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殷紅彩  15

いつの間にか路線変更していたようで、どうしてギャグになったのか自分でも本当に判りません。マジに! 悲しい決意で、それでも陛下のために尽くそうと傷を負う夕鈴の話が、後半思いも拠らぬ展開になり、一番吃驚しているのは私で、楽しんでいるのも私です。 ははははは。
失礼しました。 



では、どうぞ。
















陛下の手を振り払い、椅子に寝そべる皇子を見ると完全に白目をむいて昏倒していた。 
人間はどんな風にどれだけ叩かれたらこんな風に昏倒するのだろう。 皇子が起きた時、陛下に刀の鞘で叩かれたなんて覚えていたら如何しよう。 
以前は興奮して倒れたと思い込んでいたようだが、今回も同じように思ってくれるだろうかと願いながら皇子を揺すってみる。 陛下がその手を取り上げ 「夕鈴はコレに触らないっ!」 と声を荒げるが、皇子の体調ばかりが心配なのではない。 

「だって皇子はもうお帰りの時刻でしょうに、このままでは」
「それは桐に任せる。 ・・・・・桐、使節団が居る筈の払暁殿へコレを置いて来い。 具合が優れないようだから、直ぐに国へ戻るようにと伝えろ」

近くの庭木から姿を見せた桐は薄笑いを浮かべていて、夕鈴は眉間に皺を寄せた。 
桐は悪びれもせずに 「陛下が来るのが見えましたので、お任せすることにしたのです」 と姿を見せなかった理由を飄々と答え、皇子を抱え上げると一礼して場をさっさと離れて行く。
桐に文句を言う暇も与えられず、夕鈴は再び陛下を睨み上げた。
キュウキュウ鳴きながら小犬陛下が耳と尻尾を下げて 「ゆーりん、本当にごめんね」 と繰り返し、その声に夕鈴はこれ以上怒れなくなっている自分を知り、がっかりしてしまう。 
いつもこうなのだと、小犬にも狼も敵わないのだと、すっかり肩から力が抜けた。

「も・・・・・、いいです。 そういう役周りなのだと思うことにします。 取敢えず皇子を接待しましたので李順さんに報告しに行って来ますから、陛下もお仕事にお戻り下さい」
「うん・・・・・。 李順は執務室にいるから一緒に行こう?」

夕鈴の手を持ち上げた陛下は真っ赤になった手のひらを見て 「夕鈴、本当にごめんね」 と擦りながら繰り返した。 

「いえ、大丈夫です。 もう痛くはありませんし、逆に大声を出してごめんなさい」
「謝らなくていいよ、本当に悪いのは僕の方だから。 それより・・・ 夕鈴。 訊いてもいいかな? 皇子に・・・・・ 何をされたの?」

夕鈴が顔を上げると眉を顰めた顔で自分を見下ろしている陛下が居て、思わず口篭る。
上手く皇子を接待出来なかった自分を振り返り、何をされたと陛下に問われると何を言えばいいのか、何処まで言えばいいのか戸惑ってしまう。 
せめて皇子が早く白陽国から離れてくれないかしらと願わずにはいられない。 
手を擦られながら陛下を見上げると、じっと自分を見つめていて、夕鈴は困った顔を向けた。

「夜に・・・・ お話します。 まずはお仕事に行きましょう? 李順さんに皇子のことを報告して、陛下はお仕事をして、夜に時間が出来たらお話しますから」
「今は駄目? それは皇子を無事に逃がしたいから? 夕鈴がそこまでするのは何故?」
「何故って・・・・・」

皇子が何を言ったのか、したのかを伝えたら陛下は如何するのだろう。 バイトである私が皇子に何かされたとして、それは 『狼陛下唯一の妃』 に何をしたのだと憤るのだろうか? 
それともバイトである私が心配なのだろうか。 
じっと陛下を見上げると、ふいに切なそうな表情が垣間見えたような気がした。

