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心騒  20
昼間は晴天が続いておりますね~。そんな中、咽喉が痛くて鼻水が出るって、どんな寝相していたんだろうか。夜は涼しくなったから寝易いなと喜んでいたのに。風邪薬飲むと眠くて仕方がない。せっかくの休みなのに。くすん。


では、どうぞ













翌日、老師の許を訪れると満面の笑みで出迎えられた。

「御心配お掛け致しました、老師」
「おお、暗示は解けたそうじゃのぅ。 何よりじゃ。 これで陛下の御子をたくさん」
「生みません! 何度も言ってますよね? 私はバイトだと!」

掃除婦の姿でいつもの会話。 菓子を零す老師を叱りながら、ハタキを振る。 それが嬉しくて、まだバイトを続けていいんだと、陛下の傍にいられるのだと思うだけで目が潤みだす。 
ただ、もう二度と狼陛下の演技に翻弄だけはされまいと、プロ妃らしく仲良し夫婦の演技を頑張ろうと決意した途端、昨夜の狼陛下を思い出し、真っ赤な顔で挙動不審な動きになってしまう。 
深呼吸すればするほど鮮明に思い出し、老師が 「何かあったのか? 言ってみろ」 と執拗に聞いてくるから余計に困る。 思い出さないようにしようと思うのだが、触れた感触が何度もよみがえり、異常なほどハタキを振り回していた。

「お妃ちゃん、お元気そうで何よりっすね」
「浩大! あの私、いつの間にか後宮に戻っていて吃驚したけど・・・・いろいろお世話掛けました。 暗示も解けたようだし、バイト頑張るから! 今度美味しい菓子を買って来るね」
「暗示が解けて、早速掃除なんてマジに働き者だね~」
「・・・・ずっと食べて寝てばかりだったから、太っちゃう・・・・」

それなのに昨夜は陛下の膝上で豪華な食事だなんて、実は重くなったなと思われていたらどうしよう。 急に顔色が青くなった夕鈴に、老師が 「本当に何があった? 言ってみろ」 と問い詰める。 もちろん答えられる訳も無く、曖昧な表情で首を横に振るしかない。 
そんな夕鈴に、浩大が 「そうだ」 と声を掛けた。

「午後になったら執務室に来るようにって、李順さんからの伝言だよん」
「・・・・・え?」
「お妃ちゃんに話があるんじゃない? 午後からでいいってさ。 執務室に来てって」
「・・・・・え?」
「暗示が解けたから、バイトに関して話が・・・・・って、どうした? 真っ青だよ」

城下の宿で暗示解除をすると指示したのは李順さんだ。 バイト上司の指示に従い、無事に暗示が解除された。 それはバイトを続ける上で助かることで、結果命も助かった。 
だけど、その費用は借金に加算されるのか? 団扇は覚えが無いけど、確かに私が壊したのだから納得せざるを得ない。 しかし宿代や試しにと呼んだ呪い師や術師の費用まで借金に加算されることになるのか? 
だけど、そのお陰で暗示が解けて自害することも無くなったのだから・・・・・。 でも費用ってどのくらい掛かったの? 桐の貴族衣装や私が来た衣装代もプラスされるのか?
あら、陛下も泊まった分も加算される? 
いやいや、皆のお蔭で助かったのだし、確かにお世話になったけど、でも・・・・。

頭の中を、ぐるぐるとお金が飛び回り、それが面白いように李順さんの手元へと引き寄せられる。 下町の悪女が借金背負って、嫁き遅れ・・・・。 目の前が真っ暗になりそうだ。 いや、借金地獄の泥沼? 考えている内に床に膝がつき、がっかりと項垂れてしまう。

「お、お妃ちゃん? どうしたんだよ!」
「小娘、具合が悪いのか? どうしたんじゃ」

どうしたもこうしたもありません。 お先真っ暗です。 
いったい、どのくらいの費用が加算されるのだろうか。 
陛下の傍にいられるのは嬉しいと思う気持ちはあるのだが、借金増加は嬉しくない。 順調に返済が進んでいると言っていた李順さんに、この後何を言われるのか。
執務室に行って李順さんに会うのが怖い。 今は暗示が消えた喜びより、眼鏡を持ち上げ溜め息を零す李順さんが頭の中いっぱいに増殖し、怖くて怖くて仕方がない。





