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夢の底から底  1

今日は寒かったです。 雨の中、自転車かっ飛ばし仕事場に走る自分にエールを贈りながら、「花粉と雨、どっちが楽?」と自問自答。 これからの時期が、本当に超恐い・・・! すいません。本当に夕鈴大好きなんですよ!!あんなにいい「嫁」は居ません! 断言出来ます。 ・・・・それなのに、私ったら。




では、どうぞ。















「・・・私は陛下を・・・なきゃならない・・・」

夕鈴の傍で昏く笑う男は、繰り返し彼女の耳へ 「呪」 を囁く。





※ ※    






書庫に置ききれない書簡は第ニ、第三・・・の書庫に分配され、用途別に仕舞われる。
大まかに分類された後、その後調査部門、決算済み、記録部門、会計部門などへ移動し保管される運びだ。 陛下や宰相の決済が済んだ書簡は各部署、または地方へ届けられ、決定事項の実行を行なう指示書になる。 その後、王宮に結果と共に返って来て新たな保管場所に整理される。 

夕鈴は大まかな書簡がある政務室隣の書庫で、今日も簡単な整理を行なっていた。
時折官吏や高官が出入りし、必要な書簡を持ち出したり、所定の場所に片付ける。 顔馴染みになった官吏も数人出来、気さくに挨拶するようになった。 中には妃を妃とも思わないような態度を示し、目と目で語り合う(睨み合う、ともいう)補佐官もいるが。


その補佐官である柳方淵が、ひと気の無い奥の書庫よりふら付きながら出て来る人物に目を止めた。 訝しく思っていると、それは陛下唯一の妃であった。 方淵は宿敵にでも出遭ったかのように舌打ちを零し、眉を顰める。

「お妃がこのような場所で、ふらふらしているのは如何かなものかと思うのですが!」

全く何度言っても政務室や書庫に顔を出すこの妃。 今日は奥まったこの書庫で、また妃らしからぬ作業をしていたのだろうか。 それは妃の仕事ではない、陛下に仕える廷臣の仕事だ。 全く以って、余計なお世話だ。

「・・・・・・・」

薄暗い書庫から出て来たせいなのか、妃は目を瞬いて方淵に顔を向けるが、何やら様子がおかしい。 何時もぼんやりしている妃の表情が、いつにも増してぼんやりして見える。
まさか暗闇の書庫で・・・・もしかして、寝ていたのだろうか?

ぼーっとした表情の妃は、自分の額に手をやり何やらブツブツ言っていたかと思うと踵を返し、黙したまま政務室方向へ足を運び出した。 いつものように反論があるかと思っていたのだが。
いや、進言に従い、大人しくしようと・・・・・。 まあ、それはないな。
それとも、まさか本当に寝惚けているのか?

「なんか、いつもの妃と様子が違うね。 もしかして・・・」

背後から落ち着いた声が聞こえた。 氾水月だ。 今頃出仕か? と振り向くと、方淵の睨みなど気にもせずに政務室へ歩を進める妃の姿を追っている。 
方淵も、水月に気になる言い方をされたので視線を彼に向ける。

「もしかしてとは?」 と一応問うと、 「気になる?」 と問い返される。

「妃に何かあれば、陛下の御為にならないからな」
「君は本当に補佐官の鏡だね~~。 いや、お妃様の顔色が悪いし、足元が少々ふら付いているから。 もしかしたらと思ったんだが」
「だからなんだ?」
「私には妹がいるから、なんとなくそうかなと・・・・」
「だから、何だと聞いている!」
「ま、女性特有の月の障りかな・・・・と」

眉を顰めたまま目を見開いた方淵が、彼には珍しく顔を赤らめると当時に 「な、な、な」 と狼狽えた。 さらには下がったついでとばかりに背後の壁にぶつかり、視線を彷徨わせ出す。
そこまで驚くことかなと水月が呆れていると、鋭い咳払いが二人の背を正した。
二人が振り向くと、陛下側近の李順が立っており、 「お妃様がどうかしましたか?」 と、どこから聞いていたのかと蒼褪めそうな問いを投げ掛けて来る。 
まだ動揺が残る方淵の前にすいっと進み出た水月は、李順に拱手して口を開いた。

