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思案の外  3
愛犬の美容室に出掛け、娘の買い物をしながら日曜日をうろうろと一日中歩き続けました。 外は肌寒かったけど店内は暖かく、娘と歩き続けて買い物をしていると、邪魔になるのは上着。 そして目にするのは春物の衣類などなど。 駄目ですよね。 つい手が・・・・。 駄目だと思いつつピアスを買っちゃうし、欲しかった財布は好みのものが見つからないし、娘には鞄をねだられるし。 ああ、財布の中身が冷え込む。



では、どうぞ。















「では、まず御泊りになる部屋を御案内致します。 賀祥様、どうぞ此方へ」
「ありがとう御座います。 おきさ・・・・・」

夕鈴は慌てて振り返り自身の口に指を立てて賀祥の台詞を止めた。 
「今は侍官姿ですので 『おい』 とかで呼んで下さい。 その方がそれらしいですので」 そう言うと、ぷるぷると首を横に振られ 「では侍官と呼んで下さい」 と言うとほっとした顔をされた。

浩大と共に部屋を案内して茶の用意を始めると、今度は驚いた顔でそのようなことはしなくても結構ですと慌て出された。 その声に振り向いた夕鈴は笑顔を向ける。

「お茶くらい淹れさせて下さい。 侍女さんに用意されるのもお辛いでしょう。 侍官姿でしたら多少お気持ちは楽ですか? お茶を飲みましたら少しづつ試しをさせて頂きますから」

妃の言葉に落ち着かないまま椅子に腰掛けた賀祥は、差し出された茶を飲み、そこで自分がどれだけ咽喉が渇いていたのかを知り、潤うと同時にほうっと息を吐いた。 その横で一緒にお茶を飲み出して菓子をくれと言い出す浩大を夕鈴は微笑みと共に軽く睨み付ける。

「陛下唯一のお妃様に個人の家庭事情にまで立ち入らせてしまい、真に申し訳なく存じ上げます。 そのような御姿までさせてしまい、真に・・・・・」
「あ、御気になさらないで下さいね。 この侍官姿で傍に居ることが慣れたら、今度は妃衣装であちこちを御案内させて貰いますから、今の内に慣れましょう!」
「そうそう、お妃ちゃんは気さくな人だから楽にしていていいよん」
「浩大に言われたくないわ。 あなたは気さく過ぎでしょう? 賀祥様は武官様よ?」
「いえ・・・・。 お構いなく」

こんなに体躯が良く武官としても御活躍されている御仁なのに、女性が病的に苦手とは可哀想だと夕鈴は心から同情した。 おまけに浩大の横柄な態度も気にした様子がなく、本当に懐が大きくて広い人だと感動すら覚える。 それなのに御実家では兄嫁に寝所を占拠されそうになり、親に気に添わぬ見合いを強制され、隊舎に寝泊りを続けているから余計に若い女性との触れ合いが少ないのだと聞いた。  
・・・・・それでも好きな女性がいるのね。 
その方と上手くいくように、まずは軽いスキンシップからしてみようと夕鈴は意気込んだ。

「賀祥様、まずは背中上部に触れます。 侍官に触れられていると思って意識しないで下さい。 大丈夫とは思いますが、もし無理だと思ったら言って下さい。 直ぐに離れますから」

背後に回って彼の大きな背中に触れながら、正面に回った浩大に伝える。 
「賀祥様が苦しそうな顔したら教えてね」 
こういうのは我慢しても駄目。 ゆっくりでいい、急いては事を仕損じる。
肩甲骨近くに触れたわたしの指に彼の背が小さく揺れたが、大丈夫だと伝えられ、その声に安心してゆっくりと両手の平を広げて背に貼り付けた。 しばらくそのままでいたが問題なさそうなので、肩へと手を移動する。
 
