スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
ユーリ  1

以前の 「錯視5」 で冒頭で書いたように、問い合わせ(?)があり、思わず書きたいと妄想した 「パラレル」 作品、「泡沫人の羽衣」に出てくるオリジナルキャラのユーリが主人公の話です。
現代版の  【黎翔 X ユーリ】です。 
おまけというか、続きというか。 お好みがあると思います。 お暇な方のみ、ご覧下さい。 
こちらの黎翔さんは陛下とは全く違うということだけ御了承下さいませ。 



では、どうぞ。 














「申し訳御座いませんが、お渡ししたい書類が御座いますので、67階のH会議室でお待ち頂けますか?」
「はい、わかりました」

珍しいと思った。
他部署の書類を受け取る時は予めウォルターから指示があり、その部署の担当者が経理部に来るのが常だった。 経理部だけでも部門数にあわせていくつものセクションに分かれており、ユーリが足を運ぶ第三経理部から第七経理部の他は逆に立ち入り禁止だ。
メッセンジャーや通常の書簡で郵送出来ない、特殊な書類を直に運ぶ仕事も既に一年経過し、それなりに慣れては来たが、その慣れが怖いと、最近身を以って知ったことだ。


三週間程前、ユーリが珀コーポレーションから書類を受け取り会社に戻る途中、フードを深く被った、如何にも訝しい人影が近付いて来た。
その気配にユーリは持っていた書類ケースを胸に強く押し当て両手で覆う。 
万が一を考え、足早に人が多い場所へと移動するが、背後のその人物は鬱陶しい雰囲気を醸し出しながら、自分に近付いてくるのが判った。
時期が時期だけに他社のスパイか、妨害しようとするどこかの社の動きだろう。
それと判らないように社員らしくないという理由で私が起用されているのだが、一年も経過すると限界も来る。 そろそろこの仕事とはお別れが近いということだろう。 他にも担当している仕事があり、書類運びがメインな訳ではないが、顔見知りになってスムーズに書類の受け渡しが出来るようになって来ただけに正直悔しい気持ちが湧き上がる。

大きく息を吸い悔しい思いを吐き出した時、横から手が伸び、書類ケースに指が掛かった。
学生時代から古武術を習っていた私は反射的に体が反転し、後ろ足で人物の身体を薙ぎ払う。
呻き声を上げて体勢を崩した人物の脇腹に膝蹴りをし、膝が折れた処に畳み掛けるよう腰へ体重をかけて掌底を喰らわす。 止めに頚部に踵落としを見舞った。
一連の動作は暴漢対策に何度も習得させられた流れの為、自然に身体が動いていた。
地面に呻きながら横たわる男を視界に捕らえながら、書類ケースをしっかり確認して息を吸い込んだ。 内股でそれなりの体勢を整えると、目を強く瞑る。 

「きゃあああああっ! こぉーわぁーいぃーっ!!」

最後の仕上げにか弱い女性の “悲鳴” を声高々に盛大に叫ぶ。 
直ぐに周囲の男達が集まり、倒れた男を捕縛し警察へと連絡をしてくれた。 
その人ごみの中、ユーリは一目散に会社の中へと走り込む。

「・・・・・やばい。 遣り過ぎたかも・・・・!」
「確かにあれはちょっと駄目だろう。 直ぐに逃げて正解だな。」

ぎょっとして振り向くと几鍔が背後に立ち、呆れた表情を見せている。 頭を抱え込まれて直ぐにエレベーターに連れ込まれ、几鍔がユーリを隠そうとしているのが判った。 素直に従い、項垂れていると頭をくしゃくしゃと掻き回され、思わず口を尖らせて几鍔を見上げる。

「書類が無事なのはいいが、お前に怪我は無いんだろう?」
「ない。 背後にいるのが判ったから対応出来るように態勢整えていたし・・・・」

フロアに入り、ウォルターに書類を渡して報告を済ませ席に着き、がっかりと項垂れる。 
几鍔が後を追ように机に腰掛け、入れたばかりの私好みのコーヒーを差し出してくれた。 
顔を上げると 「ご苦労さん」 と言うから小さく頷くしか出来ない。 
ああ・・・・ 本当に遣り過ぎた。 何処の誰かは判らないけど、女性から書類を奪おうとする卑怯な輩だけど、最後の踵落としは止めておけば良かったかも。

「あの叫び声はもう少し・・・・ 女らしくというか、棒読み過ぎるだろう・・・・」
「そこなの? 言いたいことはソコッ?」
「まあ、ユーリに怪我が無いならいいよ。 習わせたのは僕だし、その為のものだからね。 でもそうか、ユーリの顔が知られて来たようだね。 そろそろ交代かな?」

やっぱりそう来るか。 
穏やかな笑みを浮かべながらウォルターが当たり前のように言うから、肩から力が抜ける。
判っていただけに何も言えない。 少し涙目になって上司の言葉に黙って頷くと、「直ぐではないけどね」 と声が掛かる。 それでも決定事項なのだと思うと、少しだけ悔しい。 
他にも仕事があるし、書類の受け渡しだけが仕事ではないが・・・・・・・・。

