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頑固な迷路  10

オリジナルキャラにたくさんのコメントをありがとう御座います。 S様好きがいっぱいで嬉しい限りです。 職場で確認して恥ずかしくなるほどニヤニヤした自分がいて、慌てて自販機に逃げ出しました。(爆) もう少しでラストです、お付き合いお願い申し上げます。


では、どうぞ 














謁見でもあったのだろうか、肩衣を掛けた陛下は顎を持ち上げ見下ろすように私たちを一瞥する。 冷たく怒気を孕んだ視線は演技と思えないほど冷酷で、夕鈴は目を瞠ったまま蒼褪めた。 陛下へと一歩足を踏み出し拱手した桐さんが深く低頭すると、林子頴も少し蒼褪めながら同じような姿勢で低頭する。 急ぎ夕鈴も掃除婦らしく膝をつき、陛下に拱手した。

「・・・・・陛下、お騒がせしていたようで申し訳御座いません。 そうですね、回廊でいつまでも話など、他の官吏にも集まる可能性がありますでしょうし、空いている部屋の使用許可を頂いても宜しいでしょうか。 すぐに終わらせますので」
「一体、どういう内容の話だ。 政務に係わるのか?」
「いえ。 大変申し訳御座いませんが私事になります。 しかし放置出来ないことであり、早々に解決し政務に戻りたいと思っております故、申し出を承諾して頂きたいと願います」

滔々と話す桐さんとは対照的に、震える腕を拱手した林子頴は視線を床に落としたままで、二人の遣り取りを黙って聞いているようだった。 固く結んだ唇が赤を通り越していく様を夕鈴は痛ましく見ていたが、今は掃除婦として何も口出すことは出来ない。 

「私事での揉め事を政務時間に持つこと自体、規約に反しているとは思わないのか」
「申し訳御座いません。 それに関しては後ほど改めて謝罪申し上げます」
「・・・・・端的に内容を申せ」

その言葉に思わず歪めた顔を上げる林子頴は、しかし陛下を前にして開きかけた口を再び硬く閉じ、それを見た桐が説明を始めた。

「私の許婚に婚姻を申し込もうとする方との話し合いの場を頂きたいと」
「この時間にか?」
「申し訳御座いません」

そうなのだ。 この時間でなければ私も容易に掃除婦にはなれないし、後宮を出ることも出来ない。 ましてや夕刻以降に掃除婦が用も無い王宮をウロウロする訳にはいかない。 
それに臨時花嫁のバイトをしている夕鈴は夕刻以降、陛下が渡って来る場合を想定して妃として演技する必要があるため、後宮から離れることは出来ない。 

桐さんが謝罪の言葉を抑揚無く告げた後、しんと静まり返り、予定外の陛下の出現にどうして良いのか悩むが、ここで掃除婦が何か申し出ることも、ましてや顔を上げることも出来ない。 深く頭を下げ続けていると、下げた顔に何かが触れ、何と思っていると顎を持ち上げられ上を向かされた。 
私の目の前に跪き、嫣然とした笑みを浮かべる陛下の顔があり、悲鳴を上げそうになる口に指が触れ、声無き悲鳴を心の中で盛大にあげる。

「お前の許婚・・・・・か。 この娘が」
「はい陛下。 そうで御座います」

しれっとした声で陛下の前だというのに態度が一向に変わらない桐さんと、肩を竦ませながらも苛立ちを露わに桐を見つめる林子頴。 そして狼に弄ばれて目を白黒させる兎。
この状況で、どんな顔をしていいのか判らない私はただ震えるしか出来ない。 
やがて、唇をなぞるように動いていた指がようやく離れてくれた。
脱力して腰が抜けそうになり思わず手を伸ばして隣に立つ桐さんの裾を掴むと、立ち上がった陛下から一気に絶対零度の冷風が吹き下りて来て、寒さに身を竦ませると今度は頭上から桐さんが鼻で笑うのが聞こえ、夕鈴は泣きそうになる。 

「そうだな。 短時間で済むのなら、そこの部屋を使うがいい」
「ありがとう御座います」

桐が礼を言いながら夕鈴の腕を掴んで立たせると陛下が踵を返して指定した部屋の扉を自ら開いてくれた。 桐が夕鈴を促しながら中へと入り、その後に林子頴が続くと、何故か陛下までが部屋に入り、そして扉を閉める。

