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心騒  26
長くなった、長くなった。どうしましょうかーと焦っていると、現実逃避というか、妄想が溢れるというか、他の話作りやお出掛けや本読みに夢中になり、余計に進まなくなる。どこかに「集中力」売ってますか?


では、どうぞ













執務室に入ると想像通り、バイト上司李順に睨まれる。 精一杯笑みを浮かべて妃らしく挨拶をするが、大仰な嘆息に阻まれ、夕鈴の反抗心がむくむくと擡げた。 
自分は邪魔をするために執務室に来た訳じゃない。 強制的に陛下に連れて来られたのだ。

「李順さん、バイト妃が邪魔でしたら、そう強く仰って下さい。 陛下に!」
「そうお伝えしたいのですが、陛下のやる気を持続させるためには、夕鈴殿には居て貰います。 どうせ明日の試しに行くのでしょう? その前に山を崩して貰わねばなりませんのでね」
「もちろん、行くよ! 自分の奥さんのことだもの、当たり前だろう?」

場の雰囲気をぶち壊す明るい陛下の声に応える者はいない。 
ただ小さな溜め息が執務室に広がり、李順の眼鏡が持ち上がる。 仕事が捗るなら文句も飲み込むと謂わんばかりの態度に、バイトは口出し出来ない。 長椅子に腰掛けると、当たり前のように目の前の卓に妃教育本が積み重なり、鋭い咳払いが飛んでくる。

「大臣からの報告書が政務室に届けられておりますので取りに参ります。 宰相からも受け取る書簡がありますので少し時間が掛かることでしょう。 その間にサクサク仕事が進むよう、夕鈴殿はその教本に目を通しつつ、陛下を椅子から立たせないよう見張っていて下さい。 それらを午後からのバイト妃の仕事として命じます」
「・・・・責任重大過ぎ・・・。 けど、頑張りますっ!」
「では、よろしくお願い致します。 明日は午前中に出られるよう、用意をして下さい。 馬車の用意は浩大らに任せてあります」

執務室に何度も足を踏み入れる妃などいないだろう。 それもバイトで一介の庶民だ。
肩を竦めながら教育本を手に取ると、視界の端で何かが動くのが見え、顔を向けると陛下が嬉しそうに立ち上がろうとしていた。 

「座って! ちゃんと山を崩して下さい! 私が李順さんに叱られます」
「うん。 やっと夕鈴がそばに居てくれるから嬉しくて、つい」
「やっとって、昨夜は陛下と・・・・っ! いえ。 真面目にお仕事しないと宰相部屋行きですよ? 明日はご一緒するのですよね。 そのためにはお仕事を」
「うん、ちゃんと仕事する!」

元気な声と共に陛下の頭が書簡と書類の山に消えていく。 
安心して視線を本へと落とした夕鈴は、小さく小さく息を吐いた。 明日は城下にて術師から再度催眠を施して貰うことになっている。 それが最後と李順に言われた時は機会を貰えて嬉しいと素直に喜んだ。 だけど時間が経過するにつれ、昨日からの自分の行動もあり、得体の知れない気持ち悪さが何度も胃を刺激し、堪えようとすると目尻に熱いものが滲みそうになる。

「お茶の用意をさせて貰いますね。 今日は少し肌寒いので花茶にしましょうか」

気分を変えようと立ち上がると、陛下の顔が上がった。 そのまま腰まで持ち上がりそうになるから、上がるのは顔だけにして欲しいと睨み付けると苦笑を返される。 
睨みながら、実は一瞬暗くなった目の前が明るくなるのを待っていたのだが、扉が開かれ誰かが入って来る音に振り向こうとして失敗した。 入って来た桐は眉を寄せて駆け寄る。

「・・・お妃っ!」
 
振り向きざま膝から崩れ落ちる妃に急ぎ手を伸ばすが、一瞬沈んだ夕鈴の身体は、桐にぶつかる勢いで扉へと向かった。 桐が止めようと腕を掴むと、反対の腕が邪魔をするなとばかりに振り払われる。 
無言のまま暴れる妃の手が桐の頬を掠り、その爪が一本の筋を残す。 両手を掴み引き寄せると、虚ろな瞳が桐の頬を動揺もせずに見上げながら、手を離せと力を入れる。
対峙する二人に近寄った陛下が溜め息を吐くと、桐から逃げようと暴れる夕鈴の両肩を強く掴み、何の躊躇もなく彼女の耳朶に思いきり噛み付いた。

