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水難の相  7

夕鈴には甘い陛下全開です。 最初の方向とまるで違ってきてしまい、頭の中があわわわ状態です。 これはやっぱり本誌の影響でしょうか(笑) こんな陛下ですが、それでも良いよと言って下さる心の広い方、お目汚しにどうぞご覧下さい。


では、どうぞ。 













まずは掴まれた手を外して欲しいと願い出たのだが、陛下はしっかりと握り締めたまま、決して離そうとはしてくれなかった。 
夕鈴が涙目で 「説明をさせて下さい」 と訴えると陛下は手を掴んだまま微笑んだ。

「このままでも説明は出来るだろう。 まず、どうして見合いの場へと君が行ったのかを説明して欲しい。 浩大からの報告だと予定していた侍女が倒れたそうだが?」
「・・・・たぶん緊張し過ぎたのだと思うのですが、急性胃炎だと町の医師が言ってました。 馬車の前で倒れたので、そのまま馬車に乗せて医家に連れて行くことしか思いつかなくて。 それから侍女さんが倒れたことを告げに行ったのですが、何故か衣装を着せられ、水月さんに会って説明したところに縁談相手の方が来てしまい・・・・。 そのまま流れで演技を始めてたんです」
 
項垂れて説明をする夕鈴の頭上から、陛下の溜息が聞こえた。

「演技って・・・・ どんな事をしたのかな?」
「浩大から聞いているんでしょう? そのままですよ、聞いた通りです。 私がしたことに関して、水月さんや紅珠を怒ることだけはしないで下さい。 私があの場に行かなきゃ水月さんも演技はしなかったし・・・・。 そうですよね。 私が行かなきゃ水月さんのことは紅珠が如何にかしたのかも知れない。 私が余計なことを・・・・・・・」

ゆっくりと顔を上げた夕鈴のまだ紅が残る唇が震え、蒼褪めた顔と潤んだ瞳が胸に痛い。 
最後の方は囁くような小声になり、揺れる視線が彼女の動揺を物語っている。 
掴んだ手が小刻みに震えているのが解り、僕は夕鈴の手を強く握り直した。   

「ね、夕鈴・・・・ 落ち着いて」
「陛下、わ、わたし・・・・。 水月さんや紅珠に迷惑だけは・・・・ 掛けられません。 あの二人に迷惑が掛かるなんて、そんなことになるくらいなら私が全責任を取ります。 いえ、責任を取らせて下さい! 私を直ぐにでも首にして下さいっ! もちろん借金はきちんと返済しますからっ!」

夕鈴は掴まれた手を振り払い、長椅子に両手をついて陛下を見上げた。 
隣に座る陛下は眉間に皺を寄せて夕鈴を見つめたが、水月、紅珠にだけは迷惑を掛けられないという彼女の固い意志は曲げられないようで、浩大からの報告以上を知りたい陛下は口を尖らせる。

「・・・・僕が聞きたいのは、夕鈴が水月にどんな演技をしたかだよ」
「ですから浩大から聞いている通りです。 お妃演技だって上手く出来ないのに、恋人役の演技だって同じですよ。 大したことなんか出来る訳・・・・ ないもの」

口を尖らせた小犬陛下を前にしても、夕鈴は演技の内容を教えてくれない。 
浩大から聞いたのは_______ 

『王宮から出ようとした侍女が突然倒れ、お妃ちゃんが馬車に侍女ごと乗り込んで町に行った。 医家に寄った後、料亭に行って何故か貴族子女みたいな衣装を着て、水月に会って説明らしきことを話し出した途端、邱親子が現れて突然恋人演技を始めた。 そしてそのまま肩を掴まれて料亭内に入って行った。』 

_______までだった。 

浩大の報告を聞いた陛下は李順の目を盗んで隠密に馬の用意をさせ、大量の書簡をある程度片付け、暫し休憩に入ると抜け出した。 料亭から戻ってきた時、李順は新たな書簡を周宰相のもとから運んでいる最中で、嫌な顔をしたら普段と変わりなく睨まれた。 
たぶん、その様子では彼は気付いてはいないだろう。
王宮から離れていた時間はたぶん二刻ほどだ。 自主的に休憩に入るとそれくらいは姿を消すことがあるから、李順もいつものことと思っている筈だ。
だから夕鈴が心配する 『首』 にはならないのだが、涙目で震える兎は恐ろしいほど落ち込んでいて話を聞こうとしない。 このままの状態で放置すると勝手に李順にバイトの退職届を出しに行くかも知れない。 それは駄目だと、僕は椅子に置かれた夕鈴の手を包み込んだ。 

「・・・・夕鈴、先に心配事を消しておくよ。 李順は夕鈴が王宮から離れたことを知らない。 だから安心してお嫁さんを続けて欲しいんだ」
「え・・・? 李順さん・・・・・ 知らない・・・・?」

