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涼夏を求め  5
最近雷が多くて、そのたびに犬が怯えているそうです。可哀想だが、話を聞いて急ぎベッドを確認。大地震の後は何度かベッドに失禁されたから慌ててしまう。ある意味、雷より怖いです。


では、どうぞ













昨日、李順より書庫への立ち入り禁止を申し渡された夕鈴は、朝から後宮立ち入り禁止区域で掃除をすることにした。 掃除婦衣装に着替え、いくつもある書庫の掃除は大変だろうなと思いながらハタキを動かす。 大量の書簡や竹簡の修復作業、天日干し、棚掃除、閲覧回数の少ない書簡らの移動、次に行われる行事に関する書簡や書類の用意などなど。
その上、日中は狼陛下に追い立てられるように通常業務を行っているのだ。 
緊張を強いられる政務室での仕事を終え、その後に掃除で体を酷使する文官たち。 
しばらくの間は精神的にも体力的にも大変だろうなと深く息を吐く。 
手伝えるものなら手伝ってあげたいけど、そんな訳にはいかない。 国の政務に関するものもあるのだろうし、偽者とはいえ妃が遅い時間に官吏の手伝いなど無理だろう。 掃除なら少しは自信があるのにと思いながら、固く絞った雑巾で棚を拭く。

まあ、余計なことはしない、見ない、係わらないのが一番だ。 
自分はバイトとしての境界線を守り、地道に借金返済に勤しむだけ。 

老師や浩大が掃除の邪魔をして菓子クズを零すから、時々雷を落としながら手を動かし続け、気付けば窓から見える空が鮮やかな朱色になっていた。  
浩大が 「急がないと侍女が心配するよん」 と声を掛けてくるまで夢中になって掃除をしていたから、すっかり汗ばんでいる自分に気付く。 おまけに政務室に行くのを忘れていた。 まあ汗臭い妃もないだろうと、しばらくは掃除だけすることを上司に伝えることにしよう。 そんなことを考えながら着替えることにしたが、べたつく汗に苦笑いしてしまうほどで、このままでは部屋に戻れないと湯殿に寄ることにした。 

「夢中になって掃除していたから声を掛けるの悩んじゃった」
「お菓子を食べるのに夢中だっただけでしょ? でも声を掛けて貰って良かった。 それにしても暑い時期の掃除は捗るけど、汗びっしょり。 これじゃあ湯浴みしなきゃ、何を老師から教わっているんだって侍女さんもビックリだよね」
「それにしても今日はずいぶん遅いじゃんか。 マジに急がないとやばいんじゃね?」
「そんなに遅い? 日が長くなると時間の感覚が・・・・。 汗がひかないのに妃衣装に袖を通すのが辛いわ。 汚れる・・・・。 ううう・・・・」

軽く汗を拭ったが、拭いきれない汚れや汗が気になる。 それでも掃除婦姿で湯殿に行く訳にはいかないから着るしかない。 肌に触れないように着ることも出来ず、夕鈴は湯殿に着くと湯番に夜着の用意を頼んだ。 侍女が夜着を持参し、湯浴みしている間に妃衣装を部屋へと持ち運ぶ。 汗臭くないかしらと心配になるが、もし妃衣装が汗臭くても侍女は何も言わないだろう。 言われない分、余計に気になってしまう。 夏場は水桶を用意して、しっかりと汗を拭い取ってから着替えるようにしようと湯から上がった。

部屋に戻り用意された夕餉を摂り、お茶を飲んでいると陛下が部屋に訪れる。
いつものようにいちゃいちゃ仲良し夫婦を演じ、少し碁などを楽しんでから陛下が部屋から出て行き、夕鈴は寝所へと足を向ける。 明日は朝から掃除をするのだから、手巾を多く持って汗を拭えるようにしようと用意を始めた。 
用意は早めにしておくに限ると手を動かしている時、ふと鏡台の上で輝く簪に気付く。

今日は真っ直ぐに湯殿に向かい、衣装などを侍女さんに任せっ放しにしていた。
衣装は侍女さんが洗うために持って行ったが、簪や腰紐などは戻されている。 夕鈴が鏡台に近付き、簪が置かれた小物入れに視線を落とし、そこで大きく目を見開いた。

