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暦の果  10
牢獄シーンになるので暗いです。 多少痛いです。 
それでも大丈夫という方は御付き合い下さい。



では、どうぞ。















全てを諦めた表情でそれでも時折昏い視線で睨み付ける廚大臣から、李順が聞きたい情報や裏を取り終えた時、刑吏が走ってやって来た。 「陛下が御出でになりました」
冬の嵐が登場したよと、浩大が嘆息した時、薄暗い刑房の廊下を紅い瞳が揺らめいて近付いてくる。 ただでさえ恐いのに薄く哂っているよ~・・・ と曖昧な笑顔を浮かべて浩大は低頭した。

「・・・・薬は抜けたようだな。 正気の貴様を一日千秋の思いで待っていたぞ」

口角を上げた陛下は細めた瞳を真っ直ぐに廚大臣へと向けた。 
謁見の間や政務室、王宮行事で見かける狼陛下そのままの冷酷非情な表情だが、醸し出す雰囲気が闇のようだと廚は唾を飲み込み身を竦めた。
視線に絡め取られ息さえも自由に出来ないような気分になり、浅い呼吸で喘ぐ自分に気付く頃には過呼吸になったのか、眩暈に襲われ椅子ごと倒れそうになる。 背後の浩大が椅子を押さえ込み、頬を叩くと廚は意識を取り戻した。 
笑顔が消え無表情で見下ろす陛下に、正気を取り戻した廚は背を正して真摯な表情を向けた。

「へ、陛下っ! 申し開きは無駄だと承知しておりますが、衷心により乎東国王女様との婚姻に関する話し合いを勧めようとしたことは御理解下さい! 国境河川での取引も、王女を我が国へ招き入れる策のひとつだと御考え下さいませ。 王女との婚姻は今後の国交に大きな利益を生じるはずで御座います。 強いては国のためと動いた結果、暴挙に及んでしまったことは・・・・ どの様に捉えて頂いても結構です。 ただ、私の父も親族も、陛下の為にと今まで心から御仕えて来た事実を鑑みて頂けたら、それだけで私は思い残すことは御座いません!」
  
椅子を押えていた浩大は目を瞠り、滔々と語り出した廚大臣を凝視した。 
自白剤で自分が何を喋ったのか忘れているのか、それとも解かっていてそんなことを喋っているのか、正気を取り戻した途端にみせるその態度に、心底驚いてしまう。  
どす黒い冷気を醸し出している陛下を前にして意識を失いそうになった癖に、流石大臣まで登りつめた男は違うなと別次元で感心してしまう。 しかし同時に陛下を解かっていない彼を憐れにさえ思った。 親や親族がどのような実績を上げようと、過去陛下が流された事実は無い。 
それを目にしていないのか、自分だけは特別だと思っているのか・・・・・・・・・。
他の高官や武官は項垂れ、これから訪れる現実を理解しているというのに。

「ただ、私の衷心だけは御疑い無きよう・・・・」

最後の決め台詞を伝えた廚大臣はそのまま静かに項垂れる。 その大臣を陛下は冷たい視線で見下ろし続けた。 息を詰める周囲の者達の様子など、廚大臣には全く解かっていないだろうと浩大と李順は互いに視線を合わせ、小さく息を呑んだ。 

廚の語る言葉を無表情で聞いていた陛下は無言のまま、ゆっくりと他の者の元へ足を向ける。 
足を向けられた人物の唇は戦慄き息を吸うのみで、徐々に背後へと反るような体勢になっていた。 陛下が足を止めると 「ひぃっ!」 と小さな悲鳴をあげると同時に一人が気を失った。

