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抱擁  6
毎回の事ですが、長くなってますね。 ははは。 
今日、本誌買って来ました。 もうなんていうか、・・・・興奮しました。


では、どうぞ。
















まずはと、別室に閉じ込められていた官吏が呼ばれ、椅子に腰掛けた夕鈴に暗示を掛けた時に使用した石をぶら下げて見せた。 陛下やその側近が傍に居る中で官吏は蒼褪めたまま、震える手で石をぶら下げて夕鈴へと向けて振り出した。 ゆらりゆらりと揺れる石を夕鈴がじっと見つめる中、静かな部屋に官吏の声がゆっくりと聞こえ始める。

「・・・・この石をじっと見ていて下さい。 深く、深く集中して見ていて下さい。 見ている内に瞼がだんだん重くなっていきます。 重くなって瞼はゆっくりと閉じていきます・・・。 頭の中で石が動いているのを思い出して・・・・。 私の声だけが聞こえています。 ・・・・・私が 『よし』 と言ったら暗示は解けます。 いいですか?  ・・・・・・・よしっ!」
  
ぴくんっと夕鈴の身体が揺れた。 
皆が注視する中、眼を閉じたままの夕鈴は薄く唇を開き、息を吸うと 「目を開いていいの?」 と問い掛けてきた。 その問いに官吏は蒼褪めた顔で背後の陛下を振り向くと、紅い瞳が睨み付けてきた。 涙目でオロオロする官吏に李順が頷くと、官吏は夕鈴に 「開いて結構です。 ゆっくりと開いて下さい。」 と答える。

「・・・・これで暗示は解かれたのでしょうか?」

何かが変わった気が全く感じられず、夕鈴は皆に不安げな視線を送る。
嘆息した陛下が静かに立ち上がると夕鈴に手を差し出して立たせた。 くるりと振り向くと李順に冷たい視線を流して寄越し、 「・・・・検証してくるから官吏を見ていろ」 と告げて夕鈴を連れて別室へと移動して行った。

眼鏡を持ち上げた李順が浩大に 「さあ、次の解除方法はどんなのがありますか?」 と尋ねている。 官吏は一刻も早く開放されたいと涙目で肩を竦めた。





「陛下、検証って・・・、私、陛下にも抱きついちゃうんですか?」
「上手く暗示が解かれていれば大丈夫。 確かめようが無いから仕方が無いよね」

真赤な顔を向けていた夕鈴の表情が瞬時固まったように見えた。 
しかし直ぐに俯いてしまったから恥ずかしいのだろうと思っていた。 
あの場で夕鈴に抱きつかれるのはいいが、可愛らしい妖艶な笑みを零すところを他の奴らに見られるのは心底嫌だったし、また暗示の強制力に抗えず泣かれてしまうかも知れないと 二人きりになる方を選んだ。

夕鈴は慣れ親しんだ書庫の中とはいえ容易に暗示に掛かった自分が皆を翻弄し、政務に支障をきたすほど迷惑を掛けているという事が心底恥ずかしかった。 
その上、『仕方が無い』 の言葉に傷付いている自分を知り、この場から逃げ出したいほどだった。 バイトの立場で皆に迷惑を掛けた癖に 『仕方が無い』 の言葉に傷付くのは愚かだと思うのだが、陛下にそこまで言わせる自分が情けない。 
いつも私を翻弄する位に抱き上げる陛下に、『仕方が無い』 と言わせるような抱きつき方を方淵や水月、李順さんにまでしていたのか、どんな痴態を見せていたのか、どんな迷惑を掛けていたのかと涙が滲んでしまう。 

「夕鈴、きっと大丈夫だよ」

肩を掴んで柔らかい笑みを向けてくれる陛下を見上げて、眉を下げて苦笑した。 
ゆっくり目を閉じると、耳元に陛下の吐息が掛かり低い声で囁かれた。

「・・・・お妃様」

耳元で囁かれた甘い声に驚いた夕鈴は腰が抜けそうになり、肩に置かれた陛下の腕に縋って崩れ落ちそうな身体を支えた。
 
『狼陛下の声って・・・・・ 腰に来る・・・・』

真赤になっているだろう自分の顔を見せることが出来ずに俯いて耐えていると、二度目の囁きが耳元に投下された。

「・・・・お妃様、どう?」
 
どうって・・・・ 駄目です。
呆気なくその場に崩れ落ちた夕鈴を支えながら、共に陛下が膝をつく。 喘ぐように息を整えていると陛下の指が耳を擽った。 肩を竦ませて体を震わせると、ついっと指は離れていく。

「大丈夫そうだけど、ああ、耳が真赤だ。 でもいつもの夕鈴だね」

優しい声色に応えたいけど、恥ずかしくって顔を上げることが出来ず頷くだけ。 
狼陛下の低い声を耳元で甘く囁かれて立っていられるか! 
耳どころか指先まで紅く染まっているし、腰が抜けたように力が入らない。 でも陛下まで床に座らせている訳には行かない。 夕鈴は深く息を吐くと顔を上げた。

