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心騒  8
娘が学校代表で他校に行くため早朝から弁当作り。突然、夜遅くに言われてオロオロしちゃった。7時前に最寄り駅まで娘を送り、家に帰ると可愛い犬がお口から素敵なモノを逆流させていて、まあビックリ。掃除して、洗濯して、昼寝しようとしたら怒涛のライン攻撃。せっかくの休みがこうして過ぎていく。


では、どうぞ













その一部始終を見ていた李順と浩大が眉を顰めて、意識を失った妃を凝視した。

「陛下・・・・、これは暗示により動いているということですか」
「そのようだ。 きっかけは『我が妃』か。 しかし政務室に入ってから何度も口にした言葉だ。 他にも暗示が動く言葉があるのかも知れない」
「引き続き検証が必要ということですか? それでしたら先ほど言いましたように、夕鈴殿は後宮だけに居て貰う方が安全でしょう。 政務云々は言い訳ですからね」 

首を横に振る李順に対し、陛下は険しい表情を浮かべると眠る夕鈴を見下ろし抱き上げた。 何も言わず書庫から出ると、執務室へと足早に向かい長椅子へ夕鈴を寝かせる。 そして追い掛けて来た李順に振り向くと冷笑を浮かべて口角を持上げた。

「暗示が解ける術は未だ見つかっていない。 きっかけもあの言葉だけとは限らない。 自分の命より他の者を傷付ける暗示でなくて良かったと言う夕鈴を私が捨て置くはずがなかろう。 鼠を操っていた者を早々に引きずり出せ。 まずはそれからだ」
「夕鈴殿が政務室で他者に何かしないという保障はまだ御座いません!」
「だから確かめるのだ。 浩大、政務室では妃付き侍官として動け。 桐を含めた隠密に捜索を続行し結果を出すよう伝えろ! ・・・・狼は気が短いと伝えるのを忘れるな」

冷酷な笑みを浮かべて指示を出す陛下に、李順も唇を噛み口を閉ざした。 浩大は薄く笑みを浮かべると無言で踵を返し場を離れて行く。 卓上の書類を眺めた後、長椅子で眠る夕鈴を見つめる陛下は静かに腰を下ろし筆を持ち上げた。






目を開けても真っ暗だった。 いつの間に寝てしまったのだろうと身体を動かす。 
何故か目を開けても纏わり付くような闇は消えない。 明かりは何処にあるのだろうと手を動かし、その時重苦しい闇が気持ち悪いと感じた。 纏わり付くように感じるのは何故だろう。 
纏わり付くような闇に生理的嫌悪を感じる。 いくら見回しても闇ばかりで、夕鈴は一度目を瞑ってから開いた。 変わらない現状にこれは夢なのかと首を傾げる。 
手を伸ばすが何も触れない。 いや、感触がない。 ただ纏わり付くような闇の感触に包まれ、鼓動が大きく跳ねた。 立ち上がって歩き出すが、何処に向かえばいいのか判らない。
それでも進まなければ夢はこのままのような気がして、足を踏み出した。

夢の中だろうに息が切れる。 どのくらい歩いたのか、ふとぼんやりした明かりのようなものが目に留まる。 近付くと小さな扉のようだ。 闇の中だというのに、仄かに白い扉だと判る。 
鍵穴はあるのに取っ手がないことに気付き、手を伸ばして押してみると扉は揺れるように動いた。 鍵は元から掛かってないのかと扉に掛けた手に力を入れようとした時。

『開けちゃ駄目!』

その声に振り向くと蒼褪めた自分が手を伸ばして、私を掴もうとしていた。
自分がいると、自分が私に手を伸ばしていると判り、ゆっくり手を伸ばす。 掴もうと伸ばされた手に、もう少しで届くと思えた。 なのに身体が後ろへと引き寄せられる。 大きく口を開けた私が一層蒼褪め、泣きそうな顔で手を伸ばす。 だけどその手は届かないと知っている。
開いてしまった扉から伸びて来た深い闇に背後から囚われたから。 
何故かそう確信しながら、悲痛な表情を浮かべる自分に謝った。

開けちゃ駄目って、苦しくても痛くても開けたら駄目だって知っていたのに、ごめんね。
だけど、頑張るから。 苦しくても痛くても頑張るから。 こんな闇に負けないから。
だって・・・・・・・。








「・・・・っい」
「夕鈴起きた? すごい汗だね。 窓を開けていても暑いよね」

身体中が重い。 更に重い瞼を開くと覗き込んでくる影に気付く。 幾度か瞬き、覆い被さる人物が陛下と判ると何故か泣きたくなった。 暑くて、余りにも暑くて全身が汗ばみ気持ちが悪い。 
だからきっと泣きたくなったんだ。 それだけだ。

