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思案の外  4
気温が低い日が続き、桜がどうにか残っていたのですが、雨で散っていく様が少し寂しい。
予定していた花見が中止になり、ただの飲み会になりました。ダイエットは何処に行った。



では、どうぞ。















陛下と語り合う楽しげな妃の声を耳に、賀祥は心の奥に沈ませた彼女を浮かばせる。
 
初めて彼女と会ったのは真夏の日差しの下。 
焦げ茶の髪を靡かせ濡れた黒檀のような瞳を輝かせる彼女を見た瞬間、今まで感じたことのない衝撃が走り、しばらく彼女から目が離せずにいた。 視線に気付いたのだろう、佇む自分に彼女はゆっくりと近付いて来ると、そっと吐息混じりの視線を落とす。 
その視線から目が離せなくなり、その時・・・・・ 恋だと気がついた。 
その艶やかな髪に指を絡ませ、首を掻き寄せるように身体を抱き締めたいと思うだけで、いつも自分は幸せになり、思い出すだけでも直ぐにでも君に逢いたいと強く願ってしまう。 
 
義弟の寝所に潜り込み身を任せようとする香油臭い兄嫁たちの熱を絡めた視線も身体も、ただ吐き気を催すだけ。 夜だけではなく、時には昼日中にすら誘いを掛ける兄嫁達に身体を休める暇さえ与えられず、ようやく武科挙合格を果たし隊舎へ移ってからは父からの執拗な呼び出しを受け続けていた。 自分を跡継ぎには出来ないが、その子供を担ぎ上げたいと言われた時には虚脱感さえ覚え、余りのことに言葉も無くしたのを思い出す。
子供を産むだけに用意される女性も可哀想だと思ったのだが、多額の金でそれを良しとする女性もいるのだと知った時は、その存在に血の気が引くほどの嫌悪感を覚えた。 
それが世の当たり前だと存外に謂われたようで、乾いた嗤いが零れ落ちたのを思い出す。
だが父の言う通りに女性への苦手意識を改善して見合いさえ上手く乗り越えることが出来たら、そのあとは彼女を第一に考えることが出来るようになる筈と信じて。 

・・・・・・・・早く彼女に逢いたい。 
他はいらない。 彼女以外興味も無い。

そのためにも、心底申し訳ないとは思うがお妃様の助けを借りてでも、せめて触れることは出来るようにならなければならない。

「明日お出掛けなさるのですから賀祥様は部屋へと御戻りになり、お早めにお休みなさった方が宜しいでしょう」
「・・・・え? あ、そうですね。 そうさせて頂けると助かります」

急に現実に戻される。 嫌悪感を抱く兄嫁達との過去の悪夢が、妃の柔らかな気遣いの言葉に解けるように消えていく。 顔を上げて声のする方を見ると眉間に皺を寄せた妃の顔が窺え、賀祥は驚きの表情を浮かべる。 何があったのだと困惑を呈すると、陛下が 「顔色が悪いぞ」 と呟いた。 自分では顔色など判らないが、深く思いに沈み込み過ぎたせいだろうか。

「・・・・やはり疲れが残っているのかも知れません。 部屋に戻らせて頂きます」
「明日、午後の約束は取り止めに致しましょうか?」

心配げな妃に小さく笑みを零し、大丈夫ですと言葉を落として部屋へと向かった。 濁った澱が少しだけ清められた気持ちになり、賀祥は深く眠りへと沈み込む。
眠りの中に彼女が現れるように願いながら。





「夕鈴もそろそろ部屋に戻ろうか。 悪かったね、宴に付き合わせて」
「いいえ、大丈夫ですよ。 ・・・・・少し賀祥様の御家について話を伺ってしまいましたので、それでお疲れになっているのではないかと、それだけが気掛かりですが」

俯いた夕鈴が寂しげな表情になっていることに気付いた陛下は、直ぐに母親に関してのことだと思い至り、そっと彼女の肩を引き寄せた。 
いつも何事にも一生懸命の夕鈴が賀祥に対しても、真面目に真摯に対応するであろうことは承知している。 その優しさが彼の気持ちを少しでも変えてくれるのを望んではいたが、必要以上に奴のことばかりを考えるのは面白く無いと、夕鈴の頤を持ち上げて顔を近づけた。
途端に真っ赤な顔になり、目を大きく見開く夕鈴は大臣らがいる宴と知っているだけに逃げること敵わず、強張った笑みを浮かべて固まっている。