足りない・・・・っ!
今日飾りに使った簪は二つ。 銀の大きな簪と小さな簪だったはず。 
慌てて鏡台の上を探し、宝飾箱を開けるが見当たらない。 既に侍女は部屋へと戻り、呼び戻すのも躊躇われる。 そこでハタと気付いた。  もしかして急いで脱いだ湯殿かも知れないと。 

部屋の燭台を持ち、そっと回廊を覗く。
しん・・・っと静まり返った廊下に人影は無く、一瞬浩大に声を掛けようか迷う。 迷った末、自分がちゃんと管理してなかったせいだと思い、そっと足を踏み出すことにした。
正直、とても怖い。 もともと怖いのは嫌いだし、こういう時に限って怖い話しを思い出しそうで何か他のことを思い浮かべようと必死になる。 蝋燭に揺れる暗闇が足を竦ませるが、他のことを必死に思い出そうとしている内に脳裏にある人物が浮かんで来た。

白く輝く眼鏡を持ち上げた李順が腕を組み、淡々と説明を始める。

『レンタル品は全て汚さず、傷付けることなく、バイト終了後に返却して下さい。 損傷や汚れは借金に加算されますので、そのつもりで気を付けてお使い下さるよう注意申し上げます』

冷静に語る上司の言葉と簪が重なった。 下っ端妃とはいえ、自分に使われているのは銀の簪だ。 貴族子女である侍女さんが手にするのだ、下手な宝飾は使えないのだろう。 
いくら質素倹約をモットーとしている妃とはいえ、陛下唯一の妃として後宮に居るのだから、それなりの品が用意されているはずだ。 と、なると。

・・・・・銀の簪。 一体、幾らになるんだろう。

闇が広がり沈黙だけが落ちる回廊。 心許なく揺れる蝋燭。  
しかし借金と李順が頭の中いっぱいに侵食し始めた状態の夕鈴に、怖いものなど無かった。 力強く踏み出した足に、もう迷いは無い。 湯殿に入り、脱衣所を隈なく探す。 
しかし見つからない。 蝋燭台をあちこち向けるが、手で探るが見つからない。
ざっと蒼褪めた夕鈴は床にへたり込みそうになるが、座り込んでどうなると自分を叱咤した。 着替えたのはここだけじゃないと思い出し、崩れそうになった膝を押さえ込む。 しかし夜遅い時間に後宮立ち入り禁止に向かうのは流石に躊躇した。

「こ・・・・ 浩大、いる?」

心細さに有能な隠密を呼んでみるが、反応は無い。 夜の王宮を警備しに回っているのか、侵入者が居て捕まえに行っているのか。 二度ほど繰り返し呼んでみるが反応が無く、夕鈴はこくんっと唾を飲み込み覚悟を決めた。 行くしかない。 
闇も怖いが、李順さんの方がもっと怖いと燭台を持ち上げる。
借金加算も叱責も受けるのはご勘弁と、夕鈴は急ぐことにした。

掃除婦衣装から妃衣装へと着替えた部屋に入る。 当たり前だが真っ暗で静まり返った室内に、ギシリと床板を踏む音が響く。 自分で立てた音に怯えそうになるが、怯えるなら簪がどうしても見つからない場合にしようと燭台を部屋に差し向けた。 
その後、卓上や近くの棚を探すが簪は見つからない。 着替えはこの場所だけなのに、どうして見つからないのかと泣きそうになる。 落ちたのかも知れないと燭台を床に下ろして目を凝らすと、卓の足近くに何かが光って見えた。 

「お願い・・・・。 お願いします・・・・」

祈るように手を伸ばし蝋燭の明かりで確認すると、それは探していた銀の簪とわかる。
手の内の簪に深く安堵し、涙が出そうになったほどだ。 あとは急ぎ部屋に戻るだけと立ち上がった時、誰も居ないはずの後宮立ち入り禁止区域の庭園から人の声が聞こえて来た。 警護兵の見回りかと思い、立ち上がり掛けた腰を落とす。

