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思迷  
久し振りの短編。 SNSでは時に【腹黒】で書かせて頂いていますが、こちらでは
久し振りになります。 短く笑って頂けると嬉しいです。



では、どうぞ。













何時ものように政務の合間に書庫へ書簡を片付けに向かう。 それは彼の常であった。
書簡に目を通しながら脇に抱えた書簡を落さないように扉を開ける。 彼が顔をあげたその時、目にしたのは書庫の床に蹲る妃の姿。
床に蹲り、背を丸めている妃の身体は小刻みに震えており、小さく苦しげな掠れた声が聞こえていた。 瞬時 部屋から出るべきなのではと踵を返そうとした時、脇に挟んだ書簡がずれて思わず慌てた声が漏れてしまった。

「あ・・・・・ 誰?」

自分の声に驚いて卓に手を付き立ち上がった妃の瞳は濡れており、少し開いた唇から悲しげな息が漏れたように感じた。 目を擦っている妃から視線を外し、そんな筈はないと一度強く目を瞑り、あとは何時ものように妃を鋭く睨み付けた。

「こんな所で貴女は何をされているのか。」
「方淵殿、すいません。 書庫の整理と思って来たのですが・・・・。」

少し俯いた妃は卓に身体を預け、眉根を寄せた表情で何やら苦しげに見える。 方淵は係わらないでおこうと小さく息を吐き、妃の表情から視線を外して書簡を片付ける。 

「・・・・本当にすいません、お邪魔しました。」

卓に縋りながら移動した妃は今度は扉に縋り、ふら付きながらも書庫から離れて行く。 書庫から出たところで妃付きの侍女らが何やら声を掛けているのが微かに聞こえ、方淵は扉に向かって静かに視線を投げ掛ける。 
・・・・・確かに妃は泣いていた。  書庫で蹲り、一人で声も立てずに泣いていた。 
陛下と何か諍いがあったのか。 それとも以前のように中傷文がまた回っているのか。 
何れかの大臣に中傷されたのか。
・・・・・・いや、それならあの妃はめげずに言い負かすだろう。
自分自身のことなら大抵のことを言われても気にしない、あの妃なら。
そこまで考えて、方淵ははっと気付いた。

「何故そんなことを考え・・・・。 馬鹿らしい! 泣くなら後宮へと戻れば良いものを、こんな場所で泣くなど、全くあの妃は何を考えているのか」

首を振って書簡を片付けると勢いよく書庫を離れた方淵だが、それでも暫らくの間、彼女の濡れた瞳が脳裏から離れなかった。







回廊から冷たい風が時折強く吹き込む午後、水月が新しい案件を提示する為に書庫でいくつかの文献を探し、書庫を出ると政務室近くの一室前で妃が佇んでいるのが目に入った。 
彼女は立ち竦みながら両手を唇に宛がい項垂れていた。
静かに近寄り、何時ものように声を掛けようとした時、妃の身体が小さく震えているのを知る。

「・・・・お妃様、如何されましたか?」
「え? あ、水月さん。 いえ、何でもないのです」
「しかし、震えておられる。 ・・・お寒いのですか? 侍女に伝え、急ぎ外套を持って来るようにと伝えましょうか」
「いいえ、それには及びません。 お気遣いありがとう御座います。 ・・・失礼致します」

顔をあげた妃の瞳が潤んでいるのを水月は見逃さなかった。 陛下の寵妃でもある女性に一官吏が追掛けてまで声を掛けることも出来ず、水月は去り行く妃の姿を黙したまま見送った。
・・・・・・・・陛下と何かあったのだろうか。 
妃にはいつも甘い雰囲気で対応されている陛下と彼女の諍いが想像出来ないなと、水月は柳眉を寄せていたが、小さく嘆息すると仕事に戻ることにした。