「先程、お妃さまがいつもはお使いにならない書庫から足元不安定に出て来られましたので、もしかすると体調がお悪いのかと案じていたところで御座います」
「そうですか。 気に掛けておきます。 それよりお二人とも、午後の政務が始まっていますので 仕事に戻って下さい」

眼鏡を光らせて李順が二人を誘う。
それ以上は仕事に係わり合いがないので任せることにするしかない。

水月が薄く笑って何か言いたげに方淵を見る。
方淵が嫌そうに 「何だ?」 というと、水月は微笑みながら話し出す。

「月のアレでなければ・・・・陛下との閨が激しくて日中休んでいたのかな」

間をおいて、方淵が急に膝をつく。 水月が方淵の腕を取り、 「大丈夫?」 と助け起こした。

「氾水月、よくそんな事を頭に浮かばせることが出来るな!」
「時折お疲れの顔をされているから、そうかなと。 まあ、閨事か月の障りかどちらか判らないけど、お妃ともなれば・・・・ うん、閨かな? 方淵殿はどちらと思う?」
「ね・・・ さ・・・!!」

言葉を詰まらせた方淵を水月が物珍しげにじっと見ていると、見られている事に気付き足早に政務室に向い始めた。 こういう話は方淵にとって、どうにも苦手らしい。 判ってはいたけど、やはり面白いことだと水月は思った。





※ ※ ※   






政務室の片隅の指定席で、いつもの様に団扇で顔を半分ほど隠した妃が座っている。 
時折陛下からの熱視線や甘い台詞に顔を真っ赤にして、普段と変わらないように見えた。 協議が終了しても、特にふら付くこともなく顔色も変わりない。 方淵も水月も問題は無いだろうと思い、政務室より退出する。
妃も侍女と共に後宮に戻るようだ。
その後ろ姿を確認して、方淵は他の仕事に足を向かわせる。
逃げようとした水月の袖を掴むのを忘れない。



夕鈴は頭の中に薄い幕が掛かっているように感じていた。 表面的なことは対応出来るが、深く考えることが出来ない。 後宮に戻った夕鈴は侍女に 『少しだけ横になるから、陛下が来たら直ぐに起こして』 と伝えた。 政務室での事は覚えているが、後宮から政務室に入るまでの間がよく思い出せない。 思い出してはいけない、考えてはいけないような気がするのだ。

昨夜は眠りが浅かったのかしら? 
そんな事は無いと思うが、記憶が抜けている事実が気になる。
寝台で目を閉じて考えている内に、夕鈴は静かに眠りに落ちていた。


「夕鈴、体調悪い?」
「・・・・・陛」

周囲は薄暗く、夕鈴が寝台に横になってから数刻経過したのがわかる。 夕鈴が眠る寝台に腰掛けた陛下は、夕鈴の髪を梳きながら尋ねた。 いつものように後宮を訪れると疲れたように横になっている夕鈴がいた。 体調でも悪かったのかと思い、すぐには離れられない。

「起こさないように、顔だけ見て帰ろうと思っていたんだけど。 具合悪いの?」
「・・・・・・・」

夕鈴の瞳は目の前の陛下に動じることも無く、静かに見つめる。 微動だにせず、返事もしない夕鈴に違和感を感じる。 顔色がいつもより蒼白く、目が空ろに見えた。 黎翔はその場に立ち上がり浩大を呼ぶ。 すぐに窓から姿を現せた隠密は困り顔を見せた。

「陛下、お妃ちゃんは政務室から帰ってからは誰とも接触していないよ。 書庫で誰と会っていたか詳細は不明っす。 ちょっと密偵をおっぱらっていたんでね。 政務室はあまり出入り出来ないしね~。 しっかし、本当に変だよね。 お妃ちゃん」
「今日は書庫にいることが多かったと聞くが・・・」

浩大が現われても夕鈴の表情は変わらないまま、ゆっくりと寝台に腰掛け始めた。 冷たい床に足が触れた時、ぴくっと膝が持ち上がる。 その瞬間、目が覚めたように顔を上げると瞳を大きく開いて驚いた顔になった。

