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頑固な迷路  11
連日暑くなっている上に大雨に雷。これには犬が怯えて大変です。大震災の後から雷と地震が駄目になったうちのワンコは膝上でがたがた震えるそうで、家族中可哀想~と慰めるのに、落ち着いたら 「何かありましたでしょうか」と知らん顔で膝上から下りるので、虐めたくなるそうです。



では、どうぞ












場の雰囲気は著しく重く冷たく、そして暗かった。
 
桐から活を入れられた気を取り戻した後、興奮状態は落ち着いたがぽろぽろと零れる涙は止まらず、それでも浩大の説明に合わせて自分の気持ちと計画を話す林子頴は、好きだという萌遊と子供の頃に交わした結婚の話をしたり、親にもそのことを何度も話したと夕鈴だけを見ながら語り、そして期待を込めた瞳で見つめてきた。 もちろん、夕鈴はその期待に応える訳にはいかず、視線を逸らし続けるしかない。

「林子頴様のお気持ちは判りました。 ・・・・・でも演技は出来ません」
「ど、どうしても無理なのか?」
「ごめんなさい・・・・・」

夕鈴は林子頴に頭を下げながら、背後から漂う冷気に背を震わせた。 
気持ち的には協力したい。 気位の高い厭な貴族子女でも何でも演じて、身分違いの恋を成就させる手伝いをしたい。 彼の気持ちが判るだけに同情というより共感しすぎて胸が痛いくらいだ。

こんな話を聞いたら紅珠は頬を染めながら筆を持ち、一気に物語の三つは書き上げるだろう。
自分だって身分違いの恋なんて有り得ないと知っている。 
現実には無理なのだと。 
それでもそれを成就したいと訴える彼の気持ちは夕鈴の心の奥にある扉を痛いほど叩き、しっかりと口を閉ざしていないと現状を無視した下手なことを口にしてしまいそうになる。 
今は後宮の掃除婦としても、臨時花嫁としても手を貸すことが出来ない。 
これ以上李順さんに叱責されるのも怖いし、今背後にいる陛下も桐さんも怖い。 浩大だけは怖くないが、あとで弄られるのが判るだけに、余計なことは言わないのだいいだろう。

「一刻だけ、この衣装を着て演技をして欲しいだけだ。 ズボラで、我が侭で、高飛車で、金に五月蝿くて、化粧が濃くて、奔放で、酒飲みで、口が悪くて、一見しただけで二度と会いたくないと思うような貴族子女の役を演じて欲しいだけだ」
「で、出来ません! そんなの無理! 第一、そんな貴族子女が何処にいるんですか!」
「だから演じて欲しいんだ。 無理だろうか?」
「無理ですっ!!」

顔を上げると笑いを堪えて肩を震わせる浩大と薄く口角を持ち上げている桐が見えるが、陛下だけは冷酷な表情のままで、それが怖いと視線を横に逸らす。 そもそも、掃除婦が貴族子女に化けることも簡単に王宮を出ることも出来るはずがないと、この貴族子息は何度説明しても解ってくれない。
愛しい萌遊を親に認めさせるために、偶然会った世話焼き掃除婦を上手く活用しようと考え、思考回路が一直線となり、必死に掃除婦を口説こうと衣装まで用意したのだと泣きながら話す。 そこまでされても、演技する貴族子女の理想像を聞かされた後では、自分には到底無理だし、背後の陛下は怖いしで、どうにか諦めてくれないかと夕鈴は泣きたくなった。

「一人息子なので結婚は絶対と判っているが、萌遊以外と結婚したくない。 だけど親の意見に逆らうことは無理だと承知している。 だけど、萌遊と一緒になりたいのだ」
「でも協力は出来ないんです。 あの・・・・ 頑張って親御様を説得して下さい!」
「それが無理だからお願いしているんだ。 頼むっ! 上手く演じてはくれぬか?」
「む、無理なんです~~~っ!」

話は平行線を辿り、夕鈴が無理だというたびに林子頴の両手が膝上で震え、その手の甲に涙が滴り落ちる。 その様子に夕鈴は胸が締め付けられるように痛んだが、同じ部屋で見ていた桐は 「もういい加減に開放してくれ」 と呟き、浩大は懐から菓子を出して食べ始め、陛下は大仰な嘆息を吐き立ち上がった。

「我が国に従事する廷臣が愚痴愚痴と情けないことを呟き続け、更に他力本願で無駄な考えを零し続けるのを、いつまでも聞く気は無い。 ゆう・・・・ 掃除婦も己の仕事に戻ることだ。 他の者もそれぞれの仕事に戻るように」
「あ、あの・・・・ では、林子頴様も御仕事に御戻り下さいませ」
「その優しさを演技に役立てては下さらぬか?」
「ですから何度も御伝えしてますように、無理なんです!」
「そこを何とか!」

あーっ! 頑固というか執拗というか、親を自分の力で説得しようとは思わないのか!
・・・・・いや、貴族は家のために婚姻を結ぶのが当たり前で、親が勧める相手は絶対なのが通常だ。 これは下町でも大概当て嵌まることで、親の意見に従い結婚した友人も知人もたくさんいる。 互いに好き合って結婚に至る人たちもいるけど、親の許可があってこそ認められる訳で、貴族となると別次元の話になるのだろう。
でも、協力は無理なのだ。
何度伝えたら解って貰えるのだろうか。 この人が私を諦めて、他に目を向けるような妙案はないかな。 例えば・・・・ 例えば? ああ・・・・、思いつかない!