政務室にて方淵が書簡を広げたまま思慮深げに視線を彷徨わせていると、隣の卓に書簡が広げられた。 方淵が気付き、顔をあげると水月が首を傾げて尋ねてくる。

「君にしては珍しいね。 政務中に何を考えているのかな?」
「・・・・貴様に教える謂れはない。 この懸案の方針が決まらないだけだ」
「それこそ珍しい・・・・って、この書簡はもう決定した事案で終わった件だろう? 一体何に気を取られていたというのかな? ・・・君も風邪に罹る事があるんだね」

水月の言葉に返答もせず、急ぎ書簡を片付けて方淵は椅子より勢い良く立ち上がった。 
他の官吏がその音に驚いて注目すると、眉間に皺を寄せた方淵は 「失礼する!」 と政務室より足早に立ち去った。 水月がその姿を目で追いながら薄く微笑んだ。

「もしかしたらお妃様が泣かれているのを見たのは私だけでは無いということかな」

分かりやすい男だと苦笑しながら、水月は与えられた仕事に集中しようとした。 が、水月の脳裏に両手を口に宛がい震えている妃の姿が浮かび、彼もまた宙に視線を彷徨い出した。 
・・・・・・・本当に陛下と何かあったのだろうか。 
陛下に新たな縁談の話でもあったのか、何れかの大臣に何か言われたのか。 
あの妃が涙するとしたら前者だろうと水月は推察したが、そんな話は父からは聞かされていない。 未だ紅珠を妃に推進めることを断念していない父がそんな話があったら勿論そのまま放置する筈も無いだろう。 
 
「・・・・紅珠に聴いてみるか」

妃と先日もお茶をしたと話していた妹に会うべく、彼は素直に 『体調不良』 を申告した。







「お妃様とはわたくしの 『想像遊び』 であるお話をさせて頂き、楽しい時間を過ごして来ましたわ。 ・・・・いつもの御様子で特に御変わりないように思いましたけど?」
「それならいいんだ。 私の無用な気遣いだったのかも知れないからね。」

兄の言葉に何かがあったのだと気付いた紅珠は眉尻を下げて麗しい顔を曇らせた。 その様子に水月が優しく紅珠の頬をなで、心配させてしまったと自分を責める。

「・・・・人知れずお妃様がお苦しみになられても、陛下は直ぐに気付くだろう。 だから心配はいらないよ。 私の見間違いかも知れないし、気鬱に過ぎないことかも知れないんだから。 本当に心配はいらないから大丈夫だよ」
「また・・・ 近々お妃様と御会いする機会を設けますわ。 それまでに楽しい御二人の物語をお作りして喜んで頂けるように、わたくし頑張りますわね!」

頬を染めて紅珠が宣言するのを、ただ困った顔で水月は眺める。 
愛しい妹の作る壮大な愛の物語り。 一度読まされたが、誰が主人公であるかが明確で、更に怒涛の如く数々のラブロマンスシーンと愛の語り合いが続き、口から砂を吐きそうになる。 
これを当の本人であるお妃様が読まされるのは一種の拷・・・・・。
いやいや紅珠は 『私の才能に感動して下さり、壮大で素敵な物語と褒めて下さった!』 と涙ながらに話していた。 『多才な才能』 と 『ものすごい書物』 と直々に褒めて貰えて震えるほど嬉しかったと言っていた。 

・・・・・それでもあの書物は。

妹が嬉しそうに構想を下書きし始めたので、水月は静かに自分の邸へと戻ることにした。








次の日、書庫で会った妃はいつもと変わりなく、昨夜の内に陛下と仲を取り戻したのだろうと水月は思った。 妃がいつものように笑顔で挨拶をするので、拱手して安堵の笑みを浮かべ挨拶を返す。 覚えはないが、昨日の陛下はいつもより冷酷非情な様子だったのかも知れないと、対して今日は機嫌よく政務にあたられている事だろうと思えた。

