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涼夏を求め  9
サマーカットした愛犬が可愛くて可愛くて、もう病みつきです。なんでこんなに可愛いの~っと悶えています。毎日写真取って、家族に無理やり「可愛いねー!」と褒めるよう言わせ、撫で回して吼えられてます。馬鹿丸出しの親です。


では、どうぞ














一方、陛下と共に夜の庭園を散策する夕鈴は誘われるまま、いつもと違った雰囲気の亭の中へと入って行く。 亭の手摺りに小皿が数個置かれており、それぞれに小さな灯りが燈り、幻想的な光景と虫の音に夕鈴の目と耳は奪われた。

「すごく・・・・素敵です。 虫の音も大きく聞こえて来ましたね」
「うん。 椅子に座ってしばらく楽しもうか」

小犬になったり狼になったりする陛下に少々疲れたが亭近くの椅子に腰掛け、足元の草叢から聞こえて来る虫の音に耳を澄ませて目を閉じる。 涼しげな風が頬を撫でる中、虫の音がいつもと違って聞こえて来るのは隣に陛下がいるからだと、夕鈴は頬を染めた。

「この音は何ていう虫でしょうかね」
「天蛉だろう。思ったよりも早くから啼いているな。天蛉は捕まえるのがとても難しい虫なんだ。音色がいいから捕まえようとして苦労した覚えがある。あ、今聞こえて来たのは蟋蟀だよ」

さすが物知りな陛下だと顔を上げると、少年のような笑顔の小犬がいて嬉しくなる。 
きっと捕まえようとしたのは陛下の母上様に聞かせてあげようとしたのだろうと思い、夕鈴は黙って頷いた。 夏の夜に良く聞かれる虫の音を届けてあげようとする優しい少年が脳裏に浮かび、目元が潤みそうなった夕鈴は大きく聞こえて来た音色を尋ねる。

「あれはクサヒバリかな。 たぶんだけどね」
「綺麗な音色ですね。 虫は好きじゃないですけど、鳴く虫はいいですね」
「ああ、夕鈴は害虫をやっつけることが出来るものね。 ・・・・あれには驚いたな」

陛下が言うのは、以前湯殿で黒い害虫を湯上り布を巻き付けただけの姿で追い掛けた時のことだろうと、途端に真っ赤になる。 侍女が怯える様子に陛下が慌てて来てくれたことを思い出し、夕鈴は膝上で手を握り締めて俯いた。 小さく笑う声が聞こえ、ぷいっと顔を逸らすと頭を撫でられ脱力してしまう。

「夕鈴にはいつでも翻弄される。 でもそれが楽しいんだ」

楽しそうな声に急に胸が痛くなり、潤んでいた瞳にじわりと涙が滲んでくる。 
楽しいと言ってくれる陛下だけど、それは借金返済が終わるまでの束の間の幻で、二度と同じような夏を迎えることはないのだと思った瞬間、抑えきれない感情が溢れてしまった。 
自分の感情を今持ち出してどうするんだと、どうやって誤魔化そうかと、取り合えず勢いよく立ち上がった時、遠くから何か悲鳴のような声が風に乗って聞こえた気がした。 

虫の音が止み、それが一層恐怖を醸し出すようで夕鈴は動けなくなる。

「な・・・なにか悲鳴が聞こえて来たのですが・・・・」
「たぶん肝試しだろう。 ・・・・ここまで聞こえて来るとは情けないことだ」

肝試しとはいえ参加しているのは文官で全て男性だ。 ここまで聞こえて来る悲鳴に、一体何があったのだろうかと身が竦んでしまう。 陛下の声色も険しいものへ変わり、舌打ちと共に苛立ちが伝わって来て、思わず振り返った夕鈴は草で足を滑らせた。 直ぐに伸びてきた陛下の腕に納まった夕鈴は、激しく波打つ動悸に息を詰めて袖を掴んだ。

「酷く驚いたみたいだね。 涙目になって可哀想に」
「下町の祭りで無理やり入らされた、お、お化け屋敷を思い出して・・・・。 この声は皆さんが参加すると言っていた、あの肝試しからですか? なんだかすごく怖そうですね」

