スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
迷宮への誘い  20
「パレルシリーズ」続きです。さて、今回は下町です。まあ、そうなると必然的に出したい方がいらっしゃいまして。あと、体調は戻りました。たくさんの温かいコメントありがとう御座います。崩しやすい時季ですので、皆様も御自愛下さいませ。


では、どうぞ













馬車を用意され、ユーリは驚いた。 馬を見るのは初めてではないが、馬車というものに乗ったことが無い。 中世の欧米みたいだと興奮して乗り込むと、隣に夕鈴さんが腰掛け窓から見える町の眺めを説明してくれた。

「前髪を下ろしているから目は目立たないと思うけど、奇異な目で見られることもあると思うの。 それは我慢してね。 外套で頭から隠せるようにはなるけど」
「それは大丈夫。 黎翔の横に居るだけで、よくあることですから慣れてますよ」

飾り気の無い夕鈴さんの衣装を見て、自分の衣装を見下ろした。 なんか妃衣装よりこっちの方が楽だと思ってしまうのは、自分も城の外側の人間なのだろうと承知してしまう。 

黎翔のそばに居るのが厭な訳じゃない。 ただ、世界観が違うなと考えてしまうだけ。 
夫婦同伴のパーティへ出席する時、最初は本当に戸惑い、強張った笑みしか見せられなかった。 そういう場所に慣れなくてはいけないと思うほどに緊張してしまい、自分は異邦人のようで黎翔に申し訳ないと落ち込んでしまう。 

少し私が離れただけで会長である珀黎翔に寄って来る魅惑的な姿態の女性達。 
異国の人々との会話。 普段とは違うドレスやタキシード姿。 豪華な花や生演奏。 
そこにいるのは当たり前に給仕される側の人々ばかり。 
煌びやかな大広間で交わされる耳慣れない言葉や、見定めるような視線、立場的に自然と身についたのだろう鷹揚な態度。 そして表面だけ取り繕った仮面を被った人々が、その仮面の隙間から蔑むような視線を私に投げ掛ける。 
 
黎翔のそばにいたい。 黎翔が好きな気持ちは変えることが出来ない。
だから黎翔のために自分を高めるのも、勉強するのも、李順さんからの教育時間も苦ではない。 知らない知りたくないと我が侭を言うつもりはないし、辛いと思うことも何度か重ねていく内にずいぶんと慣れてきた。 要は慣れの問題。 人の値踏みするような視線も上手くかわせるようになって来たし、それらしい笑みを浮かべることも挨拶も歩き方も繰り返す内に物怖じしなくなり、教育係りの李順さんに合格点を貰うことも多くなっている。

ただ、その世界から解放された時、酷く安堵する自分が居るのは確かだ。 肩から重い荷物を下ろしたように、深く息を吐く自分を実感して、やっぱり庶民だなと嗤いが零れてしまう。  


馬車にガタガタと揺られ、ぼんやりそんなことを思い出している私の耳元に、柔らかい声が掛けられる。 呆けたまま横を向くと自分の顔があり、目を瞬いて異世界にいるのだと思い出した。

「・・・・あ、ごめんなさい。 何か言いましたか?」
「もう少しで着きます。 ・・・・余り眠れなかったのかな、夕べは」
「いいえ。 夕鈴さんの今の生活に比べたら、私は未熟だなと痛感していたところです。 まだまだ努力が必要だけど、それも自分のためだと切磋琢磨しなきゃって考えてました」

苦笑を漏らすユーリの横顔は少しだけ憔悴して見えて、戻れなかった悔しさ、切なさ、無念が伝わって来る。 もしかして戻れないのかしらと焦る気持ちは良く解かっているつもりだ。 
だけど、自分の生活に比べたら未熟だと言われ、夕鈴は首を傾げてしまう。 
一体、何の努力が必要だというのだろうと、ユーリをじっと見つめた。

「あ、ごめんなさい。 今のは独り言です。 庶民からお妃様になった夕鈴さんと比べると、私の苦労は苦労とも言えないなって。 だって庶民から国王陛下唯一のお嫁さん、ですものね。 苦労とか戸惑いとか、比じゃないだろうなって考えたんです」

ユーリからの言葉に夕鈴は息が止まりそうになった。 
自分はただの臨時花嫁のバイトをしているだけで、反対にユーリの方が大変だろうと、その苦労は自分とは比じゃないと口に出しそうになる。 

