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千思万考  2
はい、下町です。バイト夕鈴と下町といったら切り離せない兄貴登場・・・・・の前に可愛い弟君も出したいです。結構ずばっとモノ申す弟君が大好きです。


では、どうぞ













そして予定通り、陛下は近隣で行われている灌漑工事の視察に出立し、夕鈴も実家に戻ることになった。 今回の灌漑工事視察は、春にスムーズに農業を行なえるためのものだけではなく、各地の鉱業用灌漑の工事視察もあり、近隣とはいえ各鉱業地を巡る行程となっており三泊から四泊する予定だという。 
お蔭で夕鈴は李順から二泊の許可が出た。 忙しい陛下には悪いと思うが、その二泊で精神的ゆとりを持って王宮に戻れるよう、夕鈴は実家で忙しく動いて気持ちを切り替えようと意気込む。
 

青慎はまだ学問所らしく、弟が帰ったら直ぐに夕飯に出来るよう市で買い物を済ませて来た夕鈴は早速袖を捲くる。 野菜を切りながら、これが自分の日常だと夕鈴は心から満喫した。 同時にこれが自分の日常なのだと実感し、鈍い胃の痛みに眉を顰める。 
バイトが終れば、こんな日々が戻って来ると判っているはずなのに今更何を思うのだと大きく首を振り、料理に集中することにした。
 
普段は弟が動いているのか掃除するほどではなく、卓に茶杯が置かれているくらい。 料理を終えた夕鈴は時間が余り、夕飯のおかずをもう一品追加しようと市へ足を伸ばし、そこで学問所帰りの青慎の姿を見掛けた。 夕鈴は、そのまま一緒に買い物を済ませて家に戻ろうと考え、声を掛けるために近付こうとして足を止める。

「おい、汀。 ちょっと時間をくれないか」

学問所から追い駆けてきたらしい、青慎と同じ齢くらいの男の子が弟の手を引き、何処かへ移動しようとしているのが見えた。 しかし青慎は手を振り断っているようだ。 
まさか悪への道へ誘われているのかと眉間に皺が寄ってしまう。 
じっと見ていると、頭を掻きながら青慎は男の子と移動を始めた。 このまま悪の道へ向かって行く弟を見ている訳にはいかないと夕鈴は慌てて後を追い始めるが、万が一そうではない場合もある。 弟の学友を無闇に疑うのも悪いと考え、夕鈴は二人が曲がった角でそっと顔を出して窺ってみることにした。
 
裏路地に大事な弟を連れ込み、何をする気だ。 
・・・・いや、大丈夫。 うちの青慎に限ってそんな悪い誘いに乗る子じゃない。 
しかし、あの男の子は青慎をどうしてこんな路地に連れ込むのだろうか。

ぐるぐる回る頭の中では答えが出ず、足音に気を付けながら後を追うしか出来ない。
薄暗い路地から抜け出した二人の前に、可愛らしい女の子が立っているのが見えた。 
その女の子に向かって、無造作に青慎の身体を押し出す男の子が説明を始める。

「こいつ、お前をよく見ていたんだって。 紹介してくれって言われて連れて来た」
「こ・・・・こんにちは! あ、あの・・・・いつも声を掛けられなくて」
「こんにちは。 声・・・・ですか? 僕に?」
「は、はい! 学問所の帰りとか、買い物しているのを時々見かけて、それで・・・・」

そう言って頬を染めた女の子は、青慎と同じ齢か少し下に見える。 
つまり、この場面は女の子からの告白だ。 
隣に立っていた男の子が女の子の肩を叩き 「じゃあな」 と場を離れようとしているのを見て、夕鈴もこんな場面を隠れて覗いていてはいけないと急いで、その場から逃げ出すことにした。 
そうだよね、私の弟に限って悪の道に染まるなんてこと、どんなに誘われようが絶対に有り得ない。 それにしてもあの女の子は御目が高いわ。 将来有望なうちの弟に目を付けるなんて。

そこで夕鈴ははたと気付く。 
青慎に彼女が出来る? 何時までも子供だと思っていた大事な弟に彼女が出来る?
 