「君が考えるのは私だけで良いのではないか? 他の男のことを思うことなど大罪だ」
「わ、わたしが想う方は陛下だけで御座いますわ。 あ、あの、わたしは部屋に戻り、先に休ませて頂くことに致しますわね。 陛下はもう少しお付き合いなさるのでしょう?」

頤を持ち上げている陛下の指先をそっと外した妃は静かに立ち上がり、赤い顔を団扇で隠しながら入り口で待機していた侍女と共に部屋へとそそくさと足早に下がって行く。 
入れ替わるように李順が近付いて来る気配に、陛下から思わず嘆息が漏れた。

「陛下、報告書の提出を周宰相がお待ちで御座います。 政務も山と詰まれております」
「・・・・・・三日間の視察後だぞ。 少しは労わろうと言う気は無いのか?」
「私も休みを頂いておりませんので、その意見は却下させて頂きます」

真面目な側近から冷たい据わった視線を受け、陛下は渋々立ち上がり宴の終了を告げると、執務室へと重い身体を向けることになった。 隙を見て夕鈴の部屋でお茶を飲もうかなと密かに考えていたが、その考えは側近には筒抜けだったようで、深夜かなり遅くまで開放されることなく山と詰まれた書簡に魘されながら椅子に縫い付けられ続けることになる。









「お帰りなさいませ、賀祥様。 お疲れでしたら今日はお止め致しますが、大丈夫ですか?」

城下で薬を受け取り戻った報告を受けた妃が、侍官姿で部屋へ顔を出した。 わざわざ侍官姿をして下さる妃を部屋まで来させることに申し訳ないと思いながら、女性に早く慣れたいため助かる部分もあり、賀祥は大丈夫だと告げて部屋へ招き入れる。 

「昨日のように背後から触れられることには耐性がつきそうです。 でも、その前に買って来ました菓子をどうぞ召し上がって下さいませ。 お好みに合うか判りませんが」
「わあ、ありがとう御座います。 では先にお茶を淹れさせて頂きます」

子供のような笑顔を浮かべる様子にも、浩大が菓子に手を伸ばそうとしたのを叩き落して止める様子にも驚いてしまう。 妃警護をしていると言った浩大は他国で一年にも及び、様々な情報収集を行い、時に国境付近でのいざこざにも顔を出していた。 副隊長として隠密の浩大を知るが、陛下唯一の妃に余りにもぞんざいな態度を取る彼に声を潜めて問い質す。

「陛下唯一のお妃様に対しての態度では無いように見えるが、叱責は受けぬのか?」
「あ~・・・・・。 時々怒られるけど、紙一重でかわしているから大丈夫だよ」

やっぱり怒られることがあるのかと、賀祥は背を正す。 
国境警備隊に顔を出す時は少しばかり砕けた感を見せる陛下だが、やはりその御心は全てを見通しているようだ。 王宮の政務だけではなく、盗賊や辺境貴族との馴れ合いや賄賂、隣国との折り合いなど多岐に渡り御心配は尽きないだろう。 
その御心を癒す唯一の存在である妃を自分へ遣わせて下さるとは、自分はどのように気持ちを返したらいいのだろうか。 出来ることは一刻も早く女性への嫌悪感を払拭し、見合いだろうと何だろうと実家のために、彼女のために頑張るだけしかないように思え、賀祥は拳を握り締めた。
兄の体調も、手に入れたこの薬で良くなると信じ、自分は出来ることをするだけだと。

「お妃様、今日は背後からではなく、正面から挑戦してみたいと思います!」
「だ、大丈夫ですか? 一度に挑戦するのは止めて、地道にされた方が良いと思いますが」
「・・・・・時間がありませんので、お願い致します!」

浩大が 「頑張れ~」 と気の抜けた応援を寄越し、真面目な顔を向ける賀祥に夕鈴は戸惑った。 それでも望まれたからには協力しようと、意を決して距離を取って隣に腰掛ける。 
暫くはそのまま大人しくお茶を飲み、菓子を口にして夕鈴は口端を持ち上げる。

「この揚げ菓子美味しいですね。 中の餡が甘さ控えめで幾らでも食べられそうです」
「お妃ちゃん、お茶のお替りいい? マジに旨くて有難いね~!」
「浩大は食べすぎないようにね。 ほら、床に零さないようにして!」
「世話焼きお妃ちゃん、ほら、授業開始しなよ。 オレよりも隣に話し掛けないと」