「えっと、肩のあとは頭を触らせて頂きます。 今のところ大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、だ・・・・ です。 ただ、妃に誠に申し訳ない・・・・・・」
「そんなこと仰らないで下さい。 ひいては陛下の御為と思えばこそ・・・・。 あの、女性が苦手なのは幼少の頃よりなのでしょうか。 あ、言いたくなければ言わなくてもいいです。 話していた方が気が紛れるかしらと思っただけですので」

いつの間にか肩揉みをしながらわたしは賀祥さんに話し掛けていた。 浩大は欠伸を噛み殺しながら正面の長椅子に横になり、わたしたちの会話をぼんやり聞いているようで少し睨み付けると手を振られてしまう。 構わずにやっていろと言うことだろうか。
しばらく肩揉みをしていると、賀祥さんが訥々たる口調で語り始めてくれた。

「・・・・私は生まれて直ぐに母親を亡くし、乳母に育てられたのですが、思い返すも良い乳母とは言えず、叩かれていた記憶しか残っておりません。 歳の離れた兄とは距離を置かれて育てられ、家にいる女性は皆父や周囲を窺うような者ばかりでして、話しも碌にした記憶がありません。 市井においても女性と話す機会は殆ど無く、また何を話せば良いかも判らず、武官になるための武科挙に向け日々専念していたばかりに、このように陛下唯一の妃のお手を煩わせる次第となり、面目次第も・・・・・」
「・・・・・・・・」

自分の話を黙って聞いていた妃の手が少し震えているように思え、賀祥がそっと振り向くと、俯いて肩を震わせているのが判った。 驚いて声を掛けると、妃は真っ赤な顔に涙を浮かべながら直ぐに横を向き、袖で涙を拭い始める。

「も、申し訳ありません。 ちょっと私も・・・ 母を亡くしていて、弟がいるものですから」
「そう、ですか・・・。 お妃様の御心を痛ませるような話をしてしま・・・・っ!?」

謝罪をしようとした瞬間、がしりと頭を捕まれ賀祥が驚く暇もなく前を向かされると、わしゃわしゃと髪を強く撫で回しながら少し鼻声の、でも元気な声が背後から聞こえた。

「背中も肩も大丈夫のようですので次は頭を撫でます! 今のところ大丈夫そうですね」
「・・・・・そういえば、そうですね・・・・・」

撫でるというより、掻き回されているように思えるが、厭な感じは全くない。
たぶん兄嫁たちから香るような甘ったるい香油や白粉の匂いがしないせいだろうとは思うのだが、武官仲間と行った食事処や呑み処での女性店員にさえ震えが走ったのに、今触れている背後の手には嫌悪感を感じていない自分に驚きを隠せない。
言われるとおり、見えなければ、女性と思わなければ大丈夫なのだろうか。
しかし父から言われた見合い場で相手を見ない訳にもいかないだろう。 
女性が酷く苦手なのだと自覚した少年時代、兄が跡継ぎだから大丈夫だと高を括っていたが、数年後にまさかこんな事態に陥るとは思っても見なかった。 
更に王宮へと足を運び、何故か陛下の妃に頭をぐしゃぐしゃに触れられている現状。 
普通では有り得ないだろうと自分の立場を振り返り、思わず背に大きな震えが走った。

「あ、今日は此れくらいにしましょうか。 遠方からいらっしゃったばかりですのにお休みもされていませんよね。 一度に沢山はなさらず、ゆっくり時間を掛けましょう。 大丈夫ですよ。 きっと賀祥様のお好きな方とも触れ合えるようになりますから」

賀祥の震えを感じたのだろう、妃は急いで頭から手を離した。 
半分寝掛けている浩大を叩き起こした妃は、丁寧に頭を下げて退室しようとする。 賀祥が慌てて呼び止め妃へと深くお礼を伝えると、大きな瞳を更に大きく見開き嬉しそうに微笑んだ。

