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秋霖  6
続きです。 真っ暗な話しに御付き合い頂き、誠に申し訳ありません。
が、まだ昏い話は続きます。 入れたい事項が多くて、暗くて自分でも手間取ってますが
もう暫らく御付き合い頂ければ幸いです。


では、どうぞ。















李順に後宮の掃除が終わったと告げると、早速彼女のための荷物の運搬が始まる。
その間、夕鈴は部屋から一歩も出ずに過ごしていた。 
侍女が気を使わないように一人きりにしてもらい、大人しく過ごし続ける。  

例の女性が後宮に入ることになったのですかと侍女が涙を流すが、夕鈴は淋しげに頷くだけ。 
自分に出来る事がある内は 今まで通りに過ごそうと覚悟は出来ている。
ただ老師より掃除をするのを控えるように伝えられ、がっくりと肩を落とした。

本来なら後宮に住まう妃は陛下の訪れをこのように待つのだと知り、自分には耐えられないことだと思った。 何もせずに日々訪れるかどうかも解らない人を待ち続けるなんて、そんな世界に恐怖を覚える。 バイトが終わったら一刻も此処から離れ、普通の生活を取り戻さなければと夕鈴は強く思ったが、借金返済がいつ終わるのか、それが悩みの種だなと一人静かに苦笑する。


「よっ、お妃ちゃん。 今日はいい天気だよん。 四阿に来ないか?」

突然窓から現れた浩大に声も出ないほど驚いたが、外を見ると小春日和の暖かさに気付く。

「そう・・・ね。 お菓子を持って行こうかな?」
「あ、侍女さんは外してね。 ちょいと話があるから、ね」

見ると浩大は侍官の衣装を身に纏っていた。 
妃が侍官と四阿に赴くなど有り得ないだろうと言うと、今は後宮に新しく訪れた妃に皆の視線と意識が集中しているから問題はないと浩大が肩を竦めた。 
誘われたのは政務室が見える四阿で、秋の暖かい日差しがいっぱい当たっている気持ち良い場所だった。 自然に視線が政務室に向けられるが、陛下の姿を見つけることが出来ず、知らず溜め息が零れてしまう。 そこへ現れた武官姿の桐が恭しく膝をつき、頭を下げる。

「・・・一応、それらしくしてないとね。 ああ、お妃さんは心配するなよ。 あの女の持ち込んだ雑多な物を検分している最中だ。 特に陛下が口にする茶や焚き染めている香を調べている。 何か判れば対抗出来る代物を用意出来る」
「李順さんには報告したけど、北方警備隊の奴らは今頃になって記憶が抜けていることに気付いたようで、村に着いてからの記憶が定かではないと騒ぎ出したらしいぞ」

団扇で口元を隠し浩大と桐の報告を黙って聞いていたが、やはり陛下の身に何か迫っていると解り、夕鈴は唇を噛締める。 

「・・・あの女性に何かされたということでしょうか?」
「まだ不確かだけどね。 あの女性が操られている可能性も有るけど、どう見たっていつもの陛下じゃないだろう? お妃ちゃんが大臣らに何を言われているか、興味がないなんてさ。 ・・・ああ、そっちは気にするなよ。 日和見の輩ばかりだから」

夕鈴は口端を上げて頷いた。

「解っているから大丈夫。 言われるのは覚悟していたし、前からそういう言葉は投げ掛けられていたから慣れているわよ。 辛辣な言葉は以前より多いけどね」
「皆正直者ですな。 今までは狼陛下の寵愛に包まれているから影でこそこそ言っていただけだが、寵愛が薄れたと解った途端に開けっ広げになったと」

桐が白けた表情で投げやりに言い放つから、思わず夕鈴は苦笑した。 
そうだ、以前から言われていたことだ。 方淵のように直接言わないだけで、心の中では出自不明の妃に不信感を持っていたんだ。 今更傷付くなんて可笑しいだろう。
傷付くより先にすることがある筈だと顔を上げた夕鈴だが、見上げた視線の先に陛下の姿を捕らえ思わず全身が凍りついた。


池近くの庭園を女性を伴って歩く陛下の その表情が柔らかに女性に向けられているのを知り顔が強張っていた。 一瞬陛下の視線が四阿の夕鈴たちを見たような気がしたが、直ぐに女性に振り向き背を向けて庭園奥へと歩いて行った。


「・・・・・・・・」
「あ~・・・、お妃ちゃん? 気にするなよ。 今の陛下は違うから・・・・」

解っていると言いたいが、戦慄いた唇は硬く閉ざされ何も言葉が出て来なかった。 今の陛下は何かに操られているか暗示を掛けられた状態だと思いたいが、女性を見つめる優しげな瞳が夕鈴の脳裏から離れなかった。
蒼褪めた表情で項垂れた夕鈴を見て桐が嘆息し、冷たく言い放つ。 

