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思案の外  10
のんびりムードの娘の高校生活が始まって、クラス全員仲良しさんになれそうだと早速カラオケの約束なんかして来た。部活の曜日が決まり、バイトも始める予定だって。
振り返れば自分にも・・・・・  ♪ そんな~時代も~あったよね~(中Oみゆき:時代)

では、どうぞ。




 











執務室の扉を叩いて顔を出したのは官吏姿の桐さんで、扉を開けたまま入り口から半身を乗り出し、わたしに部屋を出るよう指示して来た。

「後宮に戻る準備を。 あとその冊子は持ち帰り、続きをしっかりと読み進めるようにと伝言を承っている。 必ず後で質問するからとのことだ」
「・・・はぁい。(流石、李順さん、容赦なし!) ・・・・あの、浩大が追い掛けているのは、やはり賀祥さん絡みなのでしょうか。 よく判らないけど、わたし少しは役に立ったのかな?」
「詳細は伝えられないが役には立ったのだろう。 直ぐに動きがあったからな。 あとは奴らの裏を調べている隠密からの証拠が揃うのを待つばかりだ」

伝えられないと桐さんが言うからには、それ以上何もわたしに伝えることはないだろう。 
何があったのは判らないまま、それでも役に立てたのならいいやと考えることにして、わたしは立ち上がった。 途端に軽い眩暈がして膝から力が抜け、長椅子に崩れ落ちると背凭れに強かに額を打ち付けてしまう。

「痛っ・・・!」
「粗忽だな。 そう言えば具合が悪いと聞いたが、大丈・・・・ おい!?」

桐さんの呆れたような声を聞きながら、額を押えて大丈夫だと言おうとして痛みに目を閉じた瞬間、闇に囚われ、わたしは意識を失った。 




闇に落ちたはずなのに、広がるのはまた白い世界。
白い霧の世界が広がっていて、わたしの足が竦む。 また此処だと思いながら、足を竦ませながら、それでも期待を込めて視線を彷徨わせる自分がいる。 
あの手が差し出されるであろう場所を探しながら、わたしは必死に霧を手で掻いていた。 
今度こそは離さないと、離したくないと手を伸ばす。 泣きそうになるほど手を伸ばして捜し求め続けていると、ゆるりと空気が動いた。 

「・・・・おいで」

その声に胸が痛くなる。 だけど、この手を取って・・・・・ その先は?
いつも答えが出ないまま、それでも求めるようにわたしは手を伸ばす。 重なる手の温度に安堵しながら、切ない思いに身が崩れ落ちそうになり強く手を繋ぐ。 毎夜繰り返されるこの夢の最後はいつも同じだというのに、今日こそはと必死に手を繋ぎ、痛いほど指を絡める。

だけどその指は、その手は、いつもと同じようにわたしから離れていくのだ。

「・・・・それは君の願いか?」

違うと声に出したい想いは、ただ霧の中に飲み込まれるように掻き消えるだけ。 
望みを咽喉から零すことさえ出来ずに、いつものように足は動かなくなる。 また白い世界に独り残され、わたしは声を出そうと必死に手を伸ばし続けた。





「・・・りん、夕鈴!」

聞き慣れた声に名を呼ばれて、わたしは重い瞼を開く。 瞳の先に整った顔貌が間近に迫っていて、一気に目覚めた。 最近、こんなことが何度も起きているような気がする。 
気付けば大きな手に頬を撫でられていて、熱が上がったように唇が戦慄き出した。

「へ、陛下? あ、あれ・・・・。 こ、ここは・・・・ 執務室?」
「うん。 頭を打ったようだから動かさずに寝かせていたんだが、魘されていたよ・・・・」

心配げな顔で覗き込まれ、頭を上げようとして更に気付いたことに驚愕した。 
わたし、陛下の膝上に頭を乗せて寝ている!! 
慌てて起き上がろうとすると、額を押えられ動きを制された。

