スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
頑固な迷路  2
気だるい日曜日。 昨日はオフ会に参加した娘が今日も遊びに出掛けている。試験は来週からだというのに大丈夫だろうか。 前回の順位をキープしろと言いたいが、ちょっと無理だろうな~。 金で釣ろうかしら?(笑)


では、どうぞ














床に手をつき荒い呼吸を整えながら、夕鈴は自分の行動を振り返って寒気に襲われる。

「官吏に対して、な、なんてことを私・・・・・」
「・・・・・全く、このお妃は毎度毎度、面倒ごとを持ち込むのが御上手でいらっしゃる」
「ひぃっ!」

床に座り込んだ背後から思い切り不機嫌そうな桐の声が聞こえ、振り返った夕鈴はその表情を目にして音を立てて固まってしまった。 
水替えくらいしか移動しないと言ったばかりなのに、警護対象の妃が掃除婦姿で政務室近くの書庫にまで、見たことも無い官吏と共に移動していたら、それは不機嫌にもなるだろう。
だけど怖い、官吏に対して言った自分の言葉がすっ飛ぶほど、背後に立つ人が怖い!
言い方も冷たいし、無表情なだけにすごっく怖いです、桐さんっ! 

「き、き・・・・ 桐さん? せめて、少しでいいから説明をさせては頂けませんでしょうか」

説明をさせてくれと手を組んでお願いをすると、鼻で笑われた。 
あれ? 私ってバイトとはいえ、仮にも妃だよね? 
まあ、それを言っても桐さんに通用しないのは承知ですけど。 
・・・・・・・・・腑に落ちません。

「させてやるから簡潔に言うように。 但し、それを納得出来るかどうかは判らないがな」
「あ、あの、あのですね。 ・・・・・水替えに行ったら、書簡を落としまくっている官吏がいらっしゃいまして、国のための大切な物を何度も落とされているので、私はそのお手伝いをですね、親切心でさせて頂いた訳でして・・・・ 何も悪いことはしておりません!!」

そうだ、悪い事はしていないのだから正々堂々としていればいい話だ! だけどやっぱり桐さんにそれが通用する訳も無く、顔を上げたら頭巾を思い切り前に擦り下ろされた。

「ぬぁっ! 何をするんですか!」
「納得出来ないから。 基本、不用意に他の者に近付くな。 陛下からも揉め事には首を突っ込むなと言われただろう。 今はただの掃除婦とはいえ、その掃除婦が何処を担当しているかなど知られたら、面倒の種になるかも知れないだろう。 もう二度と官吏には関わらない方がいい」
「そっ、それはそうかも知れませんけど、あの場合は仕方がないと思います。 そ、それにあれは揉め事じゃ」

説明しながら頭巾を被り直していると今度は後ろから引っ張られた。 ほんとーに意地悪だ。

「一介の掃除婦が書庫まで赴くなどあってはならないだろう」
「もっ、もう同じことは無いですよ! 水替えで偶々会っただけの官吏ですし、政務室でも見たことの無い人でしたから! 普段は担当部署が違うんじゃないんですか?」

政務室で会う官吏だって全員を把握している訳ではないし、中央殿や各部署、大臣付き、他州から一時的に来ている人など、様々な多くの官吏がいる。 大臣付きの官吏や補佐官、臨時補佐官などを入れたら膨大な人が行き来する場所だ。 
本来なら後宮だけに居なきゃならない私が把握している方がおかしいだろう。

「手桶を二個用意して、水替え回数を減らすしかないか」
「それって本当に重いんですけど、桐さん手伝ってくれるんですか?」
「妃警護と周辺捜索で忙しくて、そんな暇は無い」
「・・・・ですよね」

李順さんも陛下と一緒に視察に出掛けているから、五日間の業務内容変更は今更無理。
判りました、いいですよ。 地道に重い水桶を二つ持って移動しますよ。 
だけど本当にあの官吏に会うことなど、もう二度とない筈だ。








「・・・・・・・・・・・・・」

何だろうか、これは。 
官吏の姿を見たからいつものように回廊端に膝をつき拱手して過ぎるのを待っているのに、一向に目の前から立ち去らない官吏がいる。 顔を上げる訳にもいかないし、何か考え事をしているのかも知れないと、ただひたすらに歩き去るのを待つしかない。
身分とか煩い王宮貴族社会の底辺にいる掃除婦としては耐えることも仕事の内。
そう思って頑張っているのに、その官吏は私の前でしゃがみこんで来た。

「昨日の・・・・ 掃除婦だな」
「へ? あ、いえ。 あ・・・・そ、そうで御座います」

突然声を掛けられ思わず顔を上げると、目の前には昨日たくさんの書簡と悪戦苦闘していた官吏がいて、顔を覗き込んで確認をされる。 何か書簡にあったのだろうか。 桐さんの言う通り、やっぱり余計なお世話だったのかな。

