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窮兎  3
うだうだ悩む夕鈴を書くのは楽しいです。 
少し動きますので、宜しければ妄想劇場にお付き合い下さいませ。



では、どうぞ。














政務室で団扇で口元を隠しつつ 『プロ妃』 を演じ続ける夕鈴は、高官や大臣たちの不躾な視線より、実は侍女さんの日々増していく熱い視線に疲れ果てていた。

衣装に関しても、髪飾りに関しても 『占者』 の話が出てから、侍女さんたちは明らかに今までより華美に設えようと張り切って動くから、夕鈴は妃らしく微笑みながら拒否をし続けている。 
「いつも通りにして欲しいわ」 とやんわり断るのだが、鏡越しにがっかりと肩を落とした寂しそうな侍女さんたちの表情が見えてしまい・・・・・。 
最終的には 「では、侍女さんにお任せ致します・・・」 と呟いてしまう自分が居るのだ。
衣装や化粧だけではない。
閨に関しても、香油を数種類増やしましたと報告され、懐妊に良いとされる御茶を用意したと報告され、月のモノの周期まで計算され、陛下が訪れようものなら卓に並ぶのはあからさまに 『精』 がつきそうな品が並ぶ。 いつの間にか寝所には怪しげな御札が貼られていたり、枕の色が変わっていたり、花瓶の位置まで日々違う。
 
・・・・・・精神的にひどく疲労する。
普通の後宮とはこういうものだと、老師が明るく笑うから、夕鈴は唖然としてしまう。
それが本来の侍女の仕事なのじゃから仕方が無いだろうと言われたら、黙るしかない。

妃が陛下の寵愛を賜り、御子を生す。 
その為に尽力するべく妃に付き従い、生す日まで努め続けるのが彼女らの仕事なのだと言われたら、『偽者妃』 としては閉口するしかない。 夕鈴もそれが仕事なのだから、寵愛を賜っている振りを続け、侍女の動きを良しとしなくてはおかしい。
それでも 『妃の微笑み』 を続けるのは疲労が増す。 

今日も侍女さんの悲しげな視線に負けたばかりだ。 いつもより上質な衣装や、いつもより少し濃い目の化粧を施しているだけで周囲の視線が纏わりつくように感じてしまう。 
政務室に居るより書庫の整理をしていた方がいいのかも知れないと立ち上がると、割りとよく話す官吏が何かを覗き込んでいるのに気付く。 挨拶をしようと近付くと 「お妃・・・・」 と呟くのが聞こえた。 また怪文書でも回っているのかと、背後からそっと窺うと彼らが持っている紙に何やら箇条書きで 『噂』 の現実が書かれているのが見える。 
無言で手を差し出し、その紙を取り上げると、驚いた顔の官吏二人が振り向いた。

「おっ、お妃様っ! そ、それは・・・!」
「・・・・・ふぅん。 本当に 『賭け』 が横行しているのね。 陛下が御存じとは言え、仕事中にこんなの見ていると恐ろしい目に合うわよ。 ・・・・これ、貰ってもいい?」
 
ぴらぴらと紙をひらめかすと、二人は互いを見つめた後、肩を落として小さく頷いた。

「すいません・・・・。 でもそれは、私たちの物ではなく、先ほど拾った物で御座います。 他にも同じような内容の紙面が回っているそうですが・・・・」
「うん、でしょうね。 貴方たちは賭けに乗らないでね。 ばれたら、きっと大変よ?」
「はい、存じております。 興味本位で見て居ただけですので大丈夫です」

夕鈴が他言するような人物ではないと知っている彼らは小さく頷くと政務に戻るために離れて行った。 彼らの姿が見えなくなってから、その紙を折りたたみ、夕鈴はそっと懐に忍ばせる。 
多分、李順さんも陛下も知っているだろうから敢えて渡す気はない。 
夕鈴はそのまま普段誰も使用しない第4書庫へ足を運んだ。
古い文献しかないこの書庫は他の部署の者が来ることはめったに無く、周宰相くらいしか来ないだろう。 一応周囲を窺ってから、侍女を廊下に待たせて一人中に入る。 書架がずらりと並ぶ、その最奥へと足を進め、懐から折り畳んだ紙を取り出し広げる。



  御懐妊予定  春  夏  秋  冬 
  御出産     御男子  御女子 
  賭け金    ___________


部署名と誰が記したか判らないような印を付ける欄が設けられており、書き終えたら、それを誰かが集めるのだろう。 両手を広げたくらいの紙には他に記載が無く、これから書かれるものか、捨てられたものなのか判らなかった。 
賭け金と書かれた欄には上限が無いのか、下線のみで好きに書けるようになっている。 
つまりは貴族の暇つぶしの一環にされているのが分かる。 大きく賭けて大きく儲けるもよし、小さく手堅く賭けるも良し。 夕鈴が嫌いな 『賭け』 だ。 
思わず借金を悪びれもせずに何度も繰り返す父親のとぼけた顔が浮かんできて、憤怒の余り壁を蹴り上げた。 侍女の前では絶対に見せられない姿だ。 
判っているから人が使用しない書庫を選んだのだ。

