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心騒  1
バイト夕鈴の話です。途中でどう転ぶか自分でも判っていないという見切り発車の恐ろしい話ですが、お付き合い頂けたら本当に嬉しいです。 まだまだ暑い日が続いておりますので、どうぞ皆様御自愛下さいませ。


では、どうぞ














近々行われる宴に、小さいけど楽団が来るから夕鈴も一緒に楽しもう。


そう陛下に言われて、顔が綻んだのは昨日のこと。 部屋に訪れた陛下が御茶を飲みながら、いつものように夕鈴の今日あったことを聞いたあと、誘ってくれた。 
 
掃除の時にそのことを老師に話すと急に曇り顔になり、以前は大きな楽団が事あるごとに後宮に呼ばれ、後宮の美しい妃たちを侍らせた歴の陛下が酒宴を賑やかに開いていたんだと愚痴のように話が始まった。 季節ごとの様々な宴はそれはそれは賑やかで、舞姫達の踊りに豪華な食事が卓いっぱいに並び、そして美しい舞姫の中から新たな妃として後宮へと入ることも珍しいことではなかったと叫んだ。 
続いて今の陛下は後宮を何だと思っているのじゃと、いつもの愚痴が零れ始め、早く後宮にたくさんの妃を!、世継ぎを! 御子を! と唾を飛ばして文句が続く。
そこからは耳を閉ざし聞かないことにして、夕鈴は老師に背を向けて掃除に集中した。

「お妃ちゃん、今日も頑張ってんねー」

聞き慣れた声に、それでも突然だから驚いて振り返る。 全く、この隠密は出入り口というものを知っているのだろうか。 いつもいろいろな場所から出入りするが、扉を使用しているのを見たのは数少ない。 まともに入り口を利用しているのは変装時の侍官姿でいる時くらいか?
一つ溜め息を吐いた後で、夕鈴は顔を上げて浩大を見た。

「浩大も知っているだろうけど今度楽団が来るって。 曲芸師も来るって言ってた」
「不定期に来る楽団だろう? お妃ちゃんは見るの初めてか?」

大きく頷くと、目を細めて何か含んだ笑みを浮かべる浩大に眉が寄ってしまう。 
その笑みに違和感を感じて首を傾げると、浩大は 「まあ、楽しんでね~」 と窓から出て何処かへと足を運び消えて行った。 残された言葉に素直に楽しめなくなった私は、もやもやした気分のまま掃除を開始したが、いくら部屋が綺麗になっても気分は晴れない。 
意味の判らない言葉を残すのはいつものことだけど、それでもあの笑みは妙に気になる。 
不定期に来る楽団に何があるというのだろうか。 その後の掃除は遅々として進まず、水桶に躓いて床を酷く濡らしてしまい余計な仕事に時間を喰ってしまった。





侍女さんから陛下のお渡りを告げられ、掃除が滞って湯浴みが遅くなった夕鈴は慌てて夜着を整えて寝所から飛び出した。

「出迎えが遅くなり申し訳御座いません、陛下」
「・・・・・我が妃の方が疲れた顔をしているな。 どうした?」
「いえ、湯浴みが遅くなり御恥ずかしい姿をお見せすることになり、申し訳ないと」
「そんなことはない。 艶やかな髪に誘われて私の方が逆上せてしまいそうだ」
「まあ・・・・・」

頬を染める妃の様子に茶の用意をする侍女たちは満足げな笑みを浮かべ、陛下の指示に従い退室して行く。 長椅子に身体を放り出して息を抜く陛下は既に小犬の笑みで、夕鈴を見上げると不思議そうに問い掛けてきた。

「本当に何かあった? 疲れた顔してるよ? 長湯しちゃった?」
「いえ、掃除に時間が掛かってしまって、急いで風呂に入ったものですから疲れただけです。 陛下の方がお疲れの様子ですよ。 すぐに甘い菓子を用意致しますね」

卓に菓子を用意しながら気になっていた楽団について尋ねてみる。 きょとんとした顔の陛下が首を傾げるから、浩大の含みのある言い方が気になったと話すと、苦笑を零された。

「ああ、地方巡業している楽団からはいろいろな報告を裏で受けることがあるんだ。 今回呼ぶ楽団も実はある調査を頼んでいる一座でね、その報告結果に狼陛下が腹を立てることがあるだろうってことだろう」
「腹を立てるって、・・・・やはり怒りたくなる報告が多いってことですか?」
「うん、怒りたくはないけどね。 楽団を呼ぶ余裕のある貴族って裏で悪いことしている輩が多いから、報告も面白いものではないのが多くて困るよ」
「今度来るのは・・・・・ 陛下管轄の隠密一座ってこと?」