「え? 陛下何時の間に? わっ!浩大まで。 ど、どうしたの?」

一体何があったんですか?と慌てている様子に、黎翔は浩大に 「調べろ」 と指示を出す。

硬い表情の狼陛下が、隠密の浩大に何かを指示している。 二人の視線に、自分が・・・ 「妃」 が関わっていると解かる。 目を覚ましたら世界が急に動いているようで夕鈴はパニックになりそうだった。
黎翔はにっこりと 「ゆーりん、落ち着いて」 と笑って見せる。
その笑顔に、夕鈴も深呼吸をして落ち着くことにした。





「陛下、あ・・の、お茶淹れますね。 すいません、驚いて・・・」
「ゆーりん、寝惚けちゃったのかな? 僕や浩大が来てもぼーっとしてた」
「え? あ? ・・・お恥ずかしい。 そうですよね。 寝台に腰掛けてたんですものね」

腰掛けたまま、ぼうっと居眠りしていたのかと思い、夕鈴は頭を軽く振る。 
羞恥に赤く染めた頬で茶器を用意する夕鈴はいつもと変わらないようだった。 
考えすぎだといいが・・・・と黎翔が思いながら長椅子に腰掛ける。

_____が、すぐに彼女の動きが止まった。

陛下の直ぐ目の前で、夕鈴は小声で何かを呟き、袖口から小さな紙包みを取り出す。 茶器に紙包みの中身を移そうとしているようだ。

『いつもの夕鈴ではないな。 目の前でこんな事を始めるなんて。 妃が陛下に茶を淹れることを知っている人間が夕鈴に毒でも渡したか? しかし・・・どうやって?』

しかし茶器に 【毒】 を入れると、夕鈴も陛下と共に飲んでしまう。 夕鈴にまでそんな危険を負わせようとする刺客に怒りが沸く。 そこまで妃が邪魔なのか? それとも・・・・。


顔を上げて夕鈴をみると、彼女の体が大きく崩れるところだった。 すぐに黎翔が後ろから支えると夕鈴の全身は震えていた。 きつく目を瞑り、唇からは小さく血が流れ、額には薄っすらと汗が滲んでいる。

「夕鈴!? 目を開けて!」

毒でも飲んだのかと思い、夕鈴の体を強く揺すると眉間に大きな皺を寄せながら彼女は少しずつ目を開いていく。
 夕鈴は握りしめた右手を左手で押さえ込んでおり、その手が強張って震えていた。 その右手に握られた包みを、陛下に差出し、困惑した夕鈴の目が 「これは一体何?」 と訴える。

茶器に入れる寸前に夕鈴意識が戻ったようだ。 包みを持っていた右手が酷く戦慄いていて、それを自身の左手で強く押さえ込んでいる。 黎翔はすぐに夕鈴を抱きかかえて、長椅子に移動した。

「大丈夫。 力を抜いて夕鈴。 大丈夫だから、まずは深呼吸して・・・」

夕鈴の右手を代わりに押さえ込み、背を擦り乍ら震える体を支える。 唇を僅かに開き、ゆっくりと息を吐き出して漸く夕鈴は脱力した。 自身の爪痕が付いた右手から白い包みを取り出し卓上へ置く。 力が抜けた夕鈴の額の汗や、口角の血を拭き取るが、強く右手を抑えていた左手は軽い痙攣のような震えを残している。

暗示だろう。 
後催眠で暗示を与え、何かのきっかけで行動を起こさせる。 多分二人きりになった時に行動を起こすようなものだろう。 白い包み紙の中身は何らかの毒だろうか。 
しかし浅い暗示だったようで、指示された行動を夕鈴の精神力が押さえ込んだようだ。

すぐに浩大に呼ばれた李順が夕鈴の部屋にやって来た。

「陛下、如何なさいましたか? 夕鈴殿が何か?」
「李順、これを」

陛下と共に長椅子に座る夕鈴を見ると、いつもと様子が違うことに気が付く。 夕鈴が握っていた包み紙を指差して、すぐに検分するように指示を出した。 何を渡されたかすぐに勘づいた李順は 陛下を伴い夕鈴より離れて耳打ちする。