その内、科挙で優秀な成績を修めて王宮に従事するようになり、嫁を貰い、幸せな家庭を築く。
夕鈴の頭の中にぐるぐると弟の未来予想図が勝手に駆け巡り、買い物籠を持ちながら近くの壁に手をついた。 いつか来る優秀な弟の未来を想像し、その時自分はどこで何をしているのだろうと考え、くらりと眩暈に襲われる。 
今は日々必死に過ごしているけれど、この先も自分だけが一人寂しくバイト生活を送り続けるのだろうか。 いや、そうならないよう借金返済をして実家に戻り、そして・・・・・あれ、やっぱりバイト生活だ。 いや、私だっていつかは誰かと幸せな結婚を・・・・・・。  
あら、どうしてだろう。 想像が・・・・出来ない?

急に目の前が暗くなり、壁に触れているはずの手の感覚が朧気となり、膝から力が抜けそうになる。 今の自分の目標は借金を返済しながら陛下の味方であり続け、青慎のために学問所費用と生活費を稼ぐ。 それに文句はない。 そのために頑張っているはず。
それなのに自分の幸せな未来予想図が、花爛漫な楽しい将来が・・・・・思い浮かばない。



「おい、どうした。 いつも以上に顔が変だぞ」
「・・・・・几鍔」

肩を揺らされ顔を上げると見たくもない金貸しの顔が近くにあった。 
眉を顰めた顔に苛立ち、肩に置かれた手を振り払おうとして身体が傾いてしまう。 腕を取られ倒れずに済んだが、几鍔が私の顔を覗き込み、更に眉を顰めて問い質してくる。 

「何があったんだよ。 いつも以上におかしいぞ、お前」
「何も・・・・ないわよ。 も、腕離して」
「これじゃ、碌に歩けもしないだろう。 買い物もまだか、何を買うんだ」
「いいから。 ・・・・放っておいていいから」

自分でも結構ショックなのだと自覚する。 いつか来る未来に頭の奥がガンガンして、まだ先のことだと思っていた現実が扉を開けて顔を出す。 その内青慎が家を出て、あの父親と二人で慎ましい生活を送る。 バイトを終えた後は王宮から離れて一庶民として、遠くから陛下の御世がいつまでも続くようにと祈ることになるのか。

いや、まだ先のことだ。 だって青慎はまだ十三歳だし、科挙試験のために学問所に通っている段階で、学試にさえ受かっていない。 いつかは受かるだろうが、まだ先のこと。

「でも・・・・。 そうか・・・・・そうなんだ」
「お前。 ・・・・・何でもないって面じゃないが、大丈夫だって言うならちゃんと歩け」
「・・・・うん」

茫然自失とはこういうことか。 弟の輝かしい未来を想像したことは何度もあるが、反対に自分の将来が想像し難い。 もちろん華やかな新婚生活とか夢見ている齢じゃないし、現実は厳しいと重々判っているつもりだった。 だけど少しくらいは夢を見てもいいじゃないか。 素朴でいい、質素でいい。 多少の貧乏なんて慣れている。 だけどそれらを踏まえても自分の結婚生活が想像出来ない。 夢見るほど若くないし、現実を正面から受け止めるほど齢を取っていない。  

家に戻るが、もちろん青慎は未だ返って来ていない。 
台所の椅子に腰掛けて呆然としたまま、空の籠を見つめていた夕鈴の前に茶杯が置かれた。 

「まあ・・・・・詳しいことは聞かないが、まずはそれを飲め。 ああ、李翔とかいう奴が絡んでいる訳じゃないよな。 今日は顔を出さないのか?」
「李翔、さんは・・・・・仕事で、他に行っているから。 それより勝手に人の家の台所で何してんのよ! 勝手にあちこち触らないでよね。 うちの台所は私の城なんだから」

自分でも驚くほど憔悴していたのだろう。 几鍔が平然と人の家の台所で茶を淹れたことを怒りながら、夕鈴は卓に置かれた茶杯に手を伸ばして口をつける。 回らない頭で手にした茶杯を一気に飲み込むと咽喉が焼け付く感じがして、何を淹れたんだと几鍔を見上げると大きく見開いた目と蒼褪めた顔が見えた。

