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殷紅彩  9
そろそろ卒業式シーズン。自分の過去を振り返っても、泣いたことがないのだが、娘は幼稚園の時からぼろ泣きする。真っ赤な顔で爆泣きする。何故そこまで泣けるのか。 
それなのに動物番組で泣いてる私を冷たく見下ろすのはどうして?




では、どうぞ。







 






「お待ち下さいませ、珀陛下!」

甲高い声が回廊に響くが、陛下の足は止まることない。 
耳障りとばかりに足が速まり、もう少しで外朝から出ようとすると、皇女に指示された大勢の兵が陛下の前に立ち塞がるように走り込んで来て取り囲んだ。
眉間に皺を寄せた陛下が嘆息し薙ぎ払うように手を動かすが、取り囲んだ兵らは強張った表情のまま皇女が来るのを待ち続けている。 兵らの必死な表情が一人の皇女によるものと判り、陛下は呆れるしかない。 国を守るための兵を違った意味で怯えさせる、そんな皇女に夕鈴が傷付けられたのかと思うと余りの莫迦らしさに呆れて、余りの我侭ぶりに苛立ちが増す。
 
その苛立ちを感じた白陽国の警護隊長が陛下に 「同盟国ですので穏便にお願いします」 と告げるも、苛立ちを抑えきれる訳も無く、薄く口角を上げるだけで返答はない。 
その嗤いが返答だとすると答えはどちらだろう。
白陽国側の警護兵は足を止めた陛下の機嫌の悪さに身を竦ませながら祈った。
・・・・・皇女の前で陛下が抜刀することになるのだけは勘弁してくれと。 


「お、お待ち下さいませ、珀陛下・・・・。 はぁ・・・・・」

やっと追い付いた皇女は息を整えながら侍女に団扇で扇がせ髪型を手で直すと、にっこりと花が咲き誇るような艶めかしい笑みを浮かべ、裾を持ち上げ腰を落とした。

「改めまして、宗広国息女涼華と申します。 父王や使節団より縁談の話しが何度もあった筈ですが一向に良き返答が聞かれず、恥ずかしながら直接わたくしが陛下にお伺いさせて頂こうと声を掛けさせて頂きました」
「・・・・縁談は断ると伝えてある」

冷たく言い放ち踵を返すも、皇女は縋るように陛下の前に回り両手を組み大きな双眸を潤ませながら懇願し始めた。 宗広国警備兵が怯える陛下の冷酷な視線にも動じることなく、皇女はその怜悧な表情に見惚れながら長い睫を震わせ唇を開く。

「陛下唯一とされる妃へ確かに酷いことをしてしまいましたが、それも陛下を愛しく思うわたくしの恋心と御許し下さいませ。 そしてこれ以上愚かな女に為さらぬよう、陛下のお傍に仕えさせては戴けませんでしょうか。 これからは心入れ替え、お妃様とも仲良く過ごすと御誓い致します。 ・・・・・陛下はわたくしをお望みにはなりませんか?」

頬に流れる涙を隠すことなく切々と訴える皇女に視線を落とすことなく、陛下は冷笑を浮かべて周囲を囲み対峙する兵に伝える。

「王へと帰る旨は伝えてある。 それを邪魔するというなら、己の首がその胴より離れても文句は無かろうな。 ・・・・・私の足を止めたことを後悔するなよ」

その低い声に兵が思わず退こうとすると同時に、皇女が振り向き兵の動きを制す。 
自国の警護兵へ視線を移した陛下は軽く顎を上げて無言のまま指示を出した。 二人の警護兵が直ぐに場から離れると、皇女が陛下の袖をそっと摘み、掠れた声で懇願を繰り返す。

「お願いで御座います。 まずはわたくしを白陽国後宮へ、どうぞ御連れ下さいませ。 陛下のために唄でも舞でもさせて頂き楽しんで頂けるよう、心を込めて仕えますゆえ」
「我が妃は一人で良いと伝えてあるが、それを承知で我が国へ足を踏み入れたいと申すか? それがどんな意味を持つのか、皇女は御承知だろうか?」

前を見据えたままだったが、陛下からの返答に皇女は喜色を浮かべ 「ええ!」 と即答した。

「先程謁見の場にて話しが出たが、皇女が我が国に足を一歩でも踏み入れたら即時に或る場所へと御連れすることとなるが、それでも良いと?」

整った顔立ち、見上げる程の高く逞しい体躯をうっとりと眺めながら皇女は頬を染めて頷いた。

「・・・・陛下が御連れ下さるなら、何処へなりとも馳せ参じましょう」

そこへ宗広国宰相ら数人が姿を見せ、陛下の話を耳にした途端蒼白になり、急ぎ皇女の周囲を取り囲み陛下と距離を置くよう強く伝えた。 皇女は眉根を寄せて怒り出したが陛下の前もあり、声を潜めて宰相らを叱責し始める。