林子頴の前に両膝をつき項垂れてしまった夕鈴に浩大が声を掛ける。

「おき・・・・掃除の人。 あー、まだ話の続きがあるんですが、良いかな?」
「こう・・・・話の続き、ですか?」

にぱっと笑顔を見せる浩大は夕鈴の隣に胡座を組み、菓子に齧り付きながら話を続けた。

「そこの坊ちゃんの好きな相手、えっと・・・・萌遊ちゃんだっけ?」
「何故、お前が萌遊を『ちゃん』付けで呼ぶのだ! って言うか誰だ、お前は?」

ええっ!今頃ですか? と突っ込みたいが、浩大の身元がばれるのは困る。 
それ以上余計なことを聞かれないように、今は彼を刺激するなと目で訴えていると、椅子に座っていたはずの陛下が立ち上がり、浩大と夕鈴の間に割り込んで来た。 どうしたんだと目を瞠って陛下を見ると手が伸び、頬を撫でながら必要の無い狼の演技で妖艶に微笑んで来る。

「ゆう・・・・先ほどから随分と臨時補佐官の面倒を見るではないか。 しかし解っている様だが、後宮から出ることは叶わぬからな。 それに近過ぎると、さっきから気になっていた」

近距離での狼陛下の妖艶な笑みに、夕鈴の口からは魂が抜け出そうになり、慌てて背後へと這い下がった。 しかし決して広い部屋ではない。 下がれば下がるほどに狼が近寄って来て、兎は蒼褪めながら首を振った。

「わ、判っております! 後宮で掃除をするのが私の仕事ですし、もちろん出るつもりはありません! 先ほどから私は協力出来ないと彼に申し伝えております。 で、ですから陛下がご心配なさる必要は、ご、ご、御座いませんっ!」
「そんなに膝を付き合わせながら奴ばかり見つめていては心配にもなろうものだ」
「いっ、今は、わたしは掃除婦ですから~~~~っ!!」
「私の目には可愛らしい兎にしか見えぬがな」

壁まで追い詰められた夕鈴は、何を言い出すんだと涙目で陛下に訴えた。 しかし顎を掴み上げられ、何故この場で必要なのかと思うほどに低い声と嫣然とした笑みで近付くから、脱力してしまう。 くたりと壁に凭れ掛かった夕鈴が長椅子に移動させられる様を、桐が失笑と共に眺めているから居た堪れない。 陛下はもしかして、林子頴に係わった私にイヤガラセをしているのだろうかとさえ思えてしまう。

「あー・・・・、続きを話しても?」

視線を逸らしながら肩を震わせる浩大が軽い咳払いをしてくる。 その咳払いに、陛下と共に腰掛けた長椅子から夕鈴は力無く頷いた。 私は今、掃除婦姿なんですけどーっ! という突っ込みを陛下にする気力も既に無く、諦めにも似た感情に苛みながら、ニヤニヤ顔で振り向いた浩大に視線を向けた。

「そちらのお話が済んでからでも、オレは構わないけど~?」
「いっ、いいから、こっちは置いておいて! 話の続きを早く!」
「了解っす。 そこの坊ちゃん御執心の 『ほーゆーちゃん』 明日結婚式だってさ」
「・・・・・はぁああああっ!?」

叫んだ後で気が付く。 急ぎ口に手を当てるが、耳に届く桐さんからの舌打ちに身が竦む。
ここは王宮だ。 人払いしてある余り使われない部屋の一室だとしても、大声で叫ぶと誰かが来てしまう可能性がある。 入り口に足を運んだ桐さんが外を窺い、小さく息を吐く様を見ても簡単に安堵は出来なかった。 そしてゆっくりと振り向いた桐さんからの視線に、夕鈴は心臓を鷲掴みされたかのように全身に震えが走る。 

「ご、ごめんなさいっ!」
「ゆう・・・・ 君は悪くない。 奴の説明が悪いだけだ、気にすることは無い」
「え? オレのせいっすか? そんな理不尽なぁ~」

ケタケタと笑う浩大と対照的に睨ね付ける桐さんの視線が痛くて、夕鈴は口角だけを持ち上げ、視線を彷徨わせた。 陛下が頭を撫でながら 「大丈夫だよ」 と小犬の声を落としてくれるが、自分の失態に乾いた笑いしか零れない。 
そんな夕鈴を見て、浩大が頬をポリポリと掻きながら口を開き続きを始めた。