「俺が出したのはこっちだ! お前、何を飲んだ?」
「知らな・・・っ。 げっ・・・ごほっ!」

夕鈴の手から奪うように茶杯を取り上げ、中の匂いを嗅ぐ几鍔を見上げながら、ぐらりと回り始めた頭の中に父親の顔が浮かぶ。 普段ふらふらしている父親が寝酒の酒を注ぎ、そのまま放置して仕事に行ったのだろうと思い浮かび、情けなくなった。

「・・・・これは酒だな。 お前の親父が置いていったらしいが」
「もう、ほんとうに情けない・・・・・。 これなら一生王宮で掃除婦をしていた方がいいのかな。 でも見ているのは辛いし、いつまでも借金が返済出来ないのは厭だし」
「本当に何があったんだよ。 言ってみろよ」

深い溜め息が零れ、卓の上をじっと見つめるしか出来ない。 
ぐらぐら回り始めた頭に、雑巾を持ちハタキを振り回す自分が腰を擦りながら掃除をしている姿と、能天気な父親が闘鶏場でまた借金を重ねちゃったと手紙を卓に残している画と、青慎が幸せそうに子供を抱いている姿が浮かんで来た。 
がくんっと首を項垂れた夕鈴は肩を揺らしながら乾いた嗤いを零す。

「もう・・・・、私の人生は決まったんら」
「だから! ああ・・・っ! 酒のせいにして全部吐いちまえよ!」
「煩いっ! 几鍔に関係ないれしょ! 毎回毎回、うちに来る暇があるなら、あんたはあんたの仕事をしていたらいいじゃない! 金貸しに用はないって言ってるれしょ」

ああ、こんなところに青慎が帰って来たら心配掛けちゃう。 
それに私はここにリフレッシュに来たのであって、落ち込むために帰って来た訳じゃない。 少し酔いを醒ましてから夕飯を作ろう。 いや夕飯は殆ど出来ていて、私は買い物に行って追加で何かを作ろうとしていたはずだ。 そして青慎が女の子に告白されている姿を見て、自分の将来を想像し・・・・・・・。

立ち上がろうとして大きくふら付き、余計に酔いが回る。 差し出された腕にしがみ付き、大きく揺れた視界に気分が暗くなり、そのまま強く握り締めてしまう。
判っているはず、判っていたはずなのに、どうして今考えてしまうのだろう。 
そんなものだ、庶民の先なんて。 
王宮でのバイトが長くなったから現実が遠く霞んで見えていただけだ。 

現実をちゃんと見れば立場の違いは歴然で、本来ならあの人とは目を合わすことも出来ない身分の自分だ。 この国の貴族の中でも一番の貴き人で、同じ王宮内で従事している人たちだって拱手拝礼は当たり前。 何度も小犬の顔で笑ったりするから親しげな感じがしていたけど、あの人は国王陛下だ。
下町の庶民の家に何度も顔を出すから勝手に近いと勘違いしていただけで、本当は庶民なんかが立ち入れない遠い場所に住まう人だ。 誰からも敬われ、だけど国のためにと狼陛下を演じながら怖がられても恐れられても一生懸命に政務をされている人。 本当の性格を隠し、今は未だ煩わしい妃推挙を避けるためにバイト妃を雇い、山のような書簡や書類を日々捌きながら国政に従事されている王様だ。

それに対して自分は。
プロ妃を目指して頑張ると決めたはずなのに、陛下の役に立とうと決めたはずなのに、狼陛下の妖艶演技に押しやられて勝手に落ち込んでいる私は自分の将来にまで落ち込んでいる。 
このまま王宮に戻っては駄目だ。 
プロ妃として演技しなきゃ給料泥棒になってしまうではないか。 
それでは役に立てないし、側にいる意味がなくなってしまう。 

