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抱擁  8
コメディタッチの話しなので、短く楽しもうと思っていたのに自分でも驚いてしまうほど話が途切れなくって困ってしまいました。 (いつものこと!) 今回、サイト全部の見直しと仕事で更新が滞っておりましたが、どうにかこの話も9月中にまとまりました。 



では、どうぞ。














「お邪魔、致し、ます・・・・・。 あの、先日は大変な御迷惑をお掛けしまして、その謝罪をさせて貰いに・・・・ 来ました。 も、申し訳御座いません・・・・」

書庫の入り口から入って直ぐの場所で夕鈴は静かに頭を下げた。 とてもじゃないが自分のした痴態を思うと彼らの顔を見ることは出来ない。 蒼褪めていいのか紅くなっていいのかさえ解らずに頭を下げていると、水月さんの柔らかい声が聞こえて来た。

「おき・・・・ あの大丈夫ですので頭を上げて下さい。 お立場がありますので臣下にそのように頭を下げないで下さいませ」
「いいえ、謝罪ですので! 本当に大変な御迷惑をお掛けしてしまい、私は謝るしか出来ませんが、その気持ちをお受け取り頂ければと・・・・」

頭上から水月さんの戸惑った雰囲気が伝わって来たが、謝るしかない私は必死に頭を下げて態度で示した。 今度は大仰な溜息が聞こえて来て、柳方淵から辛辣な言葉が来るのだろうと夕鈴が身構えた。 書簡を棚へ突っ込む音が聞こえ、肩を竦めて待ち構えていると。
 
「・・・仕方なかろう。 おき・・・・ 貴女が悪い訳ではないと詳細を聞いている」
「え・・・? 方淵・・・ 殿? 許して・・・・ 下さるのですか?」

夕鈴がおずおずと顔を上げると書架に顔を向けたままの方淵の姿が目に入る。 水月が柔らかい微笑みを向けていて、その二人の態度と言葉に夕鈴は肩から力が抜けてしまった。 
ぽろりと涙が零れ、慌てて袖口で顔を隠したが安堵したためか次から次へと涙が零れ出してしまい止めようがない。 水月が困った顔で手布を差し出してくれたので遠慮なく受け取った。

「す、すいません・・・。 あ、安心したら涙腺が・・・、御二人に飽きられているんじゃないかと、すごっく心配で・・・・。 覚えてないけど、怒っているんじゃないかって心配で・・・ 本当に・・・・」

水月が椅子を勧めて来たので涙が落ち着くまではと恐ず恐ずと腰掛けた。 
このまま廊下へ出る訳にも行かず必死に涙を止めようと鼻を啜っていると、方淵が深い溜息を吐いた後に言い難そうに呟いた。

「貴女が陛下の為に日々動いているのは我らも重々承知している。 下っ端妃とはいえ、陛下唯一の妃へ懸想する官吏が悪いのであって、貴女は今回巻き込まれただけだ」
「方淵殿・・・・。 あ、ありがと、御座いますぅ・・・・」

止まりかけた涙がその言葉にボロボロと溢れ出し、今度は容易に止まる気配も無くなった。
水月が 「もう、大丈夫なのですか?」 と尋ねてきたので、しゃっくり上げながら頷く。

「何度も、何度も確かめましたので大丈夫で、す。 も、御迷惑は・・・・」
「では、お妃様。 ・・・・・ああ、暗示が解けたようで本当に良かったですね。 本当にお気に為さらないで下さいませ。 被害を被った訳ではありませんので覚えていらっしゃらないのでしたら、もうお忘れになった方が宜しいですよ」
「・・・・はい。 有り難う御座います」

その言葉に微笑んで顔を上げると方淵が視線を泳がせながら戸惑った顔をしていた。 水月も漸く落ち着いて来た夕鈴にほっとした表情を見せる。 謝りに来たのに逆に迷惑じゃないのかと夕鈴が涙を拭いながら立ち上がると、そこへ何故か突然 陛下が姿を見せた。