「うん、だからさ、おきさ・・・・ 掃除の人が係わることはないってだよ」
「いや・・・・ あの、浩大? 今言ったことをもう一度言って貰っていい?」

思わず名前を言ってしまったが、それどころじゃないと、夕鈴は浩大を凝視した。
それに対して、きょとんとした顔で浩大が首を傾げる。 聞いてなかったのかという顔だが、目を瞠った夕鈴を見ると小さく息を吐き、いいよと繰り返した。

「その臨時補佐官の頼み事は聞く必要はないよってこと。 ご執心の侍女の萌遊ちゃんは、明日目出度く結婚する運びとなりましたからー。 良かったね」
「・・・・うっ。 う、うう・・・・」

隣に座り込んでいた林子頴から呻き声が上がったのを耳にする。 
夕鈴は顔を向け、目にした光景に思わず悲鳴を上げそうになり口を覆った。 
彼の顔色は赤を通り越して鬱血したかのような紫に近い赤へと変わり、強く拳を握り締めて全身を震わせながら浩大を睨みつけている。 睨み付けられた浩大は口を尖らせ肩を竦ませるが、彼に通用するはずもなく、幽鬼の如く立ち上がった林子頴は紗帽を投げ捨てると髪を掻き毟りながら呻くように否定の叫びを上げた。

「う、嘘だ・・・・っ! そ、そんなはずは無い。 萌遊は私と一緒になると約束してくれた! だから貴族の娘より萌遊の素晴らしさを解って貰おうと頑張っているんだ! 私は、萌遊と一緒になるために私は・・・・・っ!」

叫び終えた彼の戦慄く唇から唾が泡となり零れ落ちる。 中腰になった腰が崩れるように床へ落ち、愕然と宙を見つめながら呟き続ける林子頴に、何と声を掛けていいのか夕鈴は困惑してしまった。 虚ろな瞳は何処を見ているのか動揺の大きさが知れ、口を覆ったまま夕鈴は黙って見つめるしか出来ない。
やがて頭を掻いていた手から力が抜け、林子頴は呆けた表情でブツブツと呟き出した。

「だから・・・・もっと早く話を・・・・・だから何度も足を運んだのに・・・・だから衣装まで用意して・・・・・萌遊のために・・・・・萌遊の・・・・」
「あ、あの林子頴様・・・・? 急ぎ真相を確かめた方が宜しいかも知れませんよ。 ここで演技してくれる相手を探しているより、その萌遊さんのところに行って」
「おきさ・・・・ あー、面倒だな。 掃除の人、それ無理だよん」

浩大の言葉に怪訝な顔で振り向くと、食べ終えた菓子を惜しむように指を舐めながら夕鈴に笑い掛けてくる。 思わず身を乗り出すと腰を掴まれ、ぎょっとして振り向くと陛下が膝上に移動させようとしているから叫びそうになる。
だから今は掃除婦なんですってば!
でも掃除婦が陛下に対して抗う訳にもいかず、でも掃除婦が陛下の膝上に腰掛ける訳にもいかず、必死に腰を掴むその手を押さえ込んでいると、浩大からまた咳払い気が聞こえて来た。

「あー・・・・ 続きはまた後で?」
「いっ、今っ!!」

続きを後でなんて、こんな状態の彼を前にして冗談じゃない!
そして、こんな状況下で陛下は一体何をしたいんだ! 
お願いです! 満面の笑みを浮かべながら掃除婦を膝上に乗せようとするのは止めて下さい! 今にも李順さんが現れそうで本当に怖いんです! 







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:10:15 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
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2013-07-11 木 06:36:07 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。そうですね、この部屋の状況打破はどうしたらいいのでしょう。もう最初の終わりがかなり方向展開していて、修復不可能です。困ったものです。ヘタレ貴族子息のせいです。でももう少しで終わりにします(終わりにしたい)。お付き合い宜しくお願いします。
2013-07-11 木 07:15:35 | URL | あお [編集]
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2013-07-11 木 12:18:38 | | [編集]
Re: 陛下が飽きたようです…
ダブルS様、コメントをありがとう御座います。話を聞かない親子っていますよね~。娘がバイトしているところでも自由人な親子に振り回されることがあるそうですよ。よくある、肉のラップに指を・・・・アイスを持って暫くしてから戻す・・・・野菜を落とす・・・・菓子の前で支払いの前で袋を開ける・・・・などなど。人によっては堂々とされていらっしゃる方もいますので、失笑だそうですよん。 あら、話が違う方向に????
2013-07-11 木 20:50:35 | URL | あお [編集]
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2013-07-11 木 21:41:28 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。萌遊さんの気持ちは次の次あたりに出る予定です。面倒くさい男は嫌いですか?私は嫌いです(大笑) あと、「仲直り」の続きはどうにかUNDERでの二人を織り交ぜながら、表に出せるようなものにしようと思います。 そうですね、あんだーも暫く書いてないわ~。丸一月か。うぬぬ、でも方淵も書きたいし・・・・(笑)
2013-07-13 土 20:11:07 | URL | あお [編集]
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