「・・・いっ! なぁああ!?」

痛みに驚き、それが何処から齎されたものなのかを知った夕鈴が悲鳴をあげると、陛下に抱き上げられてしまう。 何があったのかと痛む耳を押さえながら目を瞬く夕鈴に、狼の紅い瞳が冷たく睨み付けてくる。

「陛下、まず先に李順殿より急ぎの書類を届けるよう申し付かっております」
「ああ、判った。 桐、大事は無いな」
「はい、御座いません。 少々腹が捩れそうではありますが」
「・・・・そのまま捻じ切ってやろうか」

薄く笑みを浮かべた桐は署名が済んだ書簡函を持ち、恭しく一礼して退室する。 
じんじんと痛みを訴える耳を押さえたまま、夕鈴が泣きそうな顔で陛下を見つめるが、口を尖らせて 「謝らないよ」 と呟かれてしまった。

「大事無いかって・・・・私、桐を傷付けるようなことをしたの? それで耳を、噛んだ?」

自分で言った最後の言葉に違和感を覚えたが、もし自分が他人を害したというなら大問題だ。
血の気が引いていくのを感じながら、狼陛下の瞳から目が離せず、夕鈴はガタガタと震えた。
背をぽんぽん叩かれ、気付けば陛下は小犬になっていると判るが、何故か膝上に座っている自分が居て、いつの間にこういうことになったんだと困惑してしまう。

「ゆーりんが傷付けたのは僕だよ! 倒れそうになったとはいえ、夫である僕の前で桐に縋るなんて酷い。 だから罰として、このまま膝上にいてね」
「言っている意味が解からないのですが、それでは仕事に差し障りますよね? それに」
「問題ないって。 第一、最近は龍紋石の耳飾りもしてくれないし!」

何度も言っているように私はバイトですと、いつもの突っ込みを入れようとする直前に陛下からの突っ込みを受け、夕鈴は息を詰まらせた。 
紅い龍紋石の耳飾り。 
本当はずっと着けていたいけど、万が一紛失したり割れたらと思うと、本来の貧乏性が出てしまい、大切に大切に仕舞っている。 それに嬉しいけど恥ずかしくて、浩大や桐からの過剰な反応に対応しきれない。

「あ・・・、あうう。 ・・・・最近、暗示が酷いので落として割ったら大変と思って」
「精神安定と運気を運ぶ、夫からの贈り物なんだから見せびらかして欲しいのに」
「見せびらかし・・・っ! そ、その前に、このままでは李順さんに叱られます!」

執務室にいること自体問題なのに、膝上とか絶対に無理だろうと怒ると、何故か急に脇腹を擽られ思い切り脱力する。 せめて隣に椅子を持って来るからと説得して膝上から脱出できたが、自分は桐に何をしてしまったのだろうと胸に残るモヤモヤは解消出来ないままだ。 陛下を見ると嫣然とした顔が近付いて来て低い声で囁かれる。

「ああ、悋気でその身に牙をたててしまったな。 痛むなら舐めてやろうか」
「結構ですっ!」

真っ赤な顔で睨む夕鈴に微笑むと余計に睨まれたが、多少は気が晴れたから良しとしよう。

突発的な自害への行動は昨日から頻発し、簡単に止めることが難しくなっている。 暗示を掛けた女刺客が殺されたことが今更ながら悔やまれるが、模索の道を諦める訳にはいかない。 
明日で最後と李順は言っていたが、各州や他国に忍ばせた密偵に暗示や催眠に関する解法を探るよう指示しているのを知っている。 何故そんなことをしていると問うと、同じことが繰り返されぬよう、解法はあっても無駄にはならないでしょうと怜悧な返答が返って来たが、それらを急がせているのも知っている。

「では今度こそ、お茶の用意をして参ります」

口を尖らせたまま離れようとする夕鈴の警護のため、浩大が移動したのが窓外の木々の揺れでわかる。 一人になった執務室で陛下は静かに瞼を閉じた。

今のも暗示による行動だろう。 ここから出て 『妃』 を殺そうとしたのか。
問題は、夕鈴がこれ以上心身ともに傷付かぬうちに解決出来るかだ。 
急激に顕著になってきた暗示による行動を、彼女自身が一番自覚していているはずだ。 
そして暗示に掛かっているというのに、今日は僕の目を見て話しをした。 暗示により、自分が行うべきことを明確に示した。 日に日に変わりゆく様に不安と焦燥が募る。
このまま何の手立てもなく、術師に頼るしかないのか。 その術師による催眠も一度は失敗している。 大丈夫なのかという心配は尽きないが、他に手立てが見つからない。 
 

