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心騒  4
今週で夏休みも終わりになりますね。文化祭が近い娘は今必死になにやら作ってて、少しずつ形になっているようです。ミシン使える人って、それだけで尊敬しちゃいます。娘でも。


では、どうぞ












寝所入り口に凭れながら浩大は口角を持ち上げた。 いつも通りの見慣れた光景に緊張に強張っていた肩から力が抜ける。 未だ何も明確になっていないというのに、二人のやり取りに抜けちゃいけない気が抜けてしまうと笑っていた。 その笑いに更に真っ赤になるお妃ちゃんが暴れるが、陛下の腕から逃げられる訳がない。

「陛下ぁ、いちゃいちゃしてるところ悪いけど、李順さんが呼んでいるよ~」
「この薬湯を夕鈴が全部飲んだらな。 恥ずかしがっているのか、それとも何時までも傍にいて欲しいという意思表示なのか、本当に可愛いことだ」
「こんな風に包まれていたら茶杯を持てませんよ。 自分で飲めますし、そもそも何の薬湯ですか!? 何があったのかも判らないし、突然狼陛下で叩き起こされて、侍医さんが来て・・・・。 説明して下さい!」

掛け布に包まれたまま、陛下の膝上に座らされたお妃ちゃんは蓑虫のように見える。 真っ赤な顔でジタバタしているお妃ちゃんは元気そのものだが、直ぐに違和感を覚えた。

「お妃ちゃん、突然叩き起こされたって、その前にオレが起したの気付かなかった?」
「・・・・気付かなかった。 目を開くと陛下がいて、何と思う間も無く侍医さんが来て」
「陛下は残り香に気付いただろう? 直ぐにお妃ちゃんは目を覚ましたのか?」

少し腕を緩めたのだろう、陛下の膝上で蓑虫だった彼女がどうにか腕を出し、掛け布を握りながら眉を顰めた。 不安げな瞳が陛下に向けられ、真っ赤だった顔色が変わっていく。

「夕鈴、寝台に横になる前に何があったか教えてくれる?」

静かに問い掛けると夕鈴の視線が床を彷徨いながら、こくんと唾を飲み込んだのが判る。 浩大を見つめた後、陛下に振り向き小さく頷いた。

「湯浴みが終わって部屋に戻って、寝ようとして侍女さんたちを下がらせたました。 いつもと変わりない・・・・・です」
「いつもと違う行動を取ったとか、何か口にしたとかないか?」
「・・・・・いえ、何も口にしていません。 いつも通りです」

少しだけ眠気が残るが、怒気を孕んだ陛下の視線を前に眠ってなどいられない。 浩大の様子もいつもと違うし、何があったのかと不安が高まる。 考え込んでしまった陛下に問い掛けることも出来なくなり、ただじっと言葉を待つしか出来ないでいると浩大が急に部屋の中を見回した。

「お妃ちゃん、寝る時は水差しと茶杯を用意しているだろう。 最近暑いから」
「え? ええ、そう・・・・ あら、茶杯がないわね。 おかしいな」

その返答に窓からあっという間に消えて行った浩大を思わず追うように立ち上がると、陛下に手を引かれた。 真摯な表情にもしやと思い、ゆっくりと陛下の横に腰掛ける。

「・・・・刺客が来たんですか? 狙われたのは私・・・・、ですか?」
「そのようだね。 君は何度揺さぶられても目を覚まさなかった。 悪いと思ったけど頬を叩いて、それで漸く目を覚ましてくれたんだ。 部屋に漂う香の匂いも気になる。 強制的に眠りに就かされたようだが・・・・・ 君は無事だ。 眠りに就いた時に嗅がされたのか?」

真面目な陛下の声に夕鈴はこくんっと唾を飲み込んだ。 何があったか覚えていないというのは不安だが、身体に異常は感じられない。 確かに頬を叩かれたのだろうが、それも言われて気付くくらいの痛みだ。 直ぐに覚醒したんだと思っていた。