そうだねと困ったように笑う陛下に、地方まで目を配さなければならない苦労を知り、やはり気が抜けない立場なのだと夕鈴は頷いた。 忙しい日々を送っている陛下が、ただ自身を癒したり楽しむための催しでないことが判り、夕鈴は楽団の訪れを単純に楽しみにしていた自分にがっかりしてしまう。 それでも楽団の音に僅かでも安らぎを感じられたら良いなと縋るように思うが、そうもいかないのだろうと項垂れる。
 
ここで本来の性分である小犬になってお茶と菓子を楽しんでも、部屋に帰れば山と積まれた政務が待っていて、その後に漸く束の間の休息を取るだけ。 連日狼陛下の演技もしなきゃならない陛下が心から癒される日が来るのはいつになるのだろうか。 

連々と考えに耽っていると、手を引かれる感触に顔を上げた。

「ゆーりん?」
「あ、すいません。 陛下って宴にも政務が絡んできて大変だなって思いまして。 夜も遅くまでお仕事ですし、政務室では狼陛下でいなきゃならないし」
「大丈夫だよ。 こうして僕を癒してくれるお嫁さんがいるから」

小犬陛下からの言葉に頬がぽっと赤くなり、そして胸が痛んだ。
いつもの柔らかな小犬の言葉なのに、自分の立場を思い知らされる。 
自分はバイト妃で臨時花嫁で、借金返済中の期間限定で王宮にいることを赦された立場だ。 
借金返済後は直ぐにでも王宮から離れるただの庶民。 順調に借金返済は出来ているし、代わりの臨時花嫁もいると李順さんが言っていた。 
後宮を離れるまでに少しでも陛下の敵が減り、そして癒される時間を用意出来たらいいけど。
バイト妃が陛下に出来ることは限られている。 それでも何か出来ないかなと夕鈴が考えに沈んでいると、ふいに頭を撫でる感触に驚き顔を上げた。 少し柳眉を寄せた陛下の顔が見え、心配げに大丈夫かと問われる。

「何だか本当に今日は疲れているようだね。 早く休んだ方がいいかな」
「そ、そうですね。 そうさせて頂きます。 陛下もお早くお休み下さいませ」

侍女も下がったことだし、仲良し夫婦の演技をする時間を短くして出来るだけ陛下が休む時間も設けた方がいいだろう。 夜遅くまで陛下に 『仕事』 をさせる訳にはいかない。 
臨時花嫁のバイト妃では、繕ったような癒ししか出来ないのだから。
本当に陛下が癒されるのは、本物の妃が来てからの話だ。
自分ではお茶や菓子や碁などで時間潰しのようなおもてなししか出来ない。
それを考えるとバイトの限界を思い知らされたように胸が痛むが、プロ妃として頑張ろうと気合を入れ直し、笑顔で陛下を見送ることにした。 不思議そうな顔で何度か振り向く陛下に元気な笑みを見せ、押し出すように見送ったあと、そうかと考え直す。

離宮に行っても仕事が追い掛けてくる陛下が真に癒されるのは、老師が言っていたように本物の妃が来てからのことになる。 そのために自分が出来るのは陛下の敵を減らすこと・・・・くらいか。 借金を返済し終えたら自分は早々に王宮から離れ、内政が安定するまでは当初の予定通りに李順さんが次々と短期間の臨時花嫁を雇い続けるのだろう。 自分のように粗忽な者はいないだろうから、陛下の小犬に気付かずにバイトを終了することになるだろう。 
こんな風に妃の部屋に訪れ、ひと時仲良し夫婦を演じる陛下。
それも仕事の一環だと、狼のあの冷たい、それでいて妖艶な笑みを浮かべてバイト妃を抱き上げたりするんだろうか。 抱き上げて四阿に行かれたりするのだろうか。
 

ふと指先が痺れたように強張っているのに気付き、それから視線を逸らした。
考えても仕方が無いことにいつまでも囚われるべきではない。 夕鈴は目を瞑って首を振った後、明日もプロ妃として頑張るぞと決意を新たに寝台に横たわった。








*****








数日後、陛下が言っていた楽団が来ることになり、夕鈴は注意事項と妃演技の確認をするため上司である李順に呼ばれていた。

「今回は陛下の希望により夕鈴殿も宴に参加することになりましたが、いいですか? 貴女は陛下の隣で何も語らず、ただ楽団を見ていればいいだけです。 くれぐれも余計なことは口にせず、何かを目にしても表情には出さないで下さいね」
「・・・・目にしてもって、何かあるんですか?」
「それは貴女に関係の無いことです。 夕鈴殿は妃らしく座っていることが仕事です」
「はいっ!」

