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涼夏を求め  7
洗濯機修理が無事終了。 基盤を取り替える羽目になりました。 「忙しいですか」と尋ねると 「クーラー取り付けや古い型の修理に忙しく、ここ数年は人手が足りない状況です」 と困った顔で笑ってました。 技術職って大変だね、暑い中なのに飛び回っているようです。


では、どうぞ














その日の内に肝試しの再開は決定事項だと全員に伝えられた。 体調不良を訴え辞退したいと申し出る官吏もいたが、大臣から強く命ぜられ基本は全員が参加となる予定だ。 

「もう、何があろうと絶対に参加しないぞ」
「・・・・方淵殿。 しかし基本、全員参加だと大臣が言っている。 聞いただろうが禁軍将軍から文官は意気地がないと失笑されたらしい。 それで大臣が」
「そんなことは一切政務に関係ないだろう! 失笑されたのが恥と思うなら、大臣自身が一人で肝試しをされたらいいだろうが。 私は参加しないぞ!」

吼えるように言い放ち書簡を丸めながら睨み付ける方淵に対し、肩を竦めて悲しげな表情を見せる水月は、ふと政務室のいつもの場所に腰掛ける妃に視線を移す。 
普段と変わりないようだが、注意してみると肩を落とし顔色が悪いようにも見えた。

「お妃様も噂を知り、怯えているようだね」
「あのお妃が? ・・・・・それなら後宮から出ずに閉じ篭っていれば良いものを」
「あ、陛下が御傍に行って御慰みされているようだ」
「・・・・いちいち言わずともいい。 仕事に集中しろ」
「こちらに来られるぞ、方淵殿」
「何?」

方淵が顔を上げると、妃を伴った陛下が手にしていた書簡を差し出し二人に話し掛けて来た。

「何やら楽しげな話が回っているようだが、政務に支障がないようにしてくれ」
「陛下。 出来ましたら楽しげと仰らず、厳しい態度を示して頂きたく存じます」

相手が誰でも、それが陛下でも態度が変わらない言に、夕鈴は流石方淵殿だと目を瞠る。 
その彼が噂に翻弄され浮ついている官吏らに苛立ちを覚えるのも無理らしからぬ話で、その原因の一端を担う自分を鑑みると、項垂れるしかない。

「猛暑続きの折だ、多少の骨休めは問題ないだろう。 官吏らの交流にもなるなら私が何か口を出すべきではないと思うのだが。 政務自体が滞りなく進むなら、な」

最後の台詞は周囲に聞かせるような低い狼陛下そのものの声色で、官吏ら一同、手足の動きが早まったのは言うまでもない。 余計に身を竦める夕鈴をそっと引き寄せる陛下の手は優しいが、周囲に向ける視線は冷酷な狼陛下そのものだ。

方淵は陛下が噂に関して何も口出す気はないと、肝試しも容認していると知り愕然とした。 
陛下が知っているということは参加せざるを得ないと知る。 参加しない者は 『臆病者』 であり 『怖がり』 であると知られる訳だ。 それは方淵にとっては屈辱的であり、陛下のために日々従事している補佐官がそんな誹りを受けるのは耐えられない。
二度あることは三度ある。 
悔しいが此処で逃げ出す訳にはいかないと、三度目の参加を覚悟するしかない。

ぐっと唇を噛み、拱手した方淵は踵を返して政務のために場を離れて行った。 水月もふわりと笑みを零して同じように踵を返し、場に残ったのは陛下と妃だけとなる。

「・・・・聞こえきた肝試しの再開ですが、陛下はそれをお許しになられるのですか? 李順さんが知ったら怒るのではないですか? ・・・・だって噂の原因は」

団扇で口元を隠し小声で問い掛けると、笑みを浮かべた陛下が妃を抱き上げた。 
急な浮遊感に夕鈴が驚いて肩へと手を回すと、陛下は笑みを深めて移動を始める。 
しがみ付きながら耳元で大丈夫ですかと再度尋ねるが、庭園へと足を進めた陛下は何も答えてはくれない。 侍女が急ぎ追い掛け、四阿にお茶の用意をしている間、夕鈴は何も聞けずに陛下の隣に腰掛け戸惑いながら見上げるしか出来ずにいた。 
頬を膨らませてしまった妃を見下ろした陛下が、急に顔を近付け小声で囁きを落とす。

