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思案の外  8
日曜日は風が強かったですね。 頑張って咲残っていた桜もずいぶん葉桜に変わり、入学式は葉桜が多いようです。うちは明日が入学式となり、娘も用意と部屋の片付けで忙しい様子。
さて、切ない夕鈴の心情を引き摺ることなく、オリジナルさんがまた登場となります。ちょい役さんですが、御了承下さいませ。



では、どうぞ。















「お妃様、お薬湯をお持ちしました」
「ありがとう、そこに置いて下さい。 着替えが済んだら老師の許へ参りますが、その前にもう少し横になりますね。 一刻ほど目を閉じる時間を下さいませ」

今朝の頭痛は酷かった。 今は鈍重が残るだけとなったが、やはり咽喉の痛みなどは無く風邪ではないのだろうと思える。 真白い中で泥に足を取られる自分が思い出されるが、目覚めと共に夢は霧散していき、いつものように漠然とした不安だけが残った。

「枕・・・・・ 変えてみようかな。 それくらいは言っても大丈夫よね?」

枕のリース代です、なんて借金加算されないかしらと半分本気で悩んでいると、侍女が驚いた声を上げているのが判り、わたしはまさか・・・・ と思うしかない。

「夕鈴、朝から薬湯なんて、一体どうしたんだ?」
「・・・・・やっぱり陛下」

ゆっくりと起き上がり大丈夫だと告げながら陛下に向き直ると、安堵した顔を見せてくれた。 
朝から慌てた様子の侍女が薬湯を運んでいると聞き急いで来たと、心配げな顔で寝台に腰掛けた陛下は、髪を何度も撫でてくれる。

「起きた時に頭痛がしたので、最近のこともあり念のためにと飲むことにしたんです。 風邪では無いと思うのですが万が一移ると大変ですから、陛下はどうぞ離れて下さい」
「君から貰えるものなら風邪であろうと嬉しいよ。 それより体調が悪いなら、今日は賀祥のところには行かずに寝所でゆっくり過ごしていた方がいいからね」

甘く心配げな声に申し訳無いと思うが、やらなければならないことが待っている。 
薬湯が効いてきたのか眠気が瞼をとろりと下げていくのを感じながら、頭を撫でる手に指を伸ばそうとして・・・・ 止めた。

「・・・・任された仕事はきちんと最後までします。 いえ、させて下さい。 大丈夫ですから、少し休めば出来ますから。 どんなことも最後まで頑張りますから」
「もう触ることも、顔を見ることも大丈夫なんだろう。 後は良いのではないのか」
「今日は侍女さんを会わせようと思っているんです。 ですから最後までさせて下さい」

もう痛みはない。 判りきったことをいつまでも悩む自分でもない。 
ちゃんと頼まれたことを最後まで責任持って行い、バイト妃として頑張ればいいだけだ。 

「ただ少し眠ってから・・・・・ 行って来ますね」
「うん。 ・・・・・もう触っちゃ厭だからね、夕鈴」

聞こえて来た言葉に苦笑を浮かべ、澱んだ気持ちを押さえ込みながら夕鈴は瞼を閉じた。



頭痛のため薬湯を飲み静かに目を閉じた夕鈴を、僕は寝台に腰掛けながらじっと見つめる。 
急に崩れる夕鈴をここ数日で数回見ていた。 
急ぎ全てを調べさせたが怪しいものを口にしている様子はない。 侍医に診せようと思っていたが、そのまえに自ら薬湯を求めるほど酷い状態になったのだろうか。 
君は人に頼ろうとせずに、いつもぎりぎりまで頑張ってしまう。 頼って欲しいと伝えているのに、大丈夫だと頑張り続ける君は、時に僕の心配を無碍にしているとは思わないのだろうな。 
何事にもいつも真っ直ぐに取り組む君を、いつまでも見つめていたいと、手離すことなど考えも出来なくなっていると思っているとは知らないだろう。 愛しい妃を甘やかしたいと、いつまでも傍にいて欲しいという願いを、君はいつか叶えてくれるだろうか。

「国家繁栄を願う祭祀で、そんな願いをしていた僕を、君は怒るかな」

額の髪を払うと、少し眉間に皺が寄ったのが見える。 その皺を指で伸ばし、静かに寝所から離れようとして、君の小さな呟きを耳にした。

「・・・・たい。 ・・・っと・・・・・」
「 ? 痛いのか? 頭だけか、それとも」
「・・・・・それ・・・・ わたし・・・・」

もう一度寝台に腰を掛け耳を澄ますが、それきり言葉は途切れた。 
穏やかな寝息が安らかな眠りに沈み込んだことを伝え、僕はそれ以上問い掛けることが出来ずに、もう一度君の額を撫でて立ち上がる。

部屋から出て、浩大を呼びそのまま夕鈴の警護を厳重に行うよう指示を出し、また気を失うようであれば強制的に侍医に診せるように伝えると、浩大が困ったように頷いた。

「その場合、オレが担ぎ上げて医局に運んでも、陛下怒るなよな」
「・・・・・万が一、夕鈴が倒れたら至急、呼ぶように」

軽い嗤い声を上げて姿を消す隠密に、やはり面白く無いと後宮を振り返る。 きっと目が覚めたら賀祥の許を訪れて、駄目だと言っているのに触るのだと思うと眉間に皺が寄ってしまう。 
僕の悋気に気付かない夕鈴。 それが君らしいと思うけど、やはり面白くはない。