「妃よ、ここか。 ・・・・泣いていたのか?」

急ぎ拱手した立ち上がった方淵、水月はピリッと緊張感に包まれ静かに顔を伏せたが、夕鈴はそれに気付かず、大股で近寄ってきた陛下に眉尻を下げて微笑んで見せた。

「これは方淵殿と水月さんが私のことを許して下さったので安心しちゃって・・・。 お妃と言われても・・・、だ、抱き付いたりもしませんし、ほっとして・・・・」
「そうか、良かった。 方淵、水月 ・・・・・我が妃が迷惑を掛けたな」

拱手していた二人が静かに深く頭を下げて、その言葉に礼を言う。
 
「陛下とお妃様から謝罪を受けるようなことは御座いません。 今後は同じようなことが起こらぬ様 臣下一同気持ちを新たに心より御仕えすることを誓いします」
 
夕鈴がそう言ってくれた二人にもう一度頭を下げて礼を言うと、陛下に肩を掴まれて書庫から連れ出された。 手布を水月から借りたままだと夕鈴が慌てて踵を返そうとしたら今度は腰を攫われて、書庫からどんどん離れて行った。

「へっ、陛下!? あの、手布を水月さんに・・・・!」
「それは後で李順から水月に渡すよう伝える。 ・・・・それより、夕鈴!」

人通りが少ない第四書庫の前まで来て、陛下が漸く腰から手を離してくれたが、今度は眉根を寄せた陛下が夕鈴を押し込むように壁に手を押し当て囲った。 その表情に夕鈴が心底驚いて、何か可笑しなことを仕出かしたのかしらと困惑していると。

「何で昨日の今日で、彼らに会うのかな?」
「ええ!? あのっ、謝罪をですね、謝罪を・・・・ 李順さんにちゃんと断わってから二人に謝りにっ。 だって、だって迷惑を掛けたんですから謝るのは・・・・」
「・・・・・はぁ。 ・・・・ごめん、解ってはいたんだ。 夕鈴の性格上、暗示から解けたら謝りに行くだろうことは予想出来たんだけど・・・・」
「だっ、駄目だったんでしょうか!? でも、やっぱり!!」

夕鈴が蒼褪めて陛下を窺うと、眉根を寄せたままの表情でいたが、ゆっくりと壁から手を離して夕鈴の頭を撫でながら苦笑したあと答えてくれた。

「本当にごめんね・・・・、駄目じゃないよ。 謝って二人は如何だった?」
「方淵殿も水月さんも怒っていませんでした。 私は悪くないって言ってくれて嬉しかったです。 それで緊張が解けたら・・・・ 思わず涙が零れちゃって・・・・」

そう言いながらまた涙が滲んできて夕鈴は水月の手布で両目を覆った。 陛下の手が頭を撫でくれたのが気持ち良くて暫らくは涙が止まりそうもない。 
陛下が小さな声で 「良かったね」 と言ってくれたのも嬉しくて、しゃっくり上げてしまう。 必死に涙を止めようとしていると夕鈴は陛下の胸に抱き寄せられ、くるりと反転し、陛下が壁に背を持たれ掛ける体勢になった。

「っ! あのっ、陛下!?」
「僕が可愛い妃を抱き締めているだけ。 問題はないでしょ?」

息を詰めた夕鈴を胸に閉じ込めて僕は笑った。 二人に会いに行った夕鈴を慌てて追った自分の悋気に嫌気が差すけど、抱き締めていると何を心配したんだろうと苦笑するしか無い。 いつでも夕鈴に振り回される自分が可笑しくて仕方が無い。 
頭を撫でながら身体を抱き寄せると夕鈴の真赤に染まった耳が見えた。

きゅうきゅうと抱き寄せられ恥ずかしくて、夕鈴は心臓が跳ねるのを止めようがなかった。 ぐるぐると目を回していると第四書庫の扉が開き、周宰相が姿を見せる。 
沢山の書簡を持ち、蒼白い顔をした周宰相がちらりと二人を見て何やら頷いている。 その視線に夕鈴は恥ずかしくなり陛下の胸から慌てて脱しようとわたわた暴れ出した。 夕鈴が恥ずかしがっていると判り陛下は渋々腕の囲いを解くが、夕鈴も一応 『妃』 演技をしようと少し離れるだけに止め、周宰相に微笑んだ。