「明日の晩は天気が良いらしい。 月明かりの下、妃を愛でるのが楽しみだ」

お茶の用意を済ませた侍女が離れたのを確認して、夕鈴も小声で囁き返した。

「陛下・・・・、明日の晩って肝試しをするらしいですよ。 さっきの方淵殿との話では止める気がないようですが、李順さんも御承知ですか? そんな時に夜の散歩なんてして大丈夫ですか? 私、もうこれ以上御迷惑となりそうな事はしたくないです」
「そんなことより夕鈴、昨日の夜は良く眠れた?」

明日のことが心配だと繰り返しているのに、陛下から問われたのは昨夜の睡眠。 何故そんなことをと訊くのだと訝しみながら、昨夜を思い出し、そして頷いた。

「良く・・・・眠れました」
「眠れたならいい。 ああ、李順なら官吏らの動向を把握しているから安心していいよ。 夜の散歩も仲良し夫婦なら当たり前だろう? 噂に怯える妻を労わる夫ということで」
「ま、まあ・・・そうでしょうけど。 李順さんは兎も角、噂の方は・・・・」

茶杯を持ち、にっこり笑う陛下はそれ以上話す気はないようで、夕鈴の髪を攫うと笑みを浮かべて唇を近付けた。 ぎょっとして目を瞠ると、そこには妖艶な冷笑を浮かべる狼陛下が居て、それ以上尋ねることが出来なくなる。 髪から離れて頬を撫でる陛下の手の動きは、演技過剰ではないかと思えるほど艶めいていて、夕鈴はこのままでは心臓が壊れてしまうと心配になった。  

狼陛下の演技は怖いだけじゃない。 時に妖艶な笑みを浮かべて迫るように妃に近付く。
何処でこんな演技を覚えたのだろうと考えると、そんな立場でもないのに文句を言いたくなる自分が浮上しそうで、ぐっと堪える。 女ったらしの演技が上手なのは承知しているが、一体どこで学んだろうと問い詰めたくなる気持ちを押し殺す。 

「兎に角、李順さんに文句を言われないよう、陛下は政務に御励み下さいませ!」

ぷいっと膨れたままの真っ赤な顔を背けると、苦笑が聞こえて来た。 余裕がある陛下に腹立ちが増すが、近くには侍女の姿。 悔しいが仲違いしていると思われても困る。 きつい言い方になってしまったと、そろりと顔を上げると苦笑したままの陛下がいて、やはり悔しいと夕鈴は眉根を寄せた。

「手厳しい言葉だが私を案じているのが伝わってくる。 愛しい妃のためにも政務に励むとするか。 私の癒しとして政務室にいて欲しいと願うが、それは叶えてくれるだろうか」
「もっ、もちろんで御座いますわ。 陛下がそれを良しと仰るのなら」

今日一番の強烈な笑みが夕鈴を襲い、深紅に染まった顔を団扇で隠すのが精一杯の妃を陛下が抱き上げ、四阿から離れて行く。 侍女は後宮での亡霊騒ぎで、より親密になった夫婦の様子に祈祷師も御札も、陛下がお妃様の傍にいらっしゃるなら必要ないかしらと考え始めた。

余計な経費流出が免れたことを、この時の夕鈴は未だ知らない。

腕の中で身体を強張らせる夕鈴をそっと見下ろし、陛下は目を細めた。
昨夜はどうやら良く眠れたようだ。 亡霊騒ぎで、本物が出たらどうしようと怖がり出した兎に手が出そうになった自分を、よくぞ抑えることが出来たと褒め称える。 
他の話に流れを変え、さらに浩大の近くで汗を拭おうとする無防備な夕鈴を政務室に閉じ込めることが出来た。 噂により休み続ける情けない官吏を叱責しながら噂を払拭させ、更に無防備な姿で回廊をうろついた兎にお仕置きする案を考え付いたことに、陛下は大満足の笑みを零す。 

陛下の案に従い、今夜だけは隠密が通常業務から離れ、肝試しに駆り立てられることになった。 面倒だと言いながら、怪しい光を帯びた瞳で哂っていた浩大を思い出す。 くれぐれもやり過ぎないよう注意だけはしておいたが、どれだけの官吏が正気でいられることか。

