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殷紅彩  10
やっぱりボロ泣きの娘。式場となった体育館は暑くて、蒸し風呂状態。久し振りのスーツは苦しいし、祝辞は長いし。壇上の娘はまあ、よくそこまで泣けるなと思うほどに手で顔を何度も拭っていて。退場時はミニタオルで涙を拭っていた。なのに帰宅すると直ぐにカラオケへGO!
元気だわ~~~。 母はぐったりだというのに。



では、どうぞ。








 





「陛下、お早いお帰りで御座いますね。 李順さんや氾大臣様は、まだ宗広国ですか? 数日掛かるものと思っておりましたのに、ずいぶん早くて驚きました」
「うん、国境視察を終えて直ぐに戻って来たんだ。 李順がいない内にのんびりしようと思って。 夕鈴、具合は? 痛いの治った? 気持ち悪くない? 動悸は治まった?」
「それは・・・李順さんが聞いたら青筋立てて怒りそうですね。 お陰さまで体調はすっかり良くなりました。 動悸も治まり、もう少しで歩く許可も下りるはずです」

最低でも五日は掛かると聞いていた宗広国への使節訪問のはずが、陛下だけこんなにも早く戻って来るとは思ってもいなかった夕鈴は未だ褥の上で身体を休めていた。 医官姿の桐が苦笑しながら夕鈴に薬湯を出すと途端に顰め面を見せ、その顔に陛下が笑顔を見せる。

「夕鈴にお土産があるんだ! 宗広国で棗の砂糖漬けを買って来て、その隣の国では揚げ菓子に砂糖をまぶしたものを買って来たよ。 下町で麻球も買って来て、これは熱々。 口直しなら杏の蜜漬けがいいかな? 夕鈴、薬湯頑張って飲んでね!」
「それは・・・・たくさん買って来ましたね。 でもありがとう御座います。 苦い薬湯あとの楽しみが出来ました。 薬湯もやっとドロドロから変わり、飲み易くなりまして体調も随分良くなりましたから、明日から拭き掃除くらい」
「まだ侍医からの許可が出ないうちは、勝手に寝所から出ることは禁止。 足の傷は包帯が取れたばかりだろう。 死に掛けた人間はもう暫く寝ていろ」
「う・・・・・。 死に掛けたと、そう何度も言わなくても・・・・」

桐に差し出された薬湯を睨み付けていたが、陛下のお土産を見て覚悟を決めた夕鈴は一気にそれを飲み干した。 毒消しを兼ねた強心作用のある薬湯は舌が痺れるほど苦く、口を押さえて酷く顰めた夕鈴の顔を見て、陛下が慌てて杏の蜜漬けを入れ物ごと目の前に突き出す。

「はい、夕鈴。 垂れるから口開けてっ!」
「あ゛、あ゛い・・・・。 んっ! んんんーっ!!」

口に広がる甘味に夕鈴の表情が一変する。 顎が外れそうな程の甘さに思わず地団駄を踏みながら、陛下を見た。 

「美味しい? 良かった、気に入って貰えて。 はい、もう一口どうぞ」
「すごっく、すごく甘いです! 陛下、ありがとう御座」

壷から杏が蜜を垂らしながら近付いて来て思わず口を開けてしまったが、口に入った杏の味が急に判らなくなるほど、夕鈴は頭の中が一瞬にして真っ白になった。

「・・・ん、本当に甘いね。 暫くしてから麻球を食べることにしようか。 味が判らなくなりそうだものね。 あ、僕周宰相のところに顔を出したら戻ってくるから、待っててね」
「・・・・・・う゛」
「戻って来たら一緒に食べようね、夕鈴」

そう言って陛下は妃の寝所から離れて行ったが、残された夕鈴は真っ赤になった顔から湯気を出し、口を押さえたまま身悶える。 確かに苦くて言われるままに口を開けた。 
しかも 「垂れるから」 と言われて急いで大きな口を開けた。 まさか陛下が手で杏を掴んでいるなんて思っていないから、杏だと思って指まで舐めていたと遅れて気付き、その指を陛下が舐めているのを見た瞬間、頭の中は真っ白で杏の味が判らなくなってしまう。 
心臓が破裂しそうなほどドキドキ跳ねて、口の中のものをこのまま飲み込んでいいものか、でも蜜の甘さで唾液が溜まってきて、このままでは大変なことになってしまうと、口を押さえたまま夕鈴は身悶え続けた。
 
桐はその様子を見ないことにして、薬湯の入った茶杯を持ち部屋を退出する。 
陛下とバイト娘の仲の良さに半ば呆れながら、いつまでこの関係が続くのやらと嘆息した。 
医局へ向う途中で浩大が回廊近くに姿を見せ、にやついた顔を見せるから、先程の光景を何処からか見ていたのだと判る。

