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迷宮への誘い  7
「パラレルシリーズ」続きです。 さて、サクサク進めようかな。 進んでくれるかな? 進んでくれよ! 頼むから。台風も過ぎて、午後は良い天気。急に下がった気温に咽喉が痛い気がするのは気のせいさ。娘からの粋なプレゼントじゃないよね? 



では、どうぞ













桐から受け取った鉄環手を腕に嵌めながら同じ動作をしようとしても、慣れない重さに振り回されて動きは鈍る。 桐が私の背後を取ろうとするのを防ぎながら、その腕を捕らえようと手を伸ばすが段々重く感じて来て、呼吸が乱れて幾度か膝をついてしまった。 
余計な力を抜き、舞うような動きが基本だが、そんなことが出来るはずもないほどヨタヨタだ。

何度目になるのか、また膝が床につき荒い呼吸を整えようと顔を上げた時、桐が片手で制してきた。 何だと私が眉を寄せると、微塵も疲れを見せない桐は肩を竦めて終わりだと言う。

「今日はこれくらいにしておこう。 明日、侵入者が持ち込むだろう武器を見せてやる。 囮になると言ったからには武器に対する免疫と知識もある程度は必要だろう。 この界の武器がわからぬままでは対応に遅れが生じる」
「だ・・・・だから、そこら辺は浩大とか桐の仕事でしょう? 私は侵入者を誘き寄せる囮を希望しているのであって、攻撃系は得意じゃないと・・・・」

そもそも対攻撃に備えるために始めたのではなくて、身体を解そうとしただけだ。 途中から攻撃に対する構えとか、試合形式になっていて、久し振りの運動に筋肉が悲鳴を上げそう。
喘ぐように息を吐き汗を拭っている私に、桐が目を瞠って 「ああ・・・」 と頷いた。
私はあんたの弟子じゃないんだから、鍛えようとするのは勘弁して下さい。
見た目だけはいいのに、こいつ鬼畜だ。
睨み上げる気力も削がれて項垂れていると、いやに明るい声が掛かる。

「そっくりさん、お疲れ~。 明日早速で悪いけど、ちょいと散策して貰おうかな」
「浩大! ・・・・ってことは、国王陛下から囮の許可が下りたってことね」

やはり入り口からではなく窓から顔を出した浩大から囮になる許可が出たと聞き、ユーリはほっとした。 国王陛下が夕鈴さんのことを唯一の妃と言っていても、一人しか妃は娶らないと言っていても、後宮制度があるということは沢山の妃がいることが本当は当たり前なのだろう。 
歴史に疎いユーリでもこの国の後宮が他と異なるということが解かって来て、それだけ夕鈴さんが国王陛下に愛されているのだと理解出来た。 

「陛下からの許可っていうより側近様からだけどね。 さっさと捕まえた方がいいでしょうって。 陛下はその間お妃ちゃんにくっついているってさ。 サボるのにいい口実だ」
「では、周囲に隠密を散らした方がいいな。 明日の午後、天気が良ければ開始するか。 そうなると午前中に武器の説明をした方がいいな。 朝食が終ったらこの部屋に」
「だから、私がするのは囮だけだってば!」
「先ほども言ったように、武器に対する知識は多少必要だろう。 異なる界から来たのなら、見たこともない武器に戸惑い、動けなくなっては困る。 その為に憶えておいて損は無い。 囮になると自ら志願したのなら、謂うとおりにしろ」
「・・・・・・・うう」

ここまで上から目線で叩き込むように言われるなんて、言わなきゃ良かったかと考えてしまう。
ケラケラと浩大が笑うから、助けてくれと縋るような視線を向けるが、笑顔を返された。

だけど囮はする。 黙って時が来るのを待つのは厭だ。 どんなことをしたら戻れるのか、全く判らないままだけど、何か役に立ってから戻りたい。 寝て待っていても奇跡は起きない。

それにしてもお妃様が狙われているというのに、警護する人たちの気楽そうなこと。
ピリピリした雰囲気が余り見られないのが少しだけ不思議だ。 
黎翔も時期によっては警備会社から派遣された元シークレットサービス経験のあるボディガードを就けることがあるが、会社からの出入り時には緊張を余儀なくされていた。 私にも時に就けられているが目立たないよう指示されているのか、黎翔の妻だという認知が低いのか、さり気無い配置をされているようだ。 ・・・・まあ、後者だろうな。


