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頑固な迷路  6
暑くなって来ました。獣医からの指示通り、フィラリアの薬を飲ませる時期となりました。おやつ欲しさに家の犬は何の躊躇もなく口を開け、薬を飲み込み、「あれ?」って顔をします。可愛い莫迦な犬を見ていると癒されます。


では、どうぞ














正面に立つ臨時補佐官が声を掛けたのは間違いなく自分だろう。
真摯な表情で自分を見てくる臨時補佐官に強張った笑みを浮かべながら 「何でしょうか?」 と返答すると、彼は少し戸惑ったような顔で躊躇しながら口を開いた。

「・・・・あの回廊の向こうは後宮だと聞いているが、そこを掃除している者に会いたい場合は誰に声を掛けたらいいのだろうか」
「・・・え? ・・・・えっ!?」
「後宮側掃除婦に話があるのだが、それは誰に言えばいいのかと訊いている」

体躯の良い、武官としても動けるのではないかと思える臨時補佐官は真面目な顔を夕鈴に向けたまま、背を正して答えを待つ。 その視線から逃れられずに夕鈴が何と答えようかと必死に考えていると、目の前の彼の眉根が寄り顔が近付いて来た。

「掃除婦のことは・・・・・・ えっと、あの」
「そなた・・・・ 会ったことがあるような気がするのだが・・・・・」
「そ、そうですか!? えっと、あのですね、後宮側担当の掃除婦には基本、会えませんの! な、何か特別な事情でも御有りでしょうか? 掃除に関してでしたら王宮側担当の者か、上司に御相談された方が早いと思いますが」
「いや、眼鏡を掛けた掃除婦に話があって。 ・・・・・そうか、会えないのか」
 
顔を逸らして夕鈴が答えると、途端少し落とした声が聞こえ、そっと顔を上げると彼が後宮へと繋がる回廊を見ていることが判った。 その様子に胸が苦しくなって、何か言わなきゃならないような気になり、口を開き掛けた時、聞こえてきた声が夕鈴の咽喉を凍らせる。

「お妃様、限られた時間での約束で御座います。 お急ぎ願います」
「き・・・・っ! あ、はい。 そうでしたね」

振り向かなくても桐の声と判った夕鈴は、下手なことを口にしなくて良かったと安堵すると同時に、自分は何を言おうとしていたんだと怖気立ってしまう。 また揉め事を背負い込むところだったと足元から震えが這い上がり、顔を上げると酷く驚いた顔の臨時補佐官にびっくりした。

「お、お妃様でいらっしゃいましたか! 大変失礼を致しました。 私は短期間研修で王宮へ参っている林子頴と申します。 御無礼、御容赦下さいませ」

深く低頭拱手した彼は素早く踵を返すと政務室の方へと消えて行き、その背を見送った私は今更ながらに気が付いた。

私、妃に見られていなかったんだ・・・・・・。

確かに今は侍女も連れずに一人で回廊を歩き、いつものように質素な衣装だけど。
私が呆然としていると背後から咳払いが聞こえ、振り向くと凍てつく表情の桐さんが眇めた視線を向けていた。 去って行った彼を指差すと深く頷かれ、更に呆れたような笑みを零される。

「一人でウロウロしているのだから、お妃に見えないのは致し方がないだろう」
「・・・・見えてなかったのね。 桐さん、前は妃らしく見えるって言ったのに!」
「“たぶん妃らしく見える” と言ったんだ。 それにしても会うなと言われたはずなのに、どうして会うんだ。 これも報告しなきゃならないぞ。 さっさと厨房に行けば良かったのに、毎回面倒ごとを寄せ付ける体質だな」

会いたくて会った訳じゃない!
 
それなのに、不条理に桐に叱責された夕鈴は面白くないと唇を噛んだ。 
その上、報告されると言われたら涙目にだってなる。 桐に勢いよく背を向けて厨房へと急ぎ足で向かうことにした夕鈴は、背後から聞こえる嘲笑に憤りながら手首を振り回した。
この憤りは生地に叩き付けてやる! 思い切り捏ねて捏ねて捏ねて捏ねまくってやる!
妃に見えないとか、偶然会ったことまで報告されたりとか、もう運勢悪すぎっ!