「へっ、陛下・・・・・ 様は、御政務があるのでは・・・・・」

思わず口にしてしまってから、掃除婦の立場を思い出し慌てて口を閉ざすが、陛下は狼の笑みを浮かべながら部屋内の長椅子へと深く腰掛けた。

「短時間と言ったはずだ。 話を続けろ」
「・・・・・・・ふぅ」

桐さんが小さく、だけど聞こえるような嘆息を零したのを耳にした夕鈴は身を竦めて逃げ出したくなったが、ここまで御膳立てし貰って逃げる訳にもいかず、後で説明するより陛下の前で林子頴が何を掃除婦に求めているのか知って貰った方が早いだろうと思い直した。

「り、林子頴様。 陛下の御前で御座います、正直に御話をなさって頂けませんか?」
「・・・・・だから、私は貴女に婚姻を申し込もうと・・・・。 私の親に会って欲しいと衣装を渡し、話をしたいと時間を作って欲しいと何度も・・・・・」

決して広いとはいえない部屋の床を動揺しきった林子頴の視線が彷徨い続け、やがて諦めたように肩から力が抜けていくのが目に映る。 険のあった視線が緩み、薄く開いた唇が戦慄き出すと、今度は急に肩が震え出した。
夕鈴がぎょっとして目を瞠る前で、林子頴の目元からボロボロと涙が零れ出し、驚くほどにしゃっくり上げながら彼は音を立てて床に膝をつく。 

「う・・・・ ぐぅ・・・・・」
「ど、どうされました? あの、林子頴様・・・・?」

一瞬、狼陛下の視線に耐え切れず恐怖に腰でも抜かしたのかと思ったが、泣き出した彼の口から紡がれ出した言葉に、夕鈴を含めた場のみんなが思わず唖然としてしまった。

「ぼ、僕は・・・・ ほうゆうと・・・・ 萌遊と一緒になりたいだけなのに!」
「は?」

突然出てきた名前に、誰ですかと聞き返す間もなく、林子頴は大声を上げて泣き出したのだ。
陛下も桐も夕鈴も、ただ驚いて顔を合わせて戸惑うばかり。 
おいおいと床に突っ伏して泣き出す彼に、今までの威圧的な貴族子息らしい姿は何処にも見えず、逆にどうしていいのか動揺するばかりとなる。 夕鈴が慌てて彼の背に手を伸ばそうとすると、立ち上がった陛下に止められ、振り向くと怒気を孕んだ声が部屋に響き渡った。

「説明を求めているのに何故に泣く!」
「そ、そう強く怒らないで下さい! 林様、あの、ちょっと落ち着きましょうか?」
「あ、貴女が話を聞いてくれて、僕の親に会ってくれたら萌遊と一緒になれるのにっ!」
「ま、まずはその話を聞かせてくれませんか? ほんと・・・・ 意味が判らないんです!」
「な、何度も話があると言っていたのに・・・・・ う、うううう・・・・!」
「泣き止んで話を聞かせてくれませんか?」
「何度も何度も話があるって伝えたのに、貴女は~~~~っ!」
「もう、放っておけ!」
「そ、そうもいきませんでしょう! 林子頴様っ、話をなさって下さいませ!」

全身を震わせながら泣く彼に声を掛けるが、ひどく興奮しているようで余計に泣き声が大きくなっただけだった。 そこへ静かに部屋に入って来たのは隠密衣装のままの浩大で、薄く哂った顔で床に伏す林子頴を見ると肩を竦ませて説明を始める。

「遅くなったけどさ、やっと坊ちゃんの実家を調べていた密偵から報告が届いたよん」

浩大の声に林子頴の背が大きく震えたが顔を上げることは無く、報告が始まってもそのままの体勢で震え続けていた。 掃除婦姿の夕鈴はこの場にいて良いのか判らなくて陛下を見ると、呆れた顔で頷いてくれたので静かに佇むしかない。

「あー、この間陛下が視察に行った地方の、貴族の息子っていうのは知っていると思うけど、あの悪いことした貴族とは関係ないよ。 んで、この人は林家の一人息子で~、両親が早々に結婚させようとしてるんだよね~」
「ぼ、僕は・・・・ うっ・・・・。 だ、だからぁ・・・・」
「えっと、その一人息子に王宮で研修という名の箔をつけて役人として一人前になって貰い、跡継ぎにしたいみたいで、ついでに王宮に従事している大臣と懇意になって娘を紹介して貰おうと目論んでいたみたいっすよ。 でもこの坊ちゃんは」
「う、ううー・・・・ うあああああああっ!」