数ヶ月間とはいえ、黎翔様の仕事の大変さや邸に帰れないほどの忙しさなどはメイドさんたちからも聞いていたし、実際目にしていた。 大きな会社の会長職ということも教えられ、ばーてーなるものにも参加した時にもその重責を垣間見ることが出来た。 氾大臣そっくりの偉い人が紅珠と水月さんを合わせたような美人の娘を連れて来て、見合いさせようとしたのも知っている。 

何度も交際や結婚を断ったと言っていたユーリが、黎翔様に強く望まれて結婚して今は幸せなのだとしても、いろいろな苦労はあるだろう。 監禁してまで彼女との結婚を望んだ黎翔様には悪いけど、ユーリの気持ちは何となく解かるつもりだ。 この界と違って、それほど身分などに左右されないにしても、戸惑う彼女の気持ちは解かる。 それでも側にいて欲しいと強く望む黎翔様の気持ちに応えた彼女が、私とは比べ物にならない苦労を重ねているだろうと思うのに、私の方が大変だと笑っている。

言ってしまおうか。 自分はただの臨時花嫁で本物じゃないと。 
だけど、あんなにいちゃいちゃているのが全部演技だと知られたら、驚かれることだけは確かだ。 第一、囮をする妃などいないし、庶民から後宮に上がることも普通はない。 それをユーリが知らないだけで、問い詰めてこないから蓋をしているだけだ。
 
でも、自分の陛下への気持ちは演技じゃない。
それくらいは言ってみようか。 このまま胸の中に押し留めるのも、隠し続けるのも苦しい。
だけど一言でも漏らした瞬間から、解れた糸のようにずるずると際限なく漏れ零れそうで怖い。

「・・・・あ、の・・・・ユーリ」
「本当に愚痴なんですいません。 夕鈴さんの方がお疲れですよね!」
「・・・・え?」
「ま、毎晩ではないでしょうが、昨夜は国王陛下が攫うように夕鈴さんを連れ帰ったから、あの・・・その・・・・・。 もうっ、言わせないで下さいよー、夕鈴さんったら!」

真っ赤な顔でバシバシと私の肩を叩いてくるユーリが何を言っているのか最初は理解が出来なかった。 だけど彼女の台詞を噛み砕いて頭の中に並べると、ユーリが真っ赤になって口篭っている訳がじんわり浸透するように理解出来て、夕鈴は音を立てて真っ赤になってしまう。



昨夜、陛下に担ぎ上げられて私室へと連れ行かれた。 回廊を私を抱えたまま歩く陛下に何度も何度も下ろしてくれるよう伝えたが、聞き入れて貰えずにそのまま部屋へと入ってしまう。 陛下私室に配されている有能な女官は直ぐに下がってしまうが、それでもここは王宮で一番警護が必要な部屋。 警護兵が近くを頻繁に巡回しているだろうし、女官が妃を目にしてしまったのだ。 上手く狼陛下の私室から脱出したとしても、翌朝来た女官が不在の妃を訝しいと思われるのは困る。 仲良し夫婦を演じる上で、脱走した妃の噂が広まるのは困る。 
だけど私はただのバイト妃なんです。 
陛下と同じ部屋で、ましてや同じ寝台で寝るなんて出来る訳が無い!

「もう少しだけ仕事があるから、夕鈴は先に寝台を温めておいて」
「でっ、出来る訳ないでしょう! 何を言ってるんですか!」
「だって、もう戻ることは出来ないでしょう? 妃が夫の部屋に泊まるのは普通のことだろう。 それに、侍女無しで回廊を歩く妃なんて、どんな噂になるか困るよね~」

小犬の顔で狼の台詞を吐かれ、夕鈴は真っ赤な顔で戦慄くしかない。 
離宮では一緒の寝台を使ったことがあるが、あれだって自分から勧んで寝た訳じゃないし、今回は無理やり拉致されたようなものだ。 それでも陛下が言っていることは解かる。 妃が陛下の部屋に入るのを幾人も目にしている以上、そこから脱走するなんて駄目に決まってると。 
だけど無理なものは無理!