「も、大丈夫、です! も、もしかして薬湯を飲んでいたから眠くなっていたのかな? もう、大丈夫ですから、本当にごめんなさい! お、重いですよね!?」
「重くはないから、もう少し寝ていて」
「で、でも陛下のお仕事の邪魔になりますでしょう!」
「はい、邪魔ですので、起きたのでしたら夕鈴殿は後宮へお戻り下さい」

こっちも聞き慣れた声だ。 陛下の手を押し退けて急ぎ立ち上がり、李順さんを見ると眉間に皺を寄せた顔に 『この粗忽者!』 と書かれており、恐怖を覚えて執務室を出ようとした。 
それなのに腕を引き寄せられ、そのまま腰まで攫われたわたしは、李順さんがいるというのに陛下の膝の上に乗せられ、悲鳴を上げてしまう。

「へ、陛下っ! 李順さんが邪魔だって・・・・。 お仕事がおありなんですよね!」
「愛しい妃の具合が悪いのに、仕事どころじゃないだろう。 もう少しで終わるから後宮に送っていくよ。 このままここで待っていてくれないか。 いや待っていろ、夕鈴」

見ると長椅子前の卓には書簡や筆が置かれていて、わたしの頭を膝上に乗せたままでも仕事をしていたのだと判る。 申し訳なさに身を竦ませながら、李順さんに視線を移すと恐ろしいほどに睨み付けられていて、蒼褪めたわたしは立ち上がって執務室から逃げようと足掻いた。

「このままでは御仕事になりませんから、一人でも、もっ、戻ります!」
「浩大も桐も今は他の仕事に掛かり切りだ。 君一人で後宮に戻すには不安要素が多過ぎる。 夫が送るまで、傍にいて欲しいと願っている。 君がいると政務にも励みが出るからな」
「・・・・・陛下がそこまで仰るなら、この山を早く崩されるようお願い致します。 私は間諜の調べもありますから、早くお戻りになりたいのでしたら急いで崩されますよう」

大仰な嘆息と共に、署名が済んだ書簡を持ち上げて李順さんは部屋を出て行った。 
窓を見ると漆黒の闇が迫っていて、自分がどれだけ寝ていたのかと驚いてしまう。

「では、ちゃんと陛下をお待ちしますから、卓へと移動してお仕事をなさって下さい」
「わかったよ、でも本当に大丈夫か? 侍医には何て言われた? 診て貰ったんだよね」

その問いにわたしの目の前が真っ白になり、ぼんやりしながら陛下の顔を眺めた。
膝上からわたしを下ろした陛下がぶつけた額を撫でてくれる。 わたしの額を撫でていた陛下の手を掴むと、呆然としたまま手を握り締め、そしてそのまま、きゅっと包み込むように身体を丸めて胸に仕舞い込む。 離さないように腕ごと胸に仕舞い込み、そして・・・・。 

「ゆうりん?」

その声に飛び跳ねるように驚いて、わたしは握り締めた腕を放り投げるように離した。
陛下が目を瞠って自分を見つめてくるが、何故そんなことをしたのか、自分でも判らない。
戸惑いながら自分の手を見つめ、慌てて陛下に謝った。 

「あ・・・・。 あれ? ごっ、ごめんなさい!? えっと・・・・・ じ、侍医様は風邪のひき始めかも知れないけど、薬湯を飲んで暖かく過ごせば大丈夫だと言っていました。 季節の変わり目にはそういうこともあると」
「・・・・・そう。 夢見が悪いといっていたから、それで寝汗を掻いて身体が冷えたのかも知れないね。 よく眠れるように添い寝をしてあげようか?」

一瞬、何を言われたのか判らずに顔を上げると小犬の顔をしているのに、醸し出す雰囲気はどう見ても狼の陛下から 「どうする?」 と問われてしまった。 無意識の自分の行動に酷く動揺していたが、狼陛下の演技に気持ちが少しだけ落ち着くのを感じる。