「・・・庭が・・・・ ここは?」
「おかしい・・・・ 違う・・・・」

聞こえて来た声は明らかに警護兵とは違うと気付いたが、それでは誰だと首を捻る。 
普段なら決して人が立ち入る場所ではないのに、声はどんどん近付いて来る。 話し声からして数人とわかるが、何故こんな遅い時間に立ち入りを禁止されている場所まで足を運んだのだろうかと、夕鈴は窓からそっと庭を窺った。
暗がりの中、人影が見えるが何をしに来たのかまでは勿論わからない。 警護兵だって夜間の立ち入り禁止区域には来ないはずだ。 警護する対象が無いのだから、無駄だろう。 耳を済ませるが砂利を踏む足音と 「ひっ、ひっ」 と吸い込むだけの荒い呼吸、そして悲鳴のような呟きが聞こえて来る。

「・・・戻ろう・・・・ 道を・・・・ もう厭だ」
「絶対に違う・・・・ 何かあったら」

自分以外が狼狽していると、案外自分は落ち着くものだ。 
夕鈴は暗闇に目を凝らしながら、きっと彼らは間違って足を踏み入れたのだろうと思った。 だけど、これ以上進まれては困ると考え込んでしまう。 後宮は広く、陛下以外の男が入り込まないよう迷路のような造りになっている場所もある。 王宮に従事する者が何故こんな時間にこんな場所にと思うが、今はこの場から一刻も早く離れて欲しいと夕鈴は回廊に出ることにした。 
なんて言ったらいいのか判らないけど、兎に角離れるよう伝えるしかない。

持っていた燭台の灯りが回廊に出た瞬間消えてしまい、驚いた夕鈴が蹈鞴を踏んだ時。 

「ひぃいいっ!! でっ、でぇ~~~っ!!」
「・・・・っ!」

声を出す前に叫ばれてしまい、手摺り前で夕鈴は固まってしまう。 
生温い風が髪を攫い無意識に押さえようと手を上げると、砂利を蹴り上げるように逃げ出す足音と、同時に何かが倒れるような音が聞こえた。 どうしていいのか戸惑っている内に気付けば何の音も聞こえなくなり、よろめくように手摺りに摑まった夕鈴は目を瞠ったまま動けなくなる。

 
・・・・一体、何があったのだろう。 今の叫び声は何だろう。

激しい鼓動を抑えるように胸を押さえると、か細い声が聞こえてくる。 まだ人が居るのかと叫びそうになる口を押さえた時、脳裏にバイト上司の冷酷な笑みが浮かび、これ以上ここにいては自分が危険だと思った。 急ぎ離れようと竦む足を必死に動かし、部屋に辿り着いた時には疲労困憊でもう何も考えられずに、座り込んだまま呆然自失状態となる。

何があったか判らない恐怖と、夜中に勝手に部屋から出て立ち入り禁止区域に足を運んだことを知られる恐怖に、夕鈴は眠れぬ夜を過ごすこととなった。





*****






「・・・・・私が噂の原因なんです。 陛下・・・・申し訳御座いません」
「怖がりなのに簪くらいで・・・・・」

夕鈴からの話を聞き終えた陛下は思わず呟いてしまう。 
涙目の夕鈴が眉根を寄せて首を振り 「借金が増えるのは厭です!」 と文句を言うが、陛下は長い溜め息を吐き、手を握り締めた。

「だって夕鈴怖がりだろう。 無理して探して怪我や危ない目に遭う方が心配だよ」
「次の日に探して、もし見つからなかったら・・・・って思ったら居ても立っても居られなかったんです。 本当にごめんなさい。 ご迷惑掛けてしまって」

ぽろぽろと涙を零し始めた夕鈴を膝上に抱き上げ、星離宮では濡れた衣装で何かに対抗しようと果敢に森に足を踏み入れた姿を思い出した。 あれにはすごく驚かされたものだ。 
怖がりの癖に無謀な行動を取る、本当に先が読めない兎だなと思わず苦笑してしまう。

「まあ、簪が見つかって良かったね。 でも夕鈴が謝るのはどうして?」
「う、噂の内容を聞いた侍女さんたちが、後宮立ち入り禁止区域の亡霊を御祓いすると用意を始めちゃいました。 大事になって李順さんが詳細を調べることになったら、私が夜着でウロウロ歩いていたと判っちゃいます! その上、官吏の方が早退されるし、熱を出した人まで居ると聞いて・・・・。 その元凶が私と判れば絶対、今度こそ、確実に、私クビになりますよね!?」
「ええーっ! そんなの駄目だよ、夕鈴っ」