「解っていると言いながらその態度ですか? あとで一番後悔するのは陛下ご自身だろう。 それが解っているから皆、奔走しているんだよな。 そんな顔をするのは全てやっても駄目だった時にしたら如何ですか? バイトとはいえ、あんたは唯一の妃だろう」
「・・・・ん。 そうだね・・・。 桐さんの言う通りだ。 ・・・・厳しい言葉をありがとう。 出来ることを皆で協力して動いているんだもんね。 よし、大丈夫っ!」

夕鈴が眉を寄せながらも笑顔を見せると、苦笑しつつ桐が乱暴に頭を撫でてきた。 
夕鈴が慌てて桐の手を払い、 「髪型が崩れるっ!」 と文句を言うと浩大も笑い出す。


足を止めた陛下が振り返った事も知らず、夕鈴は久し振りに屈託のない笑顔を見せていた。







夕鈴は新しい妃が後宮に増えた事実に大臣らがどのような言動を起こすかをいつものように政務室の椅子に腰掛けて眺めていた。 
変わらず政務に就く者、夕鈴に対して侮蔑を込めた台詞を聞えよがしに言う者、冷たい視線でただ見つめる者、戸惑いながら笑顔を向ける者などいろいろな反応がある。
書庫で書簡を片付けている時に卓上に大きな音を立てて書簡箱を置く官吏もいたが、夕鈴は敢えて無視を決め込んだ。 廊下でぶつかってくる官吏には侍女が怒りを表したがそっと手で制す。 中傷文が撒かれたり、椅子が隠されていたりと日々何かあったが、それくらいは想定内だと夕鈴は変わらない態度で政務室に姿を見せ続けた。

或る日、政務室に行くと陛下が官吏らと書簡を広げ話し合いをしているのが見える。 訪れた妃の姿を確認すると冷たい視線を向けるが、夕鈴はその視線に微笑みを返しながら椅子に腰掛けようとした。 途端に椅子が軋み、夕鈴は声を出す間も無く壊れた椅子と共に床に倒れてしまう。

「痛ぅ・・・!」
「ああっ! お妃様!?」
「っ! ・・・大丈夫で御座いますかっ!」

数人の官吏が近寄り妃に手を差し出したが、陛下は冷酷な一瞥を向けただけで直ぐに書簡上の指摘を目の前の官吏に告げる。 近寄った官吏も陛下が動かないことに驚きながら、このまま妃に手を貸していいものか躊躇し始める。 
夕鈴が笑顔で 「大丈夫です、政務中に失礼しました」 と立ち上がり壊れた椅子の片付けを始めると、誰かの手が伸び椅子の破片を集め出した。 夕鈴が視線を向けると眉間に皺を寄せた方淵がいる。

「・・・方淵殿。 すいません、お手を煩わせてしまい・・・・」
「この状況を放置しておくと、政務が滞るから早く片付けたいだけだ」

それでも夕鈴が小声でお礼を言うと何故か舌打ちをされた。 その様子に執務室で以前感じた寂寥感が消えいつもの方淵らしいと苦笑すると、何時の間にか背後に立っていた陛下から怒気を孕んだ声で冷やかな叱責を受ける。

「柳方淵、任せていた書簡の見直しは出来たのか? そんなことをしている暇があるなら、急ぎ私の元に提出して欲しいものだが」
「・・・・只今お持ちします」

方淵の代わりとばかりに比較的良く話すようになっていた官吏が走って来て椅子の片付けを手伝おうとすると、その官吏に陛下が持っていた書簡を突き出し、急ぎ担当大臣へと運ぶよう指示を出す。 夕鈴が慌てて 「皆様はお仕事にお励み下さいませ」 と頭を下げ、椅子の破片を纏めて持ち上げる。 
たぶん寵愛が薄れた妃へと陰湿な嫌がらせに椅子に何か仕掛けたのだろう。 仕方がない輩が居るものだ愚痴りながら政務室から出ようとした。 真面目に仕事をされている官吏には迷惑を掛けてしまったなと申し訳なく思いながら歩いていると、近くにいた官吏が驚きの声をあげる。

「お妃様、御御足に傷が・・・・」
「え? あら本当だ。 でも大丈夫で」

夕鈴が足をあげ裾に血が滲んでいるのを確認し、教えてくれた官吏に礼を言おうと顔を上げると浮遊感が襲い、気付くと抱き上げられていた。 目を瞠ると陛下の顔が近く、思わず纏めて持っていた椅子の破片が手から零れ床に散らばる。 床に散らばった椅子の破片を気にすることなく、そのまま陛下は無言で政務室から離れ、真っ直ぐに医務室へと向かっていく。

陛下の行動に政務室に居た官吏らには静かな動揺が広がっていた。






久し振りの陛下の体温に夕鈴は大きく眼を瞠ったまま、身体を強張らせる。
大股で歩く陛下は夕鈴をしっかりと抱き上げていて、その安心感に夕鈴はぎゅっと目を瞑った。 医務室に着くと侍医を呼び、抱き上げたままで足の怪我を急ぎ診るように指示をする。
頭を下げて侍医が夕鈴の裾を持ち上げると、椅子の破片で擦った傷があり、そこから出血していた。 脹脛を傷付け流れた血は、沓にまで滲んでいる。 
思ったよりも出血していたんだと夕鈴が気付くと、頭上でギリッと嫌な音が聞こえた。