「・・・・・それは本当のお妃様が来たらして差し上げて下さいね。 早く御政務に取り掛かりませんと、わたしは一人でも後宮に戻りますよ。 陛下のお仕事が進みませんと、わたしまで李順さんに怒られますからね!」
「それは残念。 でもいつでも頼って欲しいな」

本当に残念そうな顔を見せて長椅子から立ち上がり、執務席に移動した陛下は早速書簡を広げて仕事を始めた。 『添い寝』 の言葉に未だ小さな動揺が治まらないままのわたしは、必死に知らぬ顔をしながら手元に置かれた教育本に目を落とす。 内容なんかちっとも頭に入らないから、何度も同じところを読み返しているが、それを隠すように演技し続けた。

時にからかうような意地悪を言われるが、それでも陛下のことは嫌いになれない。 
それが却って辛いと、夕鈴は唇を噛み締めるながら気を取り直して教育本に集中し、余計なことは考えないようにした。 バイトとして言われたことだけをするだけだと、文字を追い続ける。


顔を上げると長椅子で夕鈴は真剣な顔で冊子を読み耽っているのが判る。 繰り返される意識消失に違和感を覚えるが、継続した調べでも不審な物を口にしている様子はない。 
ただ自分が国境視察に行っている間に数人の官吏、女官が王宮入りしたと報告を受けており、李順も一応調べていたが問題はないとの事。 夕鈴の体調不良に関連性がないか調べさせているが、密輸貴族の密偵調査もあり、政務に追われている自分では動きようがない。 
賀祥の兄の登城により夕鈴の 『お試し』 は終了となったが、自分が思っていた以上に触れ合っていたこと、そしてその進歩に驚きと憤りを感じてしまう。 
同情しやすく、真面目に、そして演技を忘れてのめり込み易い夕鈴だけど、あんなにも簡単に僕以外の男に触るとは正直思わなかった。 判ってはいる。 彼女なりの真面目さで取り組み、賀祥を男性とは見ていないだろうことは判ってはいる。 弟に触れるような気持ちで、自分で役に立つならと何の意味も無く触れていたのは判ってはいるんだ。 
ただ、奴の顔をじっと見つめ、手をすりすりして、お茶を淹れていたことに、僕が勝手に憤りを感じていて、それが夕鈴には伝わらないだけだ。
僕がどれだけ苛立ちを感じたか、君は・・・・・・。


突然、ぞくりと寒気が襲ってきた。 
やはり自分の体調不調は風邪だったのかしらと思った夕鈴は、被布を肩に掛けて身を竦ませる。 遅い時刻になると肌寒くなる時期だ。 今日も早く眠ることにしようと、冊子を閉じると顔を上げた。 陛下を見ると丁度眼が合って、思わず頬が染まってしまう。

「どうした?」
「い、いえ。 ・・・・・お茶でもお淹れしましょうか。 少し寒くなって参りましたし」

立ち上がり、設えてある水場にて湯を沸かし始めると、背後に人の気配を感じ身体が強張った。 両側から陛下の腕が伸びて来て、動きを封ずるように茶器に伸ばしたわたしの手を掴み取るから、どうしていいのか判らなくなる。

「あ、あの陛下? な、何をされているのでしょうか」
「奥さんの手を掴んでいる」
「・・・・・いえ、バイトの手ですよ? お仕事は終わりました? 遅くなりますから」
「夕鈴」

手を持ち上げられ、身体ごと背後から包み込まれるように抱き締められる。 ゆっくりと伝わってくる熱に逆上せそうになり抗おうとするが、耳元で囁かれた名前に涙が滲んで来た。 
柔らかく自分の名を呼ぶ声。 
演技を忘れそうになり、嘘と本当の間で揺れ動く気持ちが溢れそうになる。 
唇を強く噛み締めていないと気持ちを吐露しそうになり、一生懸命堪えていると更に追い討ちを掛けるように耳朶に触れる柔らかな感触。