「夕鈴が言いたくないのは僕が怒るから? 皇子は僕が怒るようなことをした?」
「・・・・・いいえ。 あとできちんと話します。 今話さないのは、何を話そうとも時間を取られてしまうからです。 政務が滞ると李順さんや周宰相に迷惑が掛かりますからね。 ですから早く戻ってお仕事を致しましょう?」

莫迦なことを考えた自分が恥ずかしく、夕鈴は足早に執務室へと向かった。 幸いにも陛下からそれ以上問われることは無かったため、小さく息を吐いて足を進める。
李順に皇子が四阿で昏倒し、桐がその身体を運んだことを告げると蒼褪めた顔で払暁殿へと走って行った。 陛下が何も言わずに筆を持ち仕事を始めたので、夕鈴は 「では失礼致します」 と一礼して後宮へと戻ることにした。


回廊を渡る風に髪を揺らめかせ、小さな胸の痛みに苦笑する。
自分は何を考えていたのだろう。 ただのバイトが陛下の憤りをどう捉えようとした?
『唯一の妃』 は架空のもので、今だけの偽者だというのに、それを忘れそうになっている自分が情けなくて、余りにも悲しい。 
皇子の執拗な下賜の件だって、陛下の憤りだって、バイトとして王宮にいるからこそ或ることなのだ。 皇子に対して陛下が怒るのは 『臨時花嫁』 に向けられているものだということを忘れてはいけない。 陛下の憤りを間違って捉えて喜んではいけない。
翻弄されて、あとで恥ずかしくなるのは、悲しみに胸焦がすのは自分なのだから。
もしも・・・・・ 何て幾ら考えても自分は貴族の娘にはなれないし、なったところで陛下に近寄ることも出来ないだろう。 バイトだから、 『臨時花嫁』 のバイトをしているからこそ、陛下の御傍にいられるのだ。 それを忘れてはいけない。 
そして、自分のこの気持ちは隠し通さなければならない。

夕刻近い風は肌寒く、夕鈴は足の傷が少し痛む気がした。




「・・・・妃よ、まだ起きているか?」

いつもより少し遅い時刻。 妃の部屋に渡って来た陛下へ侍女が恭しく拱手し、お茶の用意を始める。 そしていつものように卓にお茶や菓子を並べると、静かに部屋から出て行った。 
夕鈴は強張った顔に笑みを浮かべて陛下を労い、少し離れた椅子に腰を下ろす。

「・・・・・・時間が経って、僕も随分落ち着いたから、何を言われても大丈夫だよ。 琉鴇皇子が勝手に夕鈴に手を出そうとしたことだけは使節団に厳重注意しておいたけど、皇子も無事に意識が戻って問題なく国へ戻ったから安心して欲しい」
「そう、ですか。 意識が戻りましたか。 それを聞いて本当に安心しました」

昏倒したまま国へ戻ることになれば、それはそれで問題だったろうと、夕鈴は胸を撫で下ろす。
顔を上げると冷ややかな表情を浮かべた狼陛下が居て、一体何処が落ち着いたんだろうと夕鈴はそっと視線を逸らした。

「夜に話すと言っていただろう? で、四阿で奴と何を話した?」
「・・・・・皇女様とはお付き合いが出来ませんかと訊ねてみたのです。 もし皇女様と心から通い合うことが出来るなら、それはそれで良い事だと思いましたので訊ねてみたんです。 でもそれは無理だと判り、皇女様のお気持ちがまた陛下に向けられるのかと懸念していたら、皇子が大丈夫だと言って下さって・・・・・・」

皇女の気持ちが陛下に向けられることが、自分が狙われるより厭だと考える自分が恥ずかしくて夕鈴は項垂れた。 手を伸ばしお茶を飲んで、咽喉を潤した後小さく咳払いをして続ける。

