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涼夏を求め  3
お化け屋敷は兎も角、学生時代の肝試し。誰しも経験あるでしょうが、娘は学校行事の肝試しは台風大当たりで一度も成功してない。体育館で先生からの怪談話で終了です。 しかも先生なのに話しが下手くそで怖くなかったと愚痴ってました(笑)
のんびりunder更新予定です。「嵐の後に凪」の続き。R指定ですので、御了承下さいませ。


では、どうぞ













方淵が静かに足を進ませていると、袖を引かれた。 
背後に立つ水月に視線を向けると右前方を指差している。 
月明かりの下、後宮の立ち入り禁止区域と言われている、今は誰一人使用することない鄙びた幽寂たる場所だ。 静謐な、虫の音が時折聞こえるだけの空間。 
内政が整い次第、あの凡庸な妃とは比べ物にならない煌びやかな貴族子女が妃として大勢犇めくことになるだろう場所。 陛下の御世のためにと、大臣らの思惑を含んだ衣装を纏い、華の顔を扇で隠し、貴き御方のためだけに集うこととなる場所。

今は誰一人いない、沈黙だけが在する場所。

その立ち入り禁止区域の庭園で、灯篭にしがみ付いている一人の男を発見した。
水月が自分は周囲を見ると指で知らせて来たので、一緒に来いと襟首を掴み引き摺るようにして灯篭へと近付く。
二人と聞いていたがと周囲を窺うと、灯篭にしがみ付く男の足元に気を失った者がいて安堵した。 気を失った男を方淵が背負うと、水月が腰を抜かした男に肩を貸し、場を静かに離れることに成功する。 腰を抜かした男は余りの恐怖に声を失っていたことが幸いした。 
もしも叫び声や泣き声を上げていたら、彼らの姿はこの場には無く、肝試しの当初の目的である刑房に居たかも知れない。 早々に見つかって良かったと方淵は心から胸を撫で下ろした。


皆の居る殿へ戻ると、大半の者達が咎が及ぶことを避けるように既に帰路に着いたと聞かされた。 貴族子息らの逃げ足の速さに溜め息しか出ないが、それよりも早く二人を正気に戻さなければならない。 残った者たちに介抱を任せ、方淵と水月はその場に腰を下ろした。
一人の官吏が近付き、疲れ果てた二人に気遣わしげに声を掛けてくる。 

「大丈夫か? これ以上遅くなると残業申請しているとはいえ、言い訳に苦慮する」
「よく兵に見つからなかったな。 これで全員か?」

完全に意識を失った男を担ぎ、腰を抜かした男に肩を貸して来たのだ。 
それも息を殺して足を忍ばせて。 方淵も水月に直ぐには問いに答えることが出来ず、喘ぐような呼吸を繰り返しながら、それでも頷いてみせる。 残った官吏が気を失っている男の頬を叩き、呆然としている男に無理やり水を飲ませると、激しく噎せ込みながらそれぞれは意識を取り戻した。 
ぼんやり周囲を見回し、そして大きく目を見開くと飛びつくように目の前の者へしがみ付き、ひどく蒼褪めた顔で全身を震わせ始める様に驚いた周囲の者達が何があったかを問うと、二人は互いを見つめ、そして唾を飲み込む。

「いいか、静かに話せよ。 ・・・・何があった?」
「み、み、見た・・・・・女を・・・・見た」

ひどく動揺する男は仲間にしがみ付きながら震えた声を出す。

「見た、って後宮だろう? それは基本、女しかいないだろうさ。 あとは宦官だが、夜はいないはずだ。 驚くにもほどがあるぞ、お前ら」
「ち、違うっ! ま、間違って後宮立ち入り禁止区域に入り込んだと気付き戻ろうとした時に、み、み、見たんだ。 し、白い衣装の・・・・・ 青白い顔の女を・・・・」
「だからそれは侍女だよ。 後宮に居るのは侍女か女官、あとは妃くらいだろう」
「よ、夜中だぞ!? それに侍女や女官が白い衣装を着ているか? それに立ち入り禁止区域の灯りのない回廊を一人でだぞ? あ、あれは絶対に・・・・・」

蒼褪めた顔を横に振りながら、男は自分が見たのは幽霊に決まっていると断言した。 
それを聞いた他の者達も政務室に足を運ぶ妃に付き従っている侍女の衣装を思い出し、確かにと頷いた。 それにひと気のない場所、灯りのない回廊を一人で歩くなど、男でも余程肝が据わっていなければ出来ないだろうと思え、瞬時沈黙が場を包む。 
少しの間をおき、その沈黙が耐え切れないとばかりに一人が少し明るい声を出した。

「侍女や女官が夜着を着ていたのでは? 暑い夜だ。 陛下か妃の用事で呼ばれ、回廊を歩いていたのだろう。 ・・・・そう思った方がいろいろと楽だろう。 な?」
「だ、だけど俺達が足を踏み入れたのは立ち入り禁止区域だ。 誰も使用していない場所のはず。 きっと昔の妃が化けて出てきたんじゃないかと・・・・・」

最後は弱々しく呟くように話すと、男は項垂れて今まで以上に震え出した。 小声で何かを呟き出した男に、もう何を言っても答えることは無い。 このままにもしておけないと両脇を抱え込むように立たせ、馬車に男の邸へ向かうよう伝えた。
そして皆気まずい雰囲気の中、呼吸を整えた水月が周囲の者たちに話し掛ける。