彷徨っていた視線が僕の言葉でゆっくり戻って来た。 ひと言ひと言呟くように飲み込んで、それでも眉根を寄せて僕を見つめている。 

「李順は僕が抜け出たことも、君が王宮から離れたことも知らないんだ。 だから安心して。 ね、泣かなくていいから僕のお嫁さんでいて。 夕鈴が責任取る必要はないから」

慌てて髪を結わえたのだろう、僕の言葉に俯いた夕鈴の髪が解けて下へと流れて落ちる。 
誘うような香りが広がり、思わず手を伸ばしそうになった。 
きゅっと手を握り締めると、ゆっくりと顔を上げた夕鈴からはまた涙が零れていた。

「泣かなくていいから、夕鈴。 ね、安心してお嫁さんでいて?」
 
手布で顔を隠した夕鈴はしゃっくり上げながら何度も頷いて 「ごめんなさい」 と繰り返すから僕は君を胸へと抱き込んだ。 いつもと違う香油が香り、溜息が零れる。

本当は怒りたかった。 
料亭内に駆け込んで、水月から夕鈴を奪取したい衝動を抑えるのが辛いほどだった。 
しかしその後を考えると、あの場では夕鈴が出てくるのをじっと耐えるのが正解だと解っている。 だから隠密から氾家息女が水月の元に現れ、夕鈴が裏口から出てくると聞いた時は、僕との約束を破った彼女にどんな叱責をしようかと考えていた。 そして案の定、僕の顔を見ると君は蒼褪め、手を伸ばすと怯えるように身を竦ませていた。 
怯える君に躊躇し、伸ばした手は君の頬を抓っていた。 
だけど、いっそのこと抱き締めたら良かった。 
怒気を孕んだ声色に怯えるのは判るけど、「政務が心配」 とか 「李順からの叱責」 とか、僕の心配を判ってはいない様子に余計冷たい声色になるのを抑えることが出来ないでいた。

狼陛下で問い詰めても君は答えないだろうし、侍女が倒れたのも聞いているから夕鈴の行動の流れも何となくは理解出来る。 小犬で懐柔して、反省して貰った方がいいかなと夕鈴の自室に足を向けたら 『几鍔にお金を借りて、バイトを止める』 と言い出していた。
氾家息女邸に家出した方がどれだけマシか!
李順が気付いていないのだから、バイトに問題はないのだ。
・・・・ただ、僕が面白くないだけだ。 

更に面白くないのは演技の内容。 縁談阻止の為に 『偽恋人』 を演じる。
『臨時花嫁』 でぎこちない演技をする君が、水月とどんな演技をしていたのか気になるのに、君は教えてくれないし、浩大は侍女の確認と報告のための移動に時間を取られ、殆ど把握していないと言う。 一度王宮に来た後、もう一度料亭に行ったはずなのだが、庭での散策中に水月を囲んで言い合いが始まったという報告が最後で、その 『いちゃいちゃ演技』 がどの程度なのか全く判らない。
判らないから氾水月に対して、どんな態度に出てしまうか判らない。 
水月を見た瞬間、奴が怯えるような視線で見つめてしまうだろうことは承知しているから、心の準備として先に知っておきたいと思うのだが、夕鈴は口を割らない。

「ねえ、絶対に氾家の二人には責任を負わせることは無いから、どんな演技をしたのか、僕に教えてくれる? 水月の妹って前に読んだあの巻物を書いた・・・・ 氾家息女だよね」
「・・・・・っ!」

夕鈴が僕の胸の中で大きく震えるのが伝わった。 以前、夕鈴の部屋に置かれた書簡を何気なく見てみると、普段の夕鈴からは想像出来ない内容の物語。 こういうのが好きなんだと目を通したが、その後激しく頭を振り回し泣き騒いでいたから、たぶん君の趣味ではないと思えた。
震える肩を掴んで夕鈴の顔を覗くと、真っ赤な項と耳が見えた。
それだけで嫌な想像が僕の頭を過ぎる。

「・・・・水月に肩を掴まれて料亭内に入ったのは知っている」
「・・・・恋人役ですから」
「・・・・水月と手を握っていた」
「・・・・恋人役ですから」  
「・・・・水月と見つめ合っていた」
「・・・・恋人役ですから」
「・・・・水月に好きって言った」
「・・・・以下同文」

それだけで此処まで紅くなるのかな? 縁談阻止の為の恋人役なら多少は過剰な演技になるだろうけど、夕鈴相手じゃ水月も手が出しにくいだろう。 出したら斬首となるのは想定しているだろうし、夕鈴だって過剰な演技は出来ないだろう。 
・・・・僕とは上手く演技出来ないだけで本当は・・・・?
いやいや、夕鈴に限って。

「水月に抱っことか、頬に口付けとか・・・・・」
「そ、そんなの出来る訳ないじゃないですかっ! 氾家の長子なんですよ? それに演技とは言え、水月さんがそこまでする訳ないでしょう。 陛下みたいに演技出来ませんよ!」