「会長に会う機会は出来るだけ多い方がいいだろうけど。 ・・・・ごめんね。」
「いえ! あそこで会う方が珍しいですし、それに仕事中に会ったとしても会釈くらいで会話なんてしません! それは・・・・ ちゃんと、それは区別してますから」
「えー、会話しないの? それに最近忙しくて暫く会ってないでしょう?」

何でそれを知っているんだとウォルターを見上げると、「会長、しばらくイギリス出張だろう」 と即答された。 二週間ほど現地での会合のためイギリスに行くと言われ、暫く会えなかったのは事実。 それをウォルターが知っていても、一応は関連会社なのだから当たり前なのだろうと深くは考えなかった。 出張から戻って来ても直ぐには時間が取れず、会長と会えない日が続き、そんな折の事件だ。 気が滅入るのも仕方が無いだろう。
コーヒーを飲みながら、仕事内容の変更を納得しなきゃならないと溜息を零すと、几鍔に頭をぐしゃぐしゃと掻き回された。 

「明日の休みは気晴らしに俺に付き合うか?」
「ほえ? 几鍔・・・ もしかしてセスナに乗せてくれるの? いいのっ!?」

極たまにしか乗せてくれないセスナに乗せてくれると聞き、ユーリは思わず笑顔になった。







    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







話は戻り、第三経理部でそう言われ、書類を受け取る為に67階へと移動する。 
今日は他の書類を受け取ることを何も聞いていないが、しかし仕事である以上、突発的なことも柔軟に対応しなければならない。 ユーリはそつの無い態度で受け答えをして、言われた通りに会議室に入った。 

そこはヒールが沈み込むほどの厚地の絨毯が敷かれ、重厚なソファが置かれた会議室というよりも会社上層部が使う接客室のようにみえる。 
革張りの見るからに高そうなソファに、大人十人でも動かせないだろうどっしりしたテーブル。 
コーヒーなんか絶対に零してはいけない緻密な模様が広がる高級そうな絨毯。 
ただでさえ高い天井に、入口正面の壁は全て大きな窓ガラス。 そこからは他社のビル群が映し出されれている。 足音も吸収する絨毯にヒールを沈ませながら窓に近付くと、乱立したビル群とその合間から青空が垣間見えた。 
もう少しでお昼の時間。
書類を会社に置いたら、今日は少しゆっくりとランチが取れる予定だ。
少し前まで殺人的に忙しかった。 大統領選が終わり、各党とも新しい指針が決定したことで様々な会社もその影響で忙しくなる。 経営方針が多少でも変わると、それに付随した書類が多くなり、うちの会社としては願ったり叶ったりなのだが、殺人的な忙しさが続くと人間性が失われるのだとも知った。

パソコンの前で眉間に皺を寄せながら呻くように手を動かし続ける人。
余計なものまでプリントアウトして悲鳴を上げる人。
相手から書類が届かないと何度目かのメールに呪いを掛ける人。
薄気味悪い笑顔を貼り付けてコーヒーサーバーの前で指折り数える人。
貼り付いた笑顔のままで、白目を剥いて寝ている人・・・・。

まだ言われるがままに動く部分が多い私は、バイト時代を含めたとはいえ殺人的な忙しさに翻弄されるだけで完全な独り立ちがまだ出来ていない。 流れに乗るだけで必至な日々。
ウォルターでさえ、時折子供の写真を見て癒されなければやってられないという顔を見せる。
時折顔を出す几鍔くらいかしら。 飄々として仕事を 『楽しんでいる』 のは。
だから書類を届けに他社に足を運ぶ私は、いい息抜きをさせて貰っていると逆に肩身が狭いくらいだった。 それでもその殺人的忙しさが緩和し、どうにか皆人間に戻って来た。
今日は少し足を伸ばして美味しいものを食べよう。
こんな時間もあと少ししかない。 他社への書類運びや書類集めのお出掛け作業が無くなれば、これからは会社に朝から晩まで閉じ篭り状態となり、他の人同様、呪いの言葉を吐きながら指折り数えて呻きつつ哂うようになるんだと、誰も居ない会議室の中で苦笑を漏らした。



・・・・・・それにしても、会議室にまで人を呼び出して何の書類だろう。
ソファもテーブルも豪華すぎて、座るのも書類ケースを置くのも躊躇われる。 少し逡巡してから私は厚みのある絨毯の上に膝を折り、書類ケース内を整理し始めた。 
そこへノックが聞こえ、慌てて起立して返事をすると、目を瞠るほどの美女が扉を開く。