ふと、国王陛下の許に戻りたいと、この世界に戻りたいと何度もあの芝に足を運んだ夕鈴さんの姿が想像出来て、それを見つめていた黎翔の気持ちが胸を締め付ける。 
何度も何度も考えてしまうのは、自分に自信が無いせいだろう。 
自分にあるのは黎翔が好きだという気持ちだけだ。 財産も才能も美貌も親さえもいない。 
黎翔に固執されていることは嬉しいけど、自信に繋がることは難しい。
何かはっきりと目に見えるものがあればいいのに。
後ろ向きな自分が嫌になるけど、全部が本当のことだから仕方がないとさえ思う。
何でも持っている彼の側にいて良いのだという、自信に繋がる何かが欲しい。 
それを彼が望んでいないのだとしても。


「では、今日は終わりにして着替えますね。 鉄環手は袖に隠れるから、そのまま借りておく。 あとは明日、団扇を持ってふらふらと庭園を歩けばいいのよね?」
「侍女を伴わずに歩くのは奇怪しいから・・・・オレが就くか?」
「あと髪に簪を挿して、いざという時の武器にしろ」
「・・・・・だから攻撃系はそっちの仕事でしょう?」

どこまで遣らせる気だと、それでも心地良い疲労を感じながら着替えのために夕鈴さんの許へ移動する。 濡れた手巾を借りて汗を拭っている間も、夕鈴さんは頬を膨らませて拗ねた顔で私をじっと見つめ続けているが、幾ら睨まれても囮を下りる気はない。

「えっと・・・、私道場に通って少しは鍛えているので大丈夫ですよ。 それに浩大や桐が警護してくれるのですから、危険はないのでしょう?」
「・・・・万が一、傷でも負ったら黎翔様に申し訳が・・・・」

妃衣装を着付けてくれながら夕鈴さんが繰り返すから、苦笑を零すしかない。 

「逆の立場だったら、きっと同じことを言っていたかも知れませんよ?」
「・・・・だと思う。 でも新婚なのにユーリが姿を消しただけでも御心痛でしょうに」
「今は帰れる手立てを見つける前に自分が出来ることをしたいです。 あ、夕鈴さんの寝台に私のバッグがありませんでしたか? 無いのに気付いたのが昨夜で、もしかしたらと思ったのですが。 あったら嬉しいのですが」

夕鈴さんが首を傾げた後に何も無かったと言うから、諦めるしかない。 
どうも記憶が曖昧ではっきりしない分、じわりとした焦燥感だけが募る。 そっと背を撫でてくれる夕鈴さんの優しい気持ちに心を温かくしながら、彼女がアメリカに行かなくて良かったと思ってしまう自分が厭になり自嘲した笑いが零れそうになった。

「黎翔様に今以上の心配をお掛けしないようにしないと」
「夕鈴さんは国王陛下に心配を掛けないようにね! 囮になるだけですから、大丈夫ですよ」

私を気遣いオロオロする夕鈴さんから静かに視線を外す自分の狭量さに泣きそうになる。 
自分が嫌いになりそうだ。 いや、もうこんな気持ちを持つ自分に嫌気が差している。 

「浩大と桐を含めた警護の人たちは優秀なのでしょう? 夕鈴さんはお妃様としてどんっと構えていて下さい。 時々悪い人が侵入すると聞きました。 たまには陛下だけに守られて御心安らかにお過ごし下さいませ」
「・・・・ユーリって、カッコいい」
「そんなこと初めて言われた。 照れるけど嬉しい! 何もしないで過ごすより、何か手伝えた方がずっといいから止めないでね」
「・・・・それは解かるわ。 あ、あの、聞いてもいい?」

急に頬を染めた夕鈴さんに顔を覗かれた。 目を瞬いて頷くと、夕鈴さんの顔だけではなく耳や首までもがジワリと赤くなり出し、どうしたんだと心配になるほどだ。
潤んだ瞳でハクハクと息を吐く、夕鈴さんから問われた言葉は。