「・・・・浩大、水を」

倒れた人物に水を掛けるが意識を戻すことなく、浩大が背後から活を入れて正気に戻す。 
彷徨う視線の先に陛下を捕らえると、蒼白な表情で全身を震わせ出した。

「我が妃の頬に・・・・ 傷をつけたのはどちらだ?」

二人の男は同時に頭を下げたが、片方の男がちらりと傍らの男に視線を向けた。 瞬時傍らの男の耳が飛び、向けた視線の先で鮮血が迸るを目の当たりにした男が悲鳴をあげた。 

「私の言葉が聞こえぬのなら、それは必要が無いだろう?」

いつ抜刀したのか速過ぎて解からなかったと浩大が顔を顰める。 表情を落とした陛下からは冷酷な様子が窺えるだけで怒気は一切感じられなかった。 
それがより恐ろしいと李順が視線を男たちへと向ける。 廚大臣の親戚筋から話を請け負った町のならず者だと調べは付いている。 彼らが受け取った大金も回収済みだ。 ならず者が二人、町から消えようと誰も咎める者も心配する者も居ないだろう。 
・・・・・・それに、これが彼らの役目なのだ。

「ひぎぃいいいっ! わっ、私が傷をっ・・・・ も、申し訳御座いませんっ!」

後ろ手に括られているため傷を押えることも出来ず、顔を歪めながら血に塗れた顔をあげて謝罪を叫ぶ男たち。 首を少し傾げた陛下は手にしていた刀を地面に突き刺すと、浩大に片手を差し出した。 無言のまま浩大が小刀を渡すとそのまま男の前で片膝をつき、激しい痛みに顔を歪める男の頬を刃先で撫でる。

「・・・・我が妃と知ってのことか?」
「そっ、そうです! てっ、手荒に扱ってもいいと・・・。 犯して、穢して、王宮に戻れなくなるよう仕向けて欲しいと依頼があったんです! にぃ、逃げるから・・・・ 押さえ込む為にっ!」
「もっ、申し訳御座いませんでしたっ! いっ、命だけはお助け、お助け下さっ・・・!」

撫で回していた頬に紅い筋がすうっと付けられる。 新たな傷に硬直した男を見つめながら、その切っ先は隣の男の頬へ突き刺さった。  

「あがっ!」  

頬から口の中へ刃先が沈み込み、男は驚愕の表情で白目を剥いた。 
浩大が 「あー、もうこっちは喋れないね」 と呟くが陛下の表情は変わらない。 小刀は白目を剥いた男の頬から唇へと横滑りし、そのまま耳を斬り落とされた男の膝へ突き刺さり、二人の絶叫が房に響き渡った。 
高官らが顔を背け、喘ぐような呼吸を繰り返しながら縋るような視線で刑吏を強く見つめる。 見つめたとて望むような言葉がある訳ないと知りつつ。 

眉すら動かさず立ち上がった陛下は武官へと近付いて行く。
覚悟を決めていたのか、武官二人は低頭し額を地面に擦り付けていた。

「・・・・高官より指示を受け、金に目が眩み・・・・・ 正妃様拉致を実行致しました」
「己の一族郎党、罪に問われると知っての所業か? 禁軍の武官であるお前達が? ・・・・右軍指揮官の監督不行届きとして将軍も共に罰することも考えなかったのか」
「堵将軍には・・・・・っ! 堵将軍には何の咎も御座いません! 金に目が眩んだ自分が全て悪いのです! どっ、どうぞ処分は如何様になさっても構いませんっ!」
「将軍には何の罪も御座いません。 我らの罪は我らが償います故、ど、どうか!!」

蒼白な顔をあげた武官は必死に願い申し立てるが、そこへ刑吏に連れて来られた堵将軍が姿を見せる。 彼も武官同様蒼白な顔色で房へと近寄ると、震える手を胸の前で合わせ低頭した。 李順が 「説明は聞いておりますか?」 と尋ねると苦渋の表情を浮かべた後、堵将軍はしっかりと頷いた。 武官らが戦慄く口から 「将軍、申し訳・・・・・」 と呻くように呟く。
陛下が静かに立ち上がり、血の滴る小刀の切っ先を武官へ向けながら将軍へ尋ねる。