「今夜のことが陛下の耳に入ったら、どんな恐ろしい目に遭うか想像してご覧。 その方が幽霊の存在よりも私は恐ろしい。 これ以上話しをするのも聞くのも止めた方がいいと思うのだが、どうだろうか」

その場の皆は黙り込んだまま大きく頷き、その場で静かに解散となった。
去って行く皆の姿を見送りながら、水月は囁きを落とす。

「方淵殿、あとは今日の噂が広まらないように祈るだけだね」
「・・・・大丈夫とは言い難いな。 先に帰った奴らに口が軽いのが居るやも知れない」
「幽霊を見るのは勝手だけど、場所が場所だものね」
「確かに。 立ち入った場所は問題だな」

幽霊など、そんな不確かな存在を方淵は信じてはいない。 そんなものがもし存在しているとしても自分の行うべき仕事に関係は無いし、見たと断言されても、だからどうしたと思うだけだ。

だが場所が悪い。 
陛下が唯一と公言されている妃がいる後宮に足を踏み入れた文官の未来など知れている。 その上、この時間だ。 今見つからなかっただけで、明日はどうなるか判らない。 
これ以上振り回されるのだけは勘弁してくれと、心から願う方淵だった。



その願いが叶うことなく、翌日出仕すると政務室では昨日の一件でざわめいていた。
実際に肝試しに参加した者達は事情を知っているが、ただ待機していただけの者たちは詳細を知らない。 しかし蒼褪めた顔で戻って来た彼らの顔を見て、何があったと尋ねる者が多く、もちろん大臣も慌てて事情を問い詰めたという。
そして政務室には噂が流れ出した。

後宮には夜な夜な、無念の死を遂げた歴代妃の亡霊が出るらしい。
口から血を流した女が恨みごとを口に回廊を徘徊しているらしい。
亡霊妃と目が合うと取り憑かれてしまうらしい。 
肝試しで文官が亡霊と目が合い、正気を失い倒れたらしい。
後宮立ち入り禁止区域で人影を見ると不幸が押し寄せるらしい。
などなど・・・・・。

その噂を助長するように方淵と水月が助け出した二人が発熱のため休みを申し出て、本当に取り憑かれた者がいたのだと、亡霊が出たのだと騒ぎが大きくなった上、そんな噂を広げるなと大臣が大慌てで口止めしようとしたのが止めとなっていた。
ざわめきが治まらない政務室で必死に目の前の政務に取り組んでいる方淵の許へ水月が近寄り、卓に書簡をそっと置くと、いつもより弱々しい笑みを浮かべてくる。

「方淵殿。 急に具合が悪くなったので早退を」
「帰るなっ!」
「今日は本当に眩暈と動悸がして、暫くは邸に籠もりたいなと」
「いいから帰るなっ!」

この噂が陛下の耳にいつ届けられるのだろうかと、考えたくない現実が足音を立てて近付いてくる気配を感じながら、目の前の政務に励むしかない方淵だった。






*****






「お妃様、お加減が悪いのでしょうか」
「あ、いえ。 ・・・・大丈夫です」

侍女の心配げな表情に夕鈴は慌てて笑みを浮かべた。
正直体調というより、精神的に辛い状態。 しかしバイト妃の仕事中だと自分を叱咤する。 何と言って誤魔化そうかと思ったが直ぐには思い浮かばず 「少し寝不足で」 と呟いてみた。 その返答に侍女が頬を染めて頷き、鏡越しにそっと窺うような視線を向けて来る様子に、夕鈴は首を傾げ、そして気が付き慌ててしまう。

『ちっ、違います! そ、そういう意味ではありません! 確かに陛下は来たけど侍女さんたちが下がって直ぐに自室に戻っているんです!』

真っ赤になった夕鈴に満足げなを見せる侍女達。 衣装を調われながら、仲良し夫婦の演技としては満点だわと思うしかない夕鈴は苦笑いを浮かべた。 

そこへ二人の侍女が蒼褪めた顔で部屋へ入って来る。 手にした朝餉の盆が揺れ、卓に置くなり口元を押さえて二人揃って震え始めた。

「ど、如何なさったんですか?」
「お妃様。 ・・・・実は厨房で怖い噂を耳にしまして」
「それはそれは恐ろしい噂でして・・・・・」

そして震える侍女は涙ながらに聞いたばかりの話を語り出した。




 


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長編 | 01:59:10 | トラックバック(0) | コメント(4)
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2013-07-26 金 09:18:48 | | [編集]
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2013-07-26 金 11:53:51 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。噂は広まり、そしてトンでもない事態に? 陛下は便乗するかな。ああ、李順さんの反応を忘れていた。というか、忘れたい(泣)長くなる予定ではないのですが、詰め込むうちにどうなるか私にも判らないのです(トホホ)
2013-07-26 金 20:58:06 | URL | あお [編集]
Re: 人の口に戸は立てられません…
ダブルS様、コメントをありがとう御座います。 夕鈴心配陛下が傍に付き添うと、もれなく李順が憑いて来る。(笑) 今なら限定プレゼントで浩大もおまけだよ。 私、限定って言葉が好きで、ついライチの香りの台所洗剤を購入してしました。まあ、使う物だからいいんだけどね。
2013-07-27 土 01:38:06 | URL | あお [編集]
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