午後、後宮から王宮側へ向かう回廊の途中で、両手いっぱいの書簡を手にした侍官姿の桐が恭しく御辞儀をしてきた。 夕鈴が静かに驚いていると、声を掛けてくる。

「ここからは私がお妃様を執務室へ御案内致します。 その後は陛下と後宮に御戻りになると伺っておりますので、侍女様は後宮にてお帰りを御待ち下さいませ」
「では、そのように。 お妃様、お帰りをお待ちしております」

妃が侍女に頷くと、拱手して踵を返し後宮へと戻って行った。 角を曲がり姿が見えなくなったところで、夕鈴は眉根を寄せて桐に問い掛ける。

「・・・・もしかして、わざわざ私を迎えに来たんですか?」
「わざわざお前を? この書簡の山が目に入らないのか? 陛下が城下に脱走されたので政務が滞っていると、俺までこっちの手伝いに借り出されている。 お前が李順殿に呼ばれているのは知っているが、わざわざ呼びに来た訳じゃない」
「わざわざと二度も繰り返さなくても・・・・・」
「どうせ執務室に行けば陛下に拘束されるだろう。 侍女を長時間回廊に立たせて置くのは忍びないから帰したまでだ。 ・・・・暗示が解け、通常バイトに戻ったと聞いたが、そんなに警護を続けて欲しかったと? 陛下直属隠密の忙しさを、お前はどう思っているんだ」
「あ、あう・・・・。 ごめんなさい」

辛辣に言われ、夕鈴は恥ずかしくなった。 後宮立ち入り禁止区域や宿で、ずっと浩大や桐が警護として就いていたから傍にいるのが当たり前になっていたと気付き、恥ずかしさに項垂れる。 忙しい隠密の仕事は何となく解かっている。 浩大だって一年も地方の偵察に赴いていたと言っていたし、夜間警護もある。 屋根に上って偵察に来る陛下の敵を追い払うこともしているのを知っているのに、桐の姿を見て、自分のためにわざわざ足を運んだのかと思うこと事態、いつまでも人に頼っている自分の甘さと驕りに夕鈴はいたく恥じ入った。

いつまでも人に頼ってばかりいないで、自立したプロ妃を目指さなければ! 
せっかく暗示が解けてバイト業務に復帰したからには、借金返済のために今まで以上に頑張らなければならないと、決意も新たに夕鈴は手を強く握り締めた。


やる気に満ちて頬を紅潮させている妃を眺め、桐は大丈夫そうかと目を細めた。 
本当は後宮から足を踏み出した夕鈴を迎えに来たのだが、暗示は解けたと信じ込ませるには、いつも通りの対応が必要だ。 暗示は解けたのだから、今までのように妃として演技しろと放り出す方が彼女にはいいだろう。 心の裡が表情に如実に現れる彼女を見れば、今のところは信じているようだと解かる。
・・・・・ただ、本当に暗示が解けているならいいが、経過観察は必要だ。 
煎餅の小刀を突き刺そうとした時の表情を思い出し、もしあれが本物だったら陛下がどう出たか。 あれが本物の刀で、彼女が少しでも傷を負っていたら、間違いなく佩いていたモノが空を裂き、宿の壁や床が赤黒く染め上げられていたことだろう。 
時に冷酷な表情を浮かべる主を脳裏に浮かべ、桐は唾を飲み込んだ。 このまま暗示が完全に消滅してくれると仕事が捗るのだがなとバイト妃を見下ろし、顎をしゃくる。

「ほら、扉を開けろ。 こっちは李順殿に使われて忙しいんだ」
「・・・・妃を顎で使う侍官など居りませんけどね、ほんとーは」

むっとしながら扉を開けた夕鈴は、突然伸びて来た手に引き寄せられ、踏鞴を踏んだ。 
何と顔を上げようとして、潰されんばかりに抱き締められる。 ぎゅううっと抱き締める強さに息が詰まり、何と聞けないけど抱き締めて来たのは陛下だと判る。 執務室でこんなことをするのは、いや、自分にこんなことをするのは陛下くらいなものだ。 わかった途端、力が抜けて抗う気も失せる。 

「急に席を立ったかと思えば。 ・・・・夕鈴殿、無事に暗示が解けたようですね」
「は、はいっ! 私からの報告が遅くなりまして、申し訳御座いません!」

李順さんの声に抜けた力を取り戻し、陛下の胸を押して背を正す。 
陛下からの抱擁に嬉しいなんて思っている場合じゃない。 
宿での試しが借金に加算されるか、私の態度に掛かっているかも知れないんだ。

びしりと背を正して李順さんを見ると、大仰な嘆息を吐き、眼鏡を持ち上げた上司から一瞥を受ける。 怯みそうになる私の背後から陛下の手が伸び、抱き上げようとするから押さえ込み、睨み上げると不思議そうな顔をされた。 桐が李順さんに書簡を渡しながら何か呟くのが見える。 桐まで仕事に使われている状況で、バイト妃にちょっかいを出している暇は無いだろう。 城下に足を運び仕事をサボっていた分、陛下がすごく忙しいだろうことは承知している。 
第一、嫁入り前の娘を何度も抱き締めるなど、不埒な真似はもういい加減にして欲しい。 
演技が必要じゃない時までこれでは心臓がもたない!

