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多事多難  10
春先はばたばた忙しくて中々行けなかったお墓参りにお出掛けします。 ので、更新が出来ないと思います。せっかくのお休みですが、大きくなった子供たちと出掛けるせっかくの機会。 
本当、マジに大きくなった。 身体も足も態度も。 でもゴミ出しとかは助かるけどね。

では、どうぞ















急いで茶器を片付け、洗濯を始める。 頭の中は混乱していたが、慣れた家事動作は迷いなく手を、身体を動かしていく。 洗濯した物を外に干して、買い物籠を持ち明玉の店に行き、昨夜の杜博との結婚騒動の誤解を解いて、買い物をして食事の用意をして・・・・・・。 
頭の中で急くように先を考え身体を動かしながら、実は混乱と動揺は続いていた。

陛下が来ると教えられた。 いつもは突然姿を見せるのに・・・・・・・・・。
それは桐が気を回して教えてくれただけなのだが、今の夕鈴には何故先触れが? と混乱してしまう。 一瞬、本当に陛下から直接解雇を言い渡されるのではないかと不安な考えが過ぎるが、後宮に間諜が侵入したためだという理由を思い出し不安を振り払う。
忙しい時期だからこそ情報を得ようと王宮に忍び込む輩がいるのは判るが、未だに妃暗殺を目論む人もまだ居たのかと力が抜けそうになる。 今以て続く妃暗殺を考える人物は、いったい陛下にどんな妃を推奨したいのだろうか。 

気品や教養があり、国の為の充分な後ろ盾がある妃が、李順さんを含め誰もが認める妃。
いつか、陛下が妃の前でも小犬になれる世の中になったらいいと思う。 
陛下が大好きだから、出来れば思い余って告白しちゃう前に借金が完済出来たらいい。 
陛下の傍に寄り添う妃を見る前に退宮出来たら、それが一番自分にとって良いことだろう。 
順当に返済出来ていると謂うならば、それは近い将来に訪れる別離。 
自分は王宮に雇われたバイトだ。 それは納得している。 
短期の予定がこんなにも長くなったのは自分が招いた結果で、長く居れば居るほどに陛下を知り、いつの間にか育ってしまった陛下への想い。 
陛下を好きだからこそ、好きだといえない立場だからこそ、これ以上迷惑を掛けたくない。

それを判っていながら陛下が来るというだけで涙が出そうなくらいに頬が紅潮しているのを自覚する。 意識を家事に集中させようとするのに、手が震えてしまう。 

「覚悟して待つ方が結構緊張するものなのね。 ・・・・おばば様に呼び出された時と、どっちが緊張しているんだろう。 も・・・・ もっ、来るなら早く来て欲しいっ!」

干し終えた洗濯物が陽光の下、気持ち良さそうにはためく。 これなら買い物を済ませた頃には殆どが乾いているだろう。 急いで買い物に行き、明玉の店に顔を出さなきゃ。 
これ以上噂が広がったら、本当に嫁き遅れが確定しちゃう。 

ぶつぶつ言いながら家に入った途端、腕が引かれた。 
黒っぽい布地が視界に広がったのが見え、そして何かに顔が押し当てられる。 官能的な香の匂いが鼻を擽り、まさかと思う間もなく背に回った腕に力が入り、私は囚われた。


「・・・・・・夕鈴」


深く響く低い声に、匂いに、腕の強さに_________。

息が止まるかと思った。 

少しの抗いも赦さないというように背に回った腕が軋むほど身を束縛し、伸ばされた私の手は無意識に陛下の衣装を強く握っていた。 驚きと困惑と動揺と、そして溢れそうなほどの嬉しさに、ここ暫く続いた冷たい狼陛下の視線や態度は掻き消え、甘い熱の中で力が抜けていく。

「夕鈴、ごめんね・・・・・・」

夢なのだろうか。 期待はしてない、ただ望むだけ。 その望みが過ぎた夢を見させているのだろうかと、滲み出した歪む視界を閉じた。 押さえ付けられた頬と縋った指先に確かな感触を覚えるが、それさえも現実のものなのか不確かに感じる。

「どうしても直ぐに来れなくて、ごめんね夕鈴・・・・。 でも来るなら早く来てって、嬉しい」
「ほん・・・・とに、陛下? でもお仕事いっぱいで来れないはず。 バイトなんか勝手にしろって、いつまでも狼陛下で怒っていたはず。 私がちゃんと仕事出来なっ」