「まだお仕事いっぱいですか?」
「うん、今夜は部屋に行けないと思う。 その分、明日の夜はゆっくり庭園で散歩しようね」

腕の中でコクリと頷く夕鈴は目尻を紅く染め、嬉しそうな顔を僕に見せてくれる。 心の中で少し可哀想かなと思いながら、お仕置きのメニューを考え出す自分を止めることが出来ない。








翌日、いつものように政務が行われている部屋の隅で夕鈴は妃演技を続けていた。
団扇を顔に宛がい、皆が忙しそうに動き回るのを大人しく見ていたが、頭の中は今夜行われる肝試しのことでいっぱいだ。 
浩大から昨夜聞いた話だと、元々の予定は刑房周辺を回って来るだけだったようで、後宮立ち入り禁止区域に入ったのは暗がりで順路を間違ったためだと言う。 王宮に従事する人間が、何処を如何間違えたら後宮立ち入り禁止区域に入ってしまうのかと疑問が擡げるが、入り込んでしまったものは仕方がない。 その上、怯える官吏らが夜着姿の自分を見て亡霊だと勘違いしたのだ。 夜間ウロウロしている妃を。

今回は浩大や桐を含めた隠密たちが肝試し参加者に紛れるというから、順路を間違うことはないだろう。 闇に乗じて仕事をすることが多い隠密は王宮を網羅している上、闇が怖いと怯える者が居ない。 闇が怖いんじゃ仕事にならないよと浩大が笑うから、安心して陛下と夜の散策が出来るはずだ。

だけど何故、肝試しを再開するのか。
噂は放置すると李順さんは言っていたはずなのに、同日の夜に散策を言い出す陛下にも疑問が浮上する。 何か厭な予感がすると言うと、桐さんから鼻で笑われた。 浩大も桐さんもずいぶん楽しそうに見え、それが厭な予感を助長させている。

「お妃ちゃんは何も気にせずに、陛下とゆっくり夜の散歩を楽しめばいいじゃん」
「官吏らの肝試しは、度胸試しと同義だ。 王宮に従事する者の性根をしっかと見せて貰うだけ。 お前は気にせずに散歩を楽しめばいい」
「そうそう、こっちはこっちで楽しむからっ!」

そう話す昨夜の二人の笑みに暗いものを感じ、引き攣った笑みしか浮かべなかったのを思い出す。 深い溜め息を団扇に隠しながら吐いていると、人影が近付いたのが見えた。
 
顔を上げると柳方淵がいつものように眉間に皺を寄せながら見下ろしている。 
この人は態度が変わらない。 いつまで経っても、狼陛下唯一の妃に対して柔和な態度を見せ、謙ろうなど考えもしないのだろう。 でも以前と比べると、政務室にいる時は結構話し掛けられているようにも思える。 挨拶はなく、いきなり辛辣な言葉を投げ掛けられるけど、裏表がない分すとんと入る。 

「こ、こんにちは、柳方淵殿・・・・」
「・・・・噂に関して尋ねたいことがあるのだが」

ああ、今日も直球勝負なんですね・・・・って感心している場合じゃない。 
彼は今、何と言った?
ウワサに関して? ウワサと言うと後宮に白い衣装の亡霊が出るって、アレですよね?
目を瞠ったまま固まっていると、硬い表情の方淵が不躾に見下ろして来た。

「後宮立ち入り禁止区域で白い衣装の亡霊を見たとの噂について、貴女はどう思う?」
「は、い? ど、どう思うって、思うって・・・・・ こ、怖いです」

何で方淵がそんなことを聞くの? 貴方はそんな噂信じないタイプでしょ? 
絶対に李順さん寄りのはずだ。 馬鹿馬鹿しいと一笑して背を向けちゃう人でしょう。 
もしかして本当は怖いとか? お化けとか心霊ものが実は駄目とか? 
現実主義なだけに、証明出来ないモノは受け付けないと震えてしまうんですか?
 