「陛下、ここでの演技は必要ありませんよね」
「昨夜も言ったように、常からそのように動くことが肝心だろう。 日々の研鑽が必要だと伝えたはずだが、我が妃は忘れたか? 愛しさゆえに妃を包み込もうとする私の想いを、まさか無碍にすると言うのだろうか、この兎は」

誰が兎だと反論したい声を飲み込み、それならばと夕鈴は妃らしく微笑んだ。 

「ここは執務室で御座います。 昨夜、山積した政務が陛下をお待ちと御聞きしておりますが、卓の上は一向に崩れていない様子。 どうぞ、陛下は御政務に御戻りになって下さいませ。 私は側近殿とお話が御座いますので、お気になさらずに」
「愛しい我が妃が折角顔を見せたのだ。 それに 『程よい小休止は作業能率を良くする』 のだろう? 宰相の言葉だと君が言った。 私も上手く使うことにしよう。 李順、離れる」

李順さんから呼ばれていた私は、まだ何も話をしていないと抗うが、抱え上げられると逃げ場はない。 あっという間に執務室から離れて回廊に進んでしまうから、もう叫ぶことも出来ない。 あとで陛下の分まで叱責を受けるのではないかと、ただ怯えるだけだ。 宿代や試しの代金はどうなるのだと叫びたいが、執務室はどんどん遠ざかる。


「・・・・陛下が繰り返し暗示の元となった言葉を零していますが、変わりないようですね」
「そうですね、今のところは。 昨夜はよく眠れたようですし、掃除中も以前と変わりなく、後宮から自ら離れようとする動きは見られません。 このままだといいのですがね」

多少呆れた顔になるのは陛下の甘すぎる過剰な演技によるものだろう。 李順が疲れ果てたような溜め息を零すから、ちらっと卓に視線を移すと山と詰まれた書類が目に入る。 小さく頷くと李順に睨まれ、とばっちりが来たと肩を竦めるしかない。

「夜中まで尻を叩き続けて、急ぎの書類だけはどうにか終らせましたが、朝から宰相部屋へ押し込もうとしたところ大臣からの謁見が立て続けにあり、やっと連れ出せると思っていたところで、バイト娘の拉致と逃亡。 これでは書類が雪崩を起こしますよ!」
「半刻したら呼びに行きましょう。 その間、李順さんも休憩されたら如何ですか?」
「ふぅ・・・。 朝方、刑房に足を向け、夕鈴殿の暗示がはっきり解かれるまでは甚振るだけにすると言ってましたが、そちらにはもう時間を掛けて欲しくないですね。 これ以上政務が滞るのは困りますから。 ・・・・半刻だけ私も休みます。 半刻後、必ず連れ帰って下さい!」

いくら溜め息を零しても、結局は好きに動くのだろうと李順は眉間に深い皺を刻む。 
この余計な苦労は孔大臣の身勝手な考えが発端だと分かっていても、バイト妃に異様な執着を見せる陛下に憤りを感じてしまう。 一体、いつまで続くのかと幾度目かの溜め息を吐くと、桐が乾いた笑いを零すのが聞こえた。






抱き上げられたまま王宮側庭園へと連れ行かれ、四阿に下ろされた夕鈴は毅然とした態度で陛下を見上げた。 夏の名残と秋の到来を織り交ぜる庭園は、この時期ならではの美しさを醸し出し、日差しの強さも午後になると爽やかに感じる。 しかし、その鮮やかな庭園の彩を目にもせず、夕鈴は陛下を見上げたまま、妃らしく微笑を浮かべ冷ややかに見上げた。