「己の部下の不埒な行い、如何責任を取るか。 右軍指揮官 堵将軍、返答を願おう」
「・・・・私が責任を取り辞した上、如何様にも罰を受けさせて頂きます」
 
その言葉を聞き、武官らが短い悲鳴をあげる。 ここに来て自分たちの愚かな行動の結果が理解出来たようで、愕然とした表情で将軍を見上げ、そして力なく蒼白な顔を項垂れた。

「陛下っ! ・・・・宜しいでしょうか?」

李順が息を整え、大きな声で陛下を呼ぶ。 無表情の陛下の傍に寄るには意識をこちらに向けさせないと痛い目に遭うと重々承知の側近は、陛下と視線が合うまで息を詰めた。

「・・・・何だ? 李順。」
「お手数ですが、房の外へ。 ・・・・陛下、内乱後禁軍を纏め上げた将軍の一人を失うのは時期尚早です。 将軍は未だ居て貰わねばならぬ人物の一人。 他の案をお願いします」
「・・・・・軍の頭として責任を負うのは、至極真っ当だと思うのだが?」
「時期尚早だとお伝えしております。 彼の人柄は右軍に於いて必要なのです。 どうか、他の案をお願い致します。 他武官への影響も懸念されます故、今暫らくは」

片眉を上げた陛下は暫らくの間蒼褪めた顔色の側近を黙したまま眺めていたが、小さく息を吐くと頷いた。 李順から離れ、房内へ戻って来た陛下は堵将軍を見下ろす。

「・・・・堵将軍、辞するのは中止だ。 己の部下の刑はお前が執行しろ」
「・・・・御意」

その言葉に胸前で合わせていた手を解き、腰の刀へと伸ばした。 
顔を歪めた武官が揃って頭を下げると同時に刀が大きく左右へ動き、直後血飛沫が天井にまで届く。 そして声も無く倒れた彼らの首元へ止めを刺すと、陛下の前に跪き刀を背後へ置いて低頭し、将軍は改めて謝罪を告げる。

「流石、見事な刀捌きだ。 ああ、血を濯ぎ終え軍に戻ったら他の武官が動揺せぬ程度に説明しておけ。 お前自身は時期をみて責任を取らせるから勝手に自害などするなよ。 それも反逆罪になるからな。 それまで今まで通り私に仕えよ。 ・・・・以上だ」
「御意。 心して陛下に御仕え致します」

刑吏が用意した水甕と手布で大刀や武具に飛び散った血を拭い、最後に顔や手を洗い流した将軍は、陛下に拱手して房から姿を消して行った。 その後 刑吏らが物言わぬ武官の身体を戸板に乗せ、ゆっくりとした動作で房の奥へと運び去る。


______そして房内は一変した。 

高官らは口角から泡を吹いて意識を失い、廚大臣は失禁の上意識を失った。 男達は覚悟が決まったのか強く目を瞑り息を潜めていた。 
陛下が次の獲物へと視線を巡らせていると、李順が 「陛下、御時間で御座いますっ!」 と大声で叫ぶ。 邪魔をするなという視線が返ってくるが、李順は肩を竦めて溜め息を零す。

「夕・・・・ 御正妃様とお約束があると伺っております。 一度湯殿へ行き、お着替えをされてから 部屋へ御行き下さい。 要らぬ心配はさせぬように・・・・」
「ああ、夕餉を共にすると約束をな。  ・・・・では、奴らには己が何を仕出かしたかを心に刻む時間をくれてやるとしよう。 くれぐれも自害などさせぬように刑吏に伝えておけ。 ・・・・李順、浩大。 私はそのまま妃と共に休むから、お前らもゆっくり休め」
「御意。 そうですね、昨夜はそれどころでは有りませんでしたからね」