足先が地面から離れるほどに抱き寄せられ、息が詰まる。 何だろう、こんなことってあるのかな。 その痛みが、泣きそうになるほど嬉しい。 

「勝手にしろなんて言ってない。 夕鈴を・・・・・ 翻弄したのは、僕が悪い」
「違っ! 陛下は悪くありません。 中傷文を書かれるような疑わしい事をしたのは私が浅慮だったせいです。 それに四阿で前に言いましたよね? ・・・・・陛下にされてイヤことなんて」  

胸を押して陛下の顔を見上げる。 
そこには小犬とも狼とも違う、どこか悼むような表情を見せる陛下が目の前にいて胸が痛んだ。 
どうしたらいいんだろうと思うよりも早く、私の手が陛下の少し冷たい頬を撫でていた。 
雪のように花弁が舞う二人だけの花の宴。 
あの時の、何処か遠くにある憧憬を求めるような、何かを羨望するような、そんな悲しげな陛下の眼差しが思い出される。 隣に誰がいても、虚無を映すような捉えどころのない瞳が悲しいと夕鈴は思った。 その瞳が、ひとつの瞬きでゆっくりと変わっていく様に目が奪われ、今度は真摯に自分を見下ろした。

「・・・・・夕鈴、結婚・・・・ 承諾したって本当?」

優しげな声なのに、その内容に、強まった腕に、赤みを浮かべる双眸に、私の背筋が凍る。
ふるりと首を振ると、陛下は小首を傾げて 「じゃあ、どういうこと?」 と問い詰めて来る。
慌てて陛下の頬から手を離し、少しも緩まない腕を押し退けて 「ま、まずはお茶をっ!」 と掠れた声で伝えるも、私を抱え込んだまま、じっと見下ろしてくる。

「またバイトはお休み中だからと言って、僕に内緒にするの? ・・・・出来れば夕鈴に嫌われたくないからイヤガラセはしたくないんだけどな」

なにやら物騒な言葉が耳元に囁かれる。
思い切り胸を押すが背に回った手は力強くて、精いっぱい押し出せば押すほどに手が震えてしまう。 演技が必要じゃない時に無駄な接触は全てイヤガラセかっ!

「イッ、イヤガラセは止めて下さいっ! それよりお仕事はどうなったんですかっ!」
「ああ、頑張ったよ。 ゆーりんに怒られるのは厭だから徹夜しちゃった」
「徹・・・っ!」

普段より多くの書簡が届けられているはずの卓の上を想像して、夕鈴は蒼褪めた。 
終わるはずがない! 絶対に終わらない! 宰相や大臣が虐めかと思うほどに連日忙しい陛下を更に追い込んでいるのに、徹夜くらいで終わるはずがないだろう。 それに本当に終わっていたとしたら、本当に徹夜をしたと言うなら陛下は疲れ切っているはずだ。 激務をこなす陛下が下町に来ている場合じゃないだろう。 

「じゃ、じゃあ陛下はお疲れでしょうからお戻りになって、直ぐにお休み下さいっ!」
「そんなことより結婚の話はどうなったの? ゆーりんは僕のお嫁さんなのに他の誰かと結婚なんて酷いよ。 杜博って誰? 夕鈴、バイトはどうするの? 僕のこと飽きちゃった?」

矢継ぎ早の質問攻撃。 アワアワしている内に抱え上げられ、一緒に椅子に腰掛ける。 いつもながら如何してこんなにも流れるような動きが出来るのだろう。 そうよね、女ったらしの演技が上手いだけよね。 動揺しているのは自分だけなのよね。 ああっ、悔しいっ!

「バイトはちゃんと続けます! 王宮に戻っていいと言われるまでは実家で待機ですよね。 結婚話も嘘でした! 幼馴染の冗談で・・・・・って、なんで名前まで知ってるんですか!?」
「浩大から聞いた。 そうか・・・・。 冗談なのか、良かった」

やっと緩んだ束縛から急いで脱出する。 真っ赤な顔で睨み付けるも、ニコニコ笑顔を浮かべる小犬には敵わない。 くっそー! 小犬に負ける自分が情けないっ!