厨房に到着した夕鈴は桐に涙目のまま無言で訴えるが、肩を竦めて無言で無駄だと諭された。 報告は隠密としてしなくてはならないことなのだろうが、バイト娘の寿命が縮まってもいいのかと声を大にして訴えたい。 ええ、どうせ無駄なのは判っていますけど。

「あの臨時補佐官は陛下が視察に行っていた地方の一貴族子息で 『王宮で働いた』 って箔を付けてから地元で役人になるんだってさ。 跡取り息子って大変だね~」
「浩大っ! ・・・・いつもながら突然来るわね」
「お妃ちゃんがおやつを作っているって聞いたから見に来たっすよ」
「出来立てを食べる気なんでしょ?」

ケラケラと笑う浩大を見て気が抜ける。 人を驚かすことに喜びを感じているのだろうか、彼は。 そして彼の情報を教えてくれた浩大を見ながら私は袖をまくって襷をした。

「まあ、気になるんだろう? 陛下も桐からの報告を聞いてさ、それはそれは大変ご立腹で御座いましたよ、お妃ちゃん。 だから奴には近寄らないでね。 視察先でも、裏帳簿が出て来た上に下手な接待されて、そりゃ大変な機嫌の悪さで同行した高官が苦労してたしね~」
「下手な接待・・・・ って?」

粉を捏ねる手を止めて訊くと、浩大は遠い目をして肩を竦める。

「裏帳簿が見つかった途端に真っ青に顔色変えた役人さんが用意したのは謝罪じゃなくて、山と積んだ宝飾という名の賄賂。 その後、歓待って名前で肌も露な舞姫の登場に、酒や料理が大判振る舞いで、それが余計に陛下の怒りに油を注いでいるのが判らないって、超笑えてさ~」
「その中で平然としていられるのは李順殿と浩大くらいか?」
「まあね~」
「高官方も余計なご苦労をされた訳だ」
「裏帳簿探すのも大変だったんだぜ? 家畜小屋に隠すから臭いの何のって!」
「それでも期間内に見つけ出すのだから流石だな」
「だろ~? それなのに機嫌の悪い陛下は褒めるどころか苛立ち増して大変だったんだよん」


ああ、それは想像するのも怖いと、二人の会話を聞きながら夕鈴は捏ねる作業を再開した。 
酷く疲労して苛立ったまま王宮に戻れば、揉め事には首を突っ込まないと約束したバイト妃が揉め事に片足突っ込んでいたという訳だ。 それは 『お仕置き』 もしたくなるだろうな。 
多少は・・・・ 諦めて受けるべきか。
今だって陛下から逃げるために包子を作っているようなものだし。
せめて叉焼か豚肉を入れてあげよう。 白菜も長葱も入れちゃおう。 
下町の包子より少し豪華にしてあげよう。 これで陛下が癒せるなら。

「んでさ、お妃ちゃん。 さっきも声掛けられていたじゃん」
「ええ・・・。 掃除婦に何の用なのかは判らないけど、ね」

眼鏡の掃除婦で後宮側にいる者となると、どうしたって私以外いないだろう。 
気になるけど顔を上げた途端に桐さんと目が合い、慌てて下げるしかない。 
判っています、揉め事に首は突っ込まないと。 いま自分がすることは生地を発酵させている間に野菜や肉を切ったり、蒸し器を用意したりすることだ。

「作り終えたら真っ直ぐに陛下の許へ行くことだな」
「・・・・・わかってます! あ、浩大。 李順さんに出来次第お持ちしていいか訊いてみてくれる? 中途半端な時に持参したら怒られちゃうのは私だから」
「オレの分もあるなら了解だよん。 ああ、ついでに臨時補佐官が眼鏡の掃除婦にナニをしたいのかも調べてやろうか?」

その言葉に驚いて浩大を見ると 「桐がお妃ちゃんについているなら」 と隣の隠密に視線を投げ掛ける。 思わず振り返ると桐さんから冷たい視線を投げ掛けられ、夕鈴はビシッと背を正して 「大人しくしてます。 桐さんには猫舌用包子を用意致します!」 と声高々に宣言すると鼻で笑われた。