急ぎ低頭して官吏からの次の言葉を待っていると立つように指示された。 拱手したまま立ち上がり、何を言われるのだろうと身構えると手を出すように言われる。 

「手、ですか?」
「そう言ったはずだ。 早くしろ!」

言われた通りに差し出すと、両手の平に菓子包みが三つころりと転がった。 
目を瞠ってそれをじっと見ていると、乾いた咳払いが聞こえて来る。

「お前の物言いは気に喰わないが、礼はせねばならぬと思って用意した」
「・・・・っ! お礼など、そのような御気遣いは結構で御座います」

心底驚いて思わず顔を上げると、眉を顰めた顔で尊大に構える官吏がいて、その態度と手の上の菓子の相違に見開いた目を瞬いてしまう。 綺麗な淡い朱色の紙に包まれた菓子は、以前紅珠から頂いたことのある棗の砂糖漬けと同じものと判り、高そうなその品に驚きを隠せない。 

「お前のような身分ではこのような品、口にしたことも無かろうと思い、わざわざ用意したのだ。 いいから黙って受け取るがいい!」
「え? わざわざ用意して下さったのですか?」

官吏の言葉にもっと驚いて夕鈴が尋ねると、官吏が大きく目を瞠り、そして真っ赤になった。
ぽかんと口を開けた夕鈴が慌てて頭を下げ、「ありがとう御座います!」 と礼を伝えると、何故か手の上にもう一つ菓子を乗せられ、顔を上げると更にひとつ追加された。

「もう持ちきれません」 と言おうとして顔を上げた時、官吏が真っ赤な顔で更に懐から菓子を出そうとしている姿が見え、夕鈴は思わず吹き出してしまった。 
すぐに笑ってはいけないと口元を押さえたのだが、どうやら遅かったようで、恐る恐る顔を上げると目の前の官吏の眉間に皺が寄っているのが見えて、夕鈴は一気に蒼褪めてしまう。

「・・・・・何故、笑うのか」
「も、申し訳御座いません! お気持ち嬉しく頂くことに致します! では!」

慌てて御辞儀をして場を立ち去ろうとするが、水桶がある上に両手には乗り切らないほどの菓子包みがある。 前掛けに菓子を包み込み急ぎ水桶に手を伸ばそうとしたが、その前に官吏が立ち塞がり、心臓が止まりそうだと思いながら見上げると顰めた顔で見下ろされた。

「王宮に従事する官吏に失笑するなど、そのような無礼な態度。 不敬ではないか!」
「あ、あの! 決してそんなつもりじゃなくて・・・・ あの、本当に御無礼致しました!」

もし貴族に対して不敬だと何処かに連れて行かれたら、陛下も李順もいない今、どんなことになってしまうのだろうと夕鈴は蒼褪めるしかない。 莫迦にした訳ではないが、昨日の礼だという彼に対して笑ってしまったのは事実だ。 
必死に低頭し、謝罪を繰り返すも官吏は立ち去ることなく、夕鈴はどうしたらいいのか泣きそうになる。 頭の中が真っ白になった夕鈴の頭上から、官吏の舌打ちが聞こえて身を竦ませた時、少し戸惑い気味の掠れた声が聞こえてきた。

「お前は・・・・・・明日もこの時間に通るか?」
「え? あ、いえ。 掃除の流れによりこちらを通る時間は決まっておりません。 水替えのために通らせて頂いているだけですので」

もう二度と顔を見たくないというのなら、官吏がいない時間帯に水替えをしよう。 そう思ったのだが、暫く沈黙したあとに官吏は強い口調で困ったことを言い出した。

「明日も同時刻に此処に来るように! 約束を違えなければ赦すこととする」
「え・・・。 あの、それは・・・・」
「出来ぬのであれば、今すぐにでも官吏に対する不敬として対応するが」
「で、出来ます!」

ああ、私は莫迦です! 約束してしまった。 
桐さんに殺される!! 
で、でも、不敬として対応されたら本当に困るんです! 掃除婦として働いている妃なんて有り得ないでしょう!? だ、だから仕方がないというか、何というか。

「では明日同じ時刻に此処に来るように」
「は・・・・ はい」

踵を返して去って行く官吏に御辞儀をしながら、夕鈴は蒼白になった顔色をどうしようかと悩んだ。 このまま戻れば桐さんに直ぐばれるのは間違いない。 
何があったと問い詰められて、ひどく詰られて、ゲンコツでグリグリされて、その上冷たい視線でいびられるのは間違いないからこそ、必死に考えなければならない。 だけど、何を考えたらいいのか判らないと目の前が真っ暗になる。

このまま此処で石になりたい・・・・と心底願いながら水桶を持ち、前掛けに包み込んだ菓子と共に歩き出した時、水桶が急に軽くなった。 
驚いて離れていく水桶の先を見ると口角を持ち上げ冷笑を浮かべた宦官姿の桐がいて、夕鈴は声も無く脱兎の如く逃げ出した。