「明日は午前中にお薬を取りに町へ行かれるとのこと、昼過ぎにまた足を運ばせて頂きます」
「ありがとう・・・・ 御座います」
「でも夜には賀祥様をお迎えしての宴がありますよね。 わたしも参列するように言われておりますので、あとで御会いすると思います。 その時は妃衣装での参列になりますので、賀祥様とは余りお話しは出来ないでしょうね」
「は、それは勿論で御座います。 私は一武官でありますれば」

賀祥の言葉に夕鈴は思わず苦笑した。

「いえ、妃衣装ですと女性を意識されますでしょう? 苦手はすぐに治らないでしょうし、ですからお話しは出来ないと申し上げたのです」
「あ・・・・・ そ、そうですね」
「兎も角、無理せずゆっくり試していきましょう。 では、失礼致します」

臣下に頭を下げて退室していく妃に驚きながら、賀祥は長椅子に身体を横たえた。 
噂とはまるで違う妃の様子に心底驚き続け、更に唯一とされる妃を自分の身体に触れさせることを赦す陛下にも驚きを隠せない。 確かに父が周囲の貴族や商人を束ねている立場であり、以前より王宮へ多額の寄付をしていることは知っている。 
それでも陛下唯一の妃だ。 
愛おしそうにされているのも四阿で見せ付けられた。
その妃を臣下の立ち直りのために遣わせるとは、今もっても信じられない。

それに後宮に一人だけの妃では心許無いと、多数の大臣、また他国から妃を推挙されているが陛下はそれを認めず、ただ一人の妃を深く愛でていると聞いている。 
その妃に翻弄され、手玉に取られていると悪い噂ばかりが流れているのを鵜呑みにしていたが、まさかその妃があのような人物とは。

四阿で背を撫でられた時にはゾワリと寒気がして急ぎ離れたが、陛下との掛け合いの後からは不思議と嫌悪感を感じることなく話しが出来ていた。 先程も背から触れられていたせいか、顔を拝見していなかったせいか、厭な感じは全く無かった。
それどころか饒舌に喋っていたのではないかと、今更ながらに自分の態度に驚いてしまう。

「好きな女性とも触れ合えるようになる・・・・・・、か・・・・・」

妃の言葉を反芻し、賀祥は額に腕を回してゆっくりと目を閉じた。






「宴の会場へと御案内に参りました」

突然の声に賀祥は驚いて目を覚ました。 顔を上げると部屋の入り口に官吏が居て、自分がいつの間にか深く寝入っていたことに気がついた。 武官としてそれは駄目だろうと頭を振り、着替えたあと誘導されるがまま宴の会場に足を運び、そこで一気に蒼褪めた。 
着飾った女官が艶かしく酌をしている姿が見え、賀祥は足が竦み進めなくなる。 
何度も官吏が陛下のお傍にと声を掛けてくるが、その声も女官の誘うような笑みを前に遠く掠れて聞こえ、頭の中は真っ白となり激しい動悸に襲われる。

「賀祥、こちらへ」

低く通る声に我を取り戻した賀祥がふら付きながら陛下の傍へと片膝をつき、拝礼をして顔を上げるとそこには華やかな衣装を着た妃が心配げな顔を向けていた。 
しかしすぐに団扇で顔を隠して俯いた妃の様子に、自分に気を遣っているのが判り、出来るだけ周囲を見ないようにして無言のまま腰を下ろす。

「普段国のために従事してくれているお前へのささやかながら歓迎の宴だ。 視察報告は済んでいるから、あとは食や酒を楽しみ、普段の労を労ってくれ」
「一武官への過分な御言葉、深く感謝致します。 ・・・・・しかし陛下。 で、出来ることなら、出来ることならば・・・・・」
「大丈夫だ。 こちらには妃が居るから女官は一切来ない。 妃が焼きもちを妬くからな」
「ほっ・・・・、ほほほほほほ。 そ、そうですのよ。 陛下のお傍に居ていいのはわたしだけと伝えてますので、女官は此方には来ません。 賀祥様は御心易くお過ごし下さいませ」

