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秋霖  3

朝晩寒くなりました。 最近朝方になると布団の中に入れてくれと犬が人の顔を
引っ掻きます。 布団を持ち上げると冷たいモフモフが擦り寄って来て、超可愛い。
そうです、親ばかです。  どーん!!


では、どうぞ。














浩大が窓から姿を消し、一人きりになった夕鈴は茶杯を片付けると自室に行李から簡易な衣装を取り出した。 下町に行く時に着用する、本来の自分が着る衣装。 他には大判の布と肌着が数点。 夕鈴が王宮に来た時に持ってきた荷物は少ない。 
まさか 『臨時花嫁』 のバイトとは思わず何時もの質素な衣装で王宮に来たのだから。 
考えても仕方がないが、追い出されることになったらと思うと自然手が荷物に伸びていた。 
確かめた後、そっと衣籠の蓋を被せる。 
その時、部屋の外から声がして返事をして振り向くと恐れていていた 『現実』 が立っていた。


「宜しいですか、夕鈴殿。」
「は、はいっ! どうぞ、李順さん! 誰も居りませんので椅子へ御掛け下さい」

夕鈴が茶器を用意し始めると李順はそれを止めて、共に椅子に腰掛けるように促した。 覚悟を決めて蒼褪めた夕鈴が椅子に腰掛けると、目の前には少し憔悴したかに見える李順の姿。 言葉に詰まったかのような表情でじっと顔を見つめられ、夕鈴は小さく息を吐き口を開いた。

「李順さん、私・・・・首ですか?」
「いえ、それは未だ何とも言えません。 正直私も戸惑っておりますし ・・・・浩大」

少し声を張り上げて李順が声を掛けると、姿を消したはずの浩大が先程と同じように窓からひょいっと入り込んで来た。 浩大はストンと椅子に腰掛けると先程持ち出した菓子を懐から出して食べ始める。

「浩大、陛下の御様子はどうだった? 例の女性と一緒の筈だが」
「一緒だよ。  ・・・・李順さん、何があったのさ。 あんな陛下、奇怪しいよ。 ただ国境の盗賊退治の仕上げに陛下が行っただけで、なんで女性を連れてくるのか訳解んないし、お妃ちゃんをまるっきり無視するなんて・・・・。 あんなのいつもの陛下の態度じゃねえだろ?  なあ、何があったんだよ」

眉間に皺を寄せた李順は目を閉じ深く考えているようだ。 いつも怖ろしいくらいにズバッと切り込み話す李順とは異なる様子に夕鈴も浩大も注視する。

「・・・・私にも正直判らない部分が多々あるのですが、確かにいつもの陛下ではないと思います。 私が見た事を話しましょう。 ・・・何か手掛かりになるといいのですが」










国境警備隊隊長に会う前に事前調査を行っていた隠密に報告を尋ねたが、村内部は異様に静かで立ち入るのが困難だったと話す。 それでも出来る限り調べた結果、火器によって破壊された家や酷い状態となった畑などがあるが村人に怪我人はおらず、盗賊も大半は捕縛され国境警備隊本部に引き立てられたとのこと。 そして村人を無事に解放した人物については誰に尋ねても硬く口を割る事が無かったと告げる。 盗賊が捕まり皆が無事に解放されたというのに、英雄視されるべき人物に関しては誰も黙して語らずの状態に隠密も困惑を隠しきれない。

「兎に角、櫨隊長に会おう。」

是非に会わせたいという人物は何処かと櫨隊長に尋ねると彼は何も言わずに村の内部へと案内をした。 隊の兵らは残りの盗賊を追い山中に向かったため、村の案内をするのはその場に居た隊長である櫨だけ。 その櫨が陛下らを村の中心にある村長の家へと誘う。
その家の周囲には片膝をついた村の男衆が頭を垂れて陛下を待ち受けていた。 
禁軍 菰将軍は 「片膝とはどういう事だ? 国王陛下を前に平伏せずに待ち受けるとは!」 と憤ったが陛下は静かに手で制する。 村人の様子に違和感を感じ、振り向くと李順が直ぐに村人に近寄り一人の頤を持ち上げた。 その表情は空ろで何かの術にかかっているか、催眠作用のある何かを口にしたかに思われた。