本格的に泣き出した林子頴の後頚部に躊躇無く手刀を振り下ろして呆気なく気絶させた桐は、意識を失った彼の手を背後に縛り上げ、陛下に視線を投げ掛ける。

「・・・・これ、どう致しますか?」
「知らん。 浩大、それで何故夕鈴が係わってくるんだ?」

疲れた表情を見せる陛下に、一頻り笑った後、浩大はいつもの飄々とした顔で説明を続けた。

「坊ちゃんが何度も言っていた萌遊ってね、坊ちゃん家の住み込み侍女なんだよ」
「・・・・侍女? それがどう繋がって来るの?」

意味が判らないと夕鈴が浩大を見ると、桐が林子頴の背に膝を当て活を入れる。 呻き声と共に眉間に皺を寄せ、目を瞬いた彼は首を振って周囲を見回し、そして短い悲鳴を上げた。 







彼、林子頴は両親から王宮に従事するに当たり、嫁探しを厳命された。 
王宮大臣と懇意になり、大貴族の子女を紹介して貰うようにと。 
そこには息子の愚かな望みを断つ、という意味も含まれていたらしい。 
通常、貴族の子息は家のために婚姻を結ぶのが当たり前だが、しかし彼自身が望むのは彼の家で働く侍女で、母親が侍女頭として働く傍らで幼馴染としても共に過ごしてきた萌遊という女性だ。 
彼は萌遊と結婚したい訴え続けたが、両親からは身分が違うと却下され、今回王宮で名のある貴族との縁を結び、息女を紹介して貰うように言われて来たと涙ながらに語った。

「で、ですから貴女に事情を話して演技をしてもらおうと思ったんです。 い、厭な貴族子女を演じてもらって、幼馴染の萌遊の方がずっとずっと良い娘だと親に見せようと」
「それで何度も、私に話がしたいと言っていたんですね」
「は、はい・・・・」

今の林子頴からは貴族子息らしい高飛車な態度は何処にも見えず、まるで借りてきた猫のようだ。 肩を落とし所在無げに正座してひとつひとつに答えてくれている。 目尻が赤く腫れ、大きく見えた体躯を縮め、ふるふると震える様に夕鈴は胸が痛くなり、床上の林子頴の傍らに膝をつき話を聞いていた。
何だか問い掛けるのも可哀想になるくらいで、時折しゃくり上げる様は歳よりも下に見えてくる。

ただ、林子頴と夕鈴を見つめる周囲の視線は酷く冷たく、ふたりは背後に佇む三人から醸し出される雰囲気に顔を上げることが出来ず、項垂れ続けた。






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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 23:58:46 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2013-07-08 月 00:51:15 | | [編集]
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2013-07-08 月 00:57:12 | | [編集]
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2013-07-08 月 19:57:01 | | [編集]
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2013-07-08 月 21:05:50 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。夕鈴引き受けるかな。どうしようかな。 陛下と桐が怖いしな。どうしようかな(笑) 心の拠り所は、この場合浩大になるのかな??
2013-07-10 水 22:09:47 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
aki様、コメントをありがとう御座います。陛下の静かな怒り。うん、長くはもたないけどね(笑)桐からの「許婚」発言時の陛下の表情は皆様のご想像にお任せいたします。 冷酷な笑み・・・・・とだけ、注釈させて頂きます。 あ、桐さんは余り関与しないと思いますよ。 関知しないというか、何と言うか・・・・。 そういう人だと思ってください。
2013-07-10 水 22:18:27 | URL | あお [編集]
Re: 殴っていいですか?
ダブルS様、コメントをありがとう御座います。ええ、殴って下さい。実はヘタレ臨時補佐官です。巻き込まれ体質の夕鈴に寄って行く「蚊」のようなものです。 ですからどうぞ、思い切り殴って下さい。 陛下も上機嫌になるでしょう!
2013-07-10 水 22:28:45 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。 ええ、ぬか喜びさせて申し訳御座いません。夕鈴へのプロポーズはもう飽きましたでしょ?(笑) お仕置きですか? うぬぬ、ある・・・・でしょうね。陛下ですし~(爆) あ、桐の発言は無視して下さい。ただの「いじめ」と判っておりますから~。それでもお仕置きは別でしょうけどね。 
「仲直り」の続きはunder絡みじゃない方向で書きたいなと思案中です。って、under見れない方には申し訳ないかな? うぬぬ、どうしよう。
2013-07-10 水 22:40:50 | URL | あお [編集]
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