「ひどく気分が悪そうだな。 白湯を持ってくるから、起きられる?」

頷きながらどうにか身体を起こす。 自分の身体じゃないくらいに重く感じ、正直起きることも煩わしいが、これ以上心配掛けたくないと長椅子に背を預ける。 首筋に流れる汗が嫌な夢を連想させるが、どんな夢だったのか思い出せない。 ただ嫌な夢だったと思うだけ。 

「陛下、また暗示で・・・・私は何をしたの? 誰か、傷付けたりはしてない?」

隣に腰掛けた陛下が杯を口元に運び、まず飲むようにと促す。 素直に飲み始めると頭を撫でられ、そこで髪型がいつもと違うと思い出した。 編み込まれていた髪が解け、ほとんど肩に落ちている。 手を伸ばし緩く癖がついた髪を全て解くと、陛下が頭を引き寄せてきた。

「夕鈴は誰も傷付けていないから安心して。 そして暗示発動のきっかけが判ったような気がするんだ。 だからもう一度試してみたいんだけど・・・・ いいかな?」

誰も傷付けていないという言葉に安堵し、その後に続く言葉に顔が歪む。 暗示が働くきっかけが判ったと陛下は言った。 そして試したいと。 彷徨いそうになる視線を膝上で重なる手に向けた後、夕鈴は顔を上げた。

「陛下の敵を減らすお手伝いが出来るなら、どのような試しでも!」

優しげに微笑む陛下に力強く宣言すると、髪を撫でていた手が肩に落ち強く引き寄せられた。 驚く間もなく頬に陛下の衣装が触れ、腕に包み込まれる。 黙ったまま陛下が静かに髪を撫でる、その手の動きに一瞬陶然としそうになるが、はたと気付く。 ここは後宮じゃなく、執務室だ。 執務室で陛下に抱き締められるなど、李順に知れたらどんな雷が落ちるか判らない!

「あ、あ、あのっ、陛下っ!」
「・・・・ん?」
「私、汗臭いです! そ、それに試しをするなら髪を直さないと。 あ、政務室に行かないで試されますか? って汗臭いって言っているのに、何で臭いを嗅ぐの!?」

陛下の胸を必死に押し出し、髪を纏め上げたいと卓上にあった書簡を閉じる紐を手に取り縛り上げる。 陛下が楽しげに見つめてくるから横を向くと、耳元の髪を掴み口づけてくる。 びっくりして陛下から離れると、笑いながら整えたばかりの髪を面白そうに触り出した。

「本当、上手く縛り上げるものだね。 普段は侍女がしているでしょ?」
「・・・・下町では自分でしてますし、汗臭い髪に口づける意味がわからないし」
「ああ、まだ花の香りが残っているから、つい。 汗の匂いなんてしないよ、いつもの夕鈴の香りだけしかしない。 ・・・・頑張る夕鈴をもう一度抱き締めていい?」
「・・・・は?」
  
両手を広げた陛下は柔らかな、少しだけ寂しそうな顔を見せるから戸惑ってしまう。 李順がいつ来るか判らない執務室。 他の誰も居ない、演技の必要ない場所。 
だけど誰も居ないからこそ、そろりと手が伸びてしまう。 
甘えて欲しいとでも言うように、首を傾けた陛下が促すように手で招く。  はくはくと浅い息を零しながら、そっと近付くが陛下の腕は広げられたままで動こうとしないから、夕鈴は思い切って胸に顔を押し当てた。 
ゆっくりと手を伸ばして陛下を抱き締める。 夕鈴の背に回った陛下の腕に引き寄せられ、身体から力を抜くと鼻の奥がつんっと熱くなり、また泣きたいような気持ちになった。

「・・・・きっかけとなる言葉が何か、たぶん判ったと思うんだ。 だけど同じ言葉を言っているのに、最初は反応しなかった。 今日は三度、暗示によると思われる行動を取っていたから、疲れていると思うよ。 夜は早めに休んで、明日もう一度試させてね」
「本当に誰も傷付いていないんですよね?」
「傷付けようとしているのは夕鈴自身だ。 自害させようとしているらしいが、簡単に止められる。 そんな暗示で何をしたいのか判らないが、それも含めて試させて欲しい」

頭の中に何かがちらっと浮かんだが、すぐに消えてしまう。 暗示に関係しているのかと残像を頭の中で探すが見つからない。 陛下の言葉に頷き、試しでも何でもやるけど、これ以上何かを破壊しないで欲しいと心から願った。





