スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
遺却の追想  6
忙しい日々が続いております。土曜日も日曜日もなく動き続け、そのくせ腹いっぱい食べて(笑)読みたくても読めない本が溜まっていく。 
夜に読もうと思っているのに、ついTVっ子なもので・・・・・・。



では、どうぞ。















いつまでも変わらない口調で話し続ける夕鈴の体の身の裡に、他の誰かがいる。 
それが黎翔を酷く苛立たせたが、力が入りそうな刀を静かに持ち上げ、話し続ける 「何か」 に視線を落としながら鞘に納めた。

「・・・・でなければ何だと?」
「語ることも侭ならぬ、ということです。 わたしとて何時までも彼女の身の裡にいてはいけないのだろうとは思うのですが、他に手立てを見つけられずにおりました。 やっと人の口を借り言葉に紡いでも想いは上手く伝わらず、あまつさえ 『ばいと』 なる未知の言葉に彼女の精神を押さえ込むことが出来なくなり・・・・・・。 判って欲しいだけなのです。 長き暗闇に身を置き、ただ朽ちていく身が惜しいと嘆く我らを知って欲しいのです。 元の願いは小さきもの。 全てを希うのは不条理とも解ってはいるのです」

眇めた視線の先には表情を変えずに滔滔と騙り続ける夕鈴の姿。 その口から流れるように語られる内容は人のものとは思えず、陛下は視線を移し、小卓に置かれた竹簡を持ち上げた。
朽ちた色合いの竹簡には文字もなく、ただ古めかしい佇まいを醸し出すのみ。

「夕鈴から離れぬ訳を問おう。 無理やりの除霊も考えたが、夕鈴にどのような作用が及ぶか知れぬ。 お前の望みを叶えることが出来るかは解らぬが、彼女に害を為さぬという弁は間違いがないのだろうな」
「この身体の持ち主の名は夕鈴ですか。 夕鈴に害を為すつもりなど毛頭御座いません。 夕鈴の身の裡にて次世を紡がれる方々に想いを伝え、願いを叶えて貰えるならば、それで充分で御座います。 それまでは夕鈴の身の裡に留まることになりますが」

夕鈴の身体に、夕鈴の声だと判っているが、その言葉の内容に思わず佩いた物に手が伸びそうになる。 抜けば、今度こそ何処かに傷を付けねば気が済まないだろう。 

「・・・・彼女の名を紡ぐのは禁ずる。 それと身の裡というが、勝手に彼女に憑いた分際でその物言いも気に食わぬ。 彼女は私の唯一の妃だ。 亡霊などに貸した覚えはない」
「判りました。 早々にお返し出来るよう願いを申し伝えます。 先ほども伺いましたが古い文献や書簡を今後どのように為さるおつもりでしょうか」

陛下が眉を顰めた時、李順が掛け布を持ち戻って来た。 
卓から離れ、バイト娘の隣りに立っている陛下の姿に眇めた視線を送り、青筋を浮かばせる。
しかしその雰囲気が明らかに小犬ではない様子に気付き、眼鏡を持ち上げて問い掛けた。

「・・・・もしや、憑いたモノと会話でも為さっておいでですか?」
「そうだ。 奴は何やら望みがあって我が妃に憑いたそうだが、書庫に関して少し問いたいことがあるそうだ。 李順、話を訊こうではないか」

李順が持参した掛け布を受け取り、夕鈴に掛ける。 冷たい手は変わらず、もしや憑かれているせいで体温が下がっているのではないかと思えた。 
 
「書庫に関することとは如何いうことでしょうか?」
「その声は先ほどの・・・・。 出来ましたら彼女の精神が起きぬように 『バイト』 に関しての脅しはなさいませんようお願い出来ますか。 その言葉に彼女が反応すると抑え込むこと難しく、話しが遅々として進みません」

脅しと言われ李順は思わずむっとしたが、この面倒な展開が収束するなら一時くらいは耐えてやろうと了承した。 いつまでもこんなことに陛下が携わり、政務が滞るのは得策ではない。 
さっさとバイト娘に取り憑いた人物の願いを叶え、成仏させたらいい話。 
こんな非現実的な日常など、執務室に持ち込むなと目を閉じて眠るバイト娘を睨み付ける。

「話を伺う前に、陛下。 謁見の間に大臣が向っております。 陛下は直ぐに謁見の場に赴き、その間に私が話を伺っておきましょう。 『厭』 は無しでお願いします」
「李順・・・・」
「陛下、急ぎお願いします」