「借金が返し終わっても、あれでは自宅に帰ることなど叶わないと思うがな」
「へーかもお妃ちゃんも面倒な性格ですから、さてさて、どうなるかね~」
「・・・・見ている分には面白いな。 突っ込みをいれたくなるが・・・・」
「どちらにもね~。 まあ、もう暫くお妃ちゃんは安静にして貰いたかったけど陛下が帰って来たからには翻弄されて安静とはいかないだろうね。 半刻で真っ赤だもの」

陛下は鬼の居ぬ間に・・・・ と思っているのだろうが、その鬼も早々に戻ってくる予定だ。 

「今夜は俺たちの警護も必要ないだろうから、久し振りに酒でも交わすとするか?」 
「それ、賛成っ! 刺客のオンパレードで大変だったもんな。 明日は報告があるから今晩くらいはゆっくりさせて貰いましょ!」


医局からの帰りに早速後宮へ足を運ぶ陛下を見掛けて、浩大は哂いながら走り寄った。

「へーかぁ、お早いお着きで! このままお妃ちゃんの部屋に行くなら、俺ら少し休憩に入っても平気か? 王宮内の警備も見回りたいしさ~」
「ああ、妃には私が就いているから大丈夫だ。 あとで土産の酒を取りに来い」
「了解っす! では、ごゆっくり~・・・・・・・・」

余りお妃ちゃんを翻弄して熱なんか出させるなよと言いたかったが、それは胸の裡に仕舞い込んで早速休憩を取ることにした浩大は、土産の酒を貰いに行った時、陛下の機嫌が良いか悪いかを桐と賭けることにした。
直ぐに夕鈴の短い叫び声が後宮から小さく聞こえ、思わず苦笑する。

「早く兎を捕縛しないと、下町の刺客にやられちゃうぞ~」
「・・・・バイト娘にそんな対象がいるのか。 もしかして隻眼の幼馴染か?」

隣に姿を見せた桐は医官姿から隠密の衣装に着替えていた。 浩大が目を細めて頷くと、桐は深く息を吐いて 「本当に面白いな」 と呟き、後宮を振り返る。








「陛下っ! さっきっ! て、て、て・・・・手で杏を掴みましたね! それを人の口に入れて、その指を ゆ、ゆ、ゆびを・・・・・ めてた・・・・っ!」
「だって、匙が何処にあるか判らなかったんだ。 それに薬湯を飲んだ夕鈴がすごい顔で可哀想に思って、慌てて掴んだだけだよ。 甘かったでしょ? 嫌いな味だった?」
「そ、そうではなくって・・・・。 あ、甘かったですけども・・・・」

突然部屋に戻って来た陛下に驚いて叫ぶと、口に指を当てて静かにしてねと諭された。
その口元を見て、先程の怒りにも似た動揺が戻って来た夕鈴が陛下を嗜めようとするが、あっさりと遣り返されてしまう。 
陛下がにっこり笑って紙袋から麻球を皿に移し、寝台で半身起こしている夕鈴に差し出した。

「少し冷めたけど、中の餡は熱いから気を付けてね。 僕、ふーふーしようか?」
「・・・・大丈夫です。 下町の菓子ですよ? 慣れてますから」

何を言っても無駄と判り、夕鈴は素直に麻球を受け取り手で割った。 餡からほんのり湯気が出て少し齧ると口中に胡麻の感触と餡の甘味が広がり、夕鈴は思わず笑顔になる。

「これ、胡麻餡じゃなくて蓮の実餡ですね。 初めて食べました」
「こっちは胡麻餡だよ。 そっちの味も食べたいな、いい?」

寝台に腰掛けた陛下が手に持つのは別味の麻球だったようで、夕鈴は半分に割ったものが乗った皿を陛下に差し出そうとした。 ふいに目の前に黒い物が覆い被さるように近付いたと思ったら、手に持っていた麻球が引っ張られる。 目の前で食べ掛けの麻球に陛下が齧り付いているのが解かり、頭が離れると満足そうな笑顔で 「僕も初めての味だ」 と言われた。

「・・・・へいかも初めてですか。 そーですか・・・・」

手に残った麻球を如何しようかと呆然としながら答えると、陛下が真顔で自分を見つめているのに気付き、ぎょっとして身構えると小犬は拗ねた口調で夕鈴に問い詰めて来た。

「安全のため桐が薬湯を運ぶように、それは僕が指示したことだけど、寝所に二人だけってどうして? 侍女が下がっていたけど、それって毎回?」
「へ? 毎回・・・ なんてないですよ。 浩大が一緒の時もありますし、二人だけなんて滅多にないですよ? 今日は陛下が戻って来る話をしていたので偶然侍女さんを下がらせてましたが、あの・・・・ 桐さんは私の警護も兼ねていると李順さんに聞いたのですが」
「・・・・・・・そう、なら・・・・ いいけど」