翌日、政務室に顔を出すとそこに陛下はいなかった。 近寄って来た侍官が拱手一礼し、恭しくいつもの席にて陛下を待つようにと伝えて来る。 見ると侍官は浩大で、団扇で慌てて口元を隠し頷いた。 椅子に座ると、浩大が小声で伝えて来る。

「宰相から急ぎの仕事が来たから、少し待っていてねって」
「判りました。 ・・・・何か変なことしそうになったら殴ってでも止めてね、浩大」
「そんなことしたらオレが殴られそう。 う~ん、殴られるだけでは済まないかぁ」
「大丈夫よ。 バイトなんかより廷臣の方が大事よ」
「いやいやいやいやいや・・・・・。 ははははは」

そこへ咳払いしながら近付いて来たのは柳方淵。 眉間に深く刻まれた皺を見て、最初の転倒時そばに居たのは彼だったと思い出した。 急に倒れた、それも団扇で首を突こうとして倒れた妃を見てどう思っただろうと考えると、今すぐにでも裾を捲くって逃げ出したくなる。

「ご・・・・御機嫌よう。 柳方淵殿・・・」
「・・・・・お妃様の体調は元に戻ったのか? 何か変なものでも飲んだか喰ったかしたらしいが、その後変調はないのか。 陛下に御心痛申し上げることのないよう、後宮に引き籠っているのがいいと何度も伝えているというのに全く意見を聞こうとしない」

いつもと変わりない方淵の物言いに団扇から顔を出すと、その団扇に視線を向けられた。 思わず手が強張り団扇が揺れると視線を外され、それ以上は何も言わずに踵を返して方淵は去って行った。 全身から力が抜けて息を吐いた時、今度は反対方向から声が掛かる。

「いつもの苦言申し立てですか、方淵殿は。 先日、お妃様突然御気分が悪くなったと方淵殿が侍医を呼び走っておりましたが、その後御気分は宜しいのでしょうか」
「水月さん。 ええ、暑気中りだったようですが、お蔭様で気分は回復致しました。 ・・・・そうですか、方淵殿が侍医を呼びに行ってくれたのですね」
「他にも心配申し上げていた官吏がおりました。 この暑さです、御自愛下さいませ」
「ありがとう御座います。 水月さんも御気を付け下さいませ」

柔和な微笑みに心が癒される。 下っ端妃を気遣ってくれる人が居るというだけでも、落ち込みそうな心が浮上する。 一礼して去って行く水月を見送り、夕鈴は背を正した。 
心配掛けっぱなしで、陛下の敵の思惑通りになってしまうなんて自分が許せない。 ここはなんとしても暗示を解除し、次に進まなければならないと気を引き締め直す。 隣から小さな笑いが聞こえ、夕鈴も団扇で顔を隠しながら笑みを浮かべた。

「待たせたな、我が妃よ」

しばらくして陛下が姿を見せる。 夕鈴に気付くと笑みを浮かべて手を差し出し、四阿へと誘った。 侍女がお茶の用意を済ませると陛下は手を上げて下がるよう伝え、四阿に残ったのは夕鈴と陛下、そして侍官姿の浩大だけとなる。

「さて、庭園近くの四阿だ。 政務室からは影となっていて後宮からは離れている」
「はいっ! どうぞ、どのようなことでもお試し下さいませ、陛下」
「・・・・・どのようなことでもって、狼にそんなこという兎って・・・・」

四阿外に控える侍官が失笑しながら全身を震わせている。 どうしたんだろうと夕鈴が浩大に視線を向けると、覆い被さるように陛下が視界を埋め、思わず後退ってしまう。

「一度では発動しないようだな。 回数も鍵なのか?」

耳に届く言葉に頭の芯が揺れた。 額に手を当てると途端、目の前が歪んで見え目を閉じる。 回数と言う言葉に眩暈が生じたのか、それとも鍵か。 そう思った時頭の奥で何かが大きく開きそうだと感じ、眉根が寄ってしまう。

「お妃ちゃん、具合悪いか? 昨日とは違うな・・・・。大丈夫か」
「具合が悪いようなら今日は止めた方がいいのかも知れない。 連日暗示により身体が勝手に動いている反動が来ているのだろう。 悪かった、今日はこのまま後宮に」
「いえっ! 続けて下さい。 判らないままで困るのは自分ですから」