夕鈴は深い溜め息を吐いた。 バイト上司の李順が頭に浮かび、どうしようかと視線を巡らせると椅子の背に陛下の長袍が置かれているのが目に留まる。 普段よく目にする黒色の衣装。 
夕鈴は直ぐにその長袍を手に持つと、陛下へと睨み付けるような視線を向けた。

「私はユーリの部屋で寝ますから。 これなら闇に紛れて部屋まで行けますし!」
「・・・・え? 夕鈴っ!」
「早朝、こちらの部屋に来ます! 陛下も仕事があるでしょうから、邪魔は出来ません!」
「ゆーりん、だって、もう寒いから」
「もし着いて来たら李順さんに報告しますからね! では、お休みなさい」

頭から陛下の長袍を被り廊下に顔を出し、兵の姿が無いのを確認して脱兎の如く駆け出した。 
そのままユーリが使用している部屋に飛び込み、寝台に潜り込む。 
バクバクした心臓をどうにか落ち着かせて一晩過ごし、薄暗闇の早朝に女官が居ないことを確認して陛下の私室へ足を踏み入れる。 寝所で寝ている陛下を起こさないよう気を付けながら寒々しい部屋の卓に突っ伏し、どうにか一晩過ごせたと緊張を解きほぐして息を吐いた。 

「・・・まだ早いから部屋には行けないけど、ユーリは戻れたかな。 ・・・戻れるといいな」

ユーリが現れたのは何故か妃として使用している夕鈴の部屋だ。 
そして彼女は何が原因でこの界に来たのか憶えていないという。
 
アメリカの黎翔様の顔と陛下の顔が重なり、ユーリが来た時にどうして自分が下町の実家にいたのだろうと思い出し、不安が過ぎった。 もしかしてユーリと入れ違いに、自分はアメリカに再び行っていたかも知れない。 そう思うと眉が寄り、知らず腕を擦っていた。 
もしも再びアメリカに飛ばされていたら、どうなっていたのだろう。 そんなことは二度と起こらないと、どうして思っていたんだろうか。 二度は厭だ。 同じように戻れるという保証も無いまま、ここから消えるのは厭。 
今しか側に居られないなら、私は時間が許す限り陛下の側にいたい。 
好きだと思う恋しい気持ちも、だけど実ることはない現実の辛さも、どちらも陛下から与えられたものだ。 その気持ちをまだ持ち続けたい。 苦しいけど、それでもいいから陛下の側にいたい。  
 
震えそうな唇を噛み締め、細く息を吐く。 今はこんなことを考えている場合じゃない。 昨夜、ユーリに伝えたように、彼女がアメリカに戻れるように祈ってあげるべきだ。 戻れていますように、黎翔様に逢えていますようにと祈るべきなのに、どうして私は自分のことばかり。

「ゆーりん、寒いの? ほら、こんなところに居ないで寒いなら温めてあげるから」
「っ! いやっ、寒い訳では・・・・! 温めって・・・え? 嘘っ、無理っ!」

突然背後から伸びて来た腕と耳元で囁かれる声に驚き、振り向くといつの間にか近寄っていた陛下に抱き上げられてしまった。 そのまま陛下の寝所へと連れ込まれ、それは駄目だと叫ぼうとした瞬間、大きな手で口を覆われる。

「しー・・・・、そろそろ女官も来る頃だろうから、静かにね。 夕べ君が来たことは承知しているが、ここで妃が暴れたり叫んだりしたら、困るのは僕だけじゃない。 君も・・・・李順に叱られることになるよ。 だから大人しくした方がいい」
「で、でもっ、わ、わたしは・・・・っ!」
「こんなに冷たくなって。 これでは風邪をひく」

そのまま無理やり寝台に転がされ、掛け布で包まれてしまい、その上陛下の腕が腰に回され逃げることが出来なくなった。 女官がもう直ぐ来ると言われると叫ぶことも出来なくなり、そして夕鈴の眉間に皺が寄る。

女官が来る。 そうか、朝の支度のために湯の用意や手巾や着替えや朝餉や、その他諸々をするために女官が来るのか。 宦官ではなく綺麗な女官が毎朝、陛下の部屋に・・・・・。 
いやいやいや、女性の方が極め細やかな配慮が出来るのだし、陛下の世話をするだけ。 
でも独身の陛下の許に、美人で綺麗で見目良くて、更に貴族子女である女官が朝から晩まで世話をすると想像した夕鈴の頭に、冬に行った離宮での女官による世話の様子が浮かんだ。 
夕鈴付きの侍女さんたちだって皆美人ばかりだ。
比べるまでも無く太刀打ちなんか出来っこないし、する気も無いが、そうかと得心がいってしまう。 陛下が美人を見慣れているから、私を構うのか? 大人しく麗しい美女ばかり見ているから、庶民バイトの私を面白がって翻弄するのだろうか。 

「・・・・夕鈴? 大人しくなったけど、眠くなったの?」
「大人しくした方がいいと言ったのは陛下ですよね。 ・・・・大丈夫です、私は大人しく転がってますから、陛下もどうぞ休んで下さい。 大丈夫です、私はわかっていますから」
「え、と。 何がわかっている、のかな? ・・・・あれ」