刺激と声に重い瞼を開くと、至近距離で陛下の顔。 叫ぶ間も無く抱き締められ、陛下の肩越しに侍医や老師が部屋に飛び込んできて、すぐに妃演技を余儀なくされ診察が始まった。 何があったと問われても、何が何だか判らない状態で目を回すしかない。 いつもと変わらずに過ごして横になっただけだというのに、この騒動はどうしたんだとこっちが聞きたい。 ただ四肢が異様にだるく感じ、眠気が強いなと思った。 だけどそれは寝起きだからだろうとしか思えない。
心配げな皆の顔に笑みを返すと、泣きそうな顔で侍女が頷き、そして皆退室して行った。
険しい表情で立っていた陛下が私を掛け布で包むと、膝上に乗せて薬湯を飲ませようとするから困惑したまま暴れていたら、浩大登場。
本当に、何があったというのだろう。

「何かされたという記憶がないのですが、逆に何があったんですか?」

刺客が来たとしても自分は眠っていただけだ。 叩き起こされる何かがあったに違いない。 思わず陛下の袖を強く掴むと、その手を優しく外されて握り締められた。

「うん、たぶん香を嗅がされて深い眠りに就いていたようだね。 診たところ異常はないようだけど、明日は後宮から出ないようにして欲しいな」
「香、ですか。 侍女さんが気を遣って用意したものではないのですか?」
「確認したが違う。 それに茶杯がないのも気になる。 水差しなどの用意をした侍女もいないそうだ。 誰かが入ったのは間違いないようで確かめているところだ。 だから何か異常を感じたら、すぐに知らせて診て貰うようにして」

眠っている間に何があったというのだろう。 言われてみると確かに甘い香りが部屋に漂っているが、それだけで陛下が侍医を呼ぶなんて。

「外で・・・・・何かあったのですか? 誰かが襲われたとか、一座から何か危険な情報が届けられたとか。 妃が襲われるような何かがあったのでしょうか」

同じようなことを二度繰り返して問い掛けて顔を窺った時、陛下の顔が少し困ったような表情だと気付き、そこで私は聞いてはいけないことを尋ねてしまったのだと判った。 
バイトの境界線。 何も知らない、聞かない、見ない。
困った顔の陛下の唇が薄く開いたが、どうしようかと悩んでいるのが伝わってくる。

「で、でも陛下や浩大が守ってくれますものね! 安心して眠れます。 あ、でも今飲んだ薬湯は眠気覚ましですか? このまま朝まで起きてなきゃ駄目ですか?」
「ああ、薬湯は念のためのものだ。 眠気覚ましじゃないから眠れるはずだよ。 そうだね、遅い時間に無理やり起したから、このまま横になれば眠れるだろう」
「陛下はまだお仕事中でしょうか。 衣装が剣舞の時のままですね」

寝台に腰掛ける陛下の衣装は鮮やかな刺繍が施された、剣舞を披露していた座の皆と同じ衣装のままだ。 一座の人たちと仲がいいんだろうなと思った瞬間、刺すような痛みが胸を襲う。 何を莫迦なことを考えているんだろう、こんな時に。 

「ああ、忘れていた。 急いで返さなきゃな」
「陛下、側近殿が呼んでいると浩大から聞いてませんか? 熱帯夜にされる前に御戻り下さい。 お妃は見てますから衣装を返すついでに執務室に急ぎ足を運んで下さい」
「ひぃや! ・・・・・あ、びっくりした・・・・」

窓から姿を見せ、突然話し出したのは桐だった。 突然姿を見せるのは隠密として正しい有り方なのだろうか。 警護対象を驚かせるのが仕事の一環だというなら、諦めるしかないのか? 心臓がひどく跳ねるのを如何にか押さえ込んだ夕鈴が桐に振り向くと、医官姿だった。
医官姿で窓から入って来るって、それは驚かす信念を貫くにしても今は駄目だろう。