団扇からはみ出た妃の耳が真っ赤になっているのを知り、賀祥は安堵しつつ眉尻を下げた。

「お気を遣わせているようですね。 ・・・・・ありがとう御座います」
「いや、お前を上手く使っている部分もあるから気にするな」
「・・・・え?」

冷たくも妖艶な笑みを浮かべた陛下は隣に座る妃の手を取ると、その甲に口づけて彼女の腰を引き寄せた。 妃の耳は赤を通り越し赤黒くなって見え、壊死寸前ではないかと思えるほどだ。

「ま、まあ陛下。 そのようなことは、こ、後宮で二人きりの時にお願いしますわ・・・・」
「そうだな、後でゆっくりと時間を掛けて君を喰むことにしようか」
「ほ・・・・ ほほほほほ・・・・・」

可哀想なくらいに真っ赤になり身を縮込ませている妃を見ていると、自分が女性嫌いということを忘れそうになる。 そんな妃を庇うように陛下に酒を勧めると嬉しそうに潜めた声を漏らした。

「いつもは宴に妃が出ることは無い。 今回はお前が慣れるためにと誘い出したんだ」
「・・・・それで私を上手く使っていると」

嬉しそうに妃を引き寄せた陛下は、彼女の口元に食べ物を運び 「美味しいか?」 と顔を近付ける。 こくこくと頷く妃は真っ赤な顔のまま、どうにか飲み込んだようで目を潤ませていた。
そして 「陛下は野菜などもしっかり食べて下さいね」 と心配げに勧め始めている。

こんな妃がどうして 『後宮の悪女』 なのだろうか。
知らず妃を目で追っている自分にも驚く。 女性を目にすることさえ普段は不快感に襲われるというのに、彼女からは目が離せなくなる。 本当に陛下が好きだという感情を溢れさせていて、不快感も嫌悪感も感じない。 妃は陛下を見上げ柔らかく微笑み、耳に囁かれる睦言に団扇で顔を隠しながらも隠しきれない耳朶を染めて頷いている。
妃が居るため女官が近付くことも無く、賀祥は山海の幸を肴に陛下から注がれる酒を堪能した。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:13:13 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-04-02 火 09:19:42 | | [編集]
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2013-04-02 火 10:40:10 | | [編集]
陛下にも!!
陛下から夕鈴に触れることはよくあるけど、夕鈴から陛下に触れることはほとんどないのに…(^_^;)
賀祥さんには、髪の毛まで触ってる!?

陛下は何処まで許してるのかしら(笑)
後で浩大からの報告で賀祥さんが酷い目にあいませんよう…
2013-04-02 火 19:38:53 | URL | ダブルS [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。無意識煽り上級娘の言葉に萌えました。 どこかで使いたくなるこの言葉。 ニヨニヨしちゃいました。 マジにありがとう御座います。 バックはミシンの上に置いてあり、じっと娘を見たら「ごめん、やるやる」と言われました。 がっかりです。 詫びとしてチーズケーキを作ってもらうことになりましたー!わーい!
2013-04-02 火 20:06:07 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメありがとう御座います。 夕鈴の貸し出し、そうか、貸し出しですよね。確かに。 夕鈴を信用して任せましたが、さあ、どうなるでしょうかね。ぷぷぷ。 そうそう、李順さんは金ですよ。 そこは私の中で確かなものなのです。李順さんの守銭奴ぶりは確定なのです。
2013-04-02 火 21:03:50 | URL | あお [編集]
Re: 陛下にも!!
ダブルS様、コメありがとう御座います。 そうですよね、夕鈴から陛下には滅多にありません。 たぶん男性として意識しているからでしょうね。 うんうん。 それも萌えです。ニヨニヨ。 浩大からの報告も楽しみですよね。 ニヨニヨ。
2013-04-02 火 21:09:24 | URL | あお [編集]
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