スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
頑固な迷路  13
毛皮を着込んでいる、うちの犬。 犬は人間と違い皮膚に汗腺が無いので、肉球からと舌を出して発汗するのですが、うちの毛玉犬は、何故か暑いベランダに出たがるわ、暑い車に乗りたがるわ、西日差すトイレに篭るわ、もしかして莫迦なのかしらと悩んでしまいます。 この可愛いお莫迦さんのために、そろそろサマーカットの予約をしなきゃ。


では、どうぞ













桐と林子頴が去って行き、静かになった部屋で床に腰を下ろしたままの夕鈴は静かに息を吐いた。 酷く疲労した頭が今頃になって痛む。 掃除婦が一貴族子息に説教をした。 
脳内いっぱいに李順さんが溢れ、それでも彼の言いたかったことが判って安堵する。
これで掃除婦にいつまでも付き纏っていた理由も判り、そしてこれからは真面目に政務に取り組むだろう。 彼が望んだ形にはならなかったが、世の中にはどうすることも出来ない道理と建前がある。 貴族として生まれた彼もそれはある程度承知しているはずだ。
だからこそ抗ったのだと判る。 
そして、それは残念ながら報われることは無かったけど、彼がいつか結婚する人とは心から幸せになれるといいなと願うしかない。

「・・・・・夕鈴は誰にでも親切だね」

いつの間にか隣に跪く陛下が夕鈴の頭を撫でてきた。 いつもの仕草にチクリと胸が痛んだが、夕鈴は笑って答える。

「あのまま此処で泣かれても、どうしようもありませんから」

そう、立ち止まっていてもどうしようもない。 時間も日々も留まることなく進み続ける。 その流れの中で、ただ茫然としていても何も成長しない。 だから歩むしかないのだ。 いつか来る未来に怯えるより、今やるべきことをしっかりとやるだけ。 陛下が好きな気持ちを隠し、陛下のためにいつか来る未来を応援するだけだ。 
どんなに胸が痛もうとも、それが現実だとわかっている。
林子頴に 『相手の方の幸せを願えませんか』 と言った台詞は、自分に対しても言ったのだ。 判りきった未来をもう一度認識しなきゃ駄目だよと。 判っていることだから泣く必要も、悲しむ必要も無い。 自分はちゃんと陛下の幸せを願うことが出来るはずだ。
それが自分の幸せと重ならないとしても。

「もう、ずいぶん遅い時間になりましたね。 急ぎ着替えて部屋に戻ります」

窓から見える夕闇に、急ぎ部屋を出ようとした夕鈴は腕を取られて振り向いた。 首を傾げた陛下が何故か寂しそうに見え、眉間に皺を寄せると静かに立ち上がって擦り寄って来る。 何度も言っているように今は掃除婦ですと伝えようとして口を開くが、顔全体が陛下の胸の中に埋もれ、声が詰まった。

「ずいぶん奴に時間を取られたから、この後は李順に捕まるだろうな」
「・・・・うぐっ」
「今日は部屋に渡れないかも知れない。 文句がいっぱいなのに残念だ・・・・」
「・・・・ふがっ」
「ねえ、他の男に簡単に近付くなんて、夕鈴は僕に焼きもちを妬かせたいのかな」
「・・・・もがっ」
「近付かないでって何度も言っているのに言うこと聞いてくれないよね」
「・・・・ふぐぅ」
「夕鈴って本当に真面目な悪女だよね。 それって自覚あるのかな?」

陛下の言っている意味が判らないともがいていると、だんだん酸欠に近い状態となる。 おまけに首筋を這うように動く指と、背から下りてくる手が腰を引き寄せ、自分の置かれた状態を思い浮かべると羞恥に頭が沸騰してきた。 

「夕鈴は僕の奥さんなのに、時々手が届かなくて悔しくなるよ」

手が届かないのは陛下の方じゃないかと文句を言いたいが、それよりも息が苦しいと胸を叩いて訴える。 束縛している腕を放して欲しい。 勘違いさせないで欲しい。 過剰な演技は掃除婦には必要ありません。 それよりも息をさせて欲しい!