涙目はどうにか誤魔化すことは出来たが、男が悲鳴を上げるなんて一体どんな肝試しなんだろうと興味すら湧いて来る。 しばらくして虫の音が再び鳴り出したが、風に乗って聞こえて来る男達の悲鳴に意識が向いてしまう。 もちろん肝試しを見たいとか参加したいなど考えてもいない。 だけど王宮に従事する官吏が、そこまで怯えるなんて、何があるのかと興味が湧くのは仕方がないと思った。

「そういえば下町のお化け屋敷では男も騒いでいたね」
「陛下はそういうの怖くないんですか?」
「・・・・作り物や想像より、現実の恐怖を知っているからね」
「・・・・・・」

小犬の表情は変わらないが目が笑っていないと感じ、夕鈴はそれ以上訊くことを止めた。 
後宮から出され、王都から離れ、辺境で育つことになった陛下が知る怖いこと。 
確か北の辺境で育ったのだと言っていた。 

『僕だけまだ 置いていかれてるのかもしれないなぁ・・・』

バイトが立ち入れないこと、立ち入ってはいけないこと。 境界線の向こうの話。
あの時、そう呟くように言葉を零した陛下の遠くを眺める視線に、なんて遠い存在なのだろうと哀しくなったのを思い出す。 何か陛下のために出来ないかと、役に立てないかと日々努めているけど、実際の自分は陛下の目にどう映っているのだろうか。 

何か楽しい話で陛下を和ませようと思い口を開くが、そこで夕鈴は固まってしまった。 
急に痛いほど締め付けてくる感情に戸惑ってしまう。 帔帛を胸元で握り締め、唾を飲み込むが頭の中は真っ白になり、どうしようと視線を彷徨わせる。 
本当の癒しを与えることが出来る存在が近い未来、こんな風に陛下と庭園を散策する想像に指先までが痛いほどに痺れ出す。 瞬きを繰り返して顔を上げると、陛下の肩越しに流れる雲が月から離れて行く様がぼんやりと見えた。

「・・・・雲が・・・・結構早く流れていますね」
「ああ、月がとてもよく綺麗に見える場所があるよ。 少し歩くけど大丈夫?」
「はい。 大丈夫です」

立ち上がる陛下から手を差し伸べられ、夕鈴は笑みを浮かべて摑まった。 
今だけのこの熱をしっかり覚えておこうと、摑まった手を強く握り返す。






*****






「方淵殿、やっと順番が回って来たようだけど、誰一人戻らないねぇ」
「・・・・途中で面倒になり、それぞれの邸に帰ったと聞かされた方がマシだな」
「ああ、それも有りかもね。 それなら私もそうさせて・・・・」
「陛下が御存知なのだぞ! 途中退場など出来るかっ!!」

苛立った表情で足を運ぶ方淵のあとを、水月は大きな溜め息を零して着いて行く。 出発地点に揃った班の中、ふと表情を落とした水月が方淵の袖を引き、小声で忠告をした。

「どうやら各班に陛下直属の隠密がいらしたようだね」
「もしや叫び声の原因はそれか? ・・・・面白い。 対峙してやる」

己の政務を滞りなく済ませることに集中する方淵は、官吏それぞれの部署や階級にそれほど興味がない。 基本的な上下関係の把握は必要のため大半の名前は知っているが、仕事に必要ないと判ればばっさり切ってしまう。 そのため見知らぬ官吏が混ざっていようと気にすることがなかった。 ただ立ち振る舞いでそれと判る者が紛れているのを知り、眉間に皺を寄せて凝視していたところ、また袖を引かれる。

「余りじろじろ見るのはどうかと思いますがね」
「み、見てはいないっ!」
「声が大きいですよ、方淵殿」
「・・・ちっ!」

隠密と思われる者が燭台を持つのを水月の影から確認した方淵は、静かに腰に手を伸ばす。 帯刀している獲物を確認すると、絶対にこの場所に戻るぞと意欲を高めた。

出発して暫くの間は何の問題もなかった。 しかし刑房近くまで来ると燭台を持つ者の足が速まり、皆が追い掛けるように足早となる。 そして左右から物音が聞こえ出し、足が竦んだ文官が叫び声を上げる。 舌打ちをした方淵が駆け足で燭台を持つ者に追い付き、肩を掴んで振り向かせようとした時、背後から硬い物がぶつかる音が聞こえた。 伸ばした手をそのままに振り向くと、水月が刀の鞘で黒ずくめの衣装の者と対峙しているのがわかり、周囲を確認すると無様に地面に倒れている文官たちが見て取れる。