「賀祥様、明日の午後に出立し、西方へお戻りなさると伺いました。 ですので、今日はわたし以外の女性と、接触を試みてみましょう! 四阿にて侍女さんたちが、お茶の用意をしてお待ちしておりますので、早速足を運んで頂けますか?」
「・・・・他の女性、ですか。 他の・・・・・」

午後になり、部屋に入って来たのがわたしと浩大だけだったせいか、緊張も無く微笑んでいた顔が妃の提案に急に強張り出し、見て判るほどに蒼褪めてきた。 

「お見合いでは初めての女性と御会いしますよね。 ですから侍女さんに会って頂き、慣れることを今日は試しとさせて頂きます。 時間がありませんので、サクサクいきますよ!」
「・・・・・・・・ぃ」

少し可哀想に思えてしまうほど小さな返事が聞こえて来たが、聞こえなかったことにして夕鈴は四阿へと賀祥を連れ出した。 侍官姿の浩大が後から付き従い、王宮側の庭園に設えた四阿には侍女が三人揃って茶器の用意を整え、妃と客人の訪れに拱手して静かに頭を下げる。
 
「賀祥様どうぞ。 奥へお掛け下さいませ」

ああ、素晴らしく鍛え上げた体躯を縮込ませ、蒼褪めた顔を俯かせた鬼神の如き剣術の遣い手であろう賀祥に同情を覚えてしまう。 
しかし、夕鈴は心を鬼にして微笑みをパワーアップさせた。 
侍女にお茶を淹れるように指示し、奥に腰掛けた賀祥に近寄らせると、想像通りに彼は怯えた表情を浮かべるから目線で叱咤した。 小さく頷いた賀祥が恐る恐る顔を上げ、侍女に礼を伝えると微笑みを返され、声無き悲鳴を上げて視線を彷徨わせるのが見える。
いきなり三人の侍女は無謀だったかしらと夕鈴が腕を組み、新たな考えを模索していると官吏姿の桐さんが姿を見せた。

「失礼を致します、お妃様。 先程、賀祥様にお客様が御出でになり、お妃様にも御目通りを願い出ております。 今、お時間を頂いても宜しいでしょうか」
「き・・・・ いえ。 賀祥様へのお客様でしたら、どうぞ此方へと足を運んで頂けるよう御案内して下さいませ。 茶杯の追加をお願いします。 終わりましたら人払いを」

桐さんが連れてくる人物なら、何の問題も危険もないだろう。 それに侍官姿の浩大が傍にいる。 すぐに許可を出して待っていると、その人物は間も無く姿を見せた。 
人払いが済んだ四阿に姿を見せた人物は光沢のある淡い色合いの長衣を優雅に着込み、その長衣襟と袖口にされている金糸交じりの豪奢な刺繍と同じものが施された腰帯を締め、濃い色合いの肩衣を羽織り、柔らかくも寂しげな笑顔を浮かべている。 背は高いが細身の体躯が少し弱々しい。 

「兄上、如何されたのですか? 王宮にまで足を運ばれて!」
「え? 賀祥様のお兄様、ですか? あれ、お体の具合が悪いと・・・・・ 大丈夫ですの?」

夕鈴が思わず兄と呼ばれた人物を見つめると、困った顔を浮かべながら頷いた。 
賀祥が慌てて妃である夕鈴を紹介すると、兄は膝をつき拱手した腕を持ち上げ深々と挨拶を述べた後、そのまま伏せるように低頭してしまう。

「お妃様、もっ・・・・申し訳御座いません! まさか陛下唯一のお妃様に、うちの家庭事情で祥が多大な御迷惑をお掛けしていると聞き、急ぎ謝罪に参った次第で御座います!」

侍女さんを下がらせておいて良かった!! 
夕鈴は団扇を顔に押し付けながら、目の前で平伏する男性を見つめ、そんなことを考えていた。 桐さんがわたしを突いたので意識を取り戻し、急ぎ顔を上げるように伝える。

「陛下よりお話しを聞きまして、わたしで御役に立てるならとさせて頂いていることで御座いますゆえ、そこまで御気を遣われなくても宜しいですわ」
「いえっ! 全て私に責が、咎が・・・・ 御座います。 先程陛下には全てをお話し、直ぐにでもお妃様の御試みをお取り止め頂くよう伝えてあります」

いきなり平伏され謝罪を受けてもその内容が、賀祥にも夕鈴にも理解出来ない。 
夕鈴が浩大と桐に振り返り 「何のことなの?」 と訊ねると、浩大が賀祥の兄を立たせて四阿へと移動させ、夕鈴がお茶を差し出すと震えながら手を伸ばし、少し飲んでから息を吐く。