「珀陛下はわたくしを御連れする気になり始めているのよ、邪魔をしないで頂戴っ!」
「皇女様、それは違います! 皇女様が白陽国に一歩でも足を踏み入れましたなら、皇女様は即刻捕縛され、刑に処されてしまいます! それだけは国王もお望みでは御座いません」
「・・・・何を言うの? 私は正妃として白陽国へ」
「珀陛下唯一の妃を傷付けたことを、陛下は大変御立腹で御座いますっ! 皇女様の御命に関わりますので、どうぞこの場はお下がり下さいませっ!」

自分を取り囲んだ宰相や兵らが蒼白な表情で、これ以上陛下に近付けさせまいとしているのが判り、皇女は顔を上げる。 そこには自国の警護兵を背後に従え怜悧な顔に薄い笑みを浮かべている珀黎翔の姿があり、皇女はまさかと微笑んで見つめると、冷ややかな嗤いが返って来た。

「誰が正妃としてと? 皇女よ、我が妃に何をしたのか、すでに忘却の彼方か?」
「そ、それは貴方様を想うあまりの・・・愚かな行為だったとお詫び申し上げます。 しかし陛下がここまで足を運ばれたのは、わたくしを迎えに来たのではないのですか?」

陛下の背後に控えた兵が小さく肩を揺らしているのが見え、皇女は眉をひそめる。 
何かがおかしいと違和感を感じた時、先程無言で消えた兵が馬を連れて王宮内庭園に入って来るのが見えた。 他国の王宮内に馬を引き入れるなど信じられないと皇女らが目を瞠っていると、陛下が早速騎乗しようとするのが見えて悲痛な声で叫んだ。

「陛下! わたくしを正妃にされましたら国交間は更に強まり、強固な国となりましょう。 出自不明の下っ端妃ひとりが消えたとて、陛下にとっては何の痛手にもなりませんでしょう。 それなのに何故わたくしを正妃に据えようとは御思いになりませんの?」

その言葉に、表情を落とした陛下が騎乗したままで回廊に佇む皇女に近付いた。 直ぐに皇女を取り囲む兵に緊張が走ったが、皇女はそれを抑えて手摺に近寄り、陛下を熱く見つめる。

「わたくしなら陛下の望むものを差し上げることも、お慰みすることも出来ますわ。 他国へも聞こえてくる悪女と名高い身分の低い妃一人、捨て置いても宜しいではないですか。 でも、もし陛下がそのままをお望みなら、わたくしはそれでも構いませんわ」

近付いて来る陛下に嫣然とした笑みを向ける皇女を兵らは必死に止めた。 だが皇女は、陛下が自分の訴えを聞いてくれていると頬を上気させ、背後の宰相らに自分を陛下に推挙するよう目で合図を送る。 
理解を示さない皇女に対し、もう駄目だと宰相らが叫ぶように陛下に懇願した。

「珀陛下! 皇女の発言をお許し下さい! 此度のことは後程深く陳謝させて頂きます故、どうぞ今だけは御見逃しをお願い申し上げます! どうか、何とぞ御容赦を・・・・・」
「貴方達、何を言っているの? わたくしの邪魔を」
「宗広国皇女・・・・・」

自分を呼ぶ低い声が耳に響き、皇女は頬を染めて顔を上げた。 
この後に続く台詞は珀黎翔を一目見た時から、何度も何度も頭の中で想像していた。 
見目麗しい陛下が自分に差し出す手に手を添えて、短くも恥じらいを持って返答する自分を。 

しかしその後に続く声音は皇女の想像していたものと違い、恐ろしいほどに低く冷たかった。
 
「これほど話しの道理が判らぬ愚かな皇女とはな・・・・。 我が妃を愚弄した上、私の王宮で勝手な振る舞いをしたことを棚に上げるとは、ただ呆れるばかりだ。 宰相らの謂う通り、皇女が我が国に一歩でも足を踏み入れれば宮刑に処すると国王に伝えてある。 皇女が送って寄越した刺客の骸を見て、己が何をしたが、己の行く末を見定めよ。 それでも我が国に来たければ覚悟の上で来られるよう。 我が国の宮刑は他とは比べ物にならぬほど残酷だと自負している。 楽しみにされよ」