「あの書類と書簡の量では、小休止など取っている暇はないのではないですか?」
「昨夜、夕鈴とご飯食べた後に李順に捕まって、あれでも結構片付いたんだよ」
「・・・・・今更城下のことを持ち出しても遅いですけど、やっぱりと思ってしまいますよ。 御自身の首を絞められるなんて。 でも沢山のお仕事お疲れ様です、陛下。 すごっく眠そうですが、大丈夫ですか?」
「はは、正直眠いよ。 ・・・・・ここは風の通りがいいだろう」
「日差しがあるのに、木陰になっていて・・・・確かに風通りがいいですね」
「我が妃と共に少し午睡するにはいい場所だと思い、連れて来た」

狼陛下で笑う声を聞きながら、視線を四阿に落ちる日差しへ向ける。 
通り抜ける気持ち良い風に心が落ち着くと夕鈴は目を細めた。 
陛下が夜遅くまで仕事をすることになったのは、来なくてもいいはずの宿に足を運び、そして戻ることなく滞在したからだ。 浩大と桐に任されていた筈の仕事に首を突っ込み、最後までバイトのそばに居たからだ。 大丈夫だと言ったのに、王宮に戻って下さいと言ったのに、それでも最後までそばに居てくれたからだ。 

「・・・・暗示、本当に解けたみたいですね。 陛下に何度言われても大丈夫みたい」

呟くように言うと、頭を撫でてくれた。 四阿椅子に凭れた私の頭を抱え込むように、優しく何度も撫でてくれる。 肩に触れる陛下の熱が嬉しい。 まだバイトを続けられると、自害する妃として迷惑を掛けることなくバイトを続けれらると思うだけで泣きそうになる自分がいて、どうしようもなく陛下に触れたくなる。 少しなら妃演技の延長でいいかなと、陛下の肩に頭を寄せた時、目の前に大きな影が滑るように過ぎった。

「・・・っ!」
「少し休ませてね。 あ、重かったら起こしていいから」

身体をずらし、体勢を整えた陛下はそのまま直ぐに目を閉じ、膝の上で眠りに入った。 突然のことに何も言えず、まさかと見下ろすと陛下の顔があり、眩暈を起こしそうになる。 感じたいと思った熱が太腿にじんわりと広がり、恥ずかしくて居た堪れなくてジタバタしたいのに足が動かせない。 そっと手を伸ばし、風に流れる黒髪に触れる。 それだけで嬉しくて胸が熱くなり、考えちゃいけない欲が出そうになると手を離す。

暗示を解いて貰って、バイトを続けられて、好きな陛下のそばに居られる。
触れて、抱き上げて貰って、髪を撫でられて、過分なほど大事にされて・・・・・。 国のために頑張っている狼陛下の役に立てる。 それだけで今はいいはずなのに、泣きたいほど胸が苦しい。 これ以上、何を求めるのか。 身分不相応な願いを持つだけでも不遜だと、知られたらバイトはもう出来ないと思うほどに胸は苦しくなり、もう優しくしないでと口から零れそうになる。 甘えさせないで、距離をとって、誰も居ないところでは素っ気無い態度で接して下さいと、願いたくなる。
だけど、本当にそんなことをされたら厭な癖にと、思い出して笑いが漏れる。 
下町から戻って来て距離を置かれただけで、何かしてしまったのではないかと狼狽し、最後は陛下に泣き喚いた癖にと。 

クラリと眩暈がした。 眠気に誘われたのかと、日差しと風の心地よさに目を向ける。
秋に変わりゆく日差しは眩しさの中に清々しい心地よさを投じてくるのに、眩暈と共に感じるのは、悍ましいほどの闇だ。 眉を顰めて目を閉じると、広がる闇に酩酊する。 囚われたくないと思うのに、這い上がる闇に足が、背が、肩が飲み込まれ、振り払おうと首を振った瞬間、眩暈がひどくなった。

陛下が膝で眠っているというのに、動く訳にはいかない。 必死に眩暈を抑え込むが、闇は広がるばかりで意識が薄れていくように感じる。 抗う気力もなくなり、少しだけ寝たら気分も治るだろうと、瞼を閉じて力を抜いた。

「っ!?」

無意識に手を払う。 目を閉じている時は身体に触れようとする気配に聡くなり、無意識で反射的な動作は荒くなる。 払ったものが夕鈴の手だと気付き顔を上げると、虚ろな表情で倒れていく彼女が見え、急ぎ身体を抱き止めた。

彼女が手を伸ばそうとした先は自分が佩いている刀だと理解した瞬間、足元から肌を粟立たせるような寒気に襲われ息が詰まる。 暗示を解くことは無理だったのかと目の前が暗くなるが、引き寄せた夕鈴が目を瞬き驚いた顔を見せるから、僕は直ぐに小犬の顔で笑みを浮かべた。