「ぷはぁあああっ!!」

どうにか陛下の胸から脱出できた夕鈴は喘ぐように息を吐き、頭を振った。 
真面目な悪女って何だ? そんな言葉、聞いたことが無い。 
それに奥さんとか焼きもちとか、よくそんな台詞が滑らかに出てくること。 まあ、今の狼陛下にそれを言っても翻弄されるだけなのは何度も学習済みなので、いま自分がすることは早く衣装を着替えて後宮の部屋へと戻ることだ。

開放された今の内と、夕鈴は部屋から回廊へと逃げ出すように飛び出した。 
このままでは李順さんが陛下を探しに、この部屋へ来ることは間違いない。 そして想像通りに部屋から飛び出した時、白く輝く眼鏡を持ち上げる上司に出会ってしまう。

「・・・・夕鈴殿、陛下はこちらですか?」
「は、はいぃ! 居ります、こちらに居ります! お時間頂きましたが、話し合いも無事に終わり、後ほど報告があると思います。 私はこのまま通常バイト業務に戻りたいと思います!」

一気に喋り、そして踵を返そうとすると部屋から出て来た陛下に捕獲された。
前門の狼、後門の蛇! 間に挟まれた兎は蒼褪めながら息を詰めるしか出来ない。 

「おやおや陛下。 今回の一件は浩大と桐に任せるとおっしゃっていたのに、ずいぶんと長い間お姿が見えず・・・。 ははははは。 お姿をお探しましたよ、長いこと」
「我が妃が多数の男と狭い部屋に押し込まれることになったのだ。 共に過ごすのは至極当たり前のことだろう。 仕事はこれからするから安心しろ。 話し合いは無事に終わったんだ。 大人しく側近に捕縛されるさ」

そう言いながら掃除婦を抱き上げるのは何故でしょうか。 李順さんからの鋭い視線が痛いので、出来ましたら直ぐにでも離しては貰えませんでしょうか。

「ではその掃除婦をすぐに解放し、早速仕事に取り掛かって貰いましょうかね」
「その前に少し掃除婦と話がある。 半刻したら戻るから先に行っていろ」

そのまま後宮立ち入り禁止区域へと夕鈴を抱きかかえたまま足を運ぶ陛下に、李順から怨嗟の叫び声が虚しく響き渡った。 抱きかかえられた掃除婦は一応文句・・・、いや抗議、いや苦情を申し立ててみるのだが、その声は弱々しく、そして途中で立ち消えてしまう。

「陛下、何度も申し上げておりますように、掃除婦を抱き上げるのは・・・・・。 いえ・・・、もう好きにして下さい。 で、話とは何でしょうか」

何を言っても狼陛下には通じないと思った夕鈴は、きっぱりと諦めた。 
兎に角、急いで妃衣装に着替えて部屋に戻りたいのに、陛下は話があると言う。 もし長くなるようなら明日にして欲しい。 疲労感いっぱいで陛下にそう尋ねると、やっと床へと降ろされた。

「・・・・もう奴に会っちゃ駄目だよ、夕鈴。 あれだけ伝えたのだから後は自分で何とかするだろう。 だから二度と夕鈴が係わることは無いからね。 それに桐と許婚だなんて、やっぱり面白くなかった。 やっぱり僕がその役をやれば良かったな。 奴が直ぐに諦めようと思うくらい、濃厚で親密な許婚を演じる自信があるのに」

頭痛が激しくなってきた。 も、早く着替えて戻りたい。 だけど小犬で文句を言い続ける陛下が、着替え用の部屋の中まで入ってくるから着替えも身動きも出来ない。 

「陛下と掃除婦が許婚なんて有り得ないです。 そんなの、すぐにばれちゃいますよ」

自分で言った台詞に胸が痛んだが、今はそれどころじゃないと痛んだ胸のことは頭から押し出して続きを捻出する。 卓に置かれた妃衣装を手に、着替えをさせてくれと目で訴えながら。

「研修で来た貴族子息である臨時補佐官が掃除婦に懸想するなんて、やっぱり有り得なかったですしね。 そうそう、桐さんにも言われたんですが、あの人、最後まで私の名前を聞こうとしなかったんですよ? 萌遊さんのことで頭がいっぱいだったんですね」
「名前を聞かなくて正解だな。 妃と同じ名前だと知れば奴も驚くだろう」
「いや、下っ端妃の名前など知る由も無いでしょう。 普通は会うはずもないですしね」
「研修が終われば奴も地方から出ることなく、役人として生涯をそこで過ごすだろうしな」
「そうでした、お役人様になられるんですね。 科挙に受かっても全員が全員、王宮に勤める訳ではないんですか。 それもそうか、人で溢れちゃいますよね」
「科挙自体が難関だが、よからぬ輩が増えることは避けたい。 一定の人数調整は李順と周に任せているが、今は新たに受け入れる予定は無いと思うよ。 財政難もあるしね」