政務室に腰掛ける妃はいつもの微笑みを浮かべ、官吏の動きを眺めている。
陛下は他で政務に励まれているのか姿は見えないが、妃の微笑みを見て水月は安堵した。 
陛下の精神状態も落ち着かれているのなら静かに仕事を進める事が出来るだろうと、自分が係わっている案件に意識を集中する事にした。 
昼近くになり政務室が少し騒がしくなって来て陛下が姿を見せたのが分かる。 いつもと変わらず怒気を放ちながら指示を出し足早に此方へ向かってくる。 陛下周囲の官吏が遽しく新たな懸案報告をしたり、陛下の指示に走り出したりを始め、一気に忙しさが増す。 

一通り指示を出し終えたのだろう、妃に気付いた陛下が笑みを浮かべて彼女の元へと足を向ける。 それに気付いた妃が頬を染め、団扇を膝に置くと陛下を見上げて笑顔を見せる。

ああ、やっぱり昨日とは違うなと水月が目を細めると、いつの間に隣にいたのか方淵が深い溜め息を吐いた。 顔を向けると目が合い、大量の書簡を卓に置いた彼の口が開く。

「・・・いつも面倒を運ぶ妃だ」

彼も気にしていたのだと判ると苦笑してしまう。 その苦笑に面白くないと感じたのか睨まれたが水月が肩を竦めると何も言わずに方淵は書簡に視線を落とし始めた。 陛下と妃のいつもの光景が目の端に移り、あっという間に抱えあげて政務室から消えて行った。 あとで側近である李順が苛立った表情で追掛けるのだろうと、水月も書簡に集中することにした。

「それにしても今日は大量の仕事が回って来たものだね。 ・・・・池の鯉に餌をあげたか気になってきたよ。 そういうことで・・・・・」
「・・・・逃げるなよ。 この軟弱者が!」

隣に座る方淵から釘を刺され、水月は嘆息して仕事を再開することにした。












「へっ、陛下! いちいち抱き上げるのは御止め下さい!」
「だって夕鈴、政務室まで歩いてきたんだろう? 大事無いように気を付けなきゃ」

抱き上げられて四阿に向かう陛下に文句を言うと、あっさりと反論される。 

「もう大丈夫ですよ!? もう痛くも何ともありませんし!」
「君の大丈夫は信用ならない。 それならちゃんと見せてね。 はい、座って」

そう言われて座った場所は陛下の膝の上。 夕鈴は降りようとするが陛下の腕が腹に伸び、逃げ出すことは無理だと分かる。 真赤な顔で後ろの陛下を睨むが、陛下は夕鈴の手を取り上げてじっと注視する。 その右手指先は昨日風に煽られた扉が急に閉まり、そこに挟まれてしまった為に少し腫れが残っていた。 夕鈴は少し痛みが残る指先を陛下から遠ざけようと必死に力を入れる。

「・・・・まだ腫れているようだね。 蒼くなっているし」
「打撲ですからその内消えます。 ・・・・急に風で扉が閉まったから反応出来なくて。 しっかり扉を押えて置けば良かった・・・・。 でも、大した事はありません」

じっと見つめる陛下の視線が居た堪れず手を引こうとするが、しっかりと握られて引くことが出来ない。 夕鈴が諦めて力を抜いた時、手が引っ張られ何か柔らかいモノに押し当てられる感触に驚いて振り返る。 そこには自分の指先に口付ける陛下が居て、夕鈴は目を瞠る。

「なぁっ!! 何を、何をして・・・!」

舌がちろりと指先をなぞり、その感触に背が粟立つ。 手を引こうとするが陛下の視線と目が合った瞬間、吸い付かれた。 息を呑み、肩を竦めると微笑みを残して唇が離れる。 夕鈴が唇を戦慄かせて陛下を見つめていると、目を細めた陛下が夕鈴を横抱きに変える。