「ごめんね、夕鈴も眠かったのかな? 倒れそうだったよ」
「・・・・っうあ! あ、ちょっと眠気が! すいませんっ」

慌てて口元を隠す夕鈴に苦笑すると、一瞬僕を睨み付け、くるりと背を向けられてしまう。 頬を叩く音が聞こえ眠気を覚ましているのだと思うが、記憶の無い君の行動に胸が痛くなる。 そろりと窺うように振り返るから、今は笑みを浮かべて知らぬ顔を通すしかない。

「ごめんね。 足、痛くない? 今度は夕鈴が寝る?」
「いっ、いえ! 大丈夫ですから! ちょ、ちょっと気持ちいいな~って思っていたら、瞼が重くなってきて。 陛下・・・・ど、どこも濡れていませんよね?」
「 ? 濡れていないと思うけど・・・・・ああ、涎? 大丈夫だよ、夕鈴のなら」

ぼんっと音が出たんじゃないかと思うほど、夕鈴が真っ赤に・・・・いや、深紅に染まり、ぶるぶる震え出して俯いてしまった。 やはり、彼女自身は自分の行動を覚えていないようだ。 払われた手に痛みは無いのかと問いたいが、問える訳が無い。

「宿でも言っただろう? 舐めてあげようかって」
「そ、そんなの言われて喜ぶ人なんかいませんからっ! も、もうお仕事に戻った方がいいですよ! このままでは李順さんに周宰相の部屋に連れて行かれますよ!」
「えー、それは本当に勘弁して欲しいな。 あ、じゃあ、夕鈴がそばに居てくれる?」

真っ赤な顔のままで目を瞠る夕鈴が真っ直ぐに僕を見る。 

私が望むのはそれだけだ。 その真っ直ぐな視線が欲しい。 
内乱を制圧し、内政を粛正し、面倒な妃推挙を避けるための苦肉の策として雇った臨時花嫁。
いつの間にか無くてはならない存在となり、私を翻弄し、私を叱咤し、私を笑わせ、私が失っていたものを教えてくれた。 君にだけ零す心の吐露を、いつでも真面目に受け取ってくれる。 
もう、君がいない後宮に用は無い。 思うが侭に貪りたい気持ちを押し隠して君のそばに足を運ぶのに、君は真面目に仕事を優先しろと僕を追い返す。 どうやったら解かって貰えるのだろう。 もう君無しじゃ何をする気も起きないと、いつまでもそばに居て欲しいと伝えてみようか。 
きっと真っ赤な顔で怒るだろうな。 その時の台詞まで想像に易い。

「夕鈴がそばにいるなら、ちゃんと仕事する。 いないとやる気が出ないよ」
「・・・・李順さんがいいと仰るなら、ですよ?」
「僕のお嫁さんなのに、どうして李順の許可がいるの?」
「バイト妃だからです! では執務室に行きましょう、陛下!」

このまま、いつまでも僕の背を押していて欲しい。 君が頑張れと押し出してくれるなら、足を進めることが出来る。 時々は隣で手を繋いだり、抱き上げたい。 いつまでも君の熱を感じていられるよう、私は君の嫌がる界にも足を踏み下ろす。 君が知らない場所で、知られたくないことをする。 それは国王としての矜持であり、君への見せられない謝罪だ。 
 
夕鈴は今のまま、笑いながら僕を叱っていてくれたら、それでいい。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 19:35:20 | トラックバック(0) | コメント(4)
コメント
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2013-09-21 土 20:25:18 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。桐の活躍・・・というか、弄り?にウハウハして下さり、ありがとう御座います。そうなんですよ。まだ続きますので、今回長くなるな~と。もう一展開があって、それで終わりになる予定です。お付き合いよろしくお願い致します!
2013-09-21 土 22:27:55 | URL | あお [編集]
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2013-09-21 土 23:26:21 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。解けない暗示を引っ張って伸ばして、ジレジレ書き続けております。だらだらにしたくないのに、萌え萌えしてしまい、本当に長くなりすいません。おまけに最近時間が無くて、手が遅くてこちらもジレジレ。桐はまあ、優しいというか、優しいんでしょうかね。(笑)絶対に心配しているなんて、絶対に、絶対に言わない人だと思いますが、まあ、優しいんでしょうね。(苦)あと、風邪は鼻水だけなので、大丈夫でーす!御心配、ありがとう御座います。
2013-09-22 日 00:21:10 | URL | あお [編集]
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