手を伸ばしてお茶を飲み、頭から簪などを外して団扇と共に浩大に預ける。 陛下に向き直り、どうぞと唇を噛み締めると柔らかく手を握られた。 

「・・・・本当に頑固なことだ、我が妃は。 だが、そこが我が妃らしい」
「頑固って・・・、陛下の敵を減らすために頑張ろうとする姿勢を否定されては困ります」
「我が妃の言はいくら聞いても心地好いな。 もっと叱咤されたくなる」
「叱咤って・・・・。 あれ? もしかして・・・・ 『我が妃』 が暗示のきっかけ?」

夕鈴が目を大きくして陛下を見るが、眉を顰めた陛下が浩大を見て口を結んだ。 侍女がいる前では後宮でも言う言葉だが、確かに政務室などでは格段に多く耳にする言葉。 でも今は何度言われても変わらない自分に、夕鈴自身も不安になった。

「『我が妃』 が原因ではないのか? いや、たぶんそうだと思うのだが」
「回数とか鍵って言ったのはそのためですか。 ではどうぞ、遠慮なく何度でも!」
「我が妃は何度も呼ばれるのが嬉しいか? しかし困ったな。 ・・・・思惑が外れた」

ふいっと視線を外され、夕鈴は居た堪れなくなる。 このまま役に立てないのかと項垂れそうになった時、頭を撫でる感触に顔を上げると微笑む陛下がいて、思わず目が潤んでしまう。 
しかし潤んだ瞳にバイト上司の姿が見え、夕鈴は思わず陛下の手を振り払いビシリと背を正すと憤怒の形相を見せる李順が詰め寄って来た。

「宰相より未決済の書簡がまだ来ていないと催促されました! 急ぎですので一旦お戻り下さい。 ゆう・・・、お妃様はこちらでそのまま御待ち頂けますね!」
「はいっ! 勿論で御座います!」
「・・・・李順、せっかくの休憩を。 仕方ないか・・・・。 愛しい君を待たせるのは忍びないが、少し待っていてくれるか我が妃よ」

立ち上がった陛下が夕鈴を見下ろすと、茶杯に手を伸ばす妃が見えた。 茶杯を卓上で叩き割り破片を首に宛がおうとするのが見え、両手を押さえ付ける。 このまま昨日までのように昏倒するかと思ったら、押さえ付けた手は陛下を振り解こうと力を入れて対峙してきた。

「夕鈴っ!!」
「・・・っ! あ、あれ? ・・・・あ?」

ぽかんとした顔の夕鈴を前に、李順も訝しげに近寄り陛下の顔を窺った。 

「語彙を増やした途端に動きがあったな。 しかし昨日はその後二度も繰り返したぞ」
「そうだね、もう一度言ってみたらどうだろう」
「『我が妃』か? それとも『愛しい』・・・・ っ!」

腰の刀へ夕鈴の手が伸びたのが見え、その手を払う。 反射的に動いたため、強く払ってしまったと手を引いた瞬間、再び伸ばされた手が刀の柄を掴んだ。 上から押さえ込み手を解き放つと、椅子に倒れこんだ夕鈴が今度は茶杯の破片に手を伸ばす。 
浩大が背後から急ぎ押さえ込むと、突然糸が切れたように意識を手放した。

「いや~。 ・・・・昨日の比じゃないよ、陛下」

力なく椅子に身体を預ける夕鈴の手を取ると、茶杯の欠片で傷付いているのが見えた。







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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 01:55:08 | トラックバック(0) | コメント(6)
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2013-09-01 日 09:10:18 | | [編集]
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2013-09-01 日 13:06:02 | | [編集]
Re: タイトルなし
お名前なし様、コメントをありがとう御座います。天然炸裂兎を愛でて頂けて嬉しいです。病んでいく兎を書くのは辛いですが、桐を出してちょいと楽しもうという鬼畜な私です。よろしくお願いします。
2013-09-01 日 20:27:39 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
さき様、コメントをありがとう御座います。『我が妃』だけじゃ弱いかなと、プラスの『愛しい』です。そのままお受け取り下さい。さて、ここからどんどん壊れていく夕鈴を助けるのは・・・・という展開になります。ちょいと痛い場面もこれから出てくる予定ですが、お付き合いして頂けたら嬉しいです。
2013-09-01 日 20:29:35 | URL | あお [編集]
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2013-09-01 日 20:51:23 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。はい、壊れて来ました。次はもっと壊れる予定です。でも夕鈴は頑張りますので、その分陛下が壊れる? 思ったより痛くなりそうもないので、こうなったら敵側を痛めつけちゃいましょうか(笑)
2013-09-01 日 22:16:52 | URL | あお [編集]
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