「そして足先だったね。 さ、見せて?」
「っ!! 駄目ですっ! 四阿ですよ!? さ、寒いですし誰が来るとも判らないし!」

夕鈴が必死に抗うと、陛下は周囲の様子を見て 「ふぅん。」 と小さく頷いた。 判って貰えたのかと夕鈴が涙目で見上げると、横抱きのまま抱き上げられる。

「きゃあっ!? へっ、陛下?」
「我が妃は御足を外で晒すことに躊躇しているようだから自室で存分に愛でてあげよう。 それに痛む足で無理に歩かせるのは忍びないしな」
「歩けますっ! 私が粗忽なだけですからっ! 卓の足にぶつけただけなんですから! 本当に何ともないんですぅ!!!」

指を挟む少し前、書庫で書架を見上げながら近付いて思い切り足を卓の足にぶつけた。 その痛みは涙が滲み思わず蹲って暫らくは悶えるほどだった。 激しい痛みに苦悶の表情で唸っている時、方淵が入って来て咎められたのを思い出す。 急いで場を離れたが足を引き摺りながら歩く破目になり、侍女に心配された。
昨夜、部屋に来た陛下は小犬で眉根を寄せて心配してくれたのに、何で今は狼で妖艶な笑みを浮かべて自分を翻弄するのか理解出来ない。 

「陛下っ、おっ、お仕事して下さい! お願いします! 私の足なんか放って置いて!」
「我が妃の憂いは一刻も早く取り除かねばならない。 私の手は冷たいから湿布よりも気持ちが好い筈だ。 ・・・ゆっくりと愛でてあげような。」

夕鈴は涙目で陛下を見上げフルフルと首を横に振るが、妖艶な笑みを浮かべた陛下は口角を上げたまま後宮へと足を向ける。 

何で?  何でなの?  如何して陛下はここまで 『イジワル』 するの???


「他の男の前で涙ぐんだりして、今日も要らぬ視線を集める君の方がイジワルだよね」


陛下が小声で呟く声は夕鈴には届かない。









FIN







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

短編 | 23:40:00 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
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2012-12-05 水 00:10:52 | | [編集]
Re: タイトルなし
yuri様、早速のコメントありがとう御座います。 方淵、水月の登場が続き、ちょっとトラウマがあるのでドキドキしましたが、楽しかったです。 次は 「もしもシリーズ」 を予定。 こちらは随分久し振りなので、時間が掛かりそう。 お時間が有ったらまた覗いて下さい。
2012-12-05 水 00:54:34 | URL | あお [編集]
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2012-12-05 水 21:20:36 | | [編集]
Re: 陛下楽しそうですね
まあ、ビスカス様の期待を裏切ってしまったようで・・・・・・えへ。 次は「もしもシリーズ」を考えてますが、お時間貰ってのんびりと妄想しようと思っております。 蹲る夕鈴にちょっとドキドキしたとのコメが多くて、嬉しいです。 コメ、本当にありがとう御座います。
2012-12-05 水 21:59:35 | URL | あお [編集]
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2012-12-06 木 16:42:26 | | [編集]
Re: 初コメント!おじゃまします!!
ななすけ様、初ですか、ありがとう御座います!!! すごっく嬉しいです。 じれったいすれ違いや陛下の狼突進バージョン、未来予想図、勝手な妄想作品、あまつさえ〇〇〇〇なんて物もありますので、のんびり読んで頂けたら嬉しいです。 
2012-12-06 木 20:53:16 | URL | あお [編集]
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2012-12-06 木 23:20:55 | | [編集]
Re: もう…もう…
makimacura 様、萌えに萌えているコメント、ありがとう御座います。 夕鈴は泣くほど陛下に愛でられた事でしょう。 (合掌) 本当に連日寒さが増します。 強風が吹く爆弾低気圧に実家の親も驚いています。 それに比べたら東京は「常春ね」と言われてしまいました。 そうか、常春だったのか・・・・。 ん??
2012-12-06 木 23:29:38 | URL | あお [編集]
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