「あ、のね。 結婚する時にどんな言葉を貰ったのかなって」
「は? えっと、あ・・・・。 プロポーズの言葉・・・・ですか?」
「プロポ何とかは判らないけれど、結婚をしたいってどんな風に言われたのか気になって」
「ゆ、夕鈴さんは・・・・国王陛下に何と言われたんですか?」

指先まで真っ赤な夕鈴さんがきょとんとした顔を向けてくる。 変な間があってから、視線が宙を彷徨いながら 「さ、先に教えて?」 と言われたので、こっちも緊張してしまう。
 
プロポーズの言葉・・・・。 
ど、どこからがプロポーズなんだろうか。 
自宅に薔薇の花びらを撒き散らした日なのかな。 それとも島に監禁されていた時なのかな。
きっと夕鈴さんみたいに自分も赤くなっているのだろう。 
頬が熱を持ったみたいに熱くなっているのが判る。

「・・・・・えっと、たぶん・・・・『もう我慢はしたくない。 結婚して欲しい。 イエスしか受け取らないから他の言葉を言ったら承知しない』・・・・です」
「ま、あ・・・・。 で、ユーリは即答で答えたの?」
「あ、いえ。 夕鈴さんも御存知の通り、黎翔は大きな企業の会長職に就かれています。 私は関連会社の一社員でして、夕鈴さんに似ているからと目に留まっただけの庶民ですから、何度もお断りをしました」

染まっていた夕鈴さんの頬から色が抜け、ゆっくりと眉が寄る。 私も困ったような顔をしていたのかも知れない。 そっと触れてくる夕鈴さんの手が温かく感じた。

「それでね、答えられずに困惑していたら、監禁されたの」
「はぁ? か、監禁っ!?」

思わず笑ってしまう。 そうか、初めて誰かに話すことになるんだ。 
李順や桂香さんを始め、邸の皆は夕鈴さんを知っていて、いなくなった後の黎翔の状態を知っているから私をすんなりと受け入れてくれた。 何度も邸に訪れて行くうちに、やんわりと静かに溶け込めるよう配慮してくれた。 ウォルターや養父母には驚かれたけど、島に連れて行かれた詳細までは話していない。
プロポーズの言葉や経緯など、初めて話すのが夕鈴さんだなんて不思議な感じがする。

「そう。 無人島みたいな場所に閉じ込められたの。 結婚すると言うまで出さないって監禁状態。 何度も何度も怒って駄目だって言ったのだけど、そのたびに跳ね返されて。 頑なだった私がイエスって言うまで。 そして心の中のぐちゃぐちゃだった気持ちを全部口に出して・・・・・」

そう、本当は黎翔が欲しいと、独り占めしたいと望む気持ちを吐露するまで何度も愛していると繰り返しながら何度も抱いてくれた。 時間を掛けて心配や迷いを消すと、彼は言ってくれた。 
逃がさないと、望んでいるのは私だけだと。
本当は離れたくないと、結婚したいと私が答えを伝えるまで、ずっと傍にいてくれた。

ああ・・・・・。 今、黎翔に逢いたい。 


「ユーリ・・・・ユーリ、我慢しないで泣いていいから」
「れ、しょ・・・・に逢いたい。 ここは黎翔が・・・・・いない、から・・・・」
「うん、そうだよね。 泣いていいから・・・・」

覆い被さるように夕鈴さんが私を包み込んだ。 いつの間に泣いていたのだろうか。 ボロボロと零れ出した涙が口の中にまで入り込み、身体がガタガタと震える。 
ここには黎翔がいないという事実を今更ながらに実感した私は、堰を切ったように嗚咽を漏らし、夕鈴さんにしがみ付いて止めようが無い涙を流す。

黎翔に逢いたい。 逢って、もう一度好きだと言いたい。 
素直に好きだと伝えて、強く抱き締めたい。 
もう夕鈴さんを想っていた過去も、他の女性とのスキャンダルもどうでもいい。 
自分には好きな人がいる。 
その好きな人を抱き締めることが出来る立場を得たというのに、何を不安に思うことがあるのだろう。 素直に焼きもちを吐露するのも、嫉妬するのも自分だけが許されているというのに、何故我慢しようとしたのだろうか。 どんな自分も受け止めてくれる人なのに、自分だったら隠される方が厭なのに、目の前の夕鈴さんを見て心に翳りが落ちていた。 
気持ちはいつでも黎翔に向いているのに。 
泣いても仕方がないと、全てを飲み込もうとしていた。 
だけど飲み込める訳が無い。 
飲み込めてしまえるほど、黎翔への気持ちは小さいものじゃない。 
我慢しようとしたって溢れて、溢れてしまって、もう我慢が出来ない。
逢いたい。 今、逢いたい。