「ただ、後宮に間諜が入り込んだと聞きましたが、大丈夫ですか? 忙しい時に桐さんとか浩大とか就けなくていいですよ。 実家では私、殆ど家事と買い物しかしませんし」
「僕が心配なんだ。 どこに思わぬ伏兵がいるか判らないからね。 たった一晩で新たな人物が現れて夕鈴に近付いたら、心配にもなるでしょう。 ね、買い物行くなら一緒に行こう?」

言ってる意味が解らない。 それに陛下の背後に思い切りパタパタと揺れる尻尾が見えるんですけど。 第一、私に付き合う暇があるなら身体を休めて欲しい。

「買い物は直ぐに済みます。 その前に少し友人の店に顔を出しますので、どうか陛下はゆっくりとお休み下さい。 徹夜だなんて、ただでさえ激務なのに倒れちゃいますよ?」
 
本当に本当に心配だと繰り返すと渋々解ってくれたようで 「じゃあ、少し休むとするか」 と立ち上がった。 でも何故か扉と反対の方向に足を運ぶので首を傾げると、陛下は当たり前のように 「前に泊まらせて貰った部屋を使わせて貰うね」 と笑顔を浮かべる。

「いっ、いやいやいや、王宮にお戻り下さいっ! 李順さんが心配されますよ!?」
「夫が妻の許にいて誰が心配すると? では、遠慮なく休ませて貰うとしよう」

誰が心配するって、李順さんですっ! 背を向けて勝手に部屋へと足を向ける陛下に憤りながら、正直胸の奥がぽかぽかしてくるのを擽ったく感じて、いつの間にか眉尻が下がっていた。 
実家に戻るまでの、あの居た堪れない日々がお湯どころか、溶岩流で溶かされる雪のように消え行き、熱くなる頬を押さえるしかないほど恥ずかしくなった。

本当に翻弄される、翻弄されているっ! ましてや、それが嬉しいだなんて絶対におかしい!
これでは常に毅然と確実に職務を全うするプロ妃には到底及ばない。
それなのに緩む頬を押さえると、ますます熱くなっているのが判り、私は急いで籠を持ち町へと駆け出した。




しばらく駆けていたけど漸く気持ちが落ち着き、歩調も動悸も穏やかに変わっていく。 
そういえば、王宮での中傷文はどうなったのかしら? 
あんなに怒っていた狼陛下はどこに行ったのかしら?
そんな心配事も聞けず終いで、簡単に翻弄され続けた自分が悔しい。 
その上、小犬陛下に会えた安堵で泣きそうになっている自分が妙に恥ずかしい。 演技も切り替えも上手い陛下と違って、私は本当にいつまで経っても演技が上手く出来ない。 いや、下町で演技をする必要はないのだけれど、翻弄されっぱなしも少し悔しい。
眉間に皺を寄せながら歩いていると、曲がり角で急に現れた人物に驚かされる。

「あ、夕鈴ちゃん。 お買い物? じゃあ、約束通り一緒に行こうよ」

市が近付いたところで角から姿を見せたのは杜博。 さっき別れたばかりだというのに、彼は一仕事終えて来たから時間があると私の籠を攫い、にっこりと笑みを見せる。

「・・・・・買い物の前に明玉のところに行く。 杜博のせいで 『下町の悪女』 が浸透してしまったら、私嫁き遅れ確定になっちゃうもの」
「ああ、そうなったら責任持って夕鈴ちゃんを嫁に貰うよ。 もちろん本気にしていいよ?」

だから往来でそんなこと、大きな声で言わないで欲しい。 
ああ、周囲の視線が・・・・・ 痛い。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 03:00:10 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-05-03 金 10:15:28 | | [編集]
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2013-05-03 金 13:33:46 | | [編集]
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2013-05-03 金 20:36:06 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントありがとう御座います。陛下来ました。そしてどう転ばせようか考えるのが楽しいです。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。ちょいと休みに入ってのんびりしてますけど、夜に頑張ります。
2013-05-04 土 11:53:58 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
aki様、コメントありがとう御座います。この日はどうも進まなくて遅くなりました。次の日起きるのが辛い、辛い(笑)っていうか、夜中でも見に足を運んで頂けて嬉しいです。ありがとうです!休みだと、朝ごはん作らなくて良いという暗黙の了解があるので楽チン。その分、今日は頑張ります。
2013-05-04 土 12:02:40 | URL | あお [編集]
Re: 傍にいればいいんです!!
ダブルS様、コメントありがとう御座います。「下町の悪女」好きですね。噂って当時の娯楽ですからね。玩具にされてもまあ、仕方がない?普段居ない人をヤリ玉に挙げるのも、夕鈴相手だと面白おかしくになるでしょうしね。李順さんの心配は仕事が滞ること。そうでしょうね。(爆)あまり頻繁に下町に行くと、仕事を持ち込まれる日も近いのではないでしょうか?
2013-05-04 土 12:11:20 | URL | あお [編集]
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