「側近殿がひどく苛立っております。 そのまま放置なされば、お妃にも後に被害が及ぶことになるでしょう。 早くお戻りになった方が宜しいのでは?」
「何か報告があるということか?」

表情を変えず瞑目した隠密に一つ嘆息を零した陛下は静かに立ち上がった。

「もう一度言うけど、夕鈴は明日部屋から出ないように」
「はい、わかりました。 陛下は急いで衣装を返して来て下さいね、汚しちゃう前に!」
「そうだね、李順に余計な仕事まで持ち込まれたら大変だ。 すぐ帰しに行くよ」

楽しそうに退室した陛下の背を見送った後、夕鈴は深く息を吐く。 何が何だか判らないけど、バイトの境界線を思うと詳細を訊く訳にはいかない。 今後協力が必要なら李順さんから説明があるだろうし、何か協力して欲しいというなら従うまでだ。

「薬湯は飲んだのだろう? あとは大人しく寝ろ」
「・・・・いや、寝ていたんだけど。 あの、桐さんはどうして薬湯を飲むことになったのか知っている? 浩大もいつもと違っていたように見えたし」

医官姿の桐さんが頭を掻きながら窓の外に視線を向ける。

「城下で指示のあった調査が終わり、その報告に来たんだが後宮で何かあったらしく至急お前の警護に就くよう言われた。 詳細はこれから聞くところだ」
「そうか、桐さんも判らないんだ・・・。 ところで何故医官姿?」
「ああ、薬湯の杯を回収しに来た。 周囲は警護しているから、もう寝ろ」

桐さんのいつもと変わらない表情では、自分に内緒にしているのか、本当に知らないのか判らない。 口止めされていたとしたら絶対に教えてはくれないだろう。 
バイトは言われた通りに大人しく寝ることにしましょうか。 もそもそと寝台に潜り込むと、桐さんが窓から出て行く気配がした。 今は医官姿なのだから出入り口を使えばいいのにと心の中で突っ込んで、そして驚くほどの眠気にすとんと闇に落ちていく。

 
闇に落ちる束の間、頭の中に小さな扉が見えた。
開けちゃいけないと泣きそうな顔で扉を押さえる自分がいて、それが何故なのか判らない。 
判らないまま、それでも開けちゃいけないと必死に扉を押さえ続ける自分に話し掛ける。 
そうだよ、開けちゃ駄目。 苦しくても、痛くても、開けたら駄目。
今の私は闇に落ちるだけで助けることが出来ないけど、開けちゃ駄目だと、頑張って押さえ続けてと強く思った。 願うしか出来ない自分が苦しいと、遠ざかる扉と自分に手を伸ばす。

・・・・・助けられない。 
きっとこのまま思いも寄らぬ方向に流されるだろうことは何故か判る。 扉を開けたら何が起こるか知っているような気がする。 鍵がない、その扉の向こうには真っ暗な怖いものがいるだろう。 だから必死に扉を押さえているんだ。


だけど、私はそれが出てくるのを止めることが・・・・・出来ない。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 20:44:44 | トラックバック(0) | コメント(4)
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2013-08-28 水 08:52:24 | | [編集]
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2013-08-28 水 20:05:48 | | [編集]
Re: タイトルなし
お名前なし様、コメントをありがとう御座います。夕鈴好きで、痛い話好き。激しく同感です。見切り発車した作品なので、悩みながら楽しみながら書かせて貰っています。格好いい陛下、出せるよう頑張ります。途中、小犬にもなりますが、お付き合い下さいませ。
2013-08-28 水 22:11:29 | URL | あお [編集]
Re: 桐さん~
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。はい、痛い方向に走っています。underの夕鈴も翻弄されてますが、こっちも次の展開に入ります。桐登場に喜んで頂けて私もうれしいです。ストレス解消になるのですが、無理は禁物で頑張ります。いつもありがとう御座います。
2013-08-28 水 22:13:21 | URL | あお [編集]
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