私が好きなあの人に。 私を好きだと言ってくれるあの人に、今、逢いたい。
私を幸せにすると、自分を幸せにしてくれと言ったあの人に、黎翔に逢いたい。
何度も彼に恋をしたい。 そして私に恋をして欲しい。

「黎翔・・・・に、逢いたいの」
「うん・・・・うん、ユーリ。 わかる・・・・わかるから。 必ず戻れるから」
「逢いたい。 れい・・・に逢いたいよぉ・・・・」

声を出して泣き続け、たった二日逢えないだけでこんなにも弱くなっている自分に気付いた。
出張や視察で逢えないことなど何度もあったのに、ここが異世界だからなのか。 
私は逢いたくて逢いたくて狂いそうだと泣き続ける。
きっとひどい泣き方をしていただろう私の背を、夕鈴さんはずっと撫でていてくれた。








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パラレル | 03:00:07 | トラックバック(0) | コメント(10)
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2013-10-17 木 04:16:27 | | [編集]
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2013-10-17 木 09:22:08 | | [編集]
桐さんは素敵なんです!多分募ればファン倶楽部出来ると思います(笑)
このクールさ、良いです~しかも壊れる桐さんも素敵なんです、ジオン軍のシャア少佐みたい…

ユーリ悲しいですね、早く現代に戻って貰いたいけど戻ったら話が終わってしまう
あーどうしましょう読んでてはらはします
2013-10-17 木 10:18:27 | URL | 名無しの読み手 [編集]
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2013-10-17 木 16:13:18 | | [編集]
Re: タイトルなし
rita様、コメントをありがとう御座います。咽喉の痛みは一過性だったようです。良かった。休みの日に爆睡したら治りましたよ。ご心配ありがとう御座います。加湿器登場で、これからの時期気をつけなきゃね~。休めない職場だけに、休みは自分を思い切り甘やかせています。(笑)子供から貰うのは、もう仕方がありませんよね。諦めて養生するしかありません。お体にお気を付けて、お付き合い頂けたら嬉しいです。毎回、本当にありがとう御座います。
2013-10-17 木 23:23:08 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。素直に逢いたいと泣けるユーリがようやく書けた。結構、夕鈴と違って甘えさせてから、違いすぎるとやばいか?いや、オリジナルで雰囲気が違う設定だからいいんだよ?と自問自答しながら書いています。もう一人の黎翔はもう暫くお待ち下さいませ。
2013-10-17 木 23:25:06 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。桐が壊れても素敵と、何と言う褒め言葉なんでしょうか。思わず犬を抱き締めたら吼えられました。思い切り。くすん。ぼろ泣きユーリがやっと書けて、よし、と満足しております。のんびり書きますので、のんびりお付き合い頂けたら嬉しいです。
2013-10-17 木 23:27:52 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
鈴様、コメントをありがとう御座います。夕鈴を刺激出来ていればいいのですが、激にぶなところも夕鈴の良さなのですよね。ああ、ジレッタイ。ユーリの監禁は「ユーリ」作品に載せています。宜しければ・・・。(^^) 桐のイメージは浩大の逆?身長あって、ドSです。刺客をしていたので、仲間の口封じも平気でする非情さもあります。優雅に挨拶もします。(「まどろみの瞳・5」)夕鈴弄りをしますが、単に面白いからするのでしょう。プライドはそこそこ?私の頭の中では黒髪短髪、結構指長い、手が大きい。細マッチョ希望です(笑)こんなものでいかがでしょうか。
2013-10-17 木 23:43:26 | URL | あお [編集]
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2013-10-18 金 19:01:52 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。悩んだ挙句に娘に助けを求めたら、サクサクと何かを作ってくれました。私はPCオンリーなので、怒られっぱなし。下手に設定を弄るなと言われたのですが、記憶が無いんです。くすん。でも、コメントも届いておりますし、ご覧頂けるなら嬉しいです。
2013-10-18 金 20:24:43 | URL | あお [編集]
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