「・・・・陛下。 先刻李順殿に書簡を御持ち戴いたのですが、もうそちらは署名済みでしょうか。 未だでしたら御早くお願いしたいのですが・・・・・」
「夫婦の時間を邪魔するな。 ・・・後ほど即刻署名をして李順に持たせる」
「御意。 では、お邪魔を致しました・・・・ お妃様」

書簡を大量に持った周宰相が少しばかり御辞儀をして陛下より離れようとした。
しかし、その袖が急に引っ張られ、周宰相が引っ張られた先を見ると、狼陛下唯一の妃が袖を掴んで頬を染めて見上げていた。

「ゆ、夕鈴っ!?」

陛下の驚いた悲鳴が回廊に響いた、と同時に妃が周宰相に腕を伸ばして抱きついた。

「周宰相・・・大好きっ!!」
「・・・・・・有り難う御座います。 お妃様」
「好きっ! 周宰相!!」

書簡を持った周宰相の背後からきゅううっと抱き付いた夕鈴はその背に顔を摺り寄せて嬉しそうに何度も 「好き!」 を繰り返した。 唖然とした陛下は浩大の言った台詞を何故か今、思い出していた。   

『・・・・あれ? 皆の時と反応が違うな~。』

確かに自分に抱きついた時の夕鈴と今の夕鈴は違う。 抱きついて、頬を染めて、笑みを浮かべて、「大好き」 というのは同じなのに、自分の時とは何かが違う。 
目を眇めていると蒼白い顔の周宰相が陛下を見つめていた。 陛下が何だと周宰相を見返すと、夕鈴の手が周宰相の腹部分できゅっと握られたのが見えた。 思わず一歩近付くと周宰相が小さく嘆息し、白い瞳がちらりと陛下に流された。

「・・・陛下、御夫婦間のことに宰相として申し上げるのならば・・・・・」
「いや、何も言わなくていい・・・・。 ゆうり・・・ お妃様・・・・」

周宰相の腹部に廻っていた夕鈴の手がするりと離れ、視線が陛下へと移る。 陛下が手を広げると嬉しそうな顔で夕鈴が飛び込んで来た。 
そのまま抱き上げると耳元で 「大好き・・・ 陛下」 と囁かれる。 その身体を強く抱き締めると宰相へ向き直り 「書簡は今日中に届けるから今は見逃せ」 と告げ足早に場を離れて行った。

「予言・・・・を伝える暇も無く・・・・」

表情を変えることなく蒼白い顔のまま周宰相は書庫から離れて行った。







「陛下、大好きです・・・」
「李順っ!! 夕鈴がまた・・・!!」

飛び込んで来た陛下が抱えている妃は頬を染めて腕を陛下へと絡ませている。 執務室に入ったというのに、絡ませた腕は解かれることなく、「好きです、陛下。」 の声が。
状況を把握した李順は眼鏡を押し上げて溜息を吐く。

「・・・・まだ解けていなかったという事ですか・・・・。」
「あの官吏を呼べ! 早く解かないといちゃいちゃも楽しめない!」
「それは楽しまなくてもイイのですが、仲良し夫婦の演技が出来ないのは困りますね。 しかし、彼は出家しますと午前中に退仕の申し出をされております。 ・・・・・一応他の解除方法も調べありますので、試してみましょうか」

僕の腕の中でしどけなく甘えている夕鈴へ向ける李順の視線は冷たく睨ね付けるようだった。
暗示が解けた後で夕鈴が喰らう叱責を思うと可哀想に思えたが、周宰相に抱き付いた夕鈴が頭に浮かび一刻も早く暗示を解かなければと強く思った。

「陛下・・・・、大好きなの」
「うん、僕も大好きだよ。 だから・・・・ 他の人へ抱き付く君は見たくないんだ。 李順からの叱責を受ける君をあとでいっぱい慰めてあげるから・・・・、ね」

抱え上げた夕鈴が嬉しそうに微笑んでいるから、最後にもう一度だけ耳元に囁いた。

「僕だけのお妃様・・・・。 大好きだよ」






FIN 




 
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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:45:45 | トラックバック(0) | コメント(0)
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