「皇女様の気持ちを上手く自分に向けるからと、使節団の仕事も上手く出来るからと皇子は言って下さいまして、でも皇女の気持ちを翻弄するばかりは駄目だとお願いしました」
「その話の流れで、何故夕鈴が四阿で押し倒されることになる?」

冷ややかな狼の声色に夕鈴は泣きたくなる。 それこそ夕鈴自身が知りたい。 
何故皇子がにじり寄って来たのか、私の方が聞いてみたい。 王宮に足を運ぶ貴族息女ばかりを目にしているから知らないだけで、下町に行けば私みたいに日々バイトに精を出す勤労女性は沢山要るだろう。 でも、そんなこと言いたいけど言える訳が無い。

「皇子に言われた言葉を正直に全て話すんだ」
「・・・・・陛下、落ち着いたと言っていたのに未だに狼陛下なのは何故ですか? 今にも怒りそうで本当に怖いです」
「おや、私が怒りそうなことを奴に言われたと?」

夕鈴はどうしようと項垂れて思案した。 容易に近付くなと言っていたのは解かる。
私だって皇子のあの声は弱い。 腰に来るし背筋が妙にざわついて変な怖さに襲われる。 
あれは駄目だ。 あの声は女性の敵だと認識している。 おまけに台詞の内容は・・・・・・・・・。 
思い出した内容に夕鈴は耳朶まで真っ赤に染めて更に項垂れた。

「夕鈴、何故赤くなる? 夕鈴が言わないなら、桐に訊くことになるがいいか?」
「あ、桐さんが居たんですよね。 呼んだのに直ぐに来てくれなくて困りましたよ!」

思わず眉間に皺を寄せて顔を上げると、いつの間にか陛下が近くに居て目を瞠る。 慌てて避けようとするが、あっという間に腰を攫われ逃げ場を失い、陛下の膝の上に囚われた。

「そ、それなら桐さんに聞いて下さいっ! 私の口からはとてもじゃないけど言えません!」
「・・・・夕鈴の口から言えないことを奴は口にしたのか」
「あ、そうじゃ・・・・・。 でも・・・・・」

桐さんなら話を全部聞いていただろう。 聞いて・・・・・ 陛下にあること無いこと話すかしら? 
まさか浩大じゃあるまいし、余計なことは言わないわよね。 でも私で遊ぶこともあるから、油断は禁物? 第一私が悪いんじゃないし、皇子が勝手に言った言葉。 皇子の声に思わず腰が砕けてしまうのも、私のせいじゃない。

夕鈴がぐるぐると考えていると、髪が攫われて耳朶に柔らかいものが押し当てられた。
無意識に顔を傾けると 「夕鈴から聞きたい・・・・」 と狼陛下の低い声が近距離で重く響いた。 

「我が妃から話が聞きたいと足を運んだのだ。 話してくれるだろう?」
「・・・・・・・・・は」

反則でしょう、それはっ! 一体如何したのだ、陛下は。 宗広国から戻って来た陛下は否に私に絡んでくる。 杏を指で掴んで口に入れ、その指を舐めていたし、桐さんが薬湯を運ぶことを命じておいて後で咎めて来るし、皇子に皇女を押し付けておいて白陽国に来たら最終的には鞘で殴るし、バイト妃には狼陛下の声色で止めを刺そうとするし!

首を振って逃げようとするが、狼陛下の低い声も腰にくる。 手にも足にも力が入らない。
涙目で抗おうにも逃げ場を断たれ、畳み掛けるように耳元で囁かれてしまう。

「何を言われた、夕鈴・・・・」
「わ、私の名前を言いたいって・・・・っ! 手っ、手に触りたいって!」

耳元で狼陛下の声は駄目だと夕鈴は耳を押えるが、その手は簡単に外され、腰に回った陛下の片手に押さえ込まれてしまう。

「夕鈴の名前を言いたいと? 我が妃の名を紡ぐことを禁じたというのに・・・・・」
「お、皇子の国で、何回も言いたいって。 ま、毎夜って言ってた・・・・・。 陛下お願い、です。 耳元で言わないで・・・・。 力が抜けちゃ・・・・」