扉が叩かれ夕鈴が戻って来たのがわかり、僕は表情を和らげて扉へと向かった。 
茶器を持ち戻って来た夕鈴のために扉を開けると、そこには眉を寄せて酷く蒼褪めた彼女が震えていて、何があったのかと周囲に視線を向ける。 しかし、彼女からの言葉は僕の心配とは大きく掛け離れたものだった。

「陛下っ! 白茶を・・・・今年一番の最高級品だって、り、李順さんがっ!」
「ど、どーしたの、夕鈴っ!」
「李順さんからっ! たまにはいいでしょうって、献上品の・・・・白茶を手渡されました! ど、どうしましょう! 今夜雪が降るかも知れません! それとも山が爆発するとか、大地震が来る前触れでしょうか! お、弟が心配になるんですがぁ!」

酷く狼狽する夕鈴は蒼白の面持ちで茶器と湯が入った御盆を手にしているから、慌ててそれを受け取る。 卓に置くと、震える手で茶を入れようとするから急ぎ止めた。

「もう少し落ち着いてからにしようよ。 これじゃ、火傷しちゃうよ?」
「す、すいません・・・・。 ど、動揺が治まらなくて・・・・」

そして懐から紙に包まれた品を出して確認すると、夕鈴は涙目で首を振る。

「こ、これも渡されたのですが・・・・。 干菓子ですぅ・・・・」

ガタガタと震える夕鈴が可笑しくて抱き締めると、動揺している彼女は素直に僕の背に腕を回して来て、「山が噴火しちゃう!」 と怯え出した。 李順の珍しい気遣いに、恐怖を感じる夕鈴が可愛くて、そして李順さえも今回の事態に彼女を慰しようとしているのかと正直驚く。 
逆に奴がこんな気遣いを見せるほど、事態は深刻なのかと胸が軋みそうだ。

「あ、あの・・・陛下。 落ち着きました。 申し訳ありませんでした」

しばらくすると恥ずかしそうに僕の胸を押す夕鈴が、湯が冷める前にと茶の用意を始め出した。 落ち着いたようだなと夕鈴の手の動きを眺めていると、今度は怒った顔で 「陛下は政務です! 卓から離れてはいけません」 と言い出すから、腹を抱えて笑ってしまう。 
真面目で可愛い夕鈴のために一刻も早く暗示を解こう。 
そして四阿で夕鈴とゆっくりとお茶が楽しめるよう、妙な気遣いは止めて、最高級の茶葉は仕舞って置くよう李順に伝えようと陛下は考えた。




その夜、いつものように陛下は妃の部屋でしばらく過ごし、そして退室した。 夕鈴の心配は無用だったようで、悪天候にもならず、もちろん噴火も地震もない。 思い出して苦笑を漏らしそうになった時、姿を現した隠密より報告を受ける。

「・・・・刺客と思われる者は高官の命により、忍び込んだとわかりました」
「その後の動きは?」
「未だ無く、陛下、妃、どちらが狙いか不明のまま」
「引き続き、調べよ」

心地良い風が頬を掠めるが、不意に浮上した怒気を和らげることは無い。 夕鈴との憩いのひと時が儚く泡と消えていくような気さえした。 薄く開いた唇から息を吐いても、気分が変わることも無く、ただ募る焦燥感に惑わされる。 
部屋に戻ると浩大が窓から姿を見せ、口を歪ませて鼻から荒い息を吐いた。

「桐から聞いたけど、頻繁だね」
「今、夕鈴には桐が?」

浩大が懐から菓子を取り出し口へと運ぶ様を眺めながら、執務室でのことを思い出す。 
頻発する自害への行動は彼女の口をも動かし、日増しに強く強く駆り立てているようにも思える。 そして意思に関係なく動かされる唇から紡がれる、聞きたくない言葉。 

「お妃ちゃんに動きがあったら、疑似体験させるのは中止して直ぐに止めるから」
「昼間は、妃を殺すのは私のためだと、私の目を見て伝えて来た」
「陛下の目を見て話したって? ・・・・そこまで暗示に侵食されているってか? 繰り返すことで慢性化してるって? それってマジやばいじゃんかよ」