「・・・この二人は気骨があるな」

ぼそりと零された内容にやはりと思ったが、このまま文官らの失態を放置するのも腹が立つと隠密らしき人物に声を掛けた。

「何がしたいんだ。 これは陛下からの勅命か!?」
「おい、この二人に関しては・・・・・」
「・・・・・判った」

返答もなく突然灯りが消されると同時に走り出す音が聞こえてきて、方淵は一瞬躊躇する。 彼らを追い掛けるべきか、文官らを助け起すべきか考え、そして奥歯を噛締めて場に留まることを決めた。 気付けば水月と対峙していた者も姿を消し、周囲から音が消えていることに気付く。

「・・・・まずは倒れている者を起そうか。 方淵殿に怪我はないだろう?」
「ある訳がない。 貴様はどうだ、抜刀まではしていないようだが」

闇の中、水月の小さく笑う声が聞こえ、方淵は面白くないと目を凝らして倒れている文官らを確認することにした。 燭台を持って行かれたため亭に行っても灯りを燈すことが出来ず、出発地点に戻るしかないなと考えた時、周囲を霧状の何かが包み込むように漂っているのに気付く。 もしかして何か薬物でも混ざっているのかと袖で口元を隠すが、水月からの声に愕然とする。

「方淵殿、文官たちが消えています・・・・。 流石ですね」
「・・・ちっ! 何がしたいのか判らんっ!」

意味が判らないまま憮然とするが、このままこの場にいても仕方がない。 
一応刑房を一回りすべきか悩み、月明かりもあるしと進むことにした。 
目が慣れると問題なく順路を辿ることが出来、問題の亭へ入り、そこに置かれた蝋燭を証拠として持ち帰ることにしようと話がまとまった。
腑に落ちないが、配された隠密が陛下直属というなら文句を言うことが出来ない。
亭から出て不承ながら二人並んで出発地点に向かうが、周囲から漂う気配に気が抜けないでいた。 厭な気分で歩を進めるうち、普段足を踏み入れない場所ということも要因か、いつの間にか見慣れない建物の前に来ていることに驚きを隠せない。

「な、何で出発地点に戻れないんだっ!」
「上手く誘導されたのかな。 皆はどうなったのか心配だね。 まあ怪我などはないと思うけど、大臣がまた切れそうで困りものだ。 ・・・・明日は」
「休むなよ! 絶対に出仕しろ!」
「・・・・やれやれ。 兎に角、進むしかないようだ」

水月の面倒そうな溜め息を耳に、方淵は苛立ちながら足を進めた。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:23:00 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-08-06 火 11:33:17 | | [編集]
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2013-08-06 火 13:49:51 | | [編集]
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2013-08-07 水 14:36:37 | | [編集]
Re: タイトルなし
さき様、コメントをありがとう御座います。方淵と水月かっこいいって言ってくれてありがとうです! 誘導された場所は、ええ想像通りでございます。(笑) 引き続きお付き合いをお願い致します。
2013-08-07 水 23:35:22 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。ちょいとunderに時間が掛かって、こちらが進みませんでした。(笑) 隠密さんたちの楽しい脅かし。やっぱり脅かされるより、脅かした方が楽しいですよね。あ、私も王宮を彷徨ってみたいです!
2013-08-07 水 23:37:06 | URL | あお [編集]
Re: はじめまして
名無しの読み手様、初コメントをありがとう御座います。私も娘が二次を書いている影響で、つい自分でもと、のめり込んだ人間です。過大な褒め言葉に嬉しくて部屋の中を徘徊し、小指をテーブルの足にぶつけました。裂けたのではないかと二度見するほど凄くスゴクすごく痛いです。(落涙) これからもお時間ある時、遊びに来て下さると嬉しいです。
2013-08-07 水 23:40:51 | URL | あお [編集]
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