腰に回っていた陛下の手に力が入り、夕鈴の身体は後ろへ引き寄せられた。 
顎を掴まれ無理やり後ろを向かされた夕鈴がその苦しさに眉根を寄せて目を見開くと、怒気を孕んだ狼陛下が自分を睨ねているのが解かる。

「な、なんでぇ? 落ち着いたって・・・・ 怒らないって言ったのに・・・・」
「奴の国で夕鈴の名を毎夜紡ぎたいと言ったのか? 手に触れながら、夕鈴を押し倒そうとして、私が来るのが遅れていたら奴は四阿で何をしようとしていたんだ?」
「知りません! 荒れた手なんか何が楽しいのか・・・・。 それよりも、耳元で・・・・」
「・・・・・夕鈴。 奴の声で力が抜けたのか? 私の声の方がいいと言ったではないか」
「・・・・・・・・も」

もう駄目だ。 久し振りに狼陛下の声を束縛と共に聞いてしまった。 耳朶から滑るように腰へと落ち、そして腰から背筋を這い上がり、頭の奥へと低く甘く響く声に夕鈴は意識を放り投げた。

「夕鈴?」

急に膝上の夕鈴から力が抜けたのを知り、身体の向きを変えると彼女が勝手に意識を何処か遠くへ放り投げたのが判る。

「ずるいよ、ゆうりん。 ここで寝ちゃうなんて・・・・・・」

小悪魔みたいに僕を翻弄して、自分は眠りの世界へ逃げ込むなんて、君は本当に酷いよね。
・・・・・・それにしても琉鴇皇子は何度言っても懲りない奴だ。 浩大に伝えて宗広国へと早々の婚姻を推し進めさせよう。 人の妃に懸想するなど、十年早い。 奴なら夕鈴の身分を知っても押し掛けそうで本気で不味い。

「夢の中では僕に翻弄されてよね。 君を逃がす気は無いからね」

寝台に寝かすと君の眉間に皺が寄り、僕は指で皺を伸ばして口づけを落とす。 
どれだけ君に参っているか、どう伝えようか。 伝えて理解して貰うには時間が掛かりそうだけど、それも楽しいかと苦笑する。
君という 『囮』 に引っ掛かったのは僕の方だ。 
そして、君という囮に捕らえられた僕から逃がしはしないよ、夕鈴。



耳元にそう呟くと、夕鈴の身体が小さく戦慄いた。 




FIN 





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 18:00:15 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
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2013-03-29 金 22:37:08 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。コメントを読み、「おまけ」を書きたくなります。ムラムラとしちゃいますね。桐からの報告を聞いてブラック陛下降臨も楽しそう! 本誌では壊れている陛下ですが、こちらの陛下は我慢出来てますね。そういえば。 その分、underの黎翔さんがエロエロですけどー。 一週間後のコミック発売が楽しみで仕方がありません。おまけ漫画が楽しみなんです。 やっぱり「おまけ」書こうかな?
2013-03-29 金 23:21:28 | URL | あお [編集]
安心のイチャつきぶり?
お疲れさまでした(^-^ゞ
後半、夕鈴に迫る陛下にニヤニヤしながら読ませていただきました(//∇//)

耳元囁き、大好物です!

楽しいお時間、ありがとうございました!!(^w^)
2013-03-30 土 00:00:33 | URL | ダブルS [編集]
Re: 安心のイチャつきぶり?
ダブルS様、コメありがとう御座います。耳元囁きどーん。耳喰むさせちゃおうかと思ったのですが、流れが思わずunderになりそうで、止めましたー!(妖しい笑い) 皇女のその後が想像しにくい。きっとそういう人なんですよ。いますでしょ、世の中にそういう方。でも皇子に絡ませたい・・・・。如何しましょう(爆)
2013-03-30 土 00:03:58 | URL | あお [編集]
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