面白がってバイトを翻弄するというのなら、抵抗しない方がいい。 
私は真面目にバイト妃を演じるだけだ。
女官が来たら寝所から起きて、侍女が迎えに来るまで大人しく妃演技をしよう。 プロ妃として完璧に演技してやろうではないか。 陛下に翻弄されるばかりが私じゃない。
そう思って身体から力を抜くことにした。 寒い回廊を掛けてきたばかりだから、掛け布を被っているだけで温かさに気が抜けそうになる。 だけど寝台に腰掛ける陛下がいるから抜ける訳が無い。 今の私は陛下に抗わず、プロ妃として言う通りに転がることにした。

「少し休みますから、女官さんが来たら起こして下さい」  
「え? ・・・・・うん」
「陛下も横になっているのでしたら掛け布を掛けた方がいいですよ。 寒いでしょう?」

掛け布で包まれ簀巻き状態の私は温かいが、陛下は夜着のままだ。 

「・・・・・うん。 そうだね、寒いから・・・掛けるね」

何だか陛下の声が弱々しく聞こえて来る。 自分で言い出した癖にどうしたんだと思うが、顔を上げることが出来ない。 顔を上げて、万が一陛下の顔が近くにあったら絶対に動揺して叫ぶ自信がある。 だけど、ここは陛下の私室で、私はそこに泊まった妃。 叫んだり暴れると面倒ごとになるから、時間が来るまで耐えるだけだ。 

もそもそと隣で掛け布を掛けて横になる陛下に背を向け、私は真っ赤な顔を掛け布の中に沈めた。 そして半刻もせずに女官が来て、直後に侍女が飛び込んで来た。 
ユーリが私を呼んでいると。 そして知ったのだ。 彼女は戻れなかったのだと。
その後はユーリの池飛込みを阻止したり、李順さん優しい発言に動揺したり、いつもの陛下の言動から逃げるのに忙しくて、すっかり昨夜から今朝のことを忘れていた。




「・・・・鈴さん? 大丈夫ですか、夕鈴さん」
「へ? ・・・・え? あっ、え?」
「お疲れなのに下町に連れて来てくれてすいません。 国王陛下は後で来るのですか? 一緒に来なくて大丈夫だったのですか? それとも熱でも出ましたか?」

心配そうな自分の顔が近くにあり、夕鈴は目を瞬いて周囲を見回した。 
心配そうな顔は自分じゃなくユーリで、今いるのは馬車の中だとわかり、何を考えていたんだと更に頬が赤く染まってしまう。 短い時間とはいえ、陛下と一緒の寝台に横になり転がっていたことを思い出した自分と、それを頬を染めながら心配げに見つめてくるユーリの間違った見解に、気を失いたくなる。







→ 次へ

スポンサーサイト

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

パラレル | 22:27:20 | トラックバック(0) | コメント(6)
コメント
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-11-13 水 00:47:38 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-11-13 水 18:36:33 | | [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。それぞれ今回切ない胸の内がしつこいほどに出てきてますが(笑)、さて次回は下町編です。引き続きよろしく御願いします。
2013-11-13 水 19:25:42 | URL | あお [編集]
Re: やっぱりね…。
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。あとはお腹の調子が戻れば完璧。だけど少しは痩せるかしらとドキドキする自分がいます(爆) はい、次から可愛いのと鈍いのが出てきます。想像嬉しいです。夕鈴の一夜は、まあお約束ということでご勘弁を。
2013-11-13 水 19:28:25 | URL | あお [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-11-14 木 23:39:31 | | [編集]
Re: タイトルなし
ビスカス様、コメントをありがとう御座います。今回は抗生剤服用してましたー。で、今日は娘が腹痛で(移ってしまったようだ)学校休み。二人の間で風邪が行き来してます(笑)。 はい、次はちょろりと兄貴が出て来ます。可愛い風になりましたが、怒らないでね(ぷぷ) 一夜はまあ、逃げ出した兎を追い駆けることも出来ないでしょうから、朝に少し喜ばせてあげましたー!(爆) さて、いつユーリを帰しましょうか・・・。 本当に長くなり、お付き合いされている方は中だるみ状態ですよね。 アメリカ黎翔もじりじりでしょうし~。 あと少しなので、引き続きよろしく御願い致します。
2013-11-15 金 00:31:25 | URL | あお [編集]
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。