そういえば、厨房に行く途中で一度会ったが、彼は私が妃と知って驚いていた。 
妃の素性にも掃除婦の名前にも興味がないようだし、もう後は彼の傷心が少しでも早く癒されたらいいなと願うだけ。
 
陛下が笑いながら意味も無く頭を撫でてるので、濃厚で親密な許婚演技をされなくて本当に良かったと胸を撫で降ろす。 狼陛下に演技なんかされたら腰は抜けるし、逆上せちゃうし、結果何も聞けずに終わっていたことだろう。 
そう考えると桐さんである意味良かったのかしらと思い、思いながらも首を傾げてしまうが、まあ終わり良ければ全て良しと、ここは一緒に笑って終わらせることにした。 





翌日、政務室で見た彼は真面目に政務に取り組んでいるようで、これ以上は立ち入るべきではないと夕鈴は視線を逸らした。 方淵から訝しむような視線を感じたが、敢えて無視して遣り過ごし、その後は穏やかな日々を過ごす。
 
そして数日が経過し、いつものように午後は掃除婦として立ち入り禁止区域で働き、水替えのために回廊を歩いていた。 人影に気付いた夕鈴がいつものように跪き、拱手して遣り過ごそうと低頭した時、すっかり聞き慣れてしまった声に顔を上げた。

「その節は面倒を掛けた・・・・・」
「・・・・林子頴様」

少し首を傾げて寂しそうな表情を浮かべる林子頴は 「少し時間を貰えないだろうか」 と話し掛けて来た。 ああ、またなのか。 掃除婦の立場では無理だと彼に何度言っても伝わらない。 視線を彷徨わせながら溜め息を吐き、言われた通りに話を聞くべきか、どうしても無理なのだと伝えようか悩んでいると、頭上から冷ややかな声が聞こえて来た。

「以前、コレは私の許婚だと申し上げたはずだが」
「きっ! ・・・・桐さん」

安堵して顔を上げると、背筋が一気に凍るほどの笑みを浮かべた桐様が立っていらっしゃった。 
口端を薄く持ち上げ両手を組んだ桐様は、林子頴から見えないように私の腰を足で突き、密やかな舌打ちを頭上から落としてくる。 
桐様、何度も申し上げておりますように、私は会いたくて会うのでは御座いません!
夕鈴は蒼白になりながら、それでも必死に気力を取り戻した。

「あ・・・・あの、何か御用で御座いましょうかぁ」
「少し話をしたい。 私事により研修期間を少し延ばしてもらったが、貴女に会うのもこれで最後になる。 礼と・・・それと愚痴、になるのかな。 貴女に聞いてもらいたいと思うのは何故なのだろう。 もし時間があると言ってくれるなら嬉しいのだが。 もちろん許婚殿も一緒で構わない」

背を屈ませて今度は一歩引いたように話し掛けられ、夕鈴は戸惑ってしまう。 
強気で言われたら強く断ることも出来るのだが、そんな風に躊躇いがちに声を掛けられると拒否するのが難しくなる。 横目で桐さんを窺うと眇めた視線で見下ろされたが 「好きにしろ」 と小声で呟かれ、夕鈴は目を閉じた。








→ 次へ

 
スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 03:40:01 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-07-15 月 06:23:04 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-07-15 月 07:19:02 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-07-15 月 22:13:26 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。桐様と思わず言いたくなるような冷酷な表情だったとご想像下さいませ。陛下のお仕置きがご希望で御座いますか。お仕置き・・・・お仕置き・・・・。うん、どうしましょうか(爆)頭が痛いです。これ以上、陛下を壊していいのかしら?
2013-07-15 月 22:26:34 | URL | あお [編集]
Re: 桐さんから桐様!?
ダブルS様、コメントをありがとう御座います。桐様に動揺していただき、ありがとう御座います。もれなく、陛下ご登場予定で御座います。がんばれば頑張るほどに報われない夕鈴ですが(笑)、次の話しでも報われない彼女を誰が慰めるのでしょうか。ははははは。
2013-07-15 月 22:28:28 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。真面目な悪女。不本意な名前を登場させてしまいましたが、陛下の心情からすると、その通りかなと思います。翻弄される陛下も翻弄しているという自覚を持ってもらいたい。でも、その焦れ焦れが好きなんですけどね。 あ、うちの犬のサマーカットはパピヨンがアヌビスみたいになるので、一様に変と言われます。ので、耳毛と尻尾だけはそのまま残して貰ってます。全てを三分刈りにした時は心臓が止まりそうになりましたもの。写真見るたびに笑えます。
2013-07-15 月 22:32:01 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。