「ちゃんと・・・・しなきゃ、駄目だ」
「無理だろう、こんなに酔ってちゃ。 いいから、お前はまず寝ろ」
「・・・・無理って、そんなバッサリと・・・・」

耳に届く声に愕然とする。 ちゃんとプロ妃として頑張ろうとする私を一刀両断する台詞に力が抜けてしまう。 青慎も離れて行き、バイトもちゃんとやれない私は何を頑張ればいいのか判らなくなる。 瞠った視界に映るのは歪む床と壁だけで、その狭い世界で私は何をしたらいいのだろうと膝から力が抜けそうになる。 
ぐるぐる考えていると、不意にふわりと浮いた感覚に頭の芯が揺れた。 

「いいから、寝ろよ」

揺れた頭に届いた言葉に従い、私は考えることを放棄した。
少しだけ寝て、それから考えよう。 何を考えるのか、それさえも判らないけど、兎に角一度横になって、それから考えよう。 ぐちゃぐちゃ考えるのも、青慎が受けた告白も、陛下の視察も、自分のリフレッシュ休暇も、全ては目が覚めてから思い出せばいい。 

だけど、これだけは忘れちゃいけない。

茶杯に酒を入れたまま置きっ放しにした父親への報復だけは忘れないぞと、夕鈴は闇に飲み込まれる寸前まで眉間に皺を寄せ続けた。








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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

長編 | 02:15:02 | トラックバック(0) | コメント(8)
コメント
下町編と言えば兄貴ですね~
可愛い青慎君も良いんですけど…
オバサンはやっぱ几鍔の兄貴
今回はとっても美味しい思いをしてらっしゃるじゃないですか!
夕鈴にすがられたり
しかもお酒を飲んでしまうハプニング♪
美味しい!兄貴美味しいですね~
リア生活がちとバタバタしてたので癒されます
あおさんの兄貴が好きです、次は何をしてくださるのかな?兄貴♪楽しみにしてます
2013-12-03 火 06:33:09 | URL | 名無しの読み手 [編集]
ああぁ~…
確かに誰がみても清慎はモテboyですわね(о´∀`о)
夕鈴も鈍いだけでなんだかんだモテとりますし。
でも、ちょっとせつないですね、清慎の将来は想像できても自分のができないのは… またゴニョゴニョ考えて夕鈴が辛くならないといいなぁ~と思いつつそれもありだわとニヨニヨしとる独楽でございます。
2013-12-03 火 14:09:38 | URL | 独楽 [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-03 火 14:28:51 | | [編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-12-03 火 16:40:36 | | [編集]
Re: タイトルなし
名無しの読み手様、コメントをありがとう御座います。そうそう、下町といえば兄貴と青慎君。反面教師の父親のお蔭か、いい子ですよね。って、兄貴もいい男なのに夕鈴とは、もう! 小学生かっと突っ込みを入れたくなる。(笑) そこがいいんだけどね、周りにはモロバレだし~。 夕鈴が酔っても、ヘタレ兄貴は動けないような気がする・・・・。うん、気がする。
2013-12-04 水 11:22:14 | URL | あお [編集]
Re: ああぁ~…
独楽様、コメントをありがとう御座います。青慎君はモテモテ間違い無しですよ。きっと! 後問題は背か? 大事で可愛い弟には将来立派になって欲しいけど、自分の将来を考えると凹む夕鈴をちょいと書きたかったです。そんな心配も陛下次第か? はっきりしろーと本誌の陛下に突っ込みを入れています。
2013-12-04 水 11:40:58 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ぶんた様、コメントをありがとう御座います。兄貴は放置されることに慣れているので多少はいいかなと思っております。兄貴も陛下も鈍い夕鈴の扱いをもう少し考えた方がいいっすよね。本当に狼なのに草食系って、笑ってしまいます。ああ、だけどそんな兄貴も陛下も好きだーっ! 悶えます。
2013-12-04 水 11:43:03 | URL | あお [編集]
Re: タイトルなし
ますたぬ様、コメントをありがとう御座います。陛下の逆襲と兄貴の反応。うん、妄想するのが楽しみです。いつもと違って見えても、夕鈴の言動は変わりないでしょう。さて、桐をどこで出そうか思案中です。兄貴と合わせるのは・・・・・・無理か。
2013-12-04 水 11:44:42 | URL | あお [編集]
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