「兄上、何のことだか、全く理解が出来ない。 きちんとした説明を頼みます」

賀祥が困惑を呈しながら先を促すと、小さく頷いた兄は重々しく口を開いた。

「実は・・・・ 私には以前より好いた女性がおりまして、ただ身分の違いから父より強く反対をされ続けていました。 家の為にと幾人もの女性を娶るよう言われても、私はそれを厭い、身体の弱いふりをしてささやかな抵抗とばかりに褥を断り続けていたのです。 跡継ぎが出来なければ、我が子を、愛しい人との子供を認めてくれるのではないかと考えて・・・・・」
「お子さんがいらっしゃるのですか!?」
「兄上、それは本当ですか!?」

突然の告白に思わず椅子から立ち上がる二人に、兄は打ち震えるように謝罪を繰り返した。 

「父がまさか祥に見合いを薦め、あまつさえ子を取り上げる話をするなぞ思いもしなかった。 本当に兄として不甲斐無い。 もっと父と話し合いをするべきであった」
「で、では話し合いが出来たからお兄様は此方に足を運ばれたのですか?」

夕鈴が首を傾げると、眉根を寄せた切なそうな顔を上げた彼は 「まだ話し合いは続きますが」 と言った後で、背を正し柔らかく微笑みを浮かべた。

「このまま不毛の関係を妻達と続けていても互いに疲れるだけです。 それに愛しい人を影に据え置くことは私には出来ません。 祥にもそれを伝え、兄の、家の犠牲にならないで欲しいと伝えに来たのです。 祥、長い間迷惑を掛け、本当にすまなかった」
「兄上・・・・・。 それで兄嫁様たちがあのように執拗に・・・・・」
「ああ、酷く迷惑を掛けていたと聞いた。 祥が女嫌いだと思いも寄らずに、な」

女嫌い? 賀祥さんは女性恐怖症でしょう? 
あ、武官が恐怖症では格好がつかないから女嫌いとしているのかしら。 
まあ、それは今は措いておいて。

「賀祥様は無理にお見合いをされなくても良い、ということで御座いますか? 兄君のお子様と奥方の件は・・・・・。 あ、いえ。 では試しは行わなくても良いとのことですね」
「お妃様に於かれましては、御面倒をお掛けしたようで大変恐縮で御座います」

深々と頭を下げられてしまい、夕鈴は自分が満足に事を終えていない事実に目を瞑るしか出来なかった。 ただ賀祥が意に反した見合いを強制されることはなくなったのだと、これで愛しい女性とも触れ合えることが出来るようになるのだと信じて笑みを浮かべる。 
それ以上は立ち入ってはいけない境界線の向こうの話だろう。

「これからお父上様とのお話が上手く進みますように祈っております。 賀祥様、どうぞ御部屋へ移動なさり、兄君とお話をお続け下さいませ」

懸念の一つだった兄様の体調の心配も無くなり、更に御自身の見合いも無くなったのだ。 
賀祥も心から安堵したことだろうと考え、用事が無くなってしまった夕鈴は侍女を下がらせていたため浩大を伴い、そのまま医局へと足を向けることにした。

「お妃ちゃん、まだ変なのか?」
「うん・・・・。 起きた時に頭痛がするのよね。 それも連日だから診て貰おうと思って。 今朝みたいに陛下に心配掛けるのは申し訳ないし、急に意識を失うのも怖いし・・・・・・」

寝足りない筈はないのだが、目覚めると頭重感と鈍い痛みが残っており、漠然と感傷にも似た胸苦しさに苛む自分に不安を感じていた。 今朝の違和感は特に酷く、薬湯を飲み一度眠った筈なのに胸苦しさと頭重感がいつまでも残り、気を張っていないと目を閉じたくなるほどだ。
眠気のせいか、食欲も余りないし、これではちゃんとバイトが出来ない。
何事も早めに対処した方がいいだろう。

自分の気持ちも早めに切り替えるだけ、自分の立場と仕事を思い出して夕鈴は妃スマイルを浮かべながら回廊を歩いた。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 10:28:08 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-04-08 月 12:50:27 | | [編集]
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2013-04-08 月 20:06:27 | | [編集]
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2013-04-08 月 23:49:56 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメありがとう御座います。 ごめんなさい。 頭痛の原因はこの次の次・・・ になります。賀祥さんタイプで嬉しいです。 お兄様もですか。 勿論、陛下もですよね? 浩大も、李順さんも。ああ、いい男ばかりで萌えますよね~。
2013-04-10 水 23:14:04 | URL | あお [編集]
Re: 残る問題は…?
ダブルS様、コメありがとう御座います。 そうそう、夕鈴の特訓も指導も愛の鞭も、無駄ではなかったと証明したいです。 夢の方はもうしばらく後になりますので、御付き合い頂ければ幸いです。 8巻の夕鈴、そうそう超可愛いですよね。 うん、早く陛下手をしっかり出しなさい! と突っ込みを入れたいです。
2013-04-10 水 23:17:34 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。 兄子供はやっぱり驚かれましたか。やったー!(笑)桐さんの登場が少ないですが、メインが賀祥さんなので、御勘弁。 以外に桐さん人気で嬉しいです。わーい!(笑)
2013-04-10 水 23:19:04 | URL | あお [編集]
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