聞こえた台詞の内容に驚愕の面持ちで陛下を見ると、残酷なまでに鋭い視線で見据えられ、皇女はようやく理解した。 その怜悧な表情に、今にも牙を剥き斬り殺さんばかりの殺気を放つ様に、皇女は己の望みが却下されたのかと目を瞠る。

「我が妃が受けた傷を、夫である私が赦すと思っているのか? 一歩でも我が国に立ち入れば、我が妃が受けた苦しみ以上の責め苦をそなたに与えよう。 同盟国として我が国より数人の人員を配置させて貰う。 宰相、この場で承諾されよ」
「・・・・わ、判りました。 陛下の御随意になさって結構で御座います。 その代わり皇女の犯した過ちは後日改めて謝罪をさせて頂きます。 此度の皇女の行き過ぎた言葉はどうぞ寛大な御心を持って御容赦願えれば幸いと・・・・・・」

手綱を引き馬の方向を変え、陛下は返答もせずに駆け出した。
手摺に置いた手はそのままに皇女が床へ崩れ落ち、宰相や侍女らが慌てて駆け寄るも、茫然自失の呈で蒼褪めている。 まさか自分が刑に処されるほどに陛下に疎まれているとは思ってもいなかった皇女は、しばらくの間、その場から離れることが出来なかった。

崩れ落ちた皇女を侍女と兵らに任せ、宰相が急ぎ謁見の間に戻ると早々に話し合いが済んだようで、疲れ果てた国王と外相大臣、そして柔和な笑顔を浮かべたままの白陽国大臣らがいた。

「陛下の御腹立ちが早々に治まると宜しいのですが、それには陛下唯一のお妃様の力が必要となります。 その妃のために陛下が此処まで足を運んだと御理解下さいませ。 ・・・・・これ以上、貴国は後宮に関与されませんよう繰り返しお願い申し上げます」
「は、はい。 了解致しました。 お妃様に置かれましては誠に申し訳なく存じ上げます。 陛下がこれほどまでに愛しく御思いの寵妃に深く謝罪し、今後とも永の付き合いが続くよう、出来るだけの譲歩をさせて頂きます。 まずは詳細に関して書類を作成致しますので、御調印まで暫しお待ち頂けますよう歓談の席を設け・・・・・・・・・」

話し合いが記された書簡を持ち、場を移動しながら李順が嘆息する。 
ただのバイト娘に陛下が他国に赴くほど入れ込む演技をするとは思わなかったが、今回の宗広国折衝に関しては本当に上手くいったと、心の中で小さくほくそ笑んだ。
自国に有利な関税を如くことを含め、皇女が居る限りはしばらくの間、思うように動きそうだ。
思わぬバイト娘の効用だと、危険手当を少し割り増ししようかと李順は仏心を擡げる。  





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 08:09:09 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2013-03-18 月 11:38:59 | | [編集]
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2013-03-18 月 11:43:16 | | [編集]
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2013-03-18 月 20:25:07 | | [編集]
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2013-03-18 月 22:09:17 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメありがとう御座います。皇女さんは一旦放置します。陛下が関与放棄してますので(笑) 今度は夕鈴サイドに戻りますね。 やっと卒業式終了。 次の入学式までにウエスト少し痩せなきゃ、やばいです。
2013-03-20 水 00:15:42 | URL | あお [編集]
Re: きゃ~!!
makimacura様、コメありがとう御座います。 皇女は出す予定がないのですが、もっとお仕置きを!の声が多くて、う~ん、悩みます。もう捨て置こうかと思っていたので。夕鈴を翻弄する方に流れてますので、ちょいと悩みますね。 結構皇女好き?
2013-03-20 水 00:17:49 | URL | あお [編集]
Re: 優しさ…?
ダブルS様、コメありがとう御座います。 真の目的は夕鈴へのお土産、実は・・・・・そうです! コメントを見て驚いちゃいました。 すごい嬉しいですよ。そのお土産編が次登場です。宜しければお楽しみ下さいませ。もう少し、続かせて貰います。
2013-03-20 水 00:20:01 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。 壊れた陛下に翻弄される夕鈴が大好物なんです。 娘の卒業式、クラスで一番泣いていたようで、タオル持参していた娘に思わず大笑いしたら、睨まれました。 こわい・・・。 桜も咲いていて、ちょっと暑かったですが、よい卒業式になりました。ただ、撮影したビデオを見る日はいつになるのやら。
2013-03-20 水 00:24:26 | URL | あお [編集]
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