普段使用しない書庫より出てきたこと。
柳方淵・氾水月に対して何の反応もなかったこと。
それらを踏まえて、午後からの妃は 「普段より奇怪しかった」 と話す。

李順からの報告を聞き、すぐに陛下は本日の出仕官吏等と全ての書庫使用者を確認するように告げる。 そして先程の夕鈴の行動を話すと李順が目を大きく見開く。 新たな刺客が出たと目で合図をして、互いに頷く。 浩大は宮内の隠密へ指示を出しに部屋を出ていった。

「すぐに戻るから!」 と言い残して。

夕鈴は長椅子から、陛下たちが静かに動き始めたのを蒼白な顔で震えながら見ていた。 陛下のためにお茶を淹れようと茶器にお湯を入れ、懐から小さな白い包みを出した自分を覚えている。

『これを茶に入れ、陛下に・・・』

頭の奥から声がして、その指示に従おうとする自分と、こんな訳の判らないモノを何故茶器に入れて陛下に飲ませるのかと抵抗する自分。 頭の奥で響く声と抗う体が鬩ぎ逢い、未だ混乱が続いている。

「夕鈴・・・」

夕鈴は名前を呼ばれて震えながら視線を陛下に向ける。

「わ、わたし何を・・・ わたし・・・ どうし・・・」

涙が零れそうな真っ青な顔でガタガタと震え出した夕鈴は言葉にならない。
三人の話の流れで、自分がとんでもない事をしたのはわかる。

あの白い包み紙は・・・・きっと毒。 陛下暗殺に自分が関わってしまった!?
私、バイトクビどころか・・・ 『死刑』 !?
青慎の将来を・・・・姉の私が閉ざしてしまうの?

弟が頭に浮かんだ瞬間、夕鈴は長椅子から床へ体を移して土下座して叫んだ。

「ごめんなさい!すいません! わ、私はどうなっても良いです。 どんな罰も受けます! でも、でも青慎だけは・・・ あの子には何の・・・ 何の咎もな・・・」

陛下が夕鈴に覆い被さるように包み込み、瘧を起こしたような体を抱え上げた。

「夕鈴、大丈夫だから。 落ち着いて」
「あ、いや・・・っ。 ごめんなさ・・・あ・・・あ・・・」

とうとう捕まったと嗚咽を零し続ける夕鈴をそっと長椅子へ座らせた。 小声で謝り続ける夕鈴はこの先どうなるか漠然と想像出来、その想像に蒼白な顔色のままで、見て判るほどに震えている。 隣で陛下が夕鈴の背を擦っている事にも気が付かない。

「李順、気付け薬と白湯を老師に用意させろ」
「は・・・。 陛下」

李順は溜息を大げさに漏らし、包みを持ってその場を離れた。 陛下は震える夕鈴を抱えて膝へ移動させると、愛しげに抱え込み背を擦る。

「夕鈴、大丈夫だから安心して。 夕鈴が悪くないのは知っているから、ね? 犯人は他にいる。 夕鈴は利用されただけなんだ。 弟君も心配は要らないよ」

優しく背を擦りながら、陛下が耳元で穏やかな声を落とす。 興奮して泣いたせいで耳が聞こえ難いが 少しずつ少しずつ陛下の台詞が頭に染み込み、夕鈴の体から緊張と震えが消えていく。 
長く息を吐いた夕鈴は、ようやく泣き濡れた顔を持ち上げた。

「へ、陛下、本当に?  本当に青慎は大丈夫?」
「大丈夫。 夕鈴も大丈夫だよ。 落ち着いて・・・」
「は、はい・・・。 ありがとう御座います・・・」

落ち着いてきた夕鈴は自分が陛下の膝の上にいると知り、慌てて膝上から立ち上がるがバランスを崩して床に腰が抜けたように座り込んでしまった。 急に立ち上がった為、貧血が起こったのかも知れない。 陛下が夕鈴の腕を掴み立たせようとする。

その瞬間、床に座り込んだはずの夕鈴が陛下に向かって体当たりをした。









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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

長編 | 22:26:05 | トラックバック(0) | コメント(0)
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