そうだったと体の向きを変えて、賀祥をじっと見つめる。 途端に強張った顔が背けられ、それでもじっと見つめていると、賀祥の頬がジワリと染まり出し額に汗が滲み始めたのがわかる。

「では賀祥様、動かないで下さいね。 額の汗を拭きます」
「・・・っ! やっぱり正面から来るのは・・・・。 いえ、う、動かずにいます・・・・・」

震える声に夕鈴は出来るだけ近付かないように手を伸ばし、手布で額に浮かんだ汗を拭く。 
それだけでも賀祥が小刻みに震えているのがわかり、大丈夫なのかと眉根を寄せてしまう。 

「次は侍官帽を外します。 まあわたしでは余り女ーって感じではないでしょうが、少しづつ女性に慣れるように頑張りましょう」
「は・・・・・。 か、髪が・・・・・・」
「文官でも武官でも髪の長い方は沢山いらっしゃいますよね。 今は女装している侍官だと思って慣れましょう。 大丈夫です。 取って喰う訳じゃありませんから」

浩大がケタケタ嗤うから軽く睨み付ける。 侍官帽を取ると、賀祥が視線を逸らして肩を竦ませたのが判り 「此方を向くことは出来ませんか」 と訊ねると、咽喉を大きく動かしてゆっくりと顔を上げた。 後ろで一纏めにしていた髪を解くと、賀祥が声無き悲鳴を上げて視線を彷徨わせる。 動かないで下さいと伝えてから額に滲む汗を拭くと、ぎゅっと目を瞑り小さく震えた。

「もう・・・・ 止めましょうか?」
「だ、大丈夫です。 お妃様の貴重なお時間を頂戴し、御手を煩わせておりますのに進歩が無ければ男として廃りますゆえ、お続け下さいませ。 ほぉ・・・・ 本当に大丈夫ですので!」
「・・・・・女性が近付くと、どのようになりますのか御聞きしても宜しいでしょうか」

妃からの言葉に目を開けると、彼女は立ち上がり御茶を淹れようと自分から離れているのが判る。 思わず肩から力が抜け、深く息を吐きながら片手で額の汗を拭う。

「・・・・このように汗が出て、体が震え、言葉がどもり・・・・ 酷くなると吐き気と頭痛がして、その場から逃げ出すのが精一杯となります・・・・」
「賀祥様がお好きだという方の傍に居る時は大丈夫なのですね」
「・・・・・はい」

それは深い愛のためだわ・・・・ と夕鈴は深く感動した。 真の愛の前ではどんな障害も乗り越えるものだと解かり、好きな人の傍に居る時は問題ないのだからいいじゃないかと思うが、父親から依頼されたのは女性全般に対して賀祥さんの苦手意識の改革。 

「女性の苦手意識を払拭するためにも、苦しいですが精一杯努力致します。 これを乗り越えねば彼女にも逢えないのです。 お妃様、どうぞ厳しく御指導下さいませ」
「まあっ! そんな事情があったのですか!」 

親に引き裂かれた真実の愛に甚く同情した夕鈴は、短い滞在期間にどれだけ自分が役に立てられるかと気持ちを引き締めた。 浩大がさも面白そうに見ているとは知らず、夕鈴は心を鬼にして背後から賀祥に近付いて行く。 

「では昨日よりも沢山触れさせて頂きます。 嘔気や頭痛がするようでしたら中止します」
「か、覚悟の上で御座います。 よろしく・・・・ お願い致します」

賀祥のか細い声を聞きながら、夕鈴は思い切り背に触れた。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:04:04 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
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2013-04-03 水 20:23:56 | | [編集]
Re: どこまで大丈夫!?
ダブルS様、コメありがとう御座います。がんばれのコメントマジ嬉しい! 殆どが心配のコメントが多いので、どれだけ夕鈴天然なんやと突っ込みを入れております。陛下の焼きもちもこれからどんどん出していきたいので、御付き合い下されば嬉しいです。
2013-04-03 水 21:56:18 | URL | あお [編集]
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2013-04-03 水 21:56:25 | | [編集]
Re: どれだけ……
makimacura様、コメありがとう御座います。戦争時は逆パターンが至極当たり前にあったそうですよね。弟が兄嫁と婚姻を結ぶって。同じように子孫を残す為だそうですが、当時の貴族階級の人は大変ですよね。ここら辺からのんびりになると思いますが、のんびり御付き合い下されば嬉しいです。
2013-04-03 水 22:14:05 | URL | あお [編集]
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