「あ、あの、陛下、運んで下さってありがとう御座います。 お仕事中でしたのに御手を煩わせてしまい大変申し訳御座いませんでした。 お、降ろして下さいませ・・・・」

その言葉に陛下がはっと気付いたように椅子へと夕鈴を降ろすと、侍医が裾を広げて消毒を始める。 破片が傷に入り込んでいないか侍医が足を持ち上げて調べると、夕鈴の裾を陛下が押さえた。 侍医が慌てて大判の膝掛けを用意するよう医官に告げると、自分のしぐさに驚いたように陛下が離れて行く。 口元を押さえた陛下は明らかに動揺した表情で夕鈴を見下ろしていた。

言葉はないが政務室からここまでの陛下は以前のままの陛下だと夕鈴は顔をあげて見つめた。 どうして夕鈴を此処まで自ら運んだのかに自分自身に戸惑っているようで、眉間に皺を寄せた陛下は苦しそうに見える。 陛下の中心部は陛下のままなんだと確信した夕鈴は、笑顔を見せてもう一度御礼を伝えた。

「陛下、本当にありがとう御座います。 あ、袖口に血が付いていませんか?」 
「・・・・・いや、大したことはない」
「付いてしまいましたか! 申し訳ありません。 直ぐに女官に水洗いをするように伝えますね。 陛下、運んで下さって本当にありがとう御座います」

陛下の衣装に血が付いてしまったと知り、夕鈴は低頭して謝罪をした。 
すると頭上から苛立った声で問い掛けられる。

「・・・・壊れるような椅子が政務室に置かれていたことに、お前は怒らないのか。 自身の身体に傷がついたことに憤りは感じないのか?」

眉を寄せた陛下の表情は静かな怒りを呈しており、夕鈴は侍医に暫らく二人にして欲しいとお願いをする。 侍医が退室すると夕鈴は陛下を見上げて柔らかく微笑んだ。

「御存知のように私はバイトの妃です。 陛下唯一の妃として時には囮役もして来ました。 ですから陛下は御気に為さらないで下さいませ。 それよりも血の穢れで政務室を汚したことこそ御詫び申し上げます」 

拱手して頭を下げようとした時、腕を強く取られ夕鈴は驚いて顔をあげた。 
そこには苦しそうに顔を歪めた陛下がいて、何か告げようとするかのように唇が薄く開く。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 21:00:06 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2012-11-06 火 22:13:29 | | [編集]
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2012-11-06 火 23:11:29 | | [編集]
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2012-11-06 火 23:15:39 | | [編集]
Re: タイトルなし
慎様、コメありがとー! 冷たい陛下を如何にか浮上させたい夕鈴の願いが伝わったか。 うん、如何にか頑張って話を進めてます。 次くらいにやっと女性を出せる予定です。 長くなりそうですので、気長に御付き合いくださると嬉しいです。
2012-11-07 水 00:22:21 | URL | あお [編集]
Re: お妃さま…
糖度が足りない! ビスカス様、同意見です!! 書いていて楽しいけど、如何にか陛下に甘いことをさせたいとモヤモヤしてます(爆) さあ、どうしましょうか? 
underでめちゃめちゃ糖度が上がる陛下は只今血糖値が異常を呈しており入院治療中です。 もう暫らく御待ち下さいませ。 年内には・・・・・・う~ん。
2012-11-07 水 00:26:13 | URL | あお [編集]
Re: はじめまして
はじめまして、yuri様。 嬉しいコメントをありがとう御座います。 長くなりそうですが、気長に読んで頂けたら嬉しいです。 やっと如何にか陛下が動き出したので、次の展開に移ることが出来ます。 宜しくお願いします。
2012-11-07 水 00:28:48 | URL | あお [編集]
夕鈴の怪我に気付いて、陛下は無意識に抱き抱えていたんでしょうね・もうこれは愛ですね・早くいつもの陛下に戻れるように願うばかりです・夕鈴みんな頑張ってるからあと少しの辛抱ですよ・
2012-11-07 水 00:48:16 | URL | ともぞう [編集]
Re: タイトルなし
ともぞう様の温かいコメント、嬉しくなりました。そうです、もう少しで如何にかなるから(予定:笑)御付き合い下さいませ。
2012-11-07 水 08:49:24 | URL | あお [編集]
あああ夕鈴が・・・!(泣)
でも陛下にも変化が!

ここで「夕鈴」って陛下に呼ばれたら、夕鈴(というか私が)泣いちゃいますよ!!

陛下頑張れ!

先が楽しみで仕方ないです!
2012-11-07 水 10:32:05 | URL | 蛍人 [編集]
Re: タイトルなし
暗い話に御付き合い頂き、感謝です。 蛍人様、泣かないで欲しいけど、言わせて見たい、陛下の 「夕鈴♪」 ですね~。 もう少し御待ち頂きたいです! コメ、ありがとう!
2012-11-07 水 22:53:07 | URL | あお [編集]
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