期待するのは別にいいけど、未来永劫、結果なんか出る訳が無い。 
真面目に仕事しない輩は、いつまでも勝手に盛り上がっているがいい。
そんなのは私の仕事範疇には無いんだから。
それはちゃんとした、本物の、正規の、歴とした貴族子女が陛下の元に嫁がれてからの話だ。
『バイト』 で 『偽者』 で 『臨時花嫁』 の私の仕事じゃない。 
借金まみれの庶民には関係の無い話だ。 それどころか借金返済がいつ終わるか知れない、『嫁き遅れ』 まっしぐらの下町庶民だ。 

・・・・・・・・・・・あ、駄目だ。
自分で言って、自分で落ち込みそう。

それ以上考えるのを止めて、夕鈴はその紙を丁寧に畳んだ。 涙目になる前に、小さく小さく畳んで懐に仕舞い込む。 自分で判りきっていることに今更落ち込むのはないだろう。

しかし実際にその紙を見てから知らず溜息を吐くことが多くなっていた。 紙はすぐに丸めて捨ててしまったが、自分には関係の無いことだと無視するには、陛下に恋していると気付いてしまった立場としては、必ず来る別れと、別れの後に訪れる見たくはない現実に対して、溜息くらいは零してもいいだろうと思っていた。
そしてその溜息が後に問題となることなど、今の夕鈴は知る由もない。


「最近、お妃様は物憂げに溜息を吐かれることが多いですわね。」
「食欲も落ちておりますわ。 これって・・・・・・」
「占者の見立ては如何ですの? 女官にどなたか伺っておりませんの?」

侍女の囁きはあっという間に広がることとなった。





いつものように侍女の悲しげな視線に負けて、夕鈴が華美な衣装で政務室に向う途中、団扇を忘れてしまったことに気付いた。 高官や大臣の視線除けに重宝する為、侍女に取りに戻らせたのだが、もう一人が 「今日は寒いですので、厚手の霞帔をお持ちします」 と追い掛けるように夕鈴から離れて行った。 
侍女さんたちは政務室には入れないのを知っている夕鈴は、政務室近くまで移動して回廊の角で戻ってくるのを待つことにした。 確かに最近寒さが増している。 肩をさすりながら立ち竦んでいると、いきなり背後から押された。

「あっ、きゃっ!」

背後というか、腰から思い切り押し出される形で回廊に倒れ込んだ夕鈴は、すぐに起き上がると背後に視線を向けた。 冬用の衣装のおかげで何処も怪我することは無かったが、体を庇った時に肘と膝を強かに打ち付けた。 もちろん、故意に押されたことは理解した。 すぐに起き上がって角の向こうを覗くも誰の姿も見ることは出来ない。
ここ最近は感じなかった悪意を感じて、背筋を嫌なものが奔る。 
夕鈴は軽く衣装の汚れを払い、手摺を背に立ち、緊張した面持ちで周囲を窺う。 

・・・・何で急に? 陛下に何かあったのかしら・・・・。 大臣からの嫌がらせにしては、あからさま過ぎるような気がするけれど、何か他に意味があるのかしら。

「お妃様、お待たせ致しました。 御寒かったで御座いましょう」

侍女が団扇と霞帔を持ち戻って来て、夕鈴は思わず安堵する。 
そして息を深く吸い、『プロ妃』 を思い出し、何があっても上手く演じようと背筋を伸ばした。 
『プロ妃』 の他に 『囮』 としても雇われているんだと思い出し、夕鈴は周囲に嫣然とした笑みを見せながら政務室へと足を運んだ。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:15:10 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
1,2,3読みましたよ(*´▽`*)

続きがきになります!
楽しみにしてますね♪
2013-01-11 金 02:21:57 | URL | 陽向 [編集]
陛下が見てたらいいのに…
阿室と書庫の夕鈴の暴れっぷりで、手足痛めて陛下に手当てされればいいなぁと想像しました(笑)
本編と関係ない想像…

しかし、回廊での出来事は浩大が見て、陛下に報告したら…
大袈裟手当て来そう(///∇///)

でもまずは、政務室での方淵との睨み合いですかね?
頑張れ夕鈴!!\(^o^)/
2013-01-11 金 22:04:19 | URL | ダブルS [編集]
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2013-01-11 金 23:27:37 | | [編集]
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-01-12 土 11:10:27 | | [編集]
Re: タイトルなし
陽向様、コメありがとうございます。読んで頂き、感謝です。宜しければ最後までお付き合い下さいませ。
2013-01-12 土 21:15:17 | URL | あお [編集]
Re: 陛下が見てたらいいのに…
ダブルS様、コメうれしいです~! 次は陛下も浩大も出ないのですが、お付き合いお願い致します。
2013-01-12 土 21:17:40 | URL | あお [編集]
Re: や…やっぱり?
makimacura様、コメありがとう御座います。溜めて読むまで、進まなくてすいません(汗) 御想像通り夕鈴痛い思いを致します。 あんだーも頑張って書かせていただきます。 泉水が温で嬉しいなという話です(爆)
2013-01-12 土 21:35:35 | URL | あお [編集]
Re: チクチク
ビスカス様、コメありがとう御座います。 う~ん、寝台で抱っこする陛下。萌えますね~!!GJ! まあ、バイト夕鈴では無理があるかな? (・・・って過去何度も書いてますが・・・:笑) 次の次で陛下が出てきますので、お楽しみ頂けたら嬉しいです。 
2013-01-12 土 21:38:15 | URL | あお [編集]
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