蒼褪めた夕鈴を見て、陛下は驚いてしまう。 
夕鈴に罪はない。 確かに夜着姿で深夜、不用意に部屋から出てウロウロしていたことは危険な行為だと注意が必要だ。 浩大を呼んでも来なかったのだから、そこで諦めるべきだろう。 早朝探すとか、諦めるという選択肢もある。 同じことはしないよう厳重注意が必要だが、夕鈴がクビになるようなことではない。

第一、仕事が終了したなら早々に退宮しておけばいいものを、肝試しなど馬鹿げた騒ぎをした上、間違って後宮に足を踏み入れた奴らが悪いのであって、夕鈴に咎があろうはずも無い。 
そんな馬鹿騒ぎをして亡霊などと戯言を言っている暇があるなら、暇が無いほどに仕事をくれてやろう。 おまけに噂に震えて早退する者や、見間違えに怯えて熱を出す者、噂に踊らされる官吏らに頭痛がする。 素直に僕へ謝罪する夕鈴の方がどれだけ男前か。 

それより気になるのは、肝試しに参加し後宮立ち入り禁止区域に入り込んだ幾人かが、夕鈴の夜着姿を目にしたということ。 湯上りの肌に纏う白い夜着姿を。 
夏用の夜着は薄く、腰紐により姿態の細さが際立って見える。  
亡霊の正体が妃とは未だ知られてはいないようだが、目にしたのは確かな事実。 
何と見間違えようと、見たという事実は変わらない。 

夜着姿の夕鈴を実際に見た文官は幽霊だか亡霊騒ぎのショックで熱が出たという。 その上臆病者の烙印を押されては出仕し難いだろう。 いや厚顔無恥な輩が多い貴族子息だ。 熱が下がれば亡霊話しを肴に、普通に出仕するかも知れない。 



さて、今回の騒動に係わった輩一同、どうしてくれよう。







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長編 | 00:25:49 | トラックバック(0) | コメント(10)
コメント
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2013-07-30 火 00:39:11 | | [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。早くてビックリです。うれしー!噂だけなら放置だった陛下ですが、夕鈴が絡むとさて、如何しましょうか(ニヤリ) 夕鈴の回想という説明で占めちゃいましたが、ようやく動き出せるとニヨニヨしてます、私。お付き合いお願い致します。
2013-07-30 火 00:43:36 | URL | あお [編集]
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2013-07-30 火 11:41:39 | | [編集]
こちらでのコメントは初めまして!
いつも楽しく読ませてもらってます(^O^)/

今回、意外と陛下が大人しいですね。
不穏です。

そして最終的には、夜着姿でふらついた夕鈴にもとばっちりが行きそうな予感がします(笑)
2013-07-30 火 17:34:09 | URL | さき [編集]
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2013-07-30 火 20:43:26 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。すいません、中途半端に長くなりそう。 時期的に書きたいなと思ったら、妄想が漏れ出しちゃって・・・・。水月さんの胃に穴が開くまで頑張ります。
2013-07-30 火 22:11:48 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
さき様、初コメントをありがとう御座います。 意外と大人しい陛下。 誹謗中傷は当たり前の場所にいる人なので、噂は放置です。でも夕鈴が係わってくると、変貌します。どう変貌させようか考えるのが楽しいです。たあ文章への変換が下手くそなので四苦八苦してます。underの修正もしてるので、時間がなかなか。引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。
2013-07-30 火 22:14:27 | URL | あお [編集]
Re: 頭の中は…
ダブルS様、コメントをありがとう御座います。金銭絡むと李順が一番怖い。直属の上司ですしね。怖さは亡霊以上だろうと想像できます。このあと狼の制裁は官吏だけで済むでしょうか(他人事)妄想するのが楽しいです。暑くなきゃ、もっといいのに。痩せないのにばてそうです。とほほ。
2013-07-30 火 22:18:59 | URL | あお [編集]
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2013-07-31 水 22:08:43 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。普通で言うとパジャマでウロウロ。ネグリジェかな。時代的に女性がその姿でウロウロは駄目でしょうね。後宮ですし。(笑) 次はまたまた方淵登場。お付き合い宜しくお願い致します。
2013-07-31 水 22:12:35 | URL | あお [編集]
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