漏れ出る音は身の裡から聞こえる己の歯軋りだ。 思うようにならない苛立ちと、捨て置けない彼女への想いは増すばかりで、手を見下ろすとじっとりと汗ばんでいる。 明日の試しでどう転ぶか、望む結果が得られるのか、考えると目の奥が痛むほどだ。

「・・・・陛下っ、動いたっすよ」
「わかった」

窓に腰掛けていた浩大の表情が一瞬にして落とされる。 浩大が小さく顎を動かし、見えて来た彼女の姿を知らせた。

後宮庭園を歩く夕鈴は足早に王宮へと歩きながら、何か呟き続けていた。 
その言葉は聞かずとも解かる。 夕鈴は自分ではない 『妃』 を殺すために呪詛を呟きながら王宮へ足を運んでいるのだ。 浩大は回廊へと足を進める夕鈴の背後に付き従う。 屋根上を移動するのは桐だろう。 上着を羽織ると陛下も急ぎ足を向けた。

夕鈴は後宮庭園から、王宮側への回廊外階段を上がり、そのまま政務室へと足を運ぶ。 が、角を曲がるとそこには夜間警護兵が驚きの顔で妃を凝視し、その背後を探ると手を広げた。

「申し訳御座いません、お妃様。 お妃様といえど、お一人での夜間王宮立ち入りは禁じられております。 直ちに後宮へとお戻り下さいませ」
「・・・・・・」

無言のまま突き進もうとする妃を困惑の態で止めようとするが、何処に触れていいのか戸惑い、そして再び周囲を確認する。 たった一人で王宮に足を運ぶ妃にどう対処していいのか困惑する警護兵を、影から見つめる双眸は冷たい。 

「お一人でここまで来られたのですか、お妃様」
「・・・・・」
「僭越ながら私が後宮までお送りさせて戴きます」
「・・・・・」

返答も無く、表情が変わらない妃の視線が警護兵の佩く物へと注がれる。 視線を感じたのか、兵は腰に手を伸ばすと静かに抜刀して、その切っ先を妃へと向けた。

「聞いていた通り、貴族子女とは思えぬ行動を取られるのだな。 さすが後宮の悪女と噂されるだけはあるか。 ・・・・それにしても思わぬ場所で会うものだ」

向けられた白刃を目にした妃は表情を変えることなく、兵の許へと足を進めて行く。









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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 00:42:26 | トラックバック(0) | コメント(8)
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2013-10-04 金 01:09:04 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、お久し振りです、コメントをありがとう御座いまーす。あ、桐の傷は問題ナッシングーですよん。浩大にでも舐めさせましょう。そして李順さんの気遣いは報われない。(涙)後々、夕鈴が自爆しないように祈っていて下さい。
2013-10-04 金 01:16:58 | URL | あお [編集]
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2013-10-04 金 03:03:58 | | [編集]
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2013-10-04 金 13:58:55 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。桐の頬の爪痕に沢山のコメが来て、オロオロしてます。駄目だったか?それとも良かったのか?(笑) なかなかサイト訪問出来ないですが、本当に覗くくらいですいません。でも作品数の多さと面白さについ時間を忘れて滞在し、慌てて布団にダイブしました。またお邪魔させて頂きます。
2013-10-04 金 21:04:15 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。クールな桐・・・・でも後で絶対報復しそうな気がする。怖い、怖い。同じように夕鈴の台詞を聞いた李順も恐ろしい報復をしそうだ。どうしよう、そこまで書けるかしら?(自爆しそうです) そうか・・・・集中力は売っていないのか・・・。困った。なのに、次のunder作品妄想が漏れ出す私はこちらを仕上げる気があるのか。「集中力」を探しに今日もサイト巡りをしそうです(笑)
2013-10-04 金 21:09:17 | URL | あお [編集]
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2013-10-04 金 22:53:27 | | [編集]
Re: なにやら暗雲が…
makimacura様、コメントをありがとう御座います。本当に纏め売りしてないかな、「集中力」。会社の奴らにも飲ませますよ。次は痛い場面が多いかな? やっと終わりが見えて、次の妄想に足を踏み出しております。次こそは短い話にするぞと、長い話はしばらくいいやと思っております。もう少しだけ、お付き合い下さいませ。
2013-10-04 金 23:41:45 | URL | あお [編集]
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