「だ、大丈夫みたいです。 暗示は解けたようでほっとしました」

どうにか顔を上げると柔らかい笑みで陛下が夕鈴を見下ろしていた。 
手を差し出され躊躇しながら手を重ねると、じんわりと涙が滲んできた。

「・・・ご面倒を掛けてしまい、すいませんでした。 不用意に暗示になんて掛かって。 方淵殿と水月さんにも謝らなきゃ! 李順さんにどうして抱きついちゃったんだろう! あとは誰に抱きついたの、私!? 陛下ご存知ですか? 謝りに回らなきゃ!」
  
『仕方なく』 暗示の解除に手助けをしてくれた陛下に、出来るだけ明るく笑って謝罪をすると、今度は戸惑った顔で見返られた。 こんなに明るく謝罪するのは間違いだったかしら?
殊勝に頭を下げて謝った方がバイト身分は相応かしら?
そう思っていると重ねた手が強く握られ、ぐいっと引っ張られ、何と思う間も無く陛下の胸に捕らわれ、強く抱き締められた。

「陛下っ!? ごめっ、御免なさいっ! 本当に今度からは充分気を付けますから!」
「・・・・夕鈴。 君が悪いんじゃないって何度も言っているのに、如何して判ってくれないかな。 官吏が悪いんだから君が謝る必要が無いだろう」
「でも、政務に支障をきたしたって、方淵殿や水月さんや李順さんにまで抱きついたって。 陛下だって・・・・ 陛下だって・・・・ 仕事を放り投げて私に関わって貰って申し訳なくって・・・。 だけど謝るしか出来なくって・・・・・」

陛下が夕鈴を見下ろすと俯いた夕鈴は震えていた。 泣いているか、泣きそうなのだと思い、そのまま暫らく背を撫でていると夕鈴がぽつりと呟いて鼻を啜った。

「いつも迷惑ばかり・・・・・」
「夕鈴、迷惑なんかじゃ・・・・」
 
陛下がその呟きに答えようとした時、どんっと強く胸を押され夕鈴が離れようとした。 
反射的に直ぐ夕鈴の腕を取ると、夕鈴は首を大きく振り捕らわれた腕を解き放そうと暴れ、彼女の涙が四方に散った。

「夕鈴っ 如何してそう思うんだ? 君のせいじゃないって・・・」
「だって、陛下言ったじゃないっ! 『仕方が無い』 って! 私が迷惑掛けたのは判りますっ! だ、だから謝るしかないじゃないですかっ! 謝らせて下さいっ! 陛下、判りましたか!?」

怒った顔の夕鈴からぽろぽろと涙が零れ、昨夜の夕鈴を思い出してしまう。 
そして自分の言葉を思い出し、陛下は苦笑した。 その苦笑にむっとした顔で更に怒り出しそうな夕鈴をもう一度胸に捉えてゆっくりと説明を始めた。

「ごめん、上手く伝えられなくって。 僕が言った仕方が無いってね、昨日夕鈴を泣かせちゃったんだ。 僕、何度も君に 『大好き』 を言わせてたんだよ。 暗示で無理やり言わせているから君がとうとう涙を流して、それでも繰り返し言おうと頑張って・・・・。 もしも、また暗示に掛かっちゃったら君が泣くことになるけど、それでも暗示が解けたか確かめなきゃならない。 だから 『仕方が無い』 って。 僕が言った仕方が無いって、そう意味だったんだ。 判ってくれる?」

首を傾げて捉えていた私をじっと見下ろした陛下の顔はすごく切なそうで、寂しそうで。
その顔を見ると、黙って頷くしかない。 

頷いた後脱力してしまい、ぽすんっと陛下の胸に顔を預けた夕鈴は自分の短慮な考えで更に迷惑を掛けてしまうところだったと真赤な顔で反省する。

「・・・・・・ん? あれ、陛下・・・・?」
「何? まだ心配事があるの? でも謝るのはもう終わりにしてね。」

髪を梳きながら労わるように抱きしめていると、腕の中の夕鈴が強張ったように感じた。 

・・・・あれ? まだ心配事があるのかな? 

顔を覗き込むと、真赤な顔の夕鈴が目を瞠って僕を見上げていた。 
首を傾げると、夕鈴の唇が戦慄きながら苦しげに言葉を紡ぎ出した。

「あ、あ、あの、あの・・・ わ、私って、へ、陛下にも抱き付いた・・・・ とか?」

ん? それって、今更なんだけど。 僕は夕鈴への今までの説明を思い出す。
方淵、水月、李順・・・・・。 あ、僕の名前が出ていない。 
夕鈴は目を瞠ったまま僕の襟を掴んで震えている。 如何しようか・・・・。 
でも後で絶対に判ることだし、僕もつい口にしちゃっているし、ここは正直に話そう。

「うん、抱きつかれた。 『大好き、陛下』 って胸にぎゅって抱きついて来た」

夕鈴はかくんっと、膝から崩れ落ちた。 ああ、やっぱり。
膝裏に手を回して抱き上げると、更に真赤になった夕鈴が近付いた。 わなわなと震えた唇が艶めいていて、思わず注視したくなるけど、直ぐに隣室に戻ることにした。 

・・・・・・・・これ以上嫌われることは避けたいと。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:30:10 | トラックバック(0) | コメント(0)
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