夕鈴は真っ赤になって大きな声でそれを否定した。 
口付けと言われて驚いたが、膝上抱っこと聞かれたらきっと動揺して露呈していただろう。 
狼陛下唯一の妃にそんな事をしたと分かれば、水月さんは出仕拒否どころか白陽国から出国するかも知れない。 そう想像するだけで真っ赤だった顔が蒼褪めていくのが自分でも判る。
本当はただの庶民相手に歴史ある名家の長子がそんな破目に遭うのは余りにも酷い。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:37:37 | トラックバック(0) | コメント(16)
コメント
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2013-01-28 月 02:53:48 | | [編集]
は〜っ!

相変わらずめちゃくちゃ面白いです(笑)
やきもちやきもちで、イチャイチャして欲しいです!
夕鈴を好きでたまらない陛下の気持ちを読めて幸せでっす!
寒さに負けず頑張ってください。
我が家は子供2人インフルになりました。あおさんは嫌ってほど手洗いうがいしてくださいね!
2013-01-28 月 07:06:15 | URL | 希望 [編集]
陛下は演技の内容を聞き出せるのかしら?これ以上無理そうですよね・抱っこが露呈しなくて、水月さんの首はかろうじてつながっているかな?今はまだ…
浩大も報告の為に抜けていたのが、良かったのか悪かったのか…
続きが大変気になります・楽しみに待てしています・
2013-01-28 月 07:17:44 | URL | ともぞう [編集]
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2013-01-28 月 13:22:16 | | [編集]
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2013-01-28 月 17:15:27 | | [編集]
陛下…不憫(笑)
夕鈴の頭の中では、陛下は心配してないとでも思ってるのかな?
どこまでも演技だと思い込んでる夕鈴…
陛下の想いが届くのはいつの日かなぁ

そして、尋問?にいつまで耐えられるのかな、夕鈴?

次回も楽しみに待ってます\(^o^)/


2013-01-28 月 20:10:12 | URL | ダブルS [編集]
Re: 怒れなかったか…
makimacura様、コメありがとう御座います。 陛下は泣く夕鈴には敵いませんよね。 泣かせるのも好きですが、泣かれるのも辛い。 もう、SなんだかMなんだか。(笑) 水月さんは何処に行かれるのでしょうね。楽しみです。
2013-01-28 月 21:14:34 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
希望様、コメありがとう御座います。お褒め頂き嬉しいです。 インフルエンザ、お大事にして下さい。 今年は本当に流行してますよね。 一時より落ち着いて来たと思ってから、流行して来てるし。 希望様も移らないようにお気をつけ下さいませ。
2013-01-28 月 21:18:03 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ともぞう様、コメありがとう御座います。 演技の内容が知りたい陛下の涙ぐましい努力の姿。今回、皆様に笑って頂けてとても嬉しいです。 水月さんの首が心配とのコメントが多く、ひとりニヤニヤしております。 本当に嬉しいです~! ありがとうです!
2013-01-28 月 21:22:46 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
こうやどうふ様、コメありがとう御座います。 お忙しいとのにコメ頂けて嬉しいです。 でもお仕事と家族が一番ですよ。 お子様が熱出されたとのこと、お大事にされて下さい。 もちろん、移らないようにしっかい手洗い、うがいして用心されて下さい。 早く治りますように。 そして紅珠が認めるお嫁さんが来るのは、いつ日になるのでしょうかね。

2013-01-28 月 21:35:46 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。 今回は長文で、元気なったとの報告もあり、嬉しく思います。 本当に良かったですね。 自分よりも思うようにならない子供の方が心配になりますもの。 そろそろまとめになります。 水月さんが無事に出仕出来るようにお祈りをお願い致します。(笑)
2013-01-28 月 21:46:05 | URL | あお [編集]
Re: 陛下…不憫(笑)
ダブルS様、コメありがとう御座います。親の心、子知らず。 そうですね、陛下と夕鈴ってそんな感じです。尋問に耐えられるか、夕鈴。 頑張れって応援するのは夕鈴に? それとも陛下に?
2013-01-28 月 21:47:31 | URL | あお [編集]
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2013-01-28 月 23:10:58 | | [編集]
Re: タイトルなし
ユナ様、コメありがとう御座います。 甘い陛下も意地悪な陛下も、どちらも夕鈴にとっては大変な相手ですよね。 翻弄される夕鈴が大好物です。 そして次はあんな陛下が出てきます。
2013-01-29 火 01:07:21 | URL | あお [編集]
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2013-01-29 火 01:18:09 | | [編集]
Re: タイトルなし
ダブルS様、再びのコメありがとう御座います。 次の話で場面転換しますので、宜しければお楽しみ頂きたいです。 SとM、どちらがお好みですか??
2013-01-29 火 01:34:02 | URL | あお [編集]
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