけで、目の前の彼女と時間を持ちたいと思うのは何故だろう。 黎翔はすらすらと紡ぎ出す自分の言葉に戸惑いながらも、彼女から目が離せなかった。
しかし彼女は小気味いい程、その誘いをすっぱりと断ってくる。

「本当に大丈夫ですので、お気遣い無く。 仕事中ですので戻らせて頂きます。 珀会長に御会い出来たこと、会社の皆に自慢出来ます! では、失礼致します」

頭を下げられ、薄茶の髪が揺れる様に目を奪われる。 顔を上げた彼女の大きな瞳に意識を取られ、気づいた時にはホールを出て行く後姿が小さく目に映った。









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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 01:00:21 | トラックバック(0) | コメント(0)
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