「失礼致します。 お茶などをお持ちしました。 もう少しお待ち下さい」
「ありがとう御座います。 受け取りましたら直ぐにお暇致しますのでお気遣い無く」

・・・? お茶など? え、何これ・・・・・。

「あ、あの・・・・ そんなに時間が掛かるようでしたら改めて伺いに参りますが」

重厚なテーブルに並べられたものにユーリは戸惑った。 
有り得ないだろう、いや、この部屋で、このテーブルに、これはないだろう!?
可愛らしいテーブルクロスが敷かれたと思ったら、ポップなナプキンとサンドイッチが置かれ、ホットチョコレートにアップルパイ、ナゲットが並べられた。 
チキンやハム、ベーコン、ポテトにレタスにトマト、アボガド、キュウリのサンドイッチがどう見ても一人分ではない量、あっという間に並べられていく。 
お昼近いとはいえ、書類受け渡しに来た他社の者に出す品ではないだろう。

「何かお間違えでは御座いませんか? 私は峯エンタープライズから書類を受け取りに来ただけの社員で、こちら側と何かお約束していた訳ではありませんのに」
「はい、存じております。 ユーリ様、大変申し訳御座いませんが、このまま此方でお待ち頂くようお願い致します。 その間、どうぞお召し上がり下さい」

妖艶な笑みを残し、何処のコンテストに出ても入賞間違い無しという美女はお辞儀をして退室していった。 テーブルから美味しそうな香りが漂い、誘われて思わず手を出しそうになるが、ぎゅっと唇を閉じ、ユーリは書類ケースを持ち部屋から出ることにした。

絶対、間違いなくこんなことをするのは珀コーポレーション珀黎翔会長だろう。
仕事中にこんな事をする意味が判らないが、間違いは無い。 というか、彼しかない。
ドアノブに手を掛けると、ガチリと厭な響きがした。 
首を傾げて、もう一度ドアノブを引こうとするが、やはり動かない。 美女が下がる時に鍵でも掛けたのだろうか。 他のドアも確かめるが、同じように扉は閉ざされている。 
言うなれば閉じ込められた状態だ。

大きく息を吐き、苛立ちを隠さずに今まで躊躇していたソファにどっかりと腰掛ける。
携帯を取り出しウォルターに電話をすると 「おや、ユーリ。 怒ってるの?」 とのんびりした声が返って来た。 その声に片眉が持ち上がる。

「ウォルター、貴方、もしかして私の貴重なお昼休みを売ったのかしら?」
「売ったつもりは無いけど、会長から 『お願い』 されてね。 今時期は少し余裕がある。 多少の恩を着せるのは会社として、当たり前のことだろう。 それでなくとも今まで拘束していたからね~。 残業ばかりの毎日だったから少しくらい遅くなっても問題ないよ」
「・・・・私は仕事中ですよ? 私の意志を無視して勝手なことしないで!」
「ユーリが怒っている意味が判らない。 上司の僕がゆっくりお昼休みを取りなさいと言っているのに、何が不満なのかな?」
「ウォルの判っている癖に、そうやって恍けるところが不満ですっ! 覚えてなさいよ。 小父さんたちに言い付けてやるからっ!」

思い切り怒鳴って電話を切った時、大きな扉から施錠を解いた音がした。 鋭い視線を向けるとそこには想像通り、満面の笑みを浮かべた珀黎翔が居て 「ごめんね、待った?」 と足早に自分に向ってくる姿が。 
最近見るようになった、まるで小犬のような態度。 
部下に対して厳しい言葉を投げたり、怒声を放つのを目にしたことがあるが、その時とはまるで違うこの態度は、二人きりの時に多々見られるようになった。 甘えてくれるのかなと嬉しい反面、他には絶対に見せられない顔だ。

「会長、このように拘束される理由が私には判りません。 ご説明頂けますでしょうか」
「・・・・・ユーリが怒っている意味が判らない」

私の横に腰掛けた珀黎翔は、首を傾げて本当に理解出来ないとばかりにきょとんとした顔を向けてくる。 言い方は上司のウォルターと一緒だ。 
上に立つ人間とは恍けるのが上手くなるのだろうか。 
大仰に溜息を吐いた後、私は書類ケースを膝に乗せ、無言のまま手を差し出す。 
そう、私は追加の書類を受け取りに、この部屋に通されたのだ。 書類を受け取って会社に戻る。 それが私の仕事であり、今は未だ仕事中なのだと手を差し出した。






→ 次へ


スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 00:10:10 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-02-15 金 00:44:14 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメありがとう御座います。 ほっとしてます。 本当に(笑) ずいぶん前の作品のそれもスピンオフになりますので、リクを下さった方も忘れているかな? でも、一番長い話しになったので、読み直しに時間が掛かってしまいました。 おまけに誤字脱字を見つけ、慌てて直しも入れました。恥ずかしいー! 宜しければお付き合い下さいませ。
2013-02-15 金 00:55:55 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-02-15 金 08:05:08 | | [編集]
Re: タイトルなし
陽向様、ユーリはオリジナルキャラです。 パラレルカテゴリの「泡沫人の羽衣」 後半で出てくる人物です。 すいません。 ちゃんと説明がありませんでした。 
2013-02-15 金 08:42:24 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。