陛下直属の隠密をただのバイトが拘束していることに怒っているのかと、夕鈴は首を傾げた。
それよりも聞きたいことがたくさんある。 バイト立場で訊いていいのか少し不安だが、李順さんが居ない内に訊いた方が早いだろうと夕鈴は口を開いた。

「陛下、あの・・・・ 宗広国に行かれて、皇女様には御会いされたのですか。 李順さんの話だと、大層・・・・・ お金が掛かりそうな、でも愛情たっぷり注がれて御育ちになられた姫様と聞き・・・。 でも陛下のことが御好きで、その気持ちが少し違う方向に捻じ曲がってしまっただけで、私も命に別状はありませんでしたし・・・・。 陛下、怖がらせるようなことは為さっておりませんよね?」

夕鈴が皇女のことを口にした途端、手の内にあった麻球と皿が移動した。 
近くの小卓に置かれる様を目で追っていると、不意に近くから狼陛下の声が聞こえてくる。

「命に別状は無いと言うが、それは結果論だと解かっているか? 何度も狙われたのを忘れたのか。 好きだと言うだけで、何をしてもいいと、そう思うのか。 邪魔だと思う輩を屠っても構わないと? その対象が自分でも問題は無いというのか」
「い、いいえっ! 好きだから何をしてもいいと言っている訳ではありません。 確かに何度も危ない目には遭いましたが、でも私は大丈夫でした。 た、ただ人を好きになると、それだけしか見えなくなる人もいると聞いたことがあります。 今回は偶々そういう方だったというだけで・・・・。 それだけ陛下のことが御好きだったのでしょう」

一国の皇女という立場だ。 何不自由なく過ごし、手に入らぬ物は無かった立場の御方。
好きになった相手が二面性のある陛下でなければ、国同士の結び付きを喜びながら話しは円滑に執り行われ、誰を恨むでもなく幸せになっていたかも知れない。
白陽国は内政が安定したばかりで、財政難があって、陛下の二面性を知られる訳にはいかないから今回は断わざるを得なかったが、そういう理由に喜んでいる自分が恥ずかしいと夕鈴は俯いた。 人を好きになるのに理由は無いと思う。 確かに刺客を執拗に送って寄越され大変な目には遭ったが、陛下が婚姻を望んでいないと聞いただけで、怪我や痛みは消し飛んでいた。

「誰かを好きなるのに理由はありませんし、確かに手段は・・・・ すごく間違ってますが、新たな同盟国の皇女様です。 表立って事を荒げるのは得策とは思えません・・・・」

視線を落として呟くように言うと、寝台がぎしりと音を立てた。 
陛下が腰掛けたのだと判るが、顔を上げることが出来ない。 こんなことを言ったら怒るだろうと判ってはいる。 後宮にまで刺客を送り込まれ、そこに住まう妃が何度も狙われた事実がある限り、陛下としては赦す訳にはいかないだろうとは頭では判っている。
それでも恋し焦がれる気持ちだけは。
形も立場も違うけど、その気持ちだけは同じだと思いたい。

俯いていたら肩を掴まれ引き寄せられた。 掛け布が捲れて身体ごと陛下の胸の中に囚われ、夕鈴の背に回った手に力が入ったのを感じる。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:20:10 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-03-20 水 04:23:52 | | [編集]
Re: タイトルなし
ななすけ様、コメありがとう御座います。 一転一方的ないちゃいちゃモード突入で、話の流れが急過ぎるかなと思ったのですが、温かいコメント貰えて良かったです。まあ、陛下の抱き締めはいつものことですから~(笑)ななすけ様も体調気をつけて下さいね。本当に気温差が大きくて、驚きます。花粉もばっちり飛んでるし・・・・。 外出るのが厭になりそうな時期ですよね。 とほほです。でも花見の予定あり!飲むぞー!!
2013-03-20 水 08:06:38 | URL | あお [編集]
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2013-03-20 水 20:03:19 | | [編集]
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2013-03-20 水 20:40:02 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。ビスカス様の体調は如何でしょうか。ひとの心配をしていたら自分がアウトになってしまいました。がーん!まだちょいと胃が重いのですが、ようやく復活してきた。花見までには体調を戻さないと酒が飲めない状態ですよ。とほほほほ。 遅くなりましたが卒園おめでとう御座います。小学校の準備は滞りなくお済ですか?ランドセルは今いろいろな色があって見てても楽しいですよね。 お母さん、頑張って! 此方の話はもう少し続きますので、お付き合い下さいませ。
2013-03-22 金 14:42:16 | URL | あお [編集]
Re: お帰りなさいませ、陛下!
ダブルS様、コメありがとう御座います。 纏めちゃおうかと思ったのですが、皆様のコメントに妄想が漏れ出して、もう少し書かせて貰おうかと思います。皇女様のその後を心配(?)されて、妄想しているいる内に過去の人物を出しちゃいましたー! もう少しお付き合い下さいませ。
2013-03-22 金 14:46:20 | URL | あお [編集]
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