想像出来ない方淵の姿を無理やり想像しようとして、頭がパンクしそうになる。
思わず喰い入るように方淵を凝視すると、眇めた視線で咳払いされた。

「何を考えているのか判らんが、私は亡霊など不確かなモノは信じていない。 ゆえに今回の肝試しも馬鹿らしいことだと考えている」
「・・・・はぁ。 で、私に何を尋ねたいと」
「あの晩、後宮の回廊に立っていなかったかと尋ねたい。 官吏が見たのは貴方の姿ではなかったのかと。 場所は後宮立ち入り禁止区域のはずだが・・・・覚えはあるか?」

直球過ぎます、方淵殿っ! 裏も表もなしに、一応陛下の妃にそんなことを聞くのは、貴方くらいですよね! ちょっと尊敬しそうになるのが怖いです。

「こ、後宮立ち入り禁止区域は昼間に老師から御教授頂くために通っていますが、夜は無人ですよ。 怖くて正直・・・・行きたくありませんし、用事もありません」
「怖くて・・・・という言葉が似合わないな。 しかし、そうか」
「基本、立ち入り禁止区域ですし夜間は真っ暗ですから。 それより官吏の方が後宮に立ち入り、何かを見たというのは本当ですか? それって陛下も知っています?」

怖いのが似合わないは置いておいて、後宮立ち入り禁止区域に文官が来たのは間違いない。 そして見られたのだ、夜着姿でウロウロしていた妃を! いや、妃とは未だ知られてはいないようだが、方淵が尋ねるということは何か気付いているのかも知れない。 
ざっと蒼褪めながら、夕鈴は噂についてもう少し教えて欲しいと方淵を見上げた。 

しかし夕鈴の表情に驚いた方淵が咳払いをしながら視線を逸らし、モゴモゴと口篭る。

「あー・・・、足を踏み入れたのは立ち入り禁止区域だけだ。 それも端の庭園で腰を抜かしていたから、直ぐに引き摺り出した。 二度はないから怯えることはない。 そ、それに貴女の部屋には陛下が日参されているのだろう! 心配なぞ要らぬことだろうが!」

急に何を言い出すのだと方淵をじっと見上げると、ひどく怒っているように見えた。 言われた内容を頭の中で噛み砕いてみると、どうやら後宮に忍び込んだ男に怯えるなと言っているようで、更に陛下が一緒にいるのだから心配は無用だろうと聞こえる。  
怒った顔に見えるのに何だか気遣いされているようでもあり妙に落ち着かない気分となった夕鈴は、染まりそうな頬を団扇で隠して視線を逸らした。









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長編 | 20:05:35 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2013-08-03 土 21:24:44 | | [編集]
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2013-08-04 日 00:01:24 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。『お仕置き』の文字を書くと、拍手が多くなるのはどうしてでしょうか(爆) 超嬉しいんですけどーっ!!!と言っても、私の書くものですから、そんなに期待されても「あれ、え? こんなん?」ってがっかりするかもです。それでも宜しければお待ち頂けると嬉しいです。
2013-08-04 日 00:27:02 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。洗濯機、だって一年と一ヶ月使って修理ですよ。保障期間過ぎて一ヶ月です。ショックですよ~。一万超えたし。ううう。その鬱憤を「お仕置き」にして夕鈴をイジメテやる~!(笑) まあ、大したものではないですが、楽しんで頂けるよう頑張りまっす!
2013-08-04 日 00:38:53 | URL | あお [編集]
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2013-08-04 日 02:45:03 | | [編集]
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2013-08-04 日 11:20:04 | | [編集]
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2013-08-04 日 11:55:42 | | [編集]
Re: タイトルなし
らぁ様、コメントをありがとう御座います。お仕置き、狼で翻弄するアレですが、それで喜んで頂けますか?ドキドキ。 頬を染めた夕鈴は陛下に見られていたんでしょうか。ドキドキ。って、自分がドキドキして大丈夫か、私。
2013-08-04 日 19:07:59 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
さき様、コメントをありがとう御座います。想像つきますか。つきますよね(笑)陛下の考えは碌なことじゃないですが、本誌の陛下は今絶好調にいちゃいちゃですよね。見ててニヤニヤしちゃいます。もっと襲え~っ!て叫びたくなりますもの。そんな陛下に追い付けるか! 方淵はあとでとばっちりを受けないことを願います。
2013-08-04 日 19:10:08 | URL | あお [編集]
Re: あ~…
makimacura様、コメントをありがとう御座います。お仕置きタイムになりますが、余りご期待されると逃げ出したくなります(爆)方淵メインなのを忘れてしまいそうになる私ですが、もう少しお付き合い下さいませ。
2013-08-04 日 19:18:13 | URL | あお [編集]
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