立ち入り禁止区域に飛び込んだ夕鈴を迎えたのは目を瞠った老師だった。

「おお? どうした小娘。 あんまり遅いから桐が迎えに行った筈じゃが会わなかったか?」
「あ、ああ、あ、あ、会いました! こ、怖かった・・・っ!」
「・・・・・昨日の今日で同じ過ちを繰り返すお前の方が怖いと思うのだが」
「ひぃぃ・・・っ!!」

背後から息も切らせず、冷ややかな声が夕鈴に冷水を浴びせるように掛けられ、振り向くことも出来ない。 手が震えて前掛けから菓子が零れ落ち、足元に転がるも拾うことさえ出来ずに夕鈴は泣きそうになる。

「ど、どうしたら良かったのぉ? 会うつもりなんか無かったのにぃ・・・・」
「・・・・・・はぁ」

床に水桶を置いた桐が床に散らばった菓子を拾い集めて卓に置く。 それを涙目で追っていると、嘆息した桐が腕を組み無表情で、じっと睨ね付けてくる。 

「私、笑うつもりじゃなかったけど笑っちゃって。 でも不敬って言われたら、対処されるって言われたら、明日あの場所に行くしかないのかなぁ?」
「もうあの場所には行かなければいい。 陛下が戻るまで部屋で過ごし、官吏が忘れるか諦めるのを待つしかないだろう。 これ以上関わると面倒に発展するのは目に見えている」
「でも、陛下がお出掛けの間は老師の許で妃教育を受けると侍女に言ってあるのですが」
「そんなの老師が死んだから急遽中止になったと言えばいい」
「ワシは死んどらんぞぉ!!」

老師の叫びを無視して、夕鈴は俯いた。 
そうするのが一番なんだろう。 
掃除婦として罰せられるだけで済めば良いが本来のバイトは 『臨時花嫁』 だ。 
あの官吏が何を考えているのか判らないけど、これ以上の接触は避けた方がいい。

「判りました。 明日は部屋で過ごすことにします。 桐さん、ごめんね」
「お妃の暴走はいつものことと承知している。 ただ陛下が不在の折、面倒ごとは避けるべきだと、妃教育よりも先にそれを学習しろ」
「う・・・・・ご尤もです」

辛辣な言い方だが、陛下も李順さんもいない王宮に於いて、それは至極大事なことだと判る。 
万が一、自分の立場がばれて陛下に迷惑を掛ける訳にはいかないのだから。

頂いた高級菓子を三人で食べながら、夕鈴は心の中で官吏に 『ごめんなさい』 と呟いた。








→ 次へ


スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:15:02 | トラックバック(0) | コメント(10)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-06-24 月 01:25:00 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントありがとう御座います。今回は敢えて浩大ちゃんを外して、桐メインです。オリジナルキャラなのに、いいのかなと実は心臓バフバフで御座います。 それでも良ければお付き合い下さいませ。 ちゃんと後で浩大ちゃん出ますし。
2013-06-24 月 01:26:47 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-06-24 月 01:49:51 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-06-24 月 02:56:51 | | [編集]
Re: タイトルなし
aki様、コメントありがとう御座います。 桐さんに身悶えですか。ありがとう御座います。これから面倒ごとを運ぶ予定の夕鈴に、何を言わせようか楽しいです、私。 揉め事収集体質の夕鈴ですので、頑張って貰いたいと思います。二次ならではの妄想が楽しいです。
2013-06-24 月 07:02:14 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
コメントありがとう御座います。桐さま・・・ですか? おお、恥ずかしいくらい、嬉しいです。ありがとう御座います。辛辣な台詞ご期待とのこと、語彙が足りない私にご満足頂けるものが書けるか緊張しちゃいます。引き続き、ごらん頂けたら嬉しいです。
2013-06-24 月 07:03:55 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-06-24 月 12:25:27 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-06-24 月 14:00:02 | | [編集]
Re: せめて、病気…
ダブルS様、コメントありがとう御座います。 せめて病気の方がいいですよね。老師を勝手にそんな風にしてしまうと、大変な目に遭いますよ。 いじけるとか、イジケルとか・・・・・。 流れは出来ているのですが、肉付けに時間が掛かっていまして、それなのに勝手に他の人が出てきて、首を傾げながら進めています。 お付き合い頂けたら嬉しいです。
2013-06-25 火 00:48:21 | URL | あお [編集]
Re: オリキャラ官吏と夕鈴の今後が気になります♪♪
幻想民族様、コメントありがとう御座います。 浩大とのやり取りも書くの好きです。 大好物です。 今回は桐メインにしてますが、あとで浩大ちゃんも出しますよん。 あと、今回のオリジナルキャラは子の場限りさんです。 杜博で疲れました~(笑) 一覧表書くのは楽しかったのですが、今後は出来るだけ控えめ運転エコに気を付けようかと思っています。 名前は出そうか出さまいか思案中。 うぬぬ、どうしましょう。 引き続きお付き合い頂けたら嬉しいです。
2013-06-25 火 00:52:17 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。