李順は頭痛を抑え込みながら陛下を睨み付けた。 大仰な嘆息を吐き、陛下が背を向けて渋々執務室から出て行くのを確認し、長椅子のバイト娘を見下ろした。

「さて、面倒なことはさっさと終わらせましょう。 余計な事は省き、何を目的としてバイ・・・ 妃に憑いたということでしょう。 如何すれば解決しますでしょうか」

謁見の間にて陛下と大臣の地方工事の話し合い。 勿論側近として参加したいところだが、憑かれたバイト娘を放置は出来ない。 頭が痛いと睨ね付けると、小娘の口が開いた。

「・・・・・・願いは過去の書物全てを見直して頂き、書き写して欲しいということです。 長い歴史を書き写したあらゆる書物に、再び日の光りを与えて欲しいのです」
「昨夜言っていた話に続く訳ですね。 一体あなたは何者なのでしょうか。 過去書庫に関わっていた方なのでしょうか。 それとも過去、あの書庫で命を失ったたがために拘りが残っている方なのでしょうか」

面倒事は早々に片付けたい。 それも意味のわからない事態なら尚更だ。 面倒極まりない。

「端的に申しますと妄執といった方が御理解出来ますでしょうか。 人ではありません。 書物に残る過去の想いが凝り固まり、いつしか現世に言の葉を紡ぐことを許されたのです。 請うのは再度掘り起こして欲しい、見直して貰いたい、過去を忘却の河に流さないで欲しい、ということです。 ただ朽ちゆくのは余りにも口惜しいのです」

李順は紡ぎ出されるその言葉を理解しようと必死に眉間の皺を深めた。 
ズキズキと酷くなる頭痛を抑え込み、眇めた視線で夕鈴を見下ろす。 相変わらず眠ったままの彼女は、小難しいことを語る妄執に憑かれ、捕らわれているという。
その願いは過去の書物全ての書き写し。 
この財政難と忙しい政務の合間に、どれだけの文官が必要になるだろう。
それが出来ると言えばその妄執は小娘から離れるのだろうが、しかし話す内容からは容易でないことが窺える。 簡単なことではない。 時間も費用も用意も人出もいる。

「それは・・・・ 正直難しいですね。 ご存知の通り、あの書庫には膨大な量の書物が収められています。 書き写すにも時間が掛かることは勿論、手間も費用も掛かります。 古過ぎる書簡の整理も見直しも出来ず、宮廷行事もようやく 『春の宴』 を催すに至った次第。 他の行事も現在の陛下の下、見直しや簡素化など試行錯誤が必要です。 代替わりしたばかりの現在、すぐに 『是』 と返答することは出来かねます」
「・・・・・・それは見直しにより、不必要とあらば切り捨てられると・・・。 連綿と続いて来た歴史ある過去の行事が、消える可能性も有り得るということでしょうか?」 
「そうです。 それが繰り返されてきた歴史であり、未来なのだと御理解下さい」

誤魔化すことなく答えると、相手は黙り込んでしまった。 
このまま黙り込み大人しく寝ていてくれるなら、直ぐにでも謁見の場に赴きたいと李順が考えると、小卓の上の竹簡がカタカタと音を立て出す。 おかしなことばかり起こるものだと嘆息して見つめると、竹簡はひとりでに紐解かれ、卓上に広がった。
何も書かれていない竹簡だったはずだが、広がった竹簡にジワリと墨が滲み出す。
細めた視線を向けると、過去に行われただろう宴の名とその流れが浮かび上がる。
李順も知らないその宴の内容を眺めていると、唐突に夕鈴が、いや憑いたものが口を開く。

「・・・・我らの望みは時間が掛かるとの事、それは理解しました。 過去の偉業に捕らわれ続けるのではなく、現在から未来へと大きく歩を進ませるには、時に切り捨てなければならぬこともあると。 今の世までそうして歩んできた事実は承知しています。 しかし我らはそれでも・・・・」

夕鈴の顔が顰められ、口篭るように会話が途切れた。 理解出来るといいながら、永遠に続きそうな会話に李順は溜息を吐く。 要するに過去を見直して欲しいと、古い竹簡から新しい書簡へと書き写して欲しいということだ。
それはまるで新しい衣装を強請る貴族息女みたいだと、苛立ちを覚えてしまう。