「ひぁっ!?」
「寒いのか? 震えているぞ」
「すっ、少しだけ! で、でも陛下のお仕事が終わるのを待ってますから、ど、どうぞお仕事をされて下さいませ! これではお茶を淹れることが出来ませんから」
「お茶より夕鈴がいい・・・・・」

このままでは陛下に翻弄され続け、政務が進まず、鬼の上司が戻って雷が落ちるのは目に見えている! その想像にぶるっと身体を震わせると、陛下が驚いたように束縛を弛めてくれた。 

「本当に寒気があるのか? 上着を持ってくるから椅子に腰掛けて」
「いえ、そこまでは! それより早くお仕事を終えて部屋に戻りましょう! 進まないようでしたら、お邪魔なわたしは一人でも部屋に戻ると先程言いましたよね?」
「・・・・・でも君がいる方が能率が上がる・・・・」
「上がってませんでしょう? お茶を淹れようとしたら邪魔しに来るし!」
「だってぇ・・・・」
「だってじゃありません! 大変なのは皆様同じです。 頑張りましょう、陛下!」

上司の怒り顔を想像した夕鈴はいつも以上に必死に陛下を説得し、卓に戻すことに成功する。 お茶を淹れ、長椅子に戻ると離れた熱に朧気な夢を思い出した。 真白い夢の中、何かを捜し求め、そして叶わないような切なさが胸に込み上げて来るが、ふるりと頭を振ってそれを追い出すことにする。 

「上着だけでも持って来るから・・・・」
「そんな暇がありましたら筆を動かして下さい!」
「・・・・はい」

夕鈴は熱いお茶を飲みながら閉じた冊子を広げ直し、陛下をちらりと見上げた。 耳を垂らした小犬が肩を落として筆を走らせ始め、山を崩そうと頑張り出したのが見える。 小さく息を吐き、夕鈴も真面目に冊子に視線を落とした。




どうにか今日分の政務を終えた陛下に送り届けられ部屋に戻ったあと、夜着に着替えると、執務室であれだけ寝たというのに何故か眠気に襲われ、すぐに寝台に倒れ込んだ。 
どうしてこんなに眠いのだろうと不審がりながら、それでも重くなった瞼を閉じる。 
胸が押さえ込まれたような感覚に眉間を寄せながら、暗闇の中、眠りの世界に沈んでいく。








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長編 | 01:10:10 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
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2013-04-12 金 10:48:21 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメありがとう御座います。 次回は陛下でないのですが、見てやって下さいませ。 手を握ってぎゅって可愛い夕鈴にされると、陛下ぐらっと来ますよね。 ・・・・・・来なかったけど。 おろろ、under書きたくなるわ~。(笑)
2013-04-12 金 19:53:43 | URL | あお [編集]
無意識だけど!!
夕鈴から陛下の手、握りました\(^o^)/
不安な夢の後ということもありますが、陛下にいっぱい触れてあげてください!
そしたら書類崩しもサクサク進むはず?(笑)

眠りに落ちた夕鈴ですが、夢の内容が気になるところです!
差しのべられて、離れていく手…
不安しかないです(^_^;)
2013-04-12 金 23:40:31 | URL | ダブルS [編集]
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2013-04-12 金 23:45:29 | | [編集]
Re: 無意識だけど!!
ダブルS様、コメありがとう御座います。 夕鈴のぎゅって可愛い? 褒めて貰えて嬉しいー!わーい! いっぱい夕鈴が触れると仕事が進むか、もやもやするか。ほほほほほ。その妄想も進みそうですわ。夢に関してはそろそろ解決させます。宰相の予言も。
2013-04-13 土 19:44:35 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメありがとう御座います。 妃に関して心の狭い陛下って可愛いな~と萌えながら書かせてもらっています。しかーし、この話でunderは難しい(爆) 添い寝くらいは・・・・・いいよね~っと妄想しておりますので、その内あるかも~。
2013-04-13 土 19:51:01 | URL | あお [編集]
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