「櫨隊長、この村人の様子は如何されましたか? 一様に呆けており、この村で何があったか報告を願います! この家の中には一体誰が居るというのですか?」

李順が怒気を孕んだ声で櫨隊長に詰め寄るも、菰将軍が睨み付けるも、櫨隊長は黙ったままで陛下に村長の家に入るよう、表情のない顔を向けて手を差し出すだけ。 
これでは話にならないと、菰将軍が自ら家の中に踏み込もうとした時、扉が静かに開いた。

そこには細身の女性が佇んでいた。 潤んだ瞳で周囲を見回すと両膝を地面につき陛下に平伏して、 「御待ち申し上げておりました・・・・」 と震える声で礼を告げる。 
すると周囲の村人も両膝をつき平伏し彼女に習い出す。 そこで初めて櫨隊長が声を出した。

「・・・・彼女が村を救い、盗賊討伐に助力を貸して下さった方で御座います。 彼女はその身を盗賊に差し出し、村人の逃げる隙を作って下さった勇気ある方。 傷付いた体と心を是非陛下に労わって頂きたいと、此処まで御足労願った次第です」 

抑揚のない声が気になるが、それよりも櫨隊長の告げた内容に菰将軍が言葉を無くす。 怖ろしい盗賊に襲撃され、普通の女人なら泣き叫ぶだけだろうに彼女は村人が逃げる隙を作るために己のその身を盗賊に身体を差し出したというのだ。 
櫨隊長が説明をすると彼女は体を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。

「私はただ夢中で行ったことで御座います。 皆が無事であれと・・・・・。 ですから陛下にお越し頂くような事ではないと櫨隊長に何度もお伝えしたのです。 しかし思いも掛けず陛下の御尊顔を拝し身に余る光栄で御座います・・・・・」

震える声と身体が当時の恐怖を物語っているようで、陛下は女性の傍に膝をついた。

「・・・そなたの御陰で皆無事に逃げ果せることが出来たと聞く。 女人のその身には甚く辛い事であっただろう。 この通り、礼を申し伝える」

陛下が頭を下げると女性は涙を流し肩を震わせた。 
悲しそうな嗚咽が漏れ出すと櫨隊長が女性を促し、陛下を家の中へと誘う。 

「陛下直々に御慰め下さると彼女も心安らかになるでしょう」

その言葉通りに、陛下が家に入ると静かに扉が閉まった。 
身体と心の傷を慰めるため、陛下以外の男性が近くに居ては言い難いことも羞恥もあるだろうと李順らが遠慮して家の外で待っていたが、一刻も過ぎると焦れてきた。 
扉を叩くと暫らくしてから陛下の声がして姿を見せる。
その時陛下から嗅ぎ慣れない香の香りがしたが、その時は女性が縋り付いて付いた香りだと思って不思議には思わずにいた。 香りにはっきりとした違和感を感じる前に陛下が李順に語った言葉に驚いたからだ。

「・・・彼女を王宮に御連れし、暫らく安寧の場を与えることとする」
「なっ、陛下。 そこまで為さるとは、陛下の一存と謂えど承服しかねますが」

李順が眉間に皺を寄せて陛下の言葉を遮ろうとすると、紅い瞳が細まり冷酷な表情で これは決定事項だと伝える。

「未だ心と身体の傷が酷く残っている彼女をこのまま捨て置けない。 暫らくはこの地で彼女の身体を休ませ、後に王宮へと連れ行くから、その準備を任せる」

李順と菰将軍、他武官らは一様に戸惑った表情を呈したが、陛下の命には動かざるを得ない。 
取り敢えず急遽逗留する事となり、近くの町の宿を探したり、女性が乗るための馬車の用意を始める。 陛下が暫らくこの地に留まる事を王宮へ伝えるよう李順が隠密を探していると、陛下が櫨隊長と共に盗賊討伐に向かうよう指示を出していた。 他の武官らも陛下より指示を受け、数日の予定が一週間を過ぎることとなった。 