片手を振って去って行く陛下を見送った後、李順は刑吏に指示を出し始めた。 浩大が首を傾げながら刑吏と共に一人ずつ個別の房へと移動させる。

「浩大、何か疑問でも?」
「いや~、李順さんでもお妃ちゃんに気を遣ってるんだな~って。 時間掛かる面倒事はさっさと済ませたい性格だと思っていたよ。 なのに明日に持ち越しさせるんだって」
「・・・・・陛下は昨夜お眠りに為っておりません。 今日は早めに休んで頂き、明日の政務に支障が無いようにして貰わねばなりませんのでね。 その管理も大変ですよ」

ブツブツ言いながら去って行く側近を見送り、 「・・・・流石、仕事の鬼だね」 と褒め称える浩大は口元が妙に緩むのを抑えることが出来なかった。

「先を見据える李順さんが居てこそ狼陛下も安心して政務に励める訳か。 ある意味、李順さんってお妃ちゃんとは違った意味で最強の女房。 うん、賢妻だ。 ぷぷっ!」





執務室に戻る李順がくしゃみをしたか如何かは誰も知らない。







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2012-12-27 木 22:13:06 | | [編集]
Re: タイトルなし
まだ書き足りないのですが、余り細かく書くと引かれるかなと・・・・。 かなり抑えております。 じゃないと大変です。 嫌われちゃうわ、陛下も私も~! yuri様、嫌いじゃないって嬉しい! コメ、ありがとう御座います。
2012-12-27 木 22:40:22 | URL | あお [編集]
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2012-12-28 金 00:10:47 | | [編集]
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2012-12-28 金 01:03:17 | | [編集]
Re: きゃ~!!
こんばんはー! makimacura様、コメありがとう御座います。 ブラック好きですか。 じゃあまだまだ生温いですよね。 大臣をどの様に料理しようか悩みますわ~。 もう少しで終わりますので、お付き合いお願いします。
2012-12-28 金 01:19:13 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ななすけ様、コメありがとう御座います。 暗黒、ブラック、まっくろくろすけ、混沌、いろいろな陛下の呼び方があって参考になります。 浩大は大臣に係わる時にちょっくら御出座し願おうかと思っております。 今回は陛下中心で。 次は夕餉になります。 どうしようか思案中で御座います(汗)
2012-12-28 金 01:22:51 | URL | あお [編集]
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2012-12-28 金 01:30:05 | | [編集]
李順姑さすがです!
大臣はジワジワといたぶって絶命すればいい(#`皿´)
自分の番がくるまでの数時間(数十時間かな?)恐怖に戦け!!
(嫌いなキャラが、ヒドイ目にあうのは、読んでてスッキリします(^^))

重いシーンの中、浩大と李順さんの会話に笑みかこぼれます(*^^*)
李順さんにとって一番恐いことは、政務に支障が出る事ですからね!
次回の夕食回、楽しみに待ってます!!
長文、失礼致しましたm(__)m
2012-12-28 金 07:53:11 | URL | ダブルS [編集]
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2012-12-28 金 10:24:09 | | [編集]
Re: ひゃー!
ビスカス様、コメありがとうです! 男性陣って実は細かく気配りできる人たちばかりなんですよね。 じゃなきゃ政務に携わるなんて出来ませんものね。 李順さんてコンシェルジュっぽい気がする。 なんでも出来そう! 常務タイプ、参謀タイプ。 李順さん、いい男ですよね~~~! あんだーも読んで頂けて嬉しいですわ。 ありがとー!


2012-12-28 金 11:38:36 | URL | あお [編集]
Re: 李順姑さすがです!
ダブルS様、コメありがとう! 勘違い大臣さんは現代社会で言うところのまあ「ぼんぼん」「三代目坊ちゃん」「親の権力を笠に着る勘違い権力志向」 ってところかな? 彼も最後に向かって頑張って貰いたいです!(笑)
2012-12-28 金 11:47:17 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、お仕事お疲れ様でございます。 寒い時期ですので温かいところで身体を休ませてのんびり御過ごし下さいませ。 コメ、ありがとう御座います。 よいお年を~!
2012-12-28 金 11:54:40 | URL | あお [編集]
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