鋭い視線に慌てて背を正す。 バイトの境界線を間違えてはいけない。 
それは何度も言われている言葉だ。 深く頭に叩き込み、夕鈴はしっかりと頷いた。

暑い時期なのでと涼しげな紗織りに豪華な刺繍が施された妃衣装を整えて貰い、夕鈴は侍女と共に宴の殿へと足を運ばせた。 宴が催される殿では大きな広間の中央で舞があるらしく、その周りを取り囲むように宴席が用意されている。 一段高い席が陛下のために用意され、その横が夕鈴が座る場所だと侍官に案内された。
しかし陛下のために用意された席に姿はなく、小首を傾げながらも腰掛けるしかない。
背後から李順が小声で 「くれぐれも妃らしく笑みを浮かべて、そして大人しく!」 と再度注意事項を告げ、陛下が来るまで顔を隠しておけと言われる。 
本来なら、陛下に声を掛けられてから妃が傍へと足を運ぶか、陛下と共に一緒に席に着くものだと思っていた夕鈴は、ぽつんっと一人で高座に座ることになり、どうしたらいいんだと狼狽しそうになる。 しかし大臣らの視線に気付き、こういう場でこそプロ妃を完璧に演じるのだと一生懸命微笑を浮かべた。

王宮庭園が見渡せる殿の扉は三方が大きく開放され、庭園に幾つも置かれた耀く篝火と楽団が奏でる雅な音が夏の夜を彩っていた。 
本当ならば庶民では目にすることが出来ない、もちろん春の宴のように下っ端妃など本来は出席することもないだろう場に陛下が誘ってくれたことが嬉しいと、その光景に目を細める。 
一座の楽団近くに水月さんが居ることに気付き、眺めていると彼が笙や鼓を担当する者へ声を掛け、何度か頷く姿が見えた。 演ずる曲目に興味があるのだろうか。 水月さんらしいと笑いそうになり、やっと夕鈴の肩から力が抜けてくる。 
落ち着いた夕鈴がもう一度周囲を見回すと、庭園奥の夜闇で黒く見える小山上に真白い月が輝いて見え、流れ聞こえて来る音と共に夢の世界のようだと柔らかく微笑むことが出来た。
 

高い笛の音が会場に響き渡り、殿が静まり返る。
 
陛下が現れたのかと緊張が奔るが、場に現れたのは鮮やかな衣装の舞姫達だった。 
陛下不在のまま舞姫達が登場したことを訝しむざわめきが起こるが、大きな楽の音に途端静まり返る。 そして宴開会の口上も無しに舞姫達が淡い色の帔帛を靡かせて楽曲に合わせて舞い踊り出す。 同時に会場に足を運んだ異なる衣装の舞姫達が大臣らに酌を始め、舞姫達の妖艶な微笑みに戸惑いながらも躍然たる場へと変わり、少しずつ皆の表情に笑みが零れ出した。 

ただ夕鈴だけは隣の高座にいるべき陛下の姿がないことが不安で困惑し続けるばかり。 陛下不在のまま始まってしまった宴会場で、下っ端妃はどんな顔をしたらいいのだと不安に強張った顔を団扇で隠すしかない。

何か調査をしている一座だと言っていたけど、もしかして良くない報告があり怒っているのかな。 何か揉めていて来られないのかな。
まさか陛下不在のまま、宴が終了なんてことにならないわよね?


夕鈴の不安や狼狽をよそに、殿には雅な楽の音が朗々と響き渡る。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:33:01 | トラックバック(0) | コメント(4)
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2013-08-24 土 07:28:57 | | [編集]
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2013-08-24 土 08:42:23 | | [編集]
Re: タイトルなし
> あおさま
ぽんちゃん様、コメントをありがとう御座います。体調はすっかり戻って元気に仕事してます。来週内科受診して、いつまでも続く頭痛を診て貰う予定っす。歳には勝てません、くぅううう! 今回の話もお付き合い頂き、感謝感激雨あられです。どうぞ、よろしくお願い致します。
2013-08-24 土 11:37:05 | URL | あお [編集]
Re: 痛いですか?
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。 痛くなる・・・・予定です(笑) 考えると久し振りに痛い?転がる石~以来かな。今回、自分が痛い思いをしたから、ちょいとウジウジと暗い展開から入ってまして、申し訳ないっす。 あ、桐ですか? 出した方がいいですか?全く考えていなかったです。(爆)うん、出せる方向で脳みそを絞ります。よろしくお付き合い頂けたら嬉しいです。
2013-08-24 土 11:39:34 | URL | あお [編集]
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