「それで連絡も無しに長い視察になった訳だ。 ・・・・・だけど」

李順からの説明が進む内に違和感を覚えた浩大が頭を掻きながら卓の上に指で何かをなぞり出した。 夕鈴は大きく目を見開き、戸惑いながら李順に尋ねる。

「えっと、李順さん。 陛下は視察に行ったのではなく、その国境警備隊の隊長様に呼ばれて・・・・、その人に会いに行っていたのですね」
「ええ・・・。 ああ、そう言えば貴女には説明しておりませんでしたね。 国境警備隊長に請われて陛下がわざわざ足を運ぶなど他の者には言えませんので視察ということにしてましたが、それがこんな事態になるとは思っておりませんでしたよ」

深い溜め息を吐く李順に夕鈴は切り出した。

「では、陛下はその女性の方を癒すために御連れしたのですか? 何か私に出来ることはありますでしょうか? 何でも言って下さい。 頑張りますからっ!」
「あー、オレは反対っすよ? お妃ちゃんは係わらない方がいい」
「でもっ、女性の方ですし、傷の手当てとか話し相手とか・・・・。 私にも何か出来ることは無いでしょうか? その方の為に何か出来るのであれば私・・・・」

お妃ちゃんの気持ちは判るが・・・・と、浩大が困った顔をすると李順が背筋を正し夕鈴を正面から見る。 夕鈴が眉根を寄せると李順から真摯な表情を向けられた。

「・・・・夕鈴殿。 陛下はその女性と二人きりで過ごされることを強く望んでおります。 ですから暫らくは政務室にも執務室にも来ないで頂きたい。 こちらで過ごすか、掃除をして過ごすよう伝えに来たのです。 庭での散策も暫らくは止めるように」
「・・・・・・え?」
「陛下がいつもと違うのは判るのですが、今のところは動きようがありません。 あの女性が陛下に何を施したのか、または何かを望み陛下が叶えようとしているのか。 ・・・・・何もお伝えして下さらないので、私も戸惑っているのが現状です」

李順からの説明が耳に届くも、夕鈴は如何して良いのか判らなくなる。 
陛下があの綺麗な女性と二人きりでいることを強く望んでいる・・・・・・・。
直ぐに出て行って欲しいとは言われなかったが、 『臨時花嫁』 として大臣や高官に見せつける演技は必要じゃないと、後宮から出ずに庭にも顔を出すなと言われたんだと理解した夕鈴は目を瞠って李順を見つめた。 浩大に 「今は兎も角係わるな」 ともう一度言われ、夕鈴は何も言えなくなった。

・・・・・・・もしかしたら、臨時花嫁役は彼女になるのかも知れない。
いや。 臨時ではなく 『妃』 として後宮に・・・・・。



そう思うと足元から冷たい震えが全身に這い登ってくるように感じた。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 20:00:03 | トラックバック(0) | コメント(3)
コメント
たいへんっ・
これは陛下何やらその女性に術でもかけられたんでしょうか?でもそんな隙をみせるかしら?李順さんすら戸惑って…夕鈴辛いだろうけど、頑張って負けちゃダメ(>_<)
ドキドキハラハラしながら待ちます・
2012-11-03 土 21:35:46 | URL | ともぞう [編集]
初めまして、いつも楽しませて頂いております。今回も夕鈴にはキツい試練ですね~
どうでしょ~一度夕鈴が陛下を見限って自ら王宮を去っていってしまうとか…いつもの様な嫉妬で陛下が夕鈴に甘えるのではなく、夕鈴から『臨時花嫁』を辞してしまい、別の貴族の家で働いて見初められてしまうとかぁね、いかがでしょうか?
2012-11-03 土 22:31:28 | URL | フミカ [編集]
Re: タイトルなし
こんにちは。 初めまして。 夕鈴が見限る・・・・。 他の方のサイトでそんな話がありましたー! そういう妄想もありだなと思いましたが、基本私は陛下の事が大好きな夕鈴が好きなんです。 今回の話が纏まったら見初められるパターンも妄想してみようかしら? 
2012-11-03 土 22:36:00 | URL | あお [編集]
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