「お妃の大人しくは信用出来ないが、包子は楽しみだ」
「美味しいの、作ります!」
「二度と話し掛けられぬよう気を付けることだな。 それと近寄らぬように」
「・・・・・さっきだって近寄りたくて近寄った訳じゃないし、話し掛けられたら返事するしかないじゃないですか。 官吏に無視する妃って変でしょ?」
「後宮から出てくる妃も変だがな」
「それは陛下に言って下さい!」

気になる事をそのままにしておいたら、胃の底が痒くて堪らない。 
そうよ、臨時補佐官が私に何をしたいのかが判れば悩むこともなくなるし、その内容によっては対応だって出来るかも知れない。 
あ、いや。 これ以上係わらないほうがいいのは判ってはいるけど。
浩大が片手をあげて消えて行ったので、私はそのまま捏ねる作業を続けることにした。  

「奴の目論見が知れたところで、お前は動かない方がいいだろう」
「う・・・。 判っています! 陛下にこれ以上翻弄されたら大変です」
「だけど結局は動くのだろうな、お前は」
「だから、動きませんて! だ、だけどあの方が何をしたいのか知りたいと思うのは本当で、それを知らなきゃ、こう・・・・・ 落ち着かないというか」

濡れ布巾を生地に被せた私は振り向いて困った顔を見せた。 いや、そんな顔を見せられても困るだろうが、正直な気持ちとしてはその通りだから仕方がない。 本当に何か訴えたいことがあるなら聞いて置きたいと思うのは素直な気持ちだ。
そんな私の頭を軽く叩くように撫でた桐さんは小さく嘆息して言葉を零す。

「奴が後宮側の掃除婦に話があるということは、懐柔して何かを仕掛けようとしている可能性もある。 または後宮での裏を調べさせようとしているという考えも出来る」
「・・・・・・あ。 そ、そうか。 でもそんな人には見えないけど」
「よく知りもしない人物を庇うな。 可能性の話だ」
「・・・・・」
「忍び込むだけが刺客の仕事ではない。 最終的に目的が果たせたらそれでいいのだから」

そう言われると何も反論出来ない。 
事実、過去には侍女に扮して後宮に入り込んだ刺客や、商人として入って来た刺客もいた。 可能性として考えるのは妃警護をする立場としては間違いないだろう。 だから陛下も朝から政務室に来るように言ってくれたのだろうか。

 
まあ、陛下の 『お仕置き』 はそれとは関係ないと思うが。


『お仕置き』 を思い出すと膝上抱っこや頬を舐められた羞恥が思い出され、いつもより乱雑に包丁が舞い、肉を叩き切る動きになるのを止められない夕鈴だった。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:20:16 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
いつもながら読んでいると自然と口角があがりニヤニヤしてしまってます( ̄ー ̄) 夕鈴と桐の会話が何とも良いですねっ!!夕鈴&浩大&桐の絡みが大好きなので長く続けばなぁと思います☆
2013-06-29 土 02:44:31 | URL | ユリア [編集]
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2013-06-29 土 09:29:33 | | [編集]
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2013-06-29 土 13:33:55 | | [編集]
Re: タイトルなし
ユリア様、コメントをありがとう御座います。 桐を余り酷い人間にしないように努めている最中で御座います。一応、仮とはいえ夕鈴妃なので(笑) それなのに口が汚くなりそうで、時間がかかるったらありゃしない。ダラダラ続いてますが、引き続きごらん戴けると嬉しいです。
2013-06-30 日 22:30:50 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。 ええ、桐さん猫舌なんです。「秋霖」11で自ら言っちゃってます。(笑)私、猫舌なんですよ。ラーメン伸びると言われますが、少しずつしか食べられない。肉まんも人一倍時間掛かる人間です。 陛下の怒りは夕鈴へのお仕置きに変わる予定です。書くのが楽しいです。やりすぎ注意って自分に念を押してます。(アダルトちっくになっちゃう!)
2013-06-30 日 22:37:14 | URL | あお [編集]
Re: 弱点!?
ダブルS様、コメントをありがとう御座います。 そうなんです、桐さんは猫舌です。萌えましたか。浩大は好き嫌いなさそうですよね。酒も強そうだし。ああ、「質素倹約なお妃」という噂は広まりそうもないですね。残念ながら。(笑)ちょいのんびりですが、お付き合い戴けたら嬉しいです。
2013-06-30 日 22:40:02 | URL | あお [編集]
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