「何度も申し上げますが、直ぐには無理です。 費用が掛かりますし人手が足りません。 過去の見直しには膨大な時間が必要ですし、私一人で裁決出来ることではありません。 それは宰相、礼部尚書の裁決を要しますのでね。 私に言えることは、そうですね・・・・ 考慮する機会を設けます、とだけお伝えしましょう」
「考慮する機会を・・・・・・ 望みを絶たぬと約束を?」
「そう言わせたいのでしょう? 妃の身体をいつまでも拘束されては迷惑です。 現に書き写す作業は行われています。 時間は掛かりますが、見直しと共に全ての書簡に目を通す機会はいずれ設けましょう。 これで宜しいでしょうか」

それで納得してくれと李順が嘆息すると、バイト娘に憑いたものが小さく頷くのが判った。

「貴方達の考慮が我ら全ての願いと副うよう望みます。 他の者達にもそのように伝えますので、私を・・・・ その竹簡を書庫へと戻して下さい。 ああ、時折尋ねて下さると嬉しいですね。 彼女にも、そうお伝え下さい」
「それは困りますね。 そのたびに昏倒されるのは御免被ります」

夕鈴に憑いたものは瞼を閉じたまま、小さく笑った。 
李順が小卓から竹簡を持ち上げると、時代の流れが急速に進んだように書かれていた文字が掠れていく。 肩から力を抜き、竹簡を巻くとバイト娘から声が聞こえた。

「直ぐに答えを下さる貴方が相手だと話は早かったのかも知れませんが・・・・・ 貴方ではわたしどもが入る隙がありません。 彼女のような者が王宮にいること自体が稀有なのでしょうね。 刀を向けた人物にも謝罪を伝えて下さい」
「刀? ・・・・・陛下が夕鈴殿に刀を向けたと?」
「はい」

それきり黙ってしまったモノに李順は問い掛けるのを諦めた。 それよりも夕鈴に刀を向けたという陛下に驚くばかりだ。 下町について行くほど小娘に執着していたように思えたが、そうではなかったということか? それとも憑きものがついたから、それを切り捨てようとしたのか? 
そんな非現実は信じないように思えるが、信じないからこそ、苛立って抜刀したのだろうか。 

暫く考えていると浩大が戻って来た。 「あの書庫での事件性は無いようだよ」 と過去を調べ終えたのだろう、話す言葉は疲れているように聞こえる。 どの程度まで遡って調べたのだろうか、取り合えず労って 「憑かれたものは一応納得して消えてくれましたよ」 と伝えると、目を大きく見開き、文句を言い出した。
 
「なぁーんだよ、それ!? オレ調べたの意味ないの?」
「いいえ、事件がないということがわかったのは浩大のお陰です。 問題はこの先にあるでしょうね。 一番の問題は陛下ということになります。 ああ、ついでですから浩大、このまま此方でバイト娘を監視していて下さい。 目を覚ましたら書簡と一緒に後宮に戻って頂いて結構ですと伝えて下さい」
 
憑いたものの正体を大まかに伝えると、浩大は納得しにくい顔をして、それでも頷いた。

「お妃ちゃんが起きたら、そう伝えておくね」
「余計な事をしないようにとくれぐれも伝えて下さい」

書簡に同情して足蹴く書庫に通われても困る。 まったく面倒なものにまで好かれるものだ。
眠ったままのバイト娘を睨み付け、李順は謁見の場に足を急がせた。






→ 次へ


スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:40:16 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-03-04 月 12:11:08 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-03-04 月 20:10:27 | | [編集]
Re: やっぱり…。
makimacura様、コメありがとう御座います。季節の変わり目、目が・・・・・目がかゆいです。痒くて困る時期です。薬とお友達~!皆様も花粉症、今年は特に酷いそうですので、持っている人も持っていない人も頑張って過ごしましょう! さて『竹簡様』ですが、如何にか今日中には更新させて、次の萌えに移りたいなと思ってます。もう少しお付き合い下さいませ。
2013-03-05 火 07:45:02 | URL | あお [編集]
Re: 夕鈴に追加バイト?
ダブルS様、コメありがとう御座います。大当たり!次で明らかにして纏めるつもりです。陛下が拗ねるか、どうかでチョイ悩みましたが、あっちの黎翔さんが好きに動いているので、こっちの陛下も好きに動いて貰おうかと思っております。次で纏めますので